2003年/日本/ビスタサイズ/99分/ 配給:日活、リアル・プロダクツ

2004年05月13日よりDVDリリース 2003年7月12日よりシブヤシネマソサエティにてロードショー 2003年6月21日より奈良・奈良観光会館地下劇場、関西・シネ・リーブル梅田ほかにて先行ロードショー

©2003 日活/よみうりテレビ/ビジュアルアーツ/リアルプロダクツ

公開初日 2003/06/21

配給会社名 0006/0373

解説



『萌の朱雀』(1997年)で、カンヌ映画祭カメラドール(新人監督賞)を史上最年少で受賞する鮮烈なデビューを飾り、続く『火垂(ほたる)』(2000年)では生と死の物語を四季を通じて織りあげた河瀬直美監督が、三たび故郷の奈良を舞台に描く最新作『沙羅双樹(しゃらそうじゅ)』。
河瀬監督がこれまでに描いてきた「ふるさと奈良」。それは帰る場所、抱かれる場所としての故郷だった。本作では単に懐かしむための故郷ではなく、「この町で活きる喜び」「この人と生きる歓び」を感じられる場所、つまりは生きてゆくチカラが湧き出る源として描いている。

奈良の旧市街地(ならまち)で代々墨職人を受け継いできた麻生家は旧家に暮らす4人家族。クラクラするように暑い地蔵盆の日、双子の兄が“神隠し”にあったように行方不明になってしまう。残された家族の「刻」は、その日を境に止まってしまった。まるで悠久の歴史が蓄積された“奈良”の刻のうねりに呑み込まれたかのように…。
5年後、17歳になった双子の弟・俊は美術部に在籍する高校生。等身大のキャンバスに、忘れることのできない兄への想いを描きつづけている。幼馴染みの夕とは言葉にならない淡い気持ちを共有しながらも、どこかぎこちない。俊と夕、そして家族たちは、行き場のない思いを抱えつつも、それぞれに出口を探そうと懸命に生きていた。
やがて、夕に明かされる出生の秘密。そして、明らかになった兄の消息。お互いが失ったものをじっと胸に秘めつつ、いま、俊と夕は前に進もうとしていた。

主人公の高校生・俊(しゅん)を演じるのは、奄美大島出身のストリート・ミュージシャンの福永幸平。もちろん映画は初主演。一方、俊の幼馴染み・夕(ゆう)には、1、000人を超えるオーディションから選ばれた、奈良の公立高校に通う兵頭祐香。二人の初々しいたたずまい、そして明日を見据えるような強いまなざしが、作品に静かな清涼感を醸し出す。また長男の不在という悲しみから立ち上がろうとする俊の父親に『トリック』やドラマ「まんてん」で活躍中の生瀬勝久。女手ひとつで娘を育て上げた夕の母親・晶子に『阿弥陀堂だより』の樋口可南子がそれぞれ扮し、家族の刻の年輪を感じさせる演技でフレッシュな二人をサポートしている。そして、監督の河瀬直美が俊の母親、礼子役で女優としても出演。子を失う悲しみと、新たなる命を育むよろこびを併せ持った、難しい役柄を見事に演じている。
音楽は昨年公開の『水の女』で映画初主演を果たし、その表現力の限りなき可能性を感じさせた歌姫UA。古都・奈良という舞台に、まったく新しい音楽の風を吹かせている。

映画の主舞台となる、路地の町「ならまち」は、古くから「身代わりの猿」の庚申信仰が伝わり、伝統産業である老舗の墨屋が綿々と受け継がれていく一方で、新しい祭「バサラ祭」も開催されるなど、新旧の文化が渾然一体となった魅力いっぱいの古都。そんな「ならまち」の人々の心意気溢れる前面協力も、この映画の大きなチカラとなっている。

ストーリー



1997年夏
長い歴史を持つ奈良には、今日でも古い建造物や伝説が残っている。
その旧市街地で代々墨職人を受け継いできた麻生家の、ひっそり静まりかえった作業場では、双子の兄弟が戯れている。
眩しい夏の光りに誘われて路地に駆け出した兄“圭”を必死に追う“俊”は、入り組んだ辻を勢いよく駆け抜けてゆくが、ふと曲がりきった辻に消え入るかのように圭の姿を見失う。
神隠しなのか? 事件に巻き込まれたのか? 古来よりお守りとして、軒先に吊るされた身代わり猿(庚申・こうしん)だけが真実を知りうるのか・・・、
地蔵盆の鐘が無表情な音色をこの町に響かせる。
両親の必死の捜索にもかかわらず、“圭”の行方は分からないまま無常に時は過ぎてゆく。

2002年夏
17歳に成長した俊(福永幸平)は、美術部に在籍する高校生。
幼馴染みの同級生夕(兵頭祐香)とは、言葉にならない淡い気持ちを共有しあっている。
今日もいつものように、自転車の後ろに夕を乗せて下校する俊。
家の軒先には、色あせた身代わり猿が5年前のまま釣り下げられている。
夏場は作業もなく俊の目にはだらしなく映る墨職人の父・卓(生瀬勝久)は、間近に迫った「バサラ祭」の実行委員長として準備や打ち合わせに余念がない。
臨月を迎えた母・礼子(河瀬直美)は、大きなお腹を抱えて畑仕事に精をだし、生まれてくる命に、家族の絆が再生することを期待しているようだ。
俊はといえば屋根裏部屋にこもって、等身大のキャンパスに向い決して忘れることのない“圭”への想いを刻みつけている。
女手ひとつで夕を育てあげた母、晶子(樋口可南子)は、気丈に小料理屋を切り盛りし、夕もそんな母の仕事をそっ支えている。

やがてあの日から5年目の地蔵盆の日が近づいてくる・・・。
そんなある日、俊の家を刑事が訪れ、圭の消息が知らされる。言葉にならない悲しみに沈む麻生家の中で、ひとり俊は、重すぎる事実をまだ受け止めることができずに、人目もはばからずに泣く。
一方、夕は自らの出生の秘密を母から明かされる。
毎年たえることなく繰り返し営まれてきた地蔵盆の数珠繰りが、続経とともに5年の日々を包み込み、それぞれの想いはどこに向かうのか。
それぞれに失ったものを胸に秘めつつ、引き寄せられるかのように二人きりになる俊と夕。夕闇が優しく彼等を包み込む。

バサラ祭が始まった。人々の熱気の中でも、卓の入れ込み方はひときわ群を抜いている。まるで何かの決意表明のようだ。
先頭を切って踊る躍動感に満ち溢れる夕に、人員整理係の俊も引き込まれて踊り出し、心地よい通り雨に祭りはピークに達する。

翌朝、完成した俊の絵を前に、夕は手作りの身代わり猿を俊に手渡す。
「大切にもっとこーな」
そんな二人の元に、礼子の様子が大変だとの知らせが卓から入る。

スタッフ

プロデューサー:長澤佳也
監督・脚本:河瀬直美
撮影:山崎祐
録音:森英司
照明:佐藤譲
衣装:小林身和子
スチール:野村惠子
音楽:UA
製作:日活、読売テレビ、ビジュアルアーツ専門学院、リアルプロダクツ提携

キャスト

麻生俊:福永幸平
伊東夕:兵頭祐香
麻生卓:生瀬勝久
伊東昌子:樋口可南子

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