原題:Les Femmes du 6e étage

1960年代のパリ。ブルジョワ夫婦と屋根裏部屋に暮らすスペインのメイドたち。 モノクロームの日常に、陽気な歓声が明るく響き渡る。

6階のマリアたち(フランス映画祭2011)

2010年/フランス映画/フランス語・スペイン語/106分/ビスタサイズ/ドルビーSRD/日本語字幕:加藤 リツ子 協力:ユニフランス・フィルムゥ 提供:ニューセレクト 配給:アルバトロス・フィルム

2012年7月21日(土)、Bunkamuraル・シネマほか全国順次ロードショー

Ⓒ Vendome Production – France 2 Cinéma – SND All rights reserved.

公開初日 2012/07/21

配給会社名 0012

解説


人生も半ばを過ぎたフランス人資産家の運命を変えたのは、屋根裏部屋に暮らす陽気で情熱的なスペイン人メイドたちだった——
メイドの作る“完璧なゆで卵”が男に至福の歓びをもたらすように、彼女たちとの出逢いは、退屈で味気なかった男のモノクロームの日々を、生きる情熱と好奇心に満ちた毎日へと鮮明に色づかせてゆく。

60年代のパリを舞台にした『屋根裏部屋のマリアたち』は、そんなフランス人ブルジョワ男性の日常に巻き起こるめくるめく胸のときめきと、使用人であるスペイン人メイドとの“禁断”の恋のゆくえを、まるでスペインの気風が息づいたかのような陽性なユーモアと心温まるペーソスで彩る愛すべき人間讃歌である。

1962年、パリ。株式仲買人のジャン=ルイ・ジュベールは、妻シュザンヌが雇ったスペイン人メイドのマリアを、我が家に迎え入れる。彼女は、ジュベール家と同じアパルトメントの屋根裏部屋で、叔母のコンセプシオンをはじめとする同郷出身のメイドたちと暮らしていた。軍事政権が支配する故郷を離れ、異国の地で懸命に働くスペイン人メイドたちに、次第に共感と親しみを寄せるジャン=ルイは、やがて機知に富んだ美しいマリアに魅かれてゆくのだった。しかし、そんな夫の変化に無頓着なシュザンヌは、彼と顧客の未亡人との浮気を疑い、夫を部屋から追い出してしまう。こうしてその夜から、ジャン=ルイはメイドたちと同じ6階の物置部屋で一人暮らしを始めるが、それは彼に今まで味わったことのない自由を満喫させることになる……。

1962年当時のスペインは内戦後、フランコ政権による軍事独裁政治が20年以上も続き、疲弊しきった人々が隣国フランスに仕事と自由を求めて大挙押し寄せ、それはフランスの社会問題になっていた。
そんな苦境を撥ね退けるように、ともに助けあい、励ましあって、故郷に残した家族のために仕送りするスペイン人メイドたちのヴァイタリティは、私たちの心をも明るく鼓舞する。とりわけ、ラジオから流れる「ビキニスタイルのお嬢さん」のメロディに合わせて、散らかり放題の部屋をてきぱきと片付け、手際よく家事をこなしてゆく彼女たちの賑やかな一致団結ぶりは、思わず微笑を浮かべてしまう愉しさに満ちている。

そんな彼女たちのポジティヴパワーにもろに影響を受けてしまったのが、ブルジョワ育ちの御曹司、ジャン=ルイだ。容姿端麗な妻シュザンヌに見染められ、2人の息子たちは寄宿舎生活と、何不自由なく暮らすジャン=ルイは、屋根裏部屋の劣悪な環境で暮らすスペイン人メイドたちの生活を知るや援助を惜しまず、さりげなく救いの手を差し伸べる。

こうして、メイドたちから“聖人”と慕われる心優しきジャン=ルイを演じるのは、『クレールの膝』『満月の夜』などエリック・ロメールの常連俳優として頭角を現わし、近年は『PARIS』『しあわせの雨傘』と多彩な活躍を続けるファブリス・ルキーニ。思いがけない自分の変貌に、誰よりも彼自身が驚いているようなその飄々としたポーカーフェイスの裡に、ジャン=ルイが秘めた情熱の炎を静かに燃やし、演技派として高く評価される名優の新境地を拓く一作となった。

ジャン=ルイの妻シュザンヌには、『カドリーユ』『プチ・ニコラ』のサンドリーヌ・キベルラン。田舎育ちで、憧れのブルジョワ生活に背伸びをするうちに、いつしか夫の変貌にも気付かない“取り残された妻”を好演。これまでルキーニとは、『ロベールとは無関係』(日本では映画祭上映)や『ボーマルシェ/フィガロの誕生』などたびたび共演経験もあり、かつては愛しあいながらも、なぜかすれ違ってしまった夫婦の哀感を、しみじみとした笑いとともに体現し、息の合った名コンビぶりを見せている。

個性豊かなスペイン人メイドの中でも、とりわけ仕事に対しては真面目で誠実、そのぶん言いたいことは臆せずもの申すマリアに、『パズル』『ドット・ジ・アイ』のナタリア・ベルべケ。“生き別れ”となった8歳の息子のゆくえを案じながらも、メイドとして逞しく新生活を切り拓く女性像をキュートに演じ、黒目がちの瞳に才気を宿した笑顔と、そこはかとないセクシーさとコケティッシュな愛らしさを併せ持つ彼女の華やかさは、ジャン=ルイはもちろん世の中年男性の癒しの存在となるに違いない。

そして、そのマリアの叔母コンセプシオンを、『神経衰弱ぎりぎりの女たち』『ボルベール<帰郷>』など、ペドロ・アルモドバルのミューズのひとりとして知られ、最近ではフランシス・フォード・コッポラの『テトロ/過去を殺した男』など国際的に活躍するカルメン・マウラが扮しているのも見逃せない。マリアとジャン=ルイの関係にやきもきする、スペイン人メイドの母親的存在を貫録たっぷりに演じきり、本作でセザール賞助演女優賞に輝いた。

60年代のパリを活き活きと現代に甦らせ、ブルジョワとメイドの世界を豪奢なアパルトメントの一室と狭く汚れた屋根裏部屋とに劇的に対照させた監督は、『ジュリエットの年』『ナイトシフト』『一夜のうちに』(すべて映画祭上映)など、野心作をコンスタントに発表し続ける俊英フィリップ・ル・ゲイ。実際にスペイン人メイドと暮らしたという彼自身の幼少期の想い出を基にした本作は、本国フランスで220万人を超える観客を動員する大ヒットを記録、ル・ゲイにとっても「エンタテインメントの傑作」(ル・モンド誌)など批評家からも絶賛を浴びる会心作となった。

そのル・ゲイと共同で脚本を執筆したのは、『プロヴァンス物語/マルセルの夏』『親密すぎる打ちあけ話』のジェローム・トネール。撮影は『死ぬまでにしたい10のこと』『エレジー』のジャン=クロード・ラリュー、音楽は『見出された時—「失われた時を求めて」より』『クリムト』のホルヘ・アリアガータ、美術は『あなたになら言える秘密のこと』のピエール=フランソワ・ランボッシュ、衣裳デザインは『リディキュール』『かげろう』のクリスチャン・ガスクと、精鋭のスタッフ陣が集結。フランスとスペイン、ブルジョワとメイドという2つの世界を鮮やかに銀幕に映し出し、その本領を遺憾なく発揮している。

人は何歳になっても、人生をやり直すことができる。屋根裏部屋で暮らすジャン=ルイは、「家に戻って」と懇願する息子たちに、こう宣言する。「ここで見つけたんだ、家族を。人は真の友を探すべきだ」
ジャン=ルイは、マリアやスペイン人メイドたちと出逢い、見失っていた本来の自分自身を取り戻し、不可能と思えた明日の幸福を、自らの手で掴み取る決意をその胸に抱く。笑いと優しさで綴られたこの作品は、何かが違うと居心地の悪さを感じながらも、新たな一歩を踏み出せずにいる悩み多き現代人に、たった一度きりの人生を後悔なく愉しむ、その秘訣を授けてくれるだろう。

ストーリー


人生も半ばを過ぎたフランス人資産家の運命を変えたのは、
屋根裏部屋に暮らす陽気で情熱的なスペイン人メイドたちだった—
1962年、パリ。株式仲介人のジャン=ルイ・シュベールは、妻シュザンヌが雇ったスペイン人メイドのマリアを迎え入れる。彼女は、シュベール家と同じアパルトマンの屋根裏部屋で、同郷出身のメイドたちと暮らしていた。軍事政権が支配する故郷を離れ、異国で懸命に働くスペイン人メイドたちに、次第に共感と親しみを寄せるジャン=ルイは、やがて機知にとんだ美しいマリアに魅かれてゆくのだった。しかし、そんな夫の変化に無頓着なシュザンヌは、彼と顧客の未亡人との浮気を疑い、夫を部屋から追い出してしまう。こうしてその夜から、ジャン=ルイはメイドたちと同じ屋根裏で一人暮らしを始めるが、それは彼に今まで味わったことのない自由を満喫させることになる・・・。

スタッフ

監督・脚本:フィリップ・ル・ゲイ
共同脚本:ジェローム・トネール『ぼくの大切なともだち』
撮影:ジャン=クロード・ラリュー
美術:ピエール=フランソワ・ランボッシュ
音楽:ホルヘ・アリアガータ

キャスト

ジャン=ルイ/ファブリス・ルキーニ
シュザンヌ/サンドリーヌ・キベルラン
マリア/ナタリア・ヴェルベケ
コンセプシオン/カルメン・マウラ
カルメン/ロラ・ドゥエニャス
ドロレス/ベルタ・オヘア
テレザ/ヌリア・ソレ
ピラール/コンチャ・ガラン
コレット・ドゥ・ベルジュレ/マリー=アルメル・ドゥギー
ニコル・ドゥ・グランクール/ミュリエル・ソルヴェ
ベッティナ・ドゥ・ブロソレット/オドレイ・フルーロ
トリブレ夫人/アニー・メルシエ
ジェルメーヌ/ミシェル・グレイゼル

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