完全なる飼育　赤い殺意

『完全なる飼育』シリーズは、第1作が日本映画界の名監督であり大脚本家の新藤兼人の脚本、テレビ界の大演出家である和田勉の監督という巨匠同士のコンビによって、1999年にスタートした。以来、監禁される少女と監禁男の禁断の愛という形式を守りながら、毎回違う監督、主演によってさまざまなスタイルをとり、ほぼ年1作のぺ一スで製作されてきた。そして、2004年の今年、第6作『〜赤い殺意』が送り出される。その監督は、まさに真打ち登場といっても過言ではない、セックスとバイオレンスの名匠・若松孝二。

若松監督は1963年、ピンク映画『甘い罠』で監督デビュー。1960年代にはピンク映画を量産し、激しい暴力描写と濃厚なセックスシーンで名を馳せた。1965年には大手五社作品ではないピンク映画でありながらベルリン映画祭に出品された『壁の中の秘事』で一躍話題を集め、アパートの一室に女性を監禁する男を描いた『胎児が密猟する時』(1966年)、看護婦寮に忍び込んだ男が次々と女性を襲う『犯された白衣』(1967年)、岡山の山村で起こった大量殺戮事件を元にした『新・日本暴行暗黒史 復讐鬼』(1968年)、学生運動家の北海道への逃走劇『狂走情死考』(1969年)、大和屋竺が荒野を密室に見立てて書いたシナリオが秀逸な『処女ゲバゲバ』(1969年)、フーテンに強姦される少女と少年の倒錯したラブストーリー『ゆけ、ゆけ二度目の処女』(1969年)など、数々の名作・傑作を監督。60年代当時は政治の季節でもあり、若松監督は単なるピンク映画にとどまらず、時代に密着したラジカルな政治性の作品で多くの知識人や文化人にも影響を与えた。
70年代以降も、ATGで『天使の恍惚』(1972年)『聖母観音大菩薩』(1978年)、『水のないプール』(1982年)、『われに撃つ用意あり』(1990年)、『キスより簡単』(1991年)、『寝盗られ宗介』q992年)、『エロティックな関係』(1992年)、『エンドレス・ワルツ』(1995年)などを次々に監督。監督作はすでに100本を超えている。
また、若松プロに集った大和屋竺、足立正生、沖島勲、小水一男らの作品や、高橋伴明監督の作品、大島渚監督の『愛のコリーダ』、竹中労の企画による『戒厳令の夜』を製作するなど、プロデューサーとしての功績も著しい。

そして今回の『完全なる飼育赤い殺意』は、若松監督にとって2002年の3月の肺がん摘出手術からの記念すべき復帰映画であり、1997年の『明日なき街角』以来、7年ぶりの待望の劇場公開映画となる。
ヒロイン・明子には、オーディションで選ばれた伊東美華。涼しげな目元が美しい、今年23歳になるスレンダー美女だ。映画初出演、初主演の彼女が、10年間も飼育された少女役に扮し、手錠で拘禁、剃毛、パウダーマッサージでもてあそばれるなど、ハードなシーンを体当たりでこなしている。女優演出に定評があり、多くの新人女優をデビューさせてきた若松監督だけに、彼女の大胆な演技が見どころだ。
殺人を犯して明子の監禁された家に逃げ込むホスト・関本役には、俳優としての進境著しい大沢樹生。犯罪に巻き込まれて殺人を犯す気の弱い男を必死の形相で熱演する。
明子を徹底的に強迫観念で縛ってしまう不気味な監禁男役には、これ以上ないハマり役と言っていい佐野史郎。
密室劇を得意とする若松監督ならではのスリリングな演出により、雪の中の一軒家でこの3人の壮絶なドラマが展開する。そして、シリーズ中、最も衝撃的なラストヘ−−。