原題:Záhrada

1995年カルロヴィ・ヴァリ国際映画祭:審査員特別賞、国際批評家賞、国際映画協会連盟特別賞、エキュメニカル賞 第44回マンハイム−ハイデルベルグ映画祭:観客賞 1995年トリノ国際映画祭:審査員特別賞 1995年チェコ・ライオン−チェコ映画アカデミー賞 最優秀作品賞、最優秀監督賞、最優秀脚本賞、最優秀助演男優賞

1995年/スロバキア・フランス/105分/ 配給:シネカノン

2004年04月23日よりDVDリリース 2003年11月15日より銀座シネ・ラ・セットにてほか全国順次ロードショー

公開初日 2003/11/15

配給会社名 0034

解説


ようこそ、不思議の世界へ!

ヨーロッパが誇るマルティン・シュリーク。日本ではまだその名はあまり知られていないが、スロヴァキアののどかな田園風景を描き、吸い込まれるようなその美しい映像と、エキセントリックな登場人物、思いがけない魔法のような遊びの要素と、民間伝承のような趣きに彩られた世界を作る巨匠である。
 30才のヤクプは仕事も上手く行かず、共に暮らす父親にも理解されない。そんな八方ふさがりの人生に変化を求めて田舎にある祖父の廃虚同然の屋敷を訪れ、不思議な少女に出会い、さまざまな来訪者にまきこまれていくうち、すべてが<なるように>再生されていく「ガーデン」。
 バツイチで失業中のトマス。彼の人生の一大転機ともいうべき時期を彼を取り巻く日常の切なくも優しいたくさんの言葉とモノの断片で紡ぎあわせ、スロヴァキアのベストフィルム・オブ・ザ・イヤーに輝いた「私の好きなモノすべて」。
一風変わった少女テレスカが一枚の古い絵図を頼りに長いあいだ音沙汰のなかった母親を捜す旅に出る。幻想的な森を舞台にしたスロヴァキア版「不思議の国のアリス」ともいうべき「不思議の世界絵図」。
 これらの作品に共通して描かれた、人間の悲喜劇、人間の不思議さ不気味さ。そして、まだあどけなさが残る少女の無意識に香るエロス、牧歌的風景でありながらどこか妖艶にもみえる自然の奇跡ともいうべき姿をこの映像の魔術師と異名をとるマルティン・シュリークはいとも易々と掬い上げていく。そして私たちを幸せで満たしてくれる。
これはとてつもなく豪奢な大人のおとぎ話である。

ガーデン
古い屋敷の庭に存在するミステリアスな世界についての優しいコメディ。仕立屋の息子ヤクプは亡くなった祖父の廃虚同然の屋敷を訪れ、謎めいた祖父の日記を発見、その庭で近所にすむ不思議な少女に出会う—-

ストーリー

30歳になるヤクプは10年間教師をしているが、いまだに父親と同居している。休暇中のある日、仕立屋の父のもとを得意客のテレサ夫人が訪ねてくる。
 ヤクプの情事の相手でもある夫人は父の隙をうかがってヤクプの部屋へと上がり込むが父に見つかってしまい、前々からいつまでも自立しない息子に苛立っていた父親はその日の夕食の席で、家を出ていくようにと告げる。
ヤクプはしばらく亡くなった祖父の屋敷でやり過ごそうと車で到着するが、長い間
放っておかれたために庭も屋敷の中もひどい状態で散々な目に遭う。その晩何とか眠りにつこうとするとヤクプはベッドの下から鏡文字で書かれている日記を発見する。翌日片付けを始めたヤクプが庭で獰猛そうな犬に襲いかかられて木の上で困っていると、一人の美しい少女が現れて手慣れた様子で犬を追い払ってくれる。不思議な雰囲気のその少女はヘレナと名乗り、ヤクプは彼女の背中と両足に母親から殴られた痕だという生々しい傷を発見する。
 ヤクプはその晩も日記の続きを読む。
翌朝ヤクプが目を覚ますと羊だらけだった。驚いてあたりを見回すと庭に飼い主らしき男がいる。ベネディクトという聖人修行中のこの男は神と話をしたのだと言い、ヤクプは神から授かった知恵の幾つかを聞かされて謙虚さについて学ぶ。
屋敷に戻るとヘレナとその母親がいた。昨日のヘレナの傷を思い出したヤクプは母親を
責めるが、彼女はヘレナが50歳を過ぎてから出来た子供でいつも嘘をついて自分を悪者にするのだと説明する。その上読み書きもできないほど頭が悪いのだとも。ヘレナの体を確認すると傷がすっかり消えて無くなっていたためヤクプはその話を信じかけるが、母親の言葉に反発したヘレナがテーブルの上に綴った文字を見て思い直す。日記と同じ鏡文字だったのだ。すると不意にヘレナが庭に出てめんどりを捕まえ、今度はヤクプの目の前で黒魔術をかけて眠らせる。ヤクプはヘレナに大きな関心を寄せ始める。
 ある日、軒下のハチの巣を始末しているところにテレサ夫人がやって来る。二人は成り行きでまたも情事に耽るが、目が覚めて夫人を送っていく車の中でヤクプはついに別れを切り出す。あまりに突然のことに夫人は取り合わないが、ヤクプはそんな彼女をバス停に置き去りにして帰ってきてしまう。
 屋根の修理をしているとヘレナが自転車で遊びに来る。アリに噛まれたヤクプに「何でも治してくれるから」と素足をアリの巣に入れるよう勧めるので言われた通りにすると、不思議と今までに味わったことのないような安らぎを感じるのだった。
 ヤクプのもとをまたも珍客が訪れる。ルソーと名乗る男は結婚式に向かう途中で故障したというオンボロの車を押していた。彼は修理を手伝うヤクプに文明の進歩が招く悲劇について語って聞かせ、車がなかなか直りそうにないとわかると「贅沢は罪だ」と勝手にヤクプの車に家族を乗せ、「知識を得て魂を復活させろ」という捨て台詞とオンボロの車を残して庭から去っていく。
ある朝ヤクプは父親に起こされる。はじめは相変わらずな態度の父だったが、引き出しにあったバリカンで互いの頭を散髪し、今まで運転の経験がないと言う父親にヤクプが手取り足取り教えながらドライブをしているうちに次第に楽しそうな様子を見せ、ヤクプの変化にも気付き始める。その晩レストランでの食事の際に父の屋敷での思い出が苦いものだったことを知るヤクプ。急に踊り出した父に合わせて歌っていると揃って店の外に放り出されるが、二人の心には温かいものが通い合っていた。
 ヤクプがヘレナと庭のリンゴの収穫をしている最中に彼女が昨晩見た夢について話し始める。何でも食べる大きな白いイモ虫の温かくて気持ちのいい腹の中に二人で一緒にいたと言う。作業が終わると二人はやがて見つめ合い、収穫用に敷いてあった白い布にくるまって結ばれるーーその様子はまさに大きな白いイモ虫のようだった。屋敷に戻った二人はパン作りを始めるが、そこへテレサ夫人の一家が車でやって来る。ヤクプは夫に「彼女とは何の関係もない」と告げて屋敷に戻るが、その一部始終を見ていたヘレナは姿を消していた。

たき火をしながら眠ってしまったヤクプが翌朝目を覚ますと彼の傍らに見知らぬ男横たわっていた。今度の男はウィトゲンシュタインと言い、彼は教育についての持論を述べながらヤクプに庭を売るように迫るが、断られると代わりにリンゴの木を一本買いたいと申し出る。条件を付けて承諾すると彼は喜び、持ち合わせが無いので本で払うと言う.差し出したその本には、まさに今のヤクプの状態を言い表しているかのような言葉が記してあった。
 しばらくヘレナが姿を見せないのでヤクプがその家を訪ねると、彼女は目を見開いたまま微動だにせずにベッドに身を横たえていた。母親の話だと3日間この状態で、食事もしていないという。ヤクプは彼女を自分の家に抱えて帰り、あの手この手を試すがやはりまるで反応がなく、食事にも手をつけようとしな い。するとその晩、実家からいなくなっていた飼猫のバルーフが突然姿を現す。驚くヤクプをよそにバルーフがヘレナに歩み寄ると、彼女は意識を取り戻す。
 ある日冬に向けて庭の木にウサギよけの手当をしていると、ヘレナが「冬までここにいて」と言う。無理だと告げてヘレナが荒れているところに、ヤクプの父親がやって来る。その晩の食卓で父親はヤクプ宛の手紙を手渡す。それは学校からの解雇通知だった。これで彼が屋敷に残れるとわかったヘレナは機嫌を直すが、父は突然席を立ってしまう。そしてヤクプが寝室にその様子を見に行くと、ボクシンググローブを渡されて急に殴りかかられる。思わず応戦するヤクプだったが、「実はヤクプが去って寂しくてたまらなかった」と父が息を切らしながらその本心を明かす。そこへ様子を見ていたヘレナが寝室に入ってきて寝仕度を始める。服を脱ぐヘレナの後ろ姿に見とれるヤクプと父。かくして二人の戦いは休戦となった。 庭でヤクプが鏡文字で彼の日記をつけていると、隣に腰掛けた父に肘で小突かれる。指し示された方向を見ると、先ほどまで庭掃除をしていたはずのヘレナが枝にまだ残っていたリンゴをかじりながらその体を宙に浮かせていた。「何をしているのだ」と問う父に「飛んでるんだ」とヤクプが答えると、父は「最後にはなるようになるんだな」と言って感心する。

スタッフ

ストーリー・脚本・監督:マルティン・シュリーク
脚本:オンドゥレイ・スライ
撮影:マルティン・ストルバ 
音楽:ウラジミール・ゴダール

キャスト

ロマン・ルクナール
マリアン・ラブダ
スザナ・スラヨヴァー

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