原題:When Ruoma Was Seventeen  婼玛的十七歳

チアン・チアルイ第1回監督作品

2002 モントリオール国際映画祭出品 2003 金鶏奨最優秀新人賞受賞(リー・ミン)

2002年/北京青年映画撮影所・雲南良黎影視文化传播公司/ヴィスタビジョン/90分 日本語字幕:田村祥子 配給:ワコー/グアパ・グアポ 宣伝:グアパ・グアポ

2008年10月31日よりDVDリリース 2007年6月16日(土)、東京都写真美術館ホールにてロードショー、他全国順次公開

公開初日 2007/06/16

配給会社名 0321/0231

解説


◆中国映画、ひさびさの「初恋物語」の誕生

 青々と果てしなく続く雲南の大地。ユネスコの世界自然遺産である神々しい棚田(水を引いただんだん畑)を舞台に、17歳のハニ族の少女・ルオマの純真無垢な魂を描く初恋物語の誕生である。

 一人っ子政策や晩婚奨励、観客のアクション好きなどの影響だろうか、中国映画には、10代の少女の男性へのイニシエーション、初恋を描いた作品はきわめて少ない。初恋映画の先陣を切ったのは、チャン・イーモウ(張芸謀)監督だった。1999年、当時19歳のチャン・ツーイー(章子怡)を起用した『初恋の来た道』は、今なお、中国映画ファンには強烈な印象を残す作品だ。10代の少女の初恋、土ぼこりの上がる田舎の一本道をひた歩き、駆け、好きな先生にお弁当を届け続ける少女。その想いを鮮烈な部分カラー映像で描き、ベルリン国際映画祭で銀熊賞を受賞、世界各国で大きな評価を得た。
 『ルオマの初恋』は、このチャン・イーモウ作品に続く中国には稀有の初恋物語だ。小さいころから父も母もいなかったと語るルオマは、はたを織るおばあちゃんと二人暮らし、彼女の生い立ちは最後まで何も明かされることはない。この地方に古くから伝わる、家長が押し付けた結婚を嘆く「哭婚調」という民謡のように、両親は村から出奔したのかも知れない。

描かれるハニ族の田植え、男女の相聞歌、愛を告白する泥玉の投げあい、竜樹の下での巫女の祈祷、結婚の別れの時に渡されたルオマのおばあちゃんの腕に光る銀の腕輪、などなど、われわれの日常から遠く離れた世界を舞台に繰り広げられる異郷の文化。しかし、漢族の今風のキャメラマンに憧れるハニの17歳の少女、ルオマの初恋もまた、誰もが10代に経験した、あの甘く切ない想いと同じものだ。

奇しくも2002年のベルリン国際映画祭に『ルオマの初恋』は、チャン・イーモウ監督の『英雄HERO』と肩を並べて出品された。『英雄HERO』の制作費3000万ドルに対し、30万ドルという低予算映画にもかかわらず、大好評を博した。その後もモントリオール国際映画祭はじめ世界各地の映画祭に招かれ、現在17カ国での上映が決まっている。中国国内では、中国映画のアカデミー賞とも言える金鶏奨で、主演のリー・ミン(李敏)は最優秀新人賞を獲得、その他三部門でもノミネートされた。

若緑のさなえ早苗は うるわ麗し乙女よ
麗し乙女よ
大きなたんぼ田圃は たくま逞し若衆よ
逞し若衆よ
乙女 嫁に来てくれな
田圃に 稲穂は伸びやせん
稲穂は伸びやせん
若衆 乙女をめと娶ってくれな
若衆 乙女を娶ってくれな
伸びた稲穂も 実りゃせん
伸びた稲穂も 実りゃせん   (相聞歌より抜粋)

◆棚田が育んだハニの美少女、ルオマを演じるリーミン

 作品の舞台は、雲南省紅河州の少数民族、ハニ族の居住地。山頂から延々と続く棚田は、ユネスコ世界自然遺産に申請、受理されている。豊かな稲作文化やさまざまな農耕儀礼、素朴な農村の生活は、日本人にとっての故郷とも言え、懐かしさを覚える。谷に響き渡る恋歌は、昔日本でも行われた歌垣を思わせる。
 ルオマを演じたリー・ミンは本作がデビュー作。撮影当時は十六歳の高校生で、監督が現地のハニ族の少女1500人から選出した。といっても、われわれが想像するようなオーディションではなく、高校に監督が出向いて選考にあたっている。本人は、候補者の一人として選ばれたに過ぎず、自分が主演するなどとは夢にも思っていなかったと語っている。
演出の際には台本を渡されず、監督がシーンごとに説明をして撮影が進められた。彼女の情感をありのまま出したいと思ったからだ。その素朴で自然な演技と、あふれる笑顔が観客を魅了し、「小コン・リー」とも言われている。第二作は、国民党軍と赤軍の内戦をテーマとした『叢林無辺』(2005年、チョン・コーホン(鄭克洪)監督)で、森林の中に暮らす少女を演じている。
現在も法学を学ぶ大学生であり、今後も女優として生きていくかどうかは決めていないと語っている。ちなみに本作の出演者は、初恋の人アミン以外すべて現地のハニ族の人々で撮影された。

◆国際的評価高まるチアン・チアルイ監督「雲南三部作」

 監督のチャン・チアルイ(章家瑞)は、四川省成都生まれ。文化大革命の時代に育った彼は、粗暴な一面を持つが義侠心にも富んだ少年であった。中学二年の時、初めて文学と出会う。文革中で封鎖された図書館で、トルストイやチェーホフ、シェイクスピアを読んで衝撃を受ける。16歳の時には、下放していた農村で文芸工作団の劇団に台本を投稿、採用されたことが大いに励みになる。文化大革命後、1979年、中央戯劇学院演出系を受験するが失敗、四川大学に進学。文学系志望だったが、成績がトップクラスだったため、哲学系に回される。在学中は、映画館に足繁く通い、劇団に参加、詩や台本を書いた。
 86年、あらためて北京電影学院に入学し、2年後には電影学院附属の映画製作所である青年電影製片廠に入る。早速、学院の教授でもあるハン・シアオレイ(韓小磊)が四川で撮影する『行窃大師』の助監督に付いたが、助監督を頭ごなしに叱りつけてばかりいる監督と大げんか、たちまち首になり、「もう二度と助監督などやるまい」と決心する。映画を撮ろうにも資金がないため、やむなくTVドラマの世界に身を投じる。『太陽鴿』(1991年)で中国テレビドラマの最高賞・飛天奨を受賞、つぎつぎと連続ドラマを演出するが、1日1本、3日で2本撮影するといったハイペースに疲れ切り、1999年、TVドラマから足を洗うことを決め、映画のためのシナリオ準備にかかる。
 そんな時、ハニ族の棚田を世界遺産に申請しようという動きに連動し、棚田を題材としたテレビ番組制作の依頼が来る。『ルオマの初恋』の舞台となった雲南省紅河州を訪れ、実際の風景を眼にし、映画の素材だと直感する。こうして『ルオマの初恋』が誕生することとなった。
 本作は雲南三部作の第一部にあたる。第二部は『花嫁大旋風』(原題『花腰新娘』2004年)。イ族の奔放な娘が主人公。クー・チャンウェイ(顧長衛)監督の『孔雀』主演のチャン・チンチュー(張静初)をヒロインに、イ族の婚礼や龍舞などの民俗を取り入れたコメディタッチの作品。第三部となる『芳香之旅』(2005年)では、1960年代から現代までを背景に、雲南の山間部を走るバスの運転手と女車掌の複雑な愛に彩られた人生をじっくりと描く。主演は前作に引き続きチャン・チンチュー。この作品は、カイロ国際映画祭でグランプリに当たる金ピラミッド賞を受賞した他、主演男優のファン・ウェイ(范偉)が審査員特別賞を、チャン・チンチューが主演女優賞を受賞。またシンガポールで開催されたASIAN FESTIVAL OF 1st FILMS(アジア“処女作”映画祭)では、最優秀作品賞、最優秀脚本賞、シンガポール外国人記者協会が選ぶパープル・オーキッド賞を受賞した。
 雲南を舞台に、初恋、結婚、そして晩年までを描き、国際的な評価も高まっている彼の次回作は、ベトナムを舞台に、中国人男性とベトナム人女性の恋愛映画が予定され、さらにその後は、監督自身の故郷である成都を舞台に、1970年代の青春を描く作品が用意されているという。長年暖めてきた自伝的作品ということで、いよいよ期待が高まっている。

ストーリー

◆初恋の男性、アミンへの愛とおばあちゃんの無償の愛
 ルオマは、今日も朝ご飯を食べるや、おばあちゃんが茹でたとうもろこしを背負い籠にいれ、乗り合い自動車で町に出る。“焼きとうもろこしはいかが”市場で大声を上げても客はいない。そんな時、声をかけてくれたのがキャメラマンのアミンだった。1本50銭(日本円7円)のとうもろこしを10本も買ってくれた。だが実は、今のアミンには10本の金5元の小銭さえ家中を探してもない。それどころか家賃も払えず大家から矢の催促を受け、昆明にいる年上の恋人が家賃を持ってくるのを待っている有り様なのだ。
机上にあったウォークマンを、代金のかわりにとアミンはルオマに渡した。初めて聞く、ウォークマンから流れるアイルランドの女性歌手エンヤの歌う「カリビアン・ブルー」は、彼女を虜にした。ウォークマンから流れるメロディーによって、目の前に新しい世界が広がっていく。翌日、アメリカ人の観光案内をしたアミンは、民族衣装に身を包み、焼きとうもろこしを売るルオマの周りに群がる観光客たちが、彼女と写真を撮りたがっているのに目を見張る。彼はルオマに、棚田を背景にして、外国人観光客相手の写真撮影をしようと提案した…。        
「撮影料金 1枚 10元」の看板に観光客は列を成した。アミンの作戦は大当たりした。ルオマの唯一の夢は、昆明に出稼ぎに行き、町の男と結婚を決めたルオシアが教えてくれた、重い荷物を運ぶ“エレベーター”に乗ることだった。アミンは必ず昆明に行きエレベーターに乗せてあげると約束してくれた。夢のような楽しい日々の始まりだった。稼いだお金を自慢げにおばあちゃんに渡すルオマ。「ハニの民は人を騙してお金を取ったりしないよ、写真を取ってお金を稼ぐなんて誰に教わったの」と言うや、おばあちゃんは口を閉ざすのだった。

 そんなある日、写真館に戻った二人をアミンの恋人が待っていた…。彼女はこの村にアミンが写真館を開くお金を出資してくれ、仕送りも続けていた。これ以上お金を出すことはできない、恋人はアミンへ最終勧告を言い渡しにきたのだ。二人が黙って2階の部屋に上がると同時に、写真館を後にしたルオマの耳に、大声でののしりあう二人の声がこだまする…。
 
田植祭の日、昆明に引き上げる決意をしたアミンがルオマに別れを告げに訪れた。おばあちゃんは、初めて会う漢民族のアミン心を見透かしたように、ハニの若者は田植祭のとき、泥玉を好きな人にぶつけて愛を告白するのだとおもむろに二人に語った。夕暮れのあぜ道、エレベーターに乗せられなかったことを詫びるアミンは、足を滑らせ田んぼに落ちた。ルオマは助けようと田んぼに入り、いつしか二人は子供のようにはしゃぎ、泥玉を投げ合った。夢中で泥玉をアミンに投げつけ、アミンの投げた泥玉がルオマの額に命中した…。
 翌朝、荷物をまとめアミンと共に昆明に行く決意をしたルオマは、昆明行きのバス乗り場へと駆けつけた。なぜか家の中におばあちゃんの姿はなく、荷物と一緒に卵5つと小銭が置いてあった。バス停へ駆けつけたルオマが目にしたアミンは…。 

スタッフ

監督:チアン・チアルイ(章家瑞)

製作:ヤン・ホンウェイ(楊紅衛)、タン・ミンション(唐明生)、チョン・チーピン(鄭治平)
プロデューサー:ワン・チーリャン(王自良)、ワン・リーチョン(王黎成)
脚本:モン・チアソン(孟家宋)
撮影:マー・トンロン(馬東龍)
美術:チャン・チョンミン(張崇明)
録音:ヤン・チャンシャン(楊占山)
音楽:ホアン・チェンユー(黄枕宇)、トン・ウェイ(董衛)
編集:チョウ・イン(周影)

キャスト

ルオマ・・・リー・ミン(李敏)
アミン・・・ヤン・チーカン(楊志剛)
ルオシア・・・シュー・リンユエン(祝琳媛)
ルオマのおばあちゃん・・・リー・ツイ(李翠)

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