火垂るの墓
第1回秋葉原映画祭
2008年/日本/カラー/100分/ 配給:パル企画
2009年03月27日よりDVDリリース 2008年7月5日(土)より、岩波ホールほか全国ロードショー
(C)2008『火垂るの墓』パートナーズ
公開初日 2008/07/05
配給会社名 0072
解説
両親も家も奪われた14歳の兄と4歳の妹は、預けられた先での仕打ちに耐え切れず、ついに飛び出してしまう。二人は自分たちの力だけで生きていこうとするが……。
第58回直木賞を受賞後、約40年にわたって読み継がれている戦争文学の金字塔。アニメ化、テレビドラマ化され日本中を感動の涙に包んだ野坂昭如原作『火垂るの墓』がついに待望の実写により完全映画化された。戦争による過酷な運命を必死に生き抜こうとし、ホタルのように短く儚い命を灯らせた兄妹を描くことにより、あの戦争を振り返り、混迷する現代を見つめ直す。
当初この企画は『父と暮せば』『紙屋悦子の青春』の名匠で、2006年4月に急逝した黒木和雄監督により進められていた。その遺志を引き継いだのは、浅野忠信主演の『誰がために』で暴力の連鎖を断ち切ることは可能かを世に問いかけ鮮烈なデビューを飾った日向寺太郎監督。黒木監督が「年少の友人」と呼んだ最大の理解者である。日向寺監督は原作の舞台である兵庫県でオールロケを敢行し、清太と節子が生きたあの暑い夏を再現。黒木監督を思わせる妥協のない製作姿勢を貫き、静かに深く心に刻まれる感動作を完成させた。忘れてはならない戦争の記憶は、本作『火垂るの墓』により1960年代生まれの若い感性が未来へ継承しようとしている。
兄・清太と妹・節子にはすでに高い評価を得ている二人が選ばれた。テレビドラマ『西遊記』、舞台『レ・ミゼラブル』など数多くの経験を積んでいる吉武怜朗は日本的な凛とした美しさで画面を引き締め、『Dr.コトー診療所2006』などで愛くるしい笑顔を振りまいた畠山彩奈は弱冠5歳ながら天才的な表現力でスタッフの度肝を抜いた。兄妹をいじめる未亡人には松坂慶子。日本を代表する映画女優として、その美しさで観客を魅了し続けてきた彼女だが、今回は普段のイメージとは離れ汚れた役を演じきった。兄妹の母親には、80年代より歌手としてトップの座を守り続ける、松田聖子。7年ぶりの日本映画出演で作品に華を添えている。そして黒木監督作品には欠かせない存在だった長門裕之と原田芳雄、黒木監督の代表作『祭りの準備』で主演をつとめた江藤潤、『誰がために』で絶望した主人公を支える役を演じ強い印象を残した池脇千鶴、将来が期待される山中聡、本作で映画デビューを飾る谷内里早、文学座出身の高橋克明らの豪華キャストががっちりと脇を固めている。
脚本は『ガキ帝国』『TATTOO<刺青>あり』『陽はまた昇る』などの話題作を世に送り出した西岡琢也。撮影クルーには黒木組の常連が集まった。美術監修・木村威夫、撮影・川上皓市、録音・久保田幸雄をはじめ超一流のスタッフが若い監督を盛りたてている。また世界的に人気のあるギタリスト・渡辺香津美が、ピアニスト・谷川公子と組んだユニットCastle In The Airによるアコースティックの音色が沈痛な物語に人間的な優しい情緒を醸し出し、兄妹へのレクイエムを奏でている。
ストーリー
1945年6月の神戸。大空襲の後の雨が、壊滅的な打撃を受けた街にうちつけている。逃げまどう人々の中に14歳の清太とその背中でおびえている4歳の妹節子。彼らの家は焼け落ち、そのそばでは、黒焦げの死体や友達の変わり果てた姿が横たわっていた。
兄妹がたどり着いたのは国民学校(現在の小学校)。教室の中には重傷の人達が寝かされ、足の踏み場もないほどで、あちこちからうめき声が聞こえてくる。その中に兄妹の母親もいた。全身を包帯でぐるぐる巻きにされ、痛々しい姿で横たわっていた。
「清太……」
母は最後の力を振り絞って息子に手を伸ばすが、清太はショックのあまりその場から逃げだし、校庭に立つ木のもとで激しくぜんそくの発作を起こしてしまう。
母親を病院に連れて行こうとリヤカーを調達してくる清太。しかしその苦労も無駄に終わる。町会長は、母親が息をひきとったことを告げた。なにも知らない幼い節子はリヤカーに乗るのが楽しくてはしゃぐのだった。
彼らは戦争下にもかかわらず、以前までは幸福な日々を送っていた。海軍大尉の父親と、美しく、優しい母親。清太はぜんそくの持病を抱えながらも父親のように立派な軍人になることを夢に剣道に勤しんでいるが、時には甘えて縁側で母親に膝枕してもらう。幼い節子はおはじきを飲み込んでかんしゃくをおこしながらも、母親からドロップ缶を与えられると機嫌を直し、兄の“どじょうすくい”を見ては笑い声を上げる……。しかし空襲が彼らの人生を180度違うものにしてしまった。
「お母ちゃんは病院や。あとからきっと来る」
母親が死んだことを隠し、清太は節子を連れて西宮の遠縁の家を訪ねる。半年前に夫を失ったばかりのおばは最初、それまでろくに会ったこともなかった二人を追い返そうとするが、兄妹の荷物の中に大量の缶詰などの貴重な食料があるのに気がつき態度をかえる。隣組による消火活動でも近所の人達に、自分は苦労を顧みず他人の子どもを面倒みているのだと吹聴し、内緒だったはずの母親の死も話してしまうのだった。
近所には様々な人がいた。ひとくせもふたくせもありそうな町会長。中学校の校長先生は何かと清太を気にかけ、剣道の稽古をつけたり、家に招待してくれる。先生には清太と同じ年ごろの娘がいて、一緒に歩いた池の周りで、好きな歌を口ずさむ娘に清太は胸をときめかせるのだった。そして周囲から白い目で見られている学生の高山がいる。若い未亡人と同せいし、手をつないで水汲み場に現れたり、「布団をかぶって頭の上を悪い風が通り過ぎるのを待てばいい」と厭世的であった。
日を追うごとにおばの仕打ちはひどくなっていった。夜、悪夢にうなされるとうるさいと恫喝し、ぜんそくの発作に苦しんでいると「それでも海軍の息子か」と嫌味を言う。二人のいないときに荷物から勝手に物を抜き取り、母親が亡くなったことも節子に教えてしまった。清太は母親の着物を食料と交換していたことをとがめ、「泥棒」と責めると、「これからあんたらの面倒一切見いへん」と炊事も別々にすることになった。兄妹は庭で自分たちで火を起すが、米を上手く炊くことさえできなかった。食卓をものほしげに見る節子に対して、未亡人は「座ってもええけど、何んも出んよ」とどこまでも冷たい態度で接するのだった。
そんなときに悲劇が起こった。空襲で焼き出された家族が学校に住み着いていたのを校長先生は大目に見ていたが、彼らが原因で大火事になってしまったのだ。天皇の御真影を灰にした責任をとり先生は一家心中をしてしまう。清太が淡い思いをよせた娘も帰らぬ人となった。
これ以上おばの家にいられなくなった兄妹は家を出て、池のほとりの横穴式防空壕で二人だけの生活を始めることにした。「ここが台所、あっちが玄関」とはしゃぐ節子。夜になると池の周りは無数の蛍が飛ぶ。清太がその蛍をつかまえ、壕の中へ放つと、夢中になって捕まえようとする節子。久しぶりの兄妹二人だけの楽しい時間を過ごす。しかし、そんな蛍も翌朝には死んでしまう。節子は兄に頼みひとつひとつ名前をつけた墓を作るのだった。
だが、その生活も長くは続かなかった。食料がすぐに底をついてしまったのだ。
空腹感は二人の生活をまたたく間に一変させていく。清太は子どもが食べていた芋を横取りしたり、さらには空襲で人々が避難した空家に忍び込み、食べ物を盗むことを繰り返した。ある日、清太は防火用水に高山の死体が捨てられているのを発見する。どさくさに紛れて町会長らに虐殺されたのだ。芋を取り上げた少年も機銃掃射で殺された。
節子は日々弱っていき、下着を汚すたびに清太が手で洗う。空腹は満たされず、父親が送ってくれた上海のチョコレート、ユーハイムのケーキ、てんぷらにおつくりにところてん……。かつて家族で食べたものを思い出しながらつい半年前の幸福な日々を語り合う二人。畑で野菜を盗もうとしたところを見つかってめった打ちにされ、かえってきた清太に、節子は弱った体を起こし、お手玉の中から大豆を取り出して「ドロップひとつどうぞ」と精いっぱい気づかうのだった。
そして日本は敗戦の日を迎えた。天皇による玉音放送から数日後のある日、節子は死んだ。どれだけ名前を呼んでも二度と目を覚まさない。清太は池のほとりの蛍たちの墓の隣に小さな墓を作り、母のかたみやドロップ缶と一緒に節子を埋めた。
一人ぼっちになった清太は、生きていく希望を失っても歩き続ける。 そして、精根尽き果て、どしゃ降りの雨の中で倒れるのだった……。
スタッフ
原作:野坂昭如(新潮文庫刊『アメリカひじき・火垂るの墓』より)
監督:日向寺太郎
脚本:西岡琢也
撮影:川上皓市
照明:水野研一
録音:久保田幸雄
美術監修:木村威夫
美術:中川理仁
編集:川島章正
音楽:Castle In The Air(谷川公子+渡辺香津美)
キャスト
吉武怜朗
畠山彩奈(子役)
松坂慶子
松田聖子
江藤潤
高橋克明
山中聡
池脇千鶴
千野弘美
鈴木米香
矢部裕貴子
谷内里早
萩原一樹
原田芳雄
長門裕之
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