「水」をめぐる女と男の至福に満ちた愛のファンタジー いけない秘密ほどいとおしい。

カンヌ国際映画祭2001出品

2001年/日本/35mm/ビスタサイズ/カラー/119分/ドルビーステレオ/ 配給:日活

2002年5月2日よりビデオ&DVD発売 2001年11月3日より渋谷東急3ほか松竹・東急系にて公開

公開初日 2001/11/03

公開終了日 2001/11/30

配給会社名 0006

公開日メモ 私は俗情を俗念そのままに書いてみたかったのだ。気取らず、高踏ぶらないで。俗念とは私の敵であり、最大の味方だ。 どう抵抗しようと私はいつも俗念の囚人なのである

解説



カンヌ国際映画祭最高賞を2度も受賞している巨匠今村昌平監督が、命の源である「水」をキーワードにして創り上げた珠玉 の大人の愛のファンタジー! 今村昌平監督がこの秋に贈る、至福に満ちた愛のファンタジー!!

《女と男をつなぐ”赤い橋”は、淡水と海水が交じり合う”汽水”漂うところにあった——。》
本作品は、今年の第54回カンヌ国際映画祭正式出品作品として、コンペティション部門の最終日(5月19日)に3,000人もの観客を集め、メイン会場のリュミエール劇場が15分にも及ぶ嵐のようなスタンディング・オベイションに包まれた。今村監督のエネルギーに満ち溢れた表現に、ル・モンド紙やフィガロ紙などフランスの主要紙をはじめとする世界各国のマスコミからも大きな賛辞が寄せられた。フィガロ紙では「未来は女の時代」というタイトルで「未来は女性のものであり、溶ちこぼれた男は、愛する女と出会うことによって贖いが碍られるのだ。性的喜びが男女共に幸福を呼び起こし、愛の出逢いがふたりを救う——そこに希望がある。『水』の物語は輝かしい寓話へと姿を変える」と、この作品を「官能的な愛の映画」と捉えた。リベラシオン紙では、「今村監督はエロティックな若々しさと狂気に満ちて、エネルギー溢れた自己を表現している」と評価。ル・モンド紙は、「輝かしさとほとんど晴天のようなヴァイタリティーに満ちている」と絶賛した。
淡水と沈水が交じり合う水を「汽水」という。その水が美味いのか、それとも居心地が良いのか、いろんな魚が集まってくる。そんな汽水が漂う能登半島のつけ根に位置するとある漁港の町に、失業し妻にも愛想をつかされて人生に自信を失った男が流れ着く。男は赤い橋のたもとの一軒家で、和菓子を作りながら祖母とふたりきりでひっそり暮らす不思議な女と出会う。女は人には語れない「秘密」を持っていた。その「秘密」とは、男性と性的に交わらないと体内に大量の”ぬるい水”がたまり、官能の極みに到達するとそれが大量に溢れ出すことだった。男はその「いけない秘密」に触れ、次第に女をいとおしく感じていく。そして女から「水がたまった」という知らせがあると、男は息せき切って駈けつけるようになる。女は自らの体内から溢れ出る「水」によって男をつつみ癒し、彼を蘇生させていくのだった…….。
人は誰も羊水に育まれ、生まれ出る。人間の命の源であり、心を癒してくれる「水」。ある人は、20世紀を、戦火につつまれた「火」の世紀、そして新世紀は、それを鎮める「水」の世紀と予言する。母なる自然と調和の世界への回帰を象徴する言葉である。底知れぬ力を秘めた「水」のメタファーとして、今村監督は「水の化身」とも言えるサエコというヒロインを登場させる。水の精・オンデイーヌさながらにサエコは男を愛し、男はサエコの「いけない秘密」に溺れていく。そして、今村ワールドの「水の精」は男を悲劇ではなく慌惚と安ら夢の世界へといざなって行く。この物語は、「水」が女と男を幸せに導いていく《至福に満ちた愛のファンタジー》である。
リストラされたサラリーマン、笹野陽介役に、ル・モンド紙で「日本の作家主義的映画の中心的存在」と評されたように、今や日本映画界に欠くことができない重要な位置をしめる役所広司、赤い橋のたもとの一軒家で和菓子を作り、「いけない秘密」に苦悶するサエコに清水美砂、そしてサエコの祖母であり昔愛した男を家の前でじっと待ち続ける老女役に倍賞美津子がそれぞれ扮している。また、この作品での語り部ともいえるホームレスの老人を演じる北村和夫、さらに中村嘉葎雄、夏八木勲、北村有起哉などが好演し、この作品に厚みを加えている。
監督は、この作品が19作目となる今村昌平。したたかに生きるヒロイン像を通して女性の底知れぬ生命力を描いてきた今村監督の新しいヒロインに、今年のカンヌは湧いた。2度のパルムドールに輝いた巨匠監督の老練な技は「軽み」の世界へと昇華され、鋭い批評眼を持つカンヌのうるさ方をもうならせた。
原作は、共同通信社の記者から作家へ転身し活躍中の辺見庸の同名小説『赤い橋の下のぬるい水』(文勢春秋刊)と、『ゆで卵』(角川書店刊)所収の短編「くずきり」がベースとなっている。その独特のエロティックな世界は、そのままこの作品のテーマにもなっている。
音楽は池辺晋一郎が担当し、和楽器を巧みに駆使してこの寓話的世界に彩りを添えている。さらに、撮影の小松原茂が現実とも非現実ともつかない微妙な色を醸し出し、ファンタジーの世界を一層深いものにしている。

ストーリー


初秋の東京・下町。リストラされ失業中の中年男・笹野陽介(役所広司)は、職探しの合間に、隅田川沿いのホームレスの集落を訪れた。人生の師と仰ぐタロウ(北村和夫)の顔を見に立ち寄った陽介を待ち受けていたのは、突然の孤独なタロウの死だった。陽介は、ホームレス仲間のゲン(不破万作)と屋台の飲み屋でタロウを偲ぶ。そこで陽介は、生前タロウに聞いた秘話をゲンに打ち明ける。「…盗んだ金の仏像を、能登半島の日本海に面した赤い橋のたもとの家に隠した。家の門に咲くノウゼンカズラの赤い花が目印だ。俺の代わりにあの家に行ってくれ…」しかしゲンは、タロウの戯言と言って相手にもしないのだった。
そんな時ですら、実家に身を寄せている妻の智子(根岸季衣)から失業保険の振込みを催促されて、束の間現実に引き戻される陽介。いつしか陽介の気持ちは、「赤い橋のたもとの家」へと向かって行く……
富山湾沿いを走る氷見線の車内に、一人座る陽介。やがて陽介は乗降客もまばらな駅に降りたち、場所を尋ねながらようやく赤い橋にたどり着いた。その橋の向こうには、ノウゼンカズラが咲き誇る二階建ての家が本当にあった。
陽介は、その家から現れた妙齢の女性・サエコ(清水美砂)の後を、憑かれたようについて行く。スーパーでサエコが、手に取ったチーズをバッグにひそませ、感に堪えない表情をする様子に興味を引かれる陽介。サエコの立ち去った跡には不思義な水たまりができ、水の中には片方だけのイヤリングが残されていた。
陽介はサエコのあとを追い、赤い橋のたもとの家に戻り着く。家へ入るとミツ(倍賞美津子)が現れ、なぜか陽介におみくじを手渡す。戸惑う陽介の前に現れたサエコは、ミツのおみくじが吉だと確認すると、「チーズ食べません?」と陽介を二階へ誘うのだった。二階からは、タロウの言葉の通りに赤い橋が見渡せ、日本海の向こうには雄大な、立山連峰が広がっていた。
サエコは、自分は和菓子職人で、祖母のミツは神社におみくじを書いて納めていることを、陽介に問わず語る。そして、突然陽介の口に氷を含ませ、押し倒し、うつろな眼差しで繰り返し大きく息を吐いた。不思義なことに体内から溢れた水が快感とともに放出され、歓喜の声を発するサエコ。サエコの水は廊下から階段を流れ、三和土の隙間から川へと流れ出すのだった。思いがけない体験に驚く陽介。サエコは水が体内に溜まると悪いことがしたくなり、我慢できなくて万引きすることを陽介に告白する。
陽介は、地元の若い漁師・新太郎(北村有起哉)の誘いに応じ、漁の手伝いを始めた。陽介はサエコに、しばらく漁師の手伝いをすることを伝え、午後を一緒に過ごそうと提案する。水が減っていくことを陽介のおかげと思っているサエコは、しばらく町に留まるという陽介に、喜びを隠せない。
サエコを訪ねた橋のたもとでは、ミツが誰かを待つように座っていた。陽介はタロウの言葉通り、家の二階にある押人れを探ったが、目当ての宝物は存在しなかった。
手際よく漁をこなし始める陽介だったが、水がたまってくるサエコからの緊急連絡を受けると、いそいそとサエコの元へ駆けつけるのだった。
そんな頃、陽介を追ってゲンが街に現れる。ゲンは宝物のことが気になっているのだが、陽介はゲンをはぐらかす。また陽介は、離婚届を送ったという妻からの連絡に一瞬怒りを覚えるが、今の陽介には、もうどうでもいいことだった。
漁節の間では、陽介はサエコの昔の男に瓜二つで、その男の身代わりだと噂になっていた。陽介は、新太郎の父・正之(夏八木勲)から、かつて流れ者が痴情のもつれで漁師を刺したという事件のことを聞かされる。
ゲンは、宝を探して赤い橋の家に忍び入るが目的を果たせず、ヒョンなことからミツにタロウの死を伝えることになった。お礼に能登上布をもらい、ひとり東京へ引き上げていくゲン。一方、タロウの死を知ったミツは、その日から橋のたもとで待つことはなくなった。
そんなある日、陽介は街中で見知らぬ男・泰造(ガダルカナルタカ)と親しげに話すサエコを目撃する。このところサエコの水が減ってきたこともあり、ほかの男と浮気をしているのではないかと、陽介はサエコの後をつけるのだったが…。

スタッフ

監督:今村昌平
原作:辺見 庸
製作総指揮:中村雅哉
企画:猿川直人
製作:豊 忠雄、伊藤梅男、石川冨康
原作:辺見 庸
『赤い橋の下のぬるい水』文藝春秋
「くずきり」(『ゆで卵』所収)角川書店
脚本:冨川元文、天願大介、今村昌平
音楽:池辺晋一郎
撮影:小松原茂
照明:山川英明
録音:紅谷愃一
美術:稲垣尚夫
編集:岡安 肇
プロデューサー:飯野 久
協力:cinemoney.com、氷見市
製作:「赤い橋の下のぬるい水」製作委員会
提供:日活、今村プロダクション、バップ、衛星劇場、マル
配給:日活株式会社

キャスト

笹野陽介:役所広司
逢沢サエコ:清水美砂
黒眼鏡・釣りの老人:中村嘉葎雄
ヒゲ・釣りの老人:ミッキーカーチス
ハゲ・釣りの老人:矢野 宣
山田昌子:坂本スミ子
魚見新太郎:北村有起哉
田上美樹:小島 聖
立花泰造:ガダルカナルタカ
魚見正之:夏八木勲
ゲン:不破万作
タロウ:北村和夫
逢沢ミツ:倍賞美津子

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