蝶の舌
原題:LA LENGUA DE LAS MERIPOSAS
夏には森へ、先生とチョウチョを採りにいった。
1999年サン・セバスチャン国際映画祭正式出品 1999年スペイン・アカデミー〈ゴヤ〉賞脚色賞
1999年9月24日スペイン公開
1999年/スペイン/95分/スコープ/ドルビーデジタル 提供:アスミック・エース エンタテイメント/日本テレビ放送網/角川書店/ 配給:アスミック・エース
2010年08月27日よりDVDリリース 2002年3月22日DVD発売/2002年3月22日ビデオ発売&レンタル開始 2001年8月4日より、シネスイッチ銀座・関内アカデミーにて公開
公開初日 2001/08/04
配給会社名 0007
公開日メモ スペイン市民戦争前夜。少年の成長と老教師との触れ合いを描く衝撃の感動作。
解説
『蝶の舌』は、8歳の少年モンチョが大好きな先生と出会い、大自然の驚異に触れながら成長し、やがてスペイン内戦という悲劇的な時代に直面するまでを描いた運命の物語である。
99年サン・セバスチャン映画祭で上映されるや、映画のラストで少年が叫ぶ”ある言葉”に激しく胸を打たれ、感極まった観客たちの拍手は鳴り止むことなく続き「芸術の飛翔!」「涙なしには観られない」とマスコミを熱狂させた。さらに、同年スペイン・アカデミー〈ゴヤ〉賞では、13部門ノミネートという快挙を成し遂げた。
かつてこれほどまでに「別れの言葉」が衝撃的で、心を揺さぶられるクライマックスがあっただろうか。
ファシズムの支配によって、突然、悲痛な時代に放り込まれた少年は、あまりに過酷な選択を迫られる。自分の感情を裏切るか?家族の平和を脅かすか?そして、少年のくだした決断——ラストで叫ぶ「別れの言葉」が、痛切な響きとなって観るものの魂にこだまする。しかし、それは決して悲しい結末ではない。その言葉には、確かな「愛」とやがてくる「自由」への光がある。
ストーリー
【少年は、サナギが美しい蝶に姿を変えるように静かに成長してゆく…そして、柔らかな羽をまとった蝶は、現実の世界へと羽ばたかなくてはならない】
1936年、冬の終わりを迎えるガリシア地方の小さな村。8歳の少年モンチョは、喘息持ちで皆と一緒に一年生になれなかった。兄アンドレスに、先生に叩かれたことがあると聞かされたモンチョは、学校へ行くのが怖くてなかなか寝つけない。
初登校の日、モンチョは恐ろしさのあまり教室でお漏らしをし、学校を逃げ出して山で一夜を明かす。
生徒に対して決して体罰を下すことのないドン・グレゴリオ先生は、家まで彼を迎えに来てくれる。学校に戻ったモンチョは、彼を暖かく迎えようという先生の言葉で、クラスメイトから拍手で迎えられる。
以来、モンチョの知と人生を学ぶ旅が始まる。新しい友達・居酒屋の息子ロケは、オリスとカルミーニャの逢い引きの現場をモンチョに見せる。オリスはカルミーニャの愛犬ターザンを嫉妬深く見張りながら事に及ぶ。
グレゴリオ先生が教えるのは、学校の勉強というより、もっと本質的な知識だ。ジャガイモは新大陸原産だとか、アズマヤドリの求愛行動、ティロノリンコというオーストラリア産の鳥はメスに蘭の花を贈ること。そして、蝶の舌が渦巻き状である必要性など。詩の朗読もある。生徒たちは、土地の有力者が息子に特別目をかけてもらおうと贈る品々を受け取らない先生を見て、彼こそ高潔な人物の模範だと感じた。
サックスの得意な兄アンドレスが、地元の楽団”ブルー・オーケストラ”に入団した。村のカーニバルで初舞台を踏んだアンドレスは、他のメンバーに吹いている格好だけでいいと告げられてしまう。そのことを知らないモンチョと両親は、アンドレスの華麗な姿に誇らしげだ。軽やかなステップを踏む両親、親友ロケの妹アウローラと踊るモンチョ。それを見たグレゴリオ先生は、「ダンスが上手だな」とモンチョを誉める。
春が訪れ、グレゴリオ先生はクラスを森へ連れ出す。自然をじかに観察することは、長時間教室に閉じこもって本を読むより生徒たちにとって学ぶところが多い。モンチョもついに蝶の舌が見れるかもしれないと、夢中で駆け回る。と、その時、突然モンチョを喘息の発作が襲う。とっさの判断で、グレゴリオ先生がモンチョを抱き上げて湖に体を沈めると、途端に発作はおさまった。
そのお礼にと、仕立屋を営んでいるモンチョの父が、先生の体に合わせた洋服をあつらえる。先生と父は”共和派”同士、自然に心を通わせている。
出来上がった洋服を届けに先生の家を訪れたモンチョは、壁一面が本で埋め尽くされている様に驚く。先生はその中から、スティーブンソンの「宝島」を選んでモンチョに手渡した。そしてもう一つ、大きな包みをプレゼントした。それは、モンチョが生まれて初めて手にする虫採り網だった。
ある夜、モンチョの家のドアをノックする音。訪間者は、モンチョがロケと一緒に性的な行為を盗み見た、カルミーニャだった。母親が心臓の病気で死んでしまい、お金が必要だというカルミーニャに、父はためらいもなくお金を渡す。カルミーニャは、父が外でつくった娘だったのだ。
離れた場所から葬式を見ていたモンチョは、物思いにふけって森にたたずむ。果樹園の前でグレゴリオ先生に会い、「人が死ぬといったいどうなるの?」とモンチョが問いかけると、先生は「あの世に地獄はない」と教えた。地獄は人間が作るものだ、と。
アンドレスの所属するブルー・オーケストラが外国で演奏することになった。目的地サンタ・マルタ・デ・ロンパスという村で暖かく迎えられた一行は、地元の家庭に世話になる。モンチョとアンドレスの滞在先には、話すことのできない中国人女性がいた。彼女は背中にオオカミに噛まれた傷を持ち、その時のショックで声をなくしたと言う。ずっと中国の女性に憧れていたアンドレスは、家主の妻であると知りながら一瞬にして心を奪われる。
ダンス会場でステージに立つブルー・オーケストラ。いつものように演奏する格好だけのアンドレスだったが、会場の隅にその中国人女性の姿を見つけるや、いきなり立ち上がり団員も驚くほどの素晴らしいメロディを奏でる。そして彼女は、その音色に涙するのだった。
演奏会を終えた一行は、車で村を後にする。ボンネットの上でどこか寂しげなアンドレス。すると中国人女性が車を追いかけてくる。ただ静かに手を振る彼女の姿に、アンドレスは涙を止めることができなかった。
グレゴリオ先生の引退の日。「ありがとう。自由に飛び立ちなさい」そう言って、先生は教壇を詣れた。先生との別れを受けとめられずにいるモンチョに、「夏休みになったら毎日だって森に行ける」と先生は優しく微笑み、今度こそ顕微鏡で蝶の舌を見せてくれると約束した。
大きな虫採り網を手に、モンチョは先生と森へ出かける。ついに大きな蝶を捕まえ、これから顕微鏡で舌を見に行こうと先生が言うが、モンチョは湖から聞こえてくる楽しそうな声に誘われる。湖では女の子たちが水遊びをしていて、その中には大好きなアウローラの姿もある。「ティロノリンコのようにしなさい」と、先生に白い花を差し出されたモンチョは、ゆっくりと湖に入りアウローラに花を贈る。それを受け取ったアウローラは、モンチョの頬にそっとキスをする。
ロケの父の居酒屋でラジオに耳を傾ける”共和派”の大人たち。そこに、酔いつぶれたオリスがやって来る。かなり荒れた様子のオリスを追って店を出るモンチョとロケ。たどり着いたカルミーニャの家先で二人が目にしたのは、カルミ一二ャの愛犬ターザンを棒で突き殺す狂暴なオリスの姿だった。
そして6月18日、すべてが壊れる。新しい体制のもと、これまで教わってきた価値観や方針は崩れ、一斉に共和派の取り締まりが始まる。スペイン内戦が始まろうとしていた。広場に集まった群集の前に、両手を縛られた”共和派”の人々が一人づつ姿をあらわす。「アテオ!(不信心者)アカ!犯罪者!」彼らを罵る声が飛び交う。ロケの父親が車に連行され、泣きじゃくる家族たち。そして、グレゴリオ先生の姿が……。
「お前も叫ぶのよ」モンチョに母が囁く。先生を見つめるモンチョ。先生もモンチョから目を離さない。
「アテオ!アカ!」モンチョが口を開いた。車が走り出すと同時に、モンチョは母の手を振り切って駆け出す。曲がり角で石を拾いあげ、遠ざかって行く先生を必死で追いかける。石を投げながらモンチョが叫ぶ。「ティロノリンコ!蝶の舌!」
スタッフ
監督:ホセ・ルイス・クエルダ
製作総指揮:フェルナンド・ボバイラ/ホセ・ルイス・クエルダ
脚本:ラファエル・アスコナ
原作:マヌエル・リバス
「蝶の舌」「カルミーニャ」「霧の中のサックス」
(作品集「僕にどうしてほしいの?」より)
撮影:ハビエル・サルモネス
美術:ジョゼップ・ロゼル
音楽:アレハンドロ・アメナバル
音響:ゴールドスタイン&スタインバーグ
編集:ナチョ・ルイス・カピジャス
衣装:ソニア・グランデ
メイク:アナ・L.プイグセルベル
ヘアー:テレサ・ラバル
ソヘテル/エスコルピオン/グループ・ボス製作作品
キャスト
ドン・グレゴリオ:フェルンド・フェルナン・ゴメス
モンチョ:マヌエル・ロサノ
ローサ:ウシア・ブランコ
ラモン:ゴンサロ・ウリアルテ
アンドレス:アレクシス・デ・ロス・サントス
ロケ:タマル・ノバス
オリス:ギジェルモ・トレド
カルミーニャ:エレナ・フェルナンデス
ドン・アベリーノ:ヘスス・カステヨン
ロケの父:タタン
ボワル:ロベルトビダル
ネナ:ミラグロス・ヒメネス
クーラ:セルソ・ブハッロ
アルカルデ:トゥチョ・ラハレス
マシアス:セルソ・パラダ
アコーディオン奏者:ショセ・マヌエル・オリベイラ(ピコ)
アウローラ:ララ・ロペス
ホセ・マリア:アルベルト・カストロ
ロムアルド:ディエボ・ビダル
ターザン:ゴルフォ(犬)
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