ふさ、もう一度だけ逢いたい。

2008年第21回東京国際映画祭特別上映作品 1993年ヴェネチア国際映画祭特別招待作品 1994年ロッテルダム国際映画祭批評家選出部門出品作品

1993年度作品/HDTV1125-60システム(16:9フレーム)より35ミリフィルム(ヴィスタサイズ)に変換/イーストマンカラー/ドルビーステレオ/6巻・2,507m/92分 配給:ゴー・シネマ

2009年5月23日(土)より、シネマート新宿にてロードショー 2008年11月8日(土)より、丸の内TOEI②他にて特別上映

© 2008フジテレビ

サブ題名 〜巨匠 市川崑監督、幻の名作〜

公開初日 2008/11/08

配給会社名 0943

解説

本年(08年)2月に92歳で他界した巨匠、市川崑監督。70数本におよぶその作品歴の中で、生涯ただ一本、未公開となっていた『その木戸を通って』が、ついに公開される。
わが国初の本格的長編ハイビジョンドラマとして1993年8月に完成しながら、その後BSで一度だけ流れた以外、人の目にほとんど触れることなく眠っていた本作品は、まさに“幻の逸品”。リリカルな正統派ドラマとしての気品と、市川監督ならではの映像美をあわせ持った、まさに宝石のような珠玉作である。
原作は、59年に発表された山本周五郎の短編小説。城勤めの無為な日々をおくる主人公・平松正四郎のもとにある日やってきた、記憶喪失の娘、ふさ。彼女の純粋な魂は、やがて、正四郎の人柄と人生を徐々に変えてゆく……。
淡々とした夫婦の年代記の中に、日常生活のかけがえのなさ、人間同士の思いやりとやさしさ、人の真心が人の頑なさを穏やかにほぐしてゆくさまを描き、静かな感動を呼ぶ。そしてクライマックス、正四郎が幻の“木戸”に去って行ったふさの幻影を見るシーンは、涙なしに観られない哀切の名場面である。
紫に煙る雨、緑まばゆい竹林、日本家屋内のほの暗い陰翳など、現実とファンタジーのあわいを見事に創り出した、実験精神あふれる映像美に注目を。暗闇の中に正四郎の姿が浮かび、徐々に背景に光が当たってゆく魔術的なトップシーンから、監督直筆の絵コンテをレイアウトしたスタイリッシュなエンドクレジットまで、もう二度と観ることのできない“市川崑美学”を、ファンは堪能することができるだろう。
ふさ役に浅野ゆう子、平四郎役に中井貴一。井川比佐志、岸田今日子、石坂浩二といった市川作品ゆかりの豪華キャストに加え、名優・フランキー堺が物語の要となる田原役で好演しているのも見逃せない。
なお、本作品は、完成直後にハイビジョンマスターから35ミリフィルムに変換され、“FUSA”のタイトルで93年ヴェネチア国際映画祭に特別招待出品、翌94年ロッテルダム国際映画祭批評家選出部門に出品。それぞれ好評を博したが、今回の劇場上映も、35ミリフィルムフォーマットによるものである。

ストーリー

娘ゆかの婚礼の日、城勤めの武士・平松正四郎は、17年前に自分とゆかを残して、忽然として姿を消したふさのことを憶い返していた。

その日正四郎は、御勘定仕切りの監査のため、数日にわたって城中に詰め切っていた。廃家になっていた名門平松家を再興する当主に選ばれたばかりか、城代家老の娘との縁組も決まり、誰もが羨むほどである正四郎が、人から「平松さま」と呼ばれても、自分のことと気づかないくらいにまだ新しい苗字に馴染んでいなかった頃のことだ。縁談の仲立ちをした中老の田原権右衛門が正四郎を呼びつけ、口をへの字に曲げ、正四郎の留守宅にいる若い娘は誰かと尋ねてきた。しかもその現場を婚約者に見られ、先方から厳重な抗議が来ているという。娘など心当たりのない正四郎は、全く事情がわからない。とにかくこの謎を解くためにその娘と会う。やはり、見覚えのない女だ。女も正四郎を知らないと言う。「どういうことなのでしょうか。平松正四郎さまという名のほか、わたくし何も覚えてませんの。自分がどこから来たかも、なんという名であるかも、どうしてここへまいったか、まるでものに憑かれたか、夢でもみているような気持ちでございます。」

突然迷い込んできた記憶喪失の娘。行き先のない娘を哀れに思った家扶の吉塚助十郎とその妻むらは、娘の面倒をみたいと申し出る。それに反対した正四郎は、一度は雨の中に娘を追い出すが、雨に打たれる娘の姿を見ているうちに心が変わり、家に連れ戻し、親身に面倒をみてやるようになる。いつしか娘はふさと名付けられ、その人柄ゆえに誰からも愛されるようになり、正四郎も心惹かれ始める。ほどなく正四郎は自ら家老のご息女との縁談を破談にし、ふさとの結婚を決める。酒をあおりながら猛烈に反対する父。そのうちにやってきた婚禮の日、しかし父はふさに孫の顔を見せてくれと云った。

やがて、娘が誕生。その子は正四郎の母と同じゆかと名付けられる。ふさと娘と一緒の幸せな日々が続く。しかし、時折不吉な影がさす。ある夜、ふさは取り憑かれたように一点を凝視しながらじっと立って呟く。「これが、笹の道で、そしてこの向こうに木戸があって・・・・・。」そう言って倒れると正四郎の胸へ凭れかかり、何事もなかったように正気に戻る…。

スタッフ

監督:市川崑
脚本:中村努、市川崑
原作:山本周五郎 『その木戸を通って』 (「おさん」新潮文庫所収)
音楽:谷川賢作
企画:能村庸一、遠藤龍之介
プロデューサー:酒井彰、 鎌田敏郎
撮影:秋場武男
映像:皆川慶助
照明:本間利明
美術:松下朗、荒川淳彦
音声:大河真
調音:大橋鉄矢
編集:長田千鶴子
助監督:佐々部清
製作主任:紺野生、酒井実
製作:フジテレビジョン
提供:フジテレビジョン、ポニーキャニオン
配給:ゴーシネマ

キャスト

浅野ゆう子
中井貴一
フランキー堺
井川比佐志
岸田今日子
石坂浩二
神山繁
榎木孝明

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