原題:Vera Drake

2004年度ヴェネツィア国際映画祭 金獅子賞・主演女優賞受賞 英国インディペンデント映画賞 作品賞・監督賞・主演女優賞・主演男優賞・製作賞受賞

本国イギリスにて、2005年1月7日公開

2004/イギリス・フランス・ニュージーランド/125min/カラー/ドルビー 配給:東京テアトル

2006年02月24日よりDVDリリース 2005年7月9日、銀座テアトルシネマにて公開

公開初日 2005/07/09

配給会社名 0049

解説


すべてを赦す夫婦の愛と家族の絆の素晴らしさに世界中が感動した
『秘密と嘘』のマイク・リー監督最高傑作

ヴェネチア国際映画祭金獅子賞・主演女優賞受賞を皮切りに、世界中が一本の作品に、そして一人の女優に熱く心のこもった拍手を送り続けている。
どんなに時間をかけて、どれほど言葉を尽くしても語り切れない賛辞を、トロフィーという形に表して。
1996年にカンヌ国際映画祭でパルムドールを受賞した『秘密と嘘』のマイク・リー監督最新作『ヴェラ・ドレイク』の深い感動が今、ヨーロッパ、アメリカと着実にその輪を広げ、とうとう日本にもやって来る。

物語の舞台は、1950年のイギリス。ヴェラ・ドレイクは、労働者階級の人々が暮らす界隈で、愛する夫、息子と娘に囲まれて、毎日を丁寧に慈しむように生きていた。病気で動けない近所の人たちを訪ねては甲斐甲斐しく世話を焼き、家族団攣の時間を大切にし、いつも笑顔を絶やさないヴェラの心は、夫が自慢するように、まさにダイヤの如く輝いていた。しかし、そんなヴェラには、誰にも言えない秘密があった。彼女は、望まない妊娠をした女性たちの堕胎を”助けて”いたのだ。ある日、その中の一人の体調が急変して病院に運ばれ、ヴェラの秘密が陽の下にさらされる。逮捕され、裁判にかけられるヴェラ。その時、深い絆で結ばれていた家族がとった行動とは?そして、ヴェラの運命は?

この時代のイギリスでは、人工妊娠中絶は法律で禁じられていた。1861年に制定された”いかなる場合でも中絶は犯罪とされ、たとえ医療目的でも、3年から無期の懲役を科す”という厳しい法律が、まだ適用されていたのだ。1929年に”妊娠出産が母体の命を脅かす危険があると医師が診断した場合のみ合法とする”と改正されたが、手術費は高額で、貧しい人々は非合法の堕胎に頼るしかなかった。ヴェラ・ドレイクは、自分の行いが法律を犯すものであることを十分承知していたが、そのような社会で”困っている娘さんたち”を、助けずにはいられなかったのだ。

『ヴェラ・ドレイク』は、平穏で幸せな日々が一瞬にして崩れ去るという激しい試練を、懸命にくぐり抜けようとするドレイクー家を通して、すべてを受け入れて、すべてを赦すそんな美しい愛の存在を、もう一度信じさせてくれる映画だ。ドレイクー家は最後に”生きる希望”を、観る者に手渡してくれるだろう。私たちは、どれだけ涙を流せば、この感動に応えることができるのだろうか。役を”演じる”のではなく”生きだ’俳優たちと真にドラマティックな人生そのものを創り上げたスタッフたちヴェラ・ドレイクになりきって、本年度の賞レースにその名を刻み続けているのは、『いつか晴れた日に』『恋におちたシェイクスピア』のイメルダ・スタウントン。舞台を中心に活躍し、数々の名誉ある賞を獲得しているイギリスの大女優だ。
彼女を筆頭に、これほどまでに俳優全員が、各々の役柄を”演じた”のではなく”生きた”映画が他にあっただろうか。マイク・リー監督は独特の演出方法で知られている。俳優に自分が演じる役柄以外のことは事前に知らせず、リハーサルでハラハラするような即興劇を行い、その時の感情を演技に盛り込んでいくのだ。本作でも、この演出方法で、俳優たちの素晴らしい潜在能力を引き出すことに成功している。
主要なキャストには、マイク・リー監督作品でお馴染みの顔ぶれが揃った。ヴェラの夫、スタンには『ビバ!ロンドン!ハイ・ホープス〜キングス・クロスの気楽な人々』『秘密と嘘』のフィル・デイヴィス。息子役のダニエル・メイズと娘役のアレックス・ケリーは、共に『人生は、時々晴れ』に続く出演。スタンの弟のフランクには『ゴスフォード・パーク』のエイドリアン・スカーボロ、堕胎の仲介をするリリーには『秘密と嘘』『人生は、時々晴れ』のルース・シーン、ヴェラの娘にプロポーズするレジーには『ギャング・オブ・ニューヨーク』のエディ・マーサンが扮している。また、『アイリス』でアカデミー賞助演男優賞を受賞した名優、ジム・ブロードベントが、ヴェラに判決を下す裁判長の役で出演、短いシーンながらも風格のある演技を見せている。
 
スタッフにも、監督の感性を熟知したマイク・リー組が集結した。撮影は、『ライフ・イズ・スウィート』以降のリー監督作品すべてを手がけているディック・ポープ。堕胎、逮捕、取り調べ、裁判といった非日常的な事件と、朝の挨拶、お茶の時間、仕事場、家族の食卓などの日常尽景を、どちらも同じリズムで、ゆったりと丹念に追いかける。作り物のドラマを捨てることで、真にドラマティックな人生そのものを描こうとしたリー監督の情熱を映し出しているのだ。贅沢な中産階級の暮らしと、貧しくても気持ちを豊かにするために工夫して暮らす庶民の生活を、美術のイヴ・スチュアートと衣装のジャクリーヌ・デュランが、見事に対比させている。シンプルで哀愁の漂う旋律が余韻を残す音楽は、アンドリュー・ディクソン。また、製作総指揮を務めるのは、フランスの大プロデューサー、『ストレイト・ストーリー』『戦場のピアニスト』のアラン・サルド。

ストーリー



 1950年、冬。凍てついたロンドンの朝の空気を暖めるかのようなヴェラ・ドレイク(イメルダ・スタウントン)の明るい笑顔が、今日も人々の心を和ませていた。労働者階級の人たちが住むこの界隈に暮らすヴェラは、体の具合が悪い隣人たちを訪ねては、身の回りの世話をしているのだ。
 裕福な家の家政婦の仕事を終え、一人暮らしの母親(サンドラ・ヴォー)の面倒を見ると、ヴェラが一日の中で一番大切にしている時間がおとずれる。小さなテーブルを家族で囲む夕食のひと時だ。夫のスタン(フィル・デイヴィス)は、弟のフランク(エイドリアン・スカーボロ)が経営する自動車修理工場で働いている。フランクの妻、ジョイス(ヘザー・クラニー)は広い家に電化製品、自家用車の揃った豊かな生活を望み、貧しい義兄一家との付き合いを避けていた。しかしフランクは、早くに亡くなった両親の代わりに自分を育ててくれた兄夫婦を心から慕っていた。
 ヴェラがテーブルにお皿を並べる頃、二人の子供が帰ってくる。活発で朗らかな息子のシド(ダニエル・メイズ)は、洋品屋に勤めている。週に一度は夜学に通って勉強し、週末にはダンスホールで女の子と踊るという、充実した青春を送っていた。娘のエセル(アレックス・ケリー)は無口でおとなしく、職場の工場と家を往復するだけの毎日だったが、近所に住む一人暮らしの青年レジー(エディ・マーサン)がヴェラに誘われて夕食にくるようになってから、年頃の娘らしい愛らしさを見せるようになっていた。レジーは、第二次大戦中に母親を空襲で亡くしていた。スタンが出征した時に辛い思いを経験したドレイクー家は、そんなレジーに心から同情し、温かくもてなすのだった。
 まっすぐ前を向いて、毎日を精一杯生きているヴェラだが、誰にも言えない秘密を抱えていた。望まない妊娠をして困っている女たちに、堕胎の手助けをしていたのだ。妊娠が母体の命を危険にさらすという医師の診断がない限り、中絶手術は法律で禁じられていた。たとえ許可されても手術費は高額で、庶民にはとても支払えなかった。非合法な堕胎を選ぶしかない女たちとヴェラを仲介するのは、ヴェラの子供の頃からの友人、リリー(ルース・シーン)だった。実はリリーは、女たちから報酬をもらっていたが、ヴェラにはひた隠しにしていた。ヴェラの”処置”は、注入器を使って子宮内に石鹸水を入れ、翌日に流産するのを待つという原始的なものだった。死ぬのではないかと脅える娘、まだ少女のような黒人の娘、不倫の果ての結末を嘆く女、貧しくて子供を産んでも育てられない主婦、遊びなれた風だが酒の勢いを借りる女ヴェラは様々な女たちを励ましながら慣れた手順で事を終えると、「体に気をつけて」という優しい言葉を残して帰っていった。
 ある日、ドレイク家にひと足早い春がやって来た。二人で映画や散策に出かけるようになっていたレジーとエセルが婚約したのだ。その週の日曜日、スタンとヴェラは弟夫婦を自宅によんで、ささやかなお祝いの席を設ける。招かれざる客が現れたのは、フランクがジョイスの妊娠を報告し、皆で倍になった喜びを分かち合っていた時だった。ドアの前に立っていたのは、ウェブスター警部(ピーター・ワイト)。金曜日にヴェラが”助けた”娘の体調が急変し、病院に運ばれた。娘は命をとりとめたが、医師からの通報で駆けつけた警部に問い詰められた娘の母親が、渋々ながら事の次第を打ち明けたのだ…。

スタッフ

監督・脚本:マイク・リー
製作:サイモン・チャニング・ウィリアムズ
製作:アラン・サルド
撮影:ディック・ポープ
編集:ジム・クラーク
美術:イブ・スチュワート
音楽:アンドリュー・デュラン
衣装:ジャクリーヌ・デュラン
メイク:クリスティン・ブランデル

キャスト

イメルダ・スタウントン
フィル・デイヴィス
ピーター・ワイト
エイドリアン・スカーボロー
ヘザー・クラニー
ダニエル・メイズ
アレックス・ケリー
サリー・ホーキンス
エディー・マーサン
ルース・シーン
ヘレン・コーカー
マーティン・サヴェッジ

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