原題:The SUN/Solntse

天皇ヒロヒト——。 彼は、悲劇に傷ついた、 ひとりの人間。

ベルリン国際映画祭出品作品

2006年3月1日フランス公開

2005年/ロシア、イタリア、フランス、スイス/カラー/110分/ 配給:スローラーナー

2007年03月23日よりDVDリリース 2006年8月5日、銀座シネパトスにてロードショー

公開初日 2006/08/05

配給会社名 0048

解説


天皇ヒロヒト。
彼は、悲劇に傷ついたひとりの人間。

ついに、公開不可能とまで言われたアレクサンドル・ソクーロフ監督の『太陽』が日本で公開される。この映画の舞台は、1945年8月末から1946年1月1日までの占領下の日本。ソクーロフ監督は、昭和天皇に焦点をあて、長い歳月をかけ、親密さを持って歴史の再構築作業を行った。8月15日、昭和天皇ヒロヒトは軍事行動を停止するよう国民への呼びかけを行った。宮殿は米軍の爆撃で焼け落ち、昭和天皇は地下の防空壕か、皇居内で唯一無事だった石造りの建物である生物学御研究所で暮らしている。庭師のように質素な身なり。追いつめられた日本の状況。心の安らぎは、生物標本を眺める時以外にはない。東京が焦土となる悪夢にうなされる、天皇の底知れぬ苦悩。そして、連合国占領軍総司令官ダグラス・マッカサーとの会談の日が、訪れる…。
ソクーロフ監督は、激烈な状況下での天皇の生活を映し、権力の頂点に君臨する人物ではなく恐れや弱さを持った一人の人間として描き出したのだ。

ストーリー



地下の防空壕で、朝の食事をする昭和天皇。
ラジオからは、「沖縄で多くの学生が最期まで戦う用意を表明し…」と英語の放送が流れている。
天皇はラジオを消させ、侍従長に、日本は私以外の人間がみんな死んでしまうのではないか? と問いかける。
「お言葉ですが、陛下は天照大御神の天孫であり、人間であるとは存じませぬ」と答える侍従長。天皇は「私の体は君と同じだ」と答える。答えに窮した侍従長に「怒るな、いわば冗談だ」と笑って、天皇は軍服に着替える。
これから御前会議に出なければならないのだ。年老いた侍従の一人は、現人神に触れるのが畏れ多くて手が震えてどうしてもボタンがつけられない。カメラは侍従を見下ろす天皇の視点になり、侍従のはげ頭に脂汗がにじみ出てくるのをじっと見つめるのだった…。 そして、着替えた天皇は自分の口の匂いを嗅いで「臭い」と言う。そして「誰も私を愛していない。皇后と皇太子以外は」とつぶやく。

御前会議で、陸軍大臣は兵士たちは飢えに苦しむも戦意は高揚したまま、本土決戦に持ち込む用意があります、と涙にむせびつつ天皇に申し上げる。天皇は、明治天皇の歌を詠み、明治天皇は平和を望んでいた、と。自分も良い条件で国民に平和をもたらしたい、と降伏する用意があることを示唆する。

迷路のような退避壕のなかで袋小路にあたりながら、自分の研究室に向かう天皇。研究室は、退避壕から出た地上にある。 「なんという奇跡。なんという神々しい美しさ!」。ヘイケガニの標本を手に喜びにあふれながら、このカニについての知識のすべてを饒舌に語り始める。助手がそれを口述筆記する。しかし、想念は、次第にこの戦争の原因へと移っていく…。

午睡。天皇は東京大空襲の悪夢を見る。 夢の中でアメリカ軍のB29爆撃機は巨大な魚で、焼夷弾ではなく、大量の小魚を産み落とし、東京を焦土にするのだ。
火が東京の町をなめ尽くす。
瓦礫と化した建物が見える。
苦悶のうめき声をあげながら、目を覚ます天皇。

天皇は、皇太子宛て手紙を書くことを思い立つ。
「愛する息子よ。この恐ろしい敗戦の原因について、ちょっと話したい。国民が自信過剰になり、軍がアメリカを見くびりすぎた・・・ 戦意の高揚だけで、軍備が不十分であることを無視していた…」
写真のアルバムを取り出す。自分と皇后の写真、皇后に抱かれた小さな皇太子に口付けする。
戦前に活躍していたハリウッドのスターたちの写真が貼り込まれた別のアルバムを開く天皇。
そのなかにチャーリー・チャップリンの写真が何枚か。目をとめる。続いて美しい女優たち…。
 そしてヒトラーの2枚の写真を取り出し、思いにふける。
 
そこに、うちひしがれたような様子の侍従が入ってくる。
 天皇は、「アメリカ人が来たんだな、じゃ、着替えねばならぬ。」と言って、黒いフロックコートに黒い帽子に着替える。占領軍最高司令官であるダクラス・マッカーサーとの会見が行われるのだ。
悲惨な焼け野原、荒んだ人々の間を走り抜け、天皇を乗せた米軍の車はアメリカ大使公邸へ到着するのだ。

天皇は、マッカーサーに、連合軍のどのような決定も受け入れる準備があると告げる。
会見は短時間で終わった。マッカーサーは、昭和天皇が誰かに似ているような気がするが思い出せない。

マッカーサーからハーシーズのチョコレートを送られる天皇。
従軍カメラマンの写真撮影に応じ、「チャップリンそっくりだ」と大喜びするカメラマンの好奇の視線にさらされながら撮影される天皇。
そして、マッカーサーとの二度目の会談は、ディナーをとりながら行われた。
マッカーサーは言う。
「あなたの決断しだいです。日本の未来も、あなたの将来も、何も押し付けたり、強制したりしません」

天皇は皇居に戻ってからも苦悩する。
窓の外に巨大な月が輝いている。そして、ついにつぶやく。
「私は、神格を自ら返上する」
そう言った後、天皇は重い荷物を肩から降ろした後のように椅子にへたり込むのだ。

疎開した皇后との再会。
「私は成し遂げたんだ。これで私たちは自由だ」天皇は皇后に言う。「私は、神であることの運命を拒絶した」
皇后は驚きもせず、「あ、そう。そうだと思ってました」と晴れ晴れとした表情で微笑む。
皇太子たちも別室で待っていると聞いて、長い間離れていた我が子に早く会いたくて会いたくて、いてもたってもいられない天皇。
そこに侍従長が現れる。天皇はふと、気になっていたことを尋ねる。
「私の国民への語りかけを記録してくれた、あの録音技師はどうなったかね?」
「自決しました」と侍従長は答える

「止めたんだろうね?」
「いいえ」
皇后は、天皇の腕をとると、皇太子たちの待つ広間へと駆け去った…。

スタッフ

監督:アレクサンドル・ソクーロフ
撮影監督:アレクサンドル・ソクーロフ
脚本:ユーリ・アラボフ
アート・ディレクター:エレナ・ズーコワ
デザイナー:ユーリ・クペール
コスチューム・デザイナー:リディア・クルコワ
音楽:アンドレイ・シグレ
サウンド・デザイナー:セルゲイ・・モシュコフ
編集:セルゲイ・イワノフ
プロデューサー:イゴール・カレノフ
アンドレイ・シグレ
マルコ・ミュラー
共同プロデューサー:アレクサンドル・ロドニアンスキー
アンドレイ・ツェルツァロフ
アントワーヌ・ド・クレモン-トネール

提供:南瓜屋
配給:スローラーナー

キャスト

昭和天皇:イッセー尾形
マッカーサー将軍:ロバート・ドーソン
香淳皇后:桃井かおり
侍従長:佐野史郎
老僕:つじしんめい
研究所長:田村泰二郎
マッカーサー将軍の副官:ゲオルギイ・ピツケラウリ
鈴木貫太郎総理大臣:守田比呂也
米内光政海軍大臣 :西沢利明
阿南惟幾陸軍大臣:六平直政
木戸幸一内大臣:戸沢佑介
東郷茂徳外務大臣:草薙幸二郎
梅津美治郎陸軍大将:津野哲郎
豊田貞次郎海軍海軍大将:阿部六郎
安倍源基内務大臣:灰地順
平沼騏一郎枢密院議長 :伊藤幸純
迫水久常書記官長:品川徹

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