原題:un film de manoel de Oliveira

この想い、叶うことなかれ

1999年カンヌ国際映画祭審査員特別賞受賞 1999年カンヌ国際映画祭正式出品作品/2000年ポルトガル映画祭出品

1999年9月24日フランス公開

1999年/フランス・ポルトガル・イタリア合作/107分/35mm/カラー/ヴィスタサイズ/ドルビーSR/字幕翻訳:寺尾次郎 配給:アルシネテラン

2002年03月25日よりDVD発売開始 2001年6月9日より銀座テアトルシネマにて公開

公開初日 2001/06/09

配給会社名 0013

公開日メモ 300年以上たった今も色褪せることなく、フランス恋愛小説の始祖として君臨するラファイエット夫人の「クレーヴの奥方」。

解説


 300年以上たった今も色褪せることなく、フランス恋愛小説の始祖として君臨するラファイエット夫人の「クレーヴの奥方」。いつの時代も人々の心を魅了しつづけてきた17世紀の古典文学である。かつて早熟な天才詩人レーモン・ラディゲは、この作品を原型に「ドルジェル伯の舞踏会」を執筆し、映像の魔術師ジャン・コクトーはジャン・マレーを主演に迎え、原作をほぼ忠実に映画化した。今回、91歳のポルトガルの巨匠マノエル・デ・オリヴェイラは、原作のクラシカルな精神性はそのままに、時代を宮廷世界から現代に置き換え、自由な発想に溢れるオリヴェイラ版「クレーヴの奥方」を完成させた。その独特な視点は登場人物の設定にも生かされており、クレーヴ夫人を上流階級の子女に、彼女が思いをよせる男性をロックシンガーに、そしてクレーヴ夫人が唯一秘密を打ち明ける友人を修道女として配するなど、三者三様の立場の妙が味わい深い。
1999年カンヌ国際映画祭に正式出品され、新たな境地を開いたオリヴェイラの手腕が評判となった本作は、みごと審査員大賞を受賞、フランスでもヒットを記録している。

 人妻が夫以外の男性を愛してしまうというモチーフは、王朝時代の貴族社会に始まり、現代もなお恋愛劇の主要なテーマである。本作の主人公であるクレーヴ夫人もまた、自分を愛してくれる夫ではなく、人気シンガーのペドロ・アブルニョーザに愛情を覚えてしまう。しかし本作が単なる不倫の物語で終わらず新鮮に映るのは、この世界を貫く心地よい時代錯誤感覚のおかげである。ブルジョワ階級の家庭で育ち、敬虔なカトリック信者のクレーヴ夫人にとって、不倫は許されぬ愛。自らの信心に従おうとする彼女ではあったが、アブルニョーザからのアプローチや、ふと湧き上がる彼への激しい感情に、身を引き裂かれる思いで苦悩する。現代においては古色蒼然ともとれるこうした価値観の中に生きながらも、しかし一方で、芯の強さや独立心を持ち、己の信念に従い行動するクレーヴ夫人は、現代的な女性としても描かれている。普遍的な”許されぬ愛”というテーマに、古風な面と現代性を兼ね備えた女性を対峙させた、オリヴェイラ監督の手腕は秀逸である。監督の期待に応え、感情と信念の間で葛藤するクレーヴ夫人を演じきったのは、イタリアの名優故マルチェロ・マストロヤンニとフランスを代表する大女優カトリーヌ・ドヌーヴの娘であるキアラ・マストロヤンニ。気品漂う凛々しさが印象的な彼女であるが、本作の静かな情熱と強い意志をたたえた透明感あるクレーヴ夫人は、まさにぴったりの役柄と言える。

ストーリー



パリの宝石店。カトリーヌは母親のシャルトル夫人とともに宝石を選んでいた。彼女の美しさに、クレーヴ伯の目は釘付けになる。クレーヴ伯の視線に気づいたのか、カトリーヌはネックレスを試しながら、彼に目を向けた。
マリア・ジョアン・ピルシュ演奏会の夜。好意を寄せられているフランソワと一緒に出席していたカトリーヌは、シルヴァ夫人から、医者のクレーヴ伯を紹介される。彼は宝石店で見かけて以来、カトリーヌヘの思いを募らせていた。一方フランソワは、自らの愛の深さをカトリーヌに訴えかけるのだった。
フランソワの愛に応えることなく、カトリーヌはクレーヴ伯と結婚した。新婚旅行から戻りパリに居を構えた折、グルベンキャン財団主催の夜会が開かれた。ゲストは人気のロック歌手ペドロ・アブルニョーザ。黒いサングラス姿で歌うその歌手を真剣な眼差しで見つめるカトリーヌの様子に、シャルトル夫人は言い知れぬ不安を感じていた。演奏後のパーティーでカトリーヌとクレーヴ伯は絶賛する。カトリーヌの言葉を聞き、アブルニョーザも喜びを表す。帰り際、ファンからサイン攻めにあう彼を、じっと見つめるカトリーヌがいた。
それから後、シャルトル夫人は病に倒れ、別荘で療養生活を送っていた。知らせを聞きつけたアブルニョーザが、別荘を訪れる。動揺を隠せないカトリーヌ。母の部屋へと向かう彼女が見たのは、自分が微笑んでいる写真たてを、アブルニョーザがスーツのポケットにしまう姿だった。母の元へ戻ったカトリーヌの様子から、娘の中に生まれた別の男性への感情を確信したシャルトル夫人は、あくまでクレーヴ伯の愛と信頼を裏切らないよう忠告し、還らぬ人となった。
喪服に身を包み、悲しみにくれたカトリーヌを、アブルニョーザが遠くから見つめていた。数日後には、弔問のために夫妻を訪ねたが、1人で家に残っていたカトリーヌは、誰にも会わないと言って姿を現すことはなかった。
その後カトリーヌは、パリの修道院にいる幼なじみを訪れる。結婚によって安心感や心の満足感は得たが、情や尊敬の念以上のものを夫に抱くことができず、彼の愛に応えられないことに苦しんでいたのだ。さらにアブルニョーザに愛情を感じている自分を否定できずにいた。修道女の友人は、強い意志をもって彼を忘れるよう助言するのだった。
しかしある日のこと。シルヴァ夫妻とテレビを見ながら談義に花を咲かせていた時、アナウンサーが大きな玉突き事故の負傷者の中に、アブルニョーザがいるというニュースを読み上げた。それを聞いたカトリーヌは、衝動的に叫び声を上げる。あまりの過剰な反応にクレーヴ伯は黙ったまま、シルヴァ夫妻もその後すぐ帰っていった。
再び幼友達を訪ねたカトリーヌは、その帰り道、アブルニョーザが入院しているという病院に足を運んだ。夫の友人に彼の容態を聞いて帰ろうとした時、偶然その場にいたフランソワと出会う。アブルニョーザの存在を悟った彼の必死の懇願を振り切るように、車に乗り込むカトリーヌ。さらに追いかけようとするフランソワは、車に跳ねられてしまう。
カトリーヌが病院を訪ねたことと、フランソワが事故で亡くなったことを知ったクレーヴ伯は、彼女に真相を問いたださずにはいられなかった。たまたま病院が修道院のそばにあったから行ってみただけ、フランソワの事故は横断中の不注意だというカトリーヌの説明を聞いても、クレーヴ伯は何かもやもやとしたものを感じるのだった。そんな折、アブルニョーザの公演写真展へ出掛けたカトリーヌは、会場で本人に出会ってしまう。杖をつきながら歩み寄るアブルニョーザに驚き、立ち去ろうとするカトリーヌ。引き止める彼から逃げるようにして、その場を去った。
数日後のリュクサンブール公園。杖を片手にやって来たアブルニョーザがベンチに腰を下ろすと、近くからクレーヴ夫妻の話し声が聞こえてくる。隠していることを話して欲しいと頼むクレーヴ伯に、とうとうカトリーヌは胸の内を打ち明けた。気持ちは別として、行いで夫に背いたことは一度もないという彼女の告白に、クレーヴ伯は絶望と嫉妬に打ちひしがれながら、相手の男性を教えて欲しいと頼み込む。しかし、彼女がその名を口にすることはなかった。
その後クレーヴ伯は、みるみる衰弱していく。母親の遺した別荘に移り、カトリーヌは献身的に夫を介護した。しかし夫はまもなく瀕死の状態に陥り、息を引き取った。カトリーヌは悲しみのあまり、理性を失いかけるほどだった。
シルヴァ夫人に修道院まで付き添ってもらったカトリーヌは、自分を愛してくれた夫を失った苦しみを友人に吐露せずにはいられなかった。パリに戻った彼女が衝動的に向かったのは、夫を死に向かわせてしまった告白の場所。すると、そこにはアブルニョーザの姿が。その場から逃げ去った彼女は、家へ戻り、ふと窓越しに外を眺めた。アブルニョーザの視線が突き刺さり、我に返ると、今度は向かいの窓越しに彼がいた。彼は彼女の家の向かいに越してきたのだった。
夫が亡くなったカトリーヌに、もはや障害となるものはない。しかし信心深い友人の説得にもかかわらず、彼女はアブルニョーザとの愛に踏み切れずにいた。情熱的な愛を知ったことにより、それが壊れてしまうことを怖れているのだ。
アブルニョーザが公演からパリに戻ると、カトリーヌの姿はもうどこにもなかった…。

スタッフ

監督・脚本・脚色:マノエル・ド・オリヴェイラ
原作:ラファイエット夫人「クレーヴの奥方」(岩波文庫刊)
文芸顧問・仏語翻訳:ジャック・パルジ
撮影:エマニュエル・マシュエル
編集:ヴァレリー・ロワズルー
録音:ジャン=ポール・ミュジェル
調整:ジャン=フランソワ・オジェ
美術:アナ・ヴァシュ・ダ・シルヴァ
衣装:ジュディ・シュルーズバリ
助監督:ゼ・マリア・ヴァシュ・ダ・シルヴァ
製作担当:フィリップ・レー
製作:パウロ・ブランコ

キャスト

カトリーヌ(クレーヴ夫人):キアラ・マストロヤンニ
ペドロ・アブルニョーザ:ペドロ・アブルニョーザ
クレーヴ伯:アントワーヌ・シャペー
修道女:レオノール・シルヴェイラ
シャルトル夫人:フランソワーズ・ファビアン
シルヴァ夫人:アニー・ロマン
シルヴァ氏:ルイシュ・ミゲル・シントラ
フランソワ:スタニスラス・メラール
マリア・ジョアン・ピルシュ:マリア・ジョアン・ピルシュ
主治医:クロード・ルヴェック
主任:アラン・ギレオ
病院の医者:ジャン=ルー・ヴォルフ
バンド・メンバー:アレクサンドル・マナイア
女中:マリアンヌ・ベイ・ザベ
庭師:マルセル・テルー
TVアナウンサーの声:クロード・センプレ

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