原題:JUKAI

この森で、生命に出会う。

2004年/日本/35mm/カラー/ヴィスタ/ドルビーSR/119分 配給:ビターズエンド

2006年01月27日よりDVDリリース 2005年6月25日、渋谷シネ・アミューズにてロードショー

(C)「樹の海」製作委員会

公開初日 2005/06/25

配給会社名 0071

解説



2004年度東京国際映画祭一日本映画・ある視点部門一作品賞・特別賞受賞
生命が青々と生い茂る富十山麓・青木ヶ原樹海。
自殺の名所と名高いその場所で織り成される「生きる」ための物語。

年間自殺者が3万4千人を超える”自殺大国ニッポン”。不安定な現代社会において、自殺は近年益々増加し続けている。インターネットで仲間を募る集団自殺など、その形態が多様化してきている昨今でさえも、富士山麓に広がる”青木ヶ原樹海”に足を踏み入れる人の数は減ることがない。その”樹海”を舞台に、本作『樹の海』は4つのエピソードで展開される。
 
様々な理由でこの森に迷い込んだ人々、死を望んだ者、或いは生を渇望する者、それぞれが抱える人生の断片が交錯しながら物語は綴られていく。自殺を決意して樹海の奥へと足を踏み入れたものの、助けを求める者、助けに向かう者。自殺に失敗して還ってきた者。樹海に捨てられた者。自殺を目撃してしまった者、自殺者と関わりのあった者。本作は”生と死”をテーマとした異色の群像劇でありながら、「自殺」というテーマを「生きよう」という願いの基に正面から描いた人問ドラマでもある。

樹海に捨てられ、奇跡的にも生還する男・朝倉に扮するのは萩原聖人。右も左も判らないその場所をひとりさ迷い歩きながら、生きることへの諦めから徐々に脱していく、という難しい役で新たな一面を発揮している。また、郊外の駅売店の店員、という今までとは異なる役柄に井川遥が挑戦。欝屈としたものを胸に秘めながらも、何とか日々を過ごしている手島映子を見事に演じきっている。池内博之扮するチンピラのタツヤは、樹海の中からSOSを受けてその地に足を踏み入れる。神秘的ともいえるその森をひとり奥へと向かっていくうちに、初めて自分の内面と向き合って成長していく、という微妙な心の推移を体現している。そして、樹海とは最もかけ離れた場所で、当たり前の生活を営むサラリーマン・山田役には津田寛治。その山田と樹海を引き合わせることになる探偵・三枝に塩見三省。二人はほぼ居酒屋の中だけで展開される舞台劇のような設定の中、確かな演技力を披露している。さらに、余貴美子、大杉漣、冷泉公裕、田村泰二郎などベテラン・実力派、小嶺麗奈、小山田サユリ、中村麻美といった若手・個性派がしっかりと脇を固めている点も見逃せない。

監督は、昨今、異業種からの新人監督が多い中、降旗康男監督『鉄道員』、佐々部清監督『陽はまた昇る』など多くの名監督の助監督を経て、今作品で念願の監督デビューを果たす瀧本智行。豊富な経験に裏打ちされた実力を十二分に発揮し、樹海での自殺という重い題材を「生きる希望」へと導くことに成功、デビュー作とは思えない完成度の高い作品に仕上げた。
スタッフは、監督自身がチーフ助監督として参加した『光の雨』と一昨年度映画賞を総なめにした話題作『ヴァイブレータ』に参加したスタッフを中心に編成。助監督時代からの彼を知るメンバーが瀧本監督誕生のために結集、見事なチームワークで困難な撮影も乗り切った。また、AMADORIが歌う’69年の名曲「遠い世界に」がラストを静かに、そして余韻深く締めくくる点も必聴だ。

ストーリー



霊峰富士のふもとに広がる、広大な緑の海。青木ヶ原樹海と呼ばれる溶岩流と原生林からなるこの森は、いつの頃からか、自殺の名所としてその名を日本中に知られている。物語はこの森を舞台に、4つのエピソードが交錯しながら展開していく。 

 或る日、樹海の奥深くで複数の人影が静かに動いている。重そうに寝袋を運んでいる。深い洞穴へと寝袋を投げ棄てた…。
 寝袋がゆっくりと開く。と、一人の傷だらけの青年が顔をのぞかせた。某公団職員の朝倉正彦(萩原聖人)だ。朝倉は暴力団組織に唆されて5億円もの公金を横領、口封じのために殺されて、ここに遺棄されたのだ。「ちゃんと殺してくれればよかったのに……」。奇跡的に一命を取り留めた朝倉だったが、犯罪者に成り下がった今、この森を出ても行き場所はない。朝倉は寝袋を手に森の中をあてどもなく流離うしかなかった。森を歩くうちに、朝倉は一人の男に出会う。今まさに自殺しようとしている中年男・田中(田村泰二郎)だった。「止めないで下さい!」田中の悲痛な叫びに、朝倉は慌ててその場から逃げ出してしまう…

 一人のチンピラが猛スピードで樹海へと車を走らせる。悪辣な090金融を営むタツヤ(池内博之)だ。「足を挫いて歩けねえだあ。てめえ、何処にいるんだ、フジのジュカイだあ?」夜逃げした顧客、北村今日子(小嶺麗奈)からの奇妙なSOSを受けて、タツヤは森の中へと足を踏み入れる。自殺のために今日子は森へと入ったと言う。携帯電話越しの今日子の声と森の中に張り巡らされたロープに導かれながら、タッヤは森の奥へ奥へと誘われるように進む。どこまでも続く奇怪な木々、今日子と話しながら樹海を歩き廻るうち、タツヤの中に不思議な感情が芽生え始める。子供の頃の記憶、本当の自分の姿一。タツヤは森の中で自分を解放するかのように語り出す。突然襲いかかる不安。果たしてこの森の奥に、本当に今日子はいるんだろうか……。タツヤは、絶対に今日子にいて欲しいと強く願いながら、ロープの終点を目指して走るのだった。

 サラリーマンの聖地・新橋では、二人の男が名刺を交換している。一流企業に勤める山田(津田寛治)が興信所の探偵・三枝(塩見三省)に呼び出されたのだ。山田は誘われるままに入った居酒屋で、三枝から一枚の写真を見せられる。「この女性、御存知ですね?」そこには若い女(小山田サユリ)と一緒に自分が写っていた。山田はその写真にも女にも全く記憶がない。「彼女は横山真佐子さんといって、先日、樹海で自殺しているのが発見されました」。写真は真佐子の遺留品だと言うのだ。山田は記憶を必死に辿るうち、その写真が撮られた日のことを思い出す。それは2002年の日韓ワールドカップ、日本が初めてロシアに勝った試合の夜の出来事だった…

 樹海の別の場所では一人の女が立ちすくんでいた。手島映子(井川遥)はネクタイで作った輪にゆっくりと首を入れる。身体は一瞬、宙に浮くが、ネクタイが解け、地面に叩きつけられた。映子は首都圏郊外の私鉄駅の売店で働いている。2年前、ストーカー行為のために都市銀行本店勤務というキャリアを失い、今はひっそりと暮していた。生活のために就いた仕事だったが、いつしか映子はこの職業を愛し始めていた。いや、職そのものよりも、売店に溢れている商品を愛していた。駅売店の商品はいつも緊急のために存在している、必要としてくれる人をこの狭い空間で待ち続けている、それは商品に託した自分の今の心境だった。そんな映子を同僚の大瀬道子(余貴美子)は優しく見守るのだった。そんな或る日、売れない商品、待ち続ける商品の代名詞ともいえる柄物のネクタイが売れた。買った客は中年サラリーマンの松原(大杉漣)だった。松原は痴漢にあった女子中学生のスカートの汚れを拭うために、自らのネクタイを差し出し、代わりを買い求めたのだった。数多くの人間が交差する駅で起きた小さいけれども心温まる出来事だった。その出来事を目撃したのは映子だけだった。歳月が映子の心を癒し始めた頃、偶然が起きる。映子がストーカーをはたらいた不倫相手の渡辺(宮本大誠)がこの町に越してきたのだ…

スタッフ

監督:瀧本智行
製作:高橋紀成、川島晴男、川暗代治
製作統括:安達武生、鈴木径男
プロデューサー:青島武、永田芳弘
協力プロデューサー:森重晃
脚本:青島武、瀧本智行
音楽:吉川忠英
音楽プロデューサー:石川光
撮影:柴主高秀(J.S.C)
照明:渡部嘉
録音:吉田憲義
美術:金勝浩一
編集:高橋信之
スクリプター:山下千鶴
助監督:山本亮
製作担当:甲斐路直
監督助手:甲斐聖太郎、中村さやか
撮影助手:川島周、鈴木智則、越山麻彦

キャスト

萩原聖人
田村泰二郎
鈴木淳評
北村栄基

池内博之
小嶺麗奈
田中要次
古川貴稔
黒沢彩
青山瑞世
糟谷健ニ
相澤滉希

津田寛治
塩見三省
小山田サユリ

中村麻美
浜菜みやこ
亜希・リン
Jサポーターズ
E&Eサッカーサークル

井川遥
余貴美子
宮本大誠
蟹江一平
でんでん
谷本一
官大鷹明良
村瀬小百合
泉綾香
込山順子
冷泉公裕
大杉漣

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