原題:My Life Without Me

彼女は23歳。 あと2ヶ月の命。 初めて「生きる」と決めた。

2003年3月7日スペインにて初公開

2002年/スペイン・カナダ/106分/カラー/ビスタ/ドルビーSRD 配給:松竹

2011年06月29日よりDVDリリース 2007年11月28日よりDVDリリース 2004年04月24日よりDVDリリース 2004年04月24日よりビデオリリース 2003年10月25日よりシネ・リーブル池袋、ヴァージンシネマズ六本木ヒルズにてロードショー

公開初日 2003/10/25

配給会社名 0003

解説


気まぐれか、意地悪か、運命はまだ23歳のアンに死をプレゼントすることにした。突然襲った腹痛のため病院で検査を受けたアンは、医師からあと2ヶ月の命だと宣告される。若さのせいで癌の進行が早く、あっという間に体中に転移してしまったのだ。母親の家の裏庭にあるトレーラーハウスでは、幼い二人の娘と失業中の夫が待っている。父親はもう10年も刑務所に入っていて、ハガキの1枚も送ってこない。母親は人生を楽しむことを随分前に諦めてしまった。そんな家族のために、アンはこの一大事を誰にも打ち明けまいと決意し、死ぬまでにしたいこと、しなければならないことのリストを作る。「爪とヘアスタイルを変える」そんなささやかな願いから、「娘たちに毎日愛してると言う」と誓う家族への溢れる愛情、そして「誰かが私と恋に落ちるよう誘惑する」という女としての切ないまでの願い—それは10項目のリストになった。
大学構内の清掃の仕事を夜間にこなし、育児と家事を片付け、今まで通りの生活を続けながら、アンは一つずつ秘密のリストを実行していく。そしてアンは気付く。周りは何も変わらないのに、死ぬための準備を始めてから、生き生きと充実した毎日を過ごしている自分に。死と真剣に向き合うことで生の愛おしさを知り、アンは初めて生きる喜びを全身で感じていたのだ。
私たちは、とりあえず目の前に積み上げられた仕事や約束を日々こなして生きている。そのうちきっと、ちょっといい明日がやってくると信じて。しかし実際には、今という一つ一つの瞬間を自分の手で輝く瞬間に変えなければ、ただ待っていても何も起こらないと、アンは私たちに教えてくれる。彼女は、一秒たりとも手を抜かず、家族にはもちろん自分自身にも力いっぱいの愛を注いだことで、100年生きても味わえないかもしれない人生の喜びに出会えたのだ。そしてアンがいなくなった後、彼女と関わった人々の心の中に、彼女はきっと特別な存在として永遠に生き続ける。アンの短い人生は、死ぬことは生きることの一部、そんなに怖いことじゃないよと、私たちの肩をポンとたたいてくれるのだ。
製作は、「オール・アバウト・マイ・マザー」「トーク・トゥ・ハー」などで女性の心情を繊細かつ大胆に描いたペドロ・アルモドバル。彼はまた、決して人生の成功者とはいえない人々の優しさや愛すべき一面を丁寧に描くことでも高く評価されている。そんなアルモドバルが、自ら見出した若いスタッフ、キャストを集めて全面プロデュースしたのが、本作「死ぬまでにしたい10のこと」である。
アンを演じるのは、「スウィート ヒアアフター」で人間存在の悲しみを演じ切り、若くしてすでに天性の才能を印象付けたサラ・ポーリー。本作では、妻、恋人、母親、娘、それぞれの顔が持つ様々な愛の形を細やかに演じた。同じようにいくつもの役割を生きなければならない現代女性の深い共感を呼ぶに違いない。
主人公が若くして死ぬ物語でありながら悲惨な印象が全くなく、時にユーモアさえ感じられる。それは登場人物たちの、自分に正直だからこそ不器用な生き方しかできない、個性的で温かさに満ちたキャラクターのためだろう。失業中でもトレーラーハウス暮らしでも、些細なことに楽しみを見つけていつも笑顔を絶やさない夫を演じるのは、人気TVドラマ「フェリシティの青春」で全米で大ブレイクしたスコット・スピードマン。深夜のコーヒーショップでアンに一目惚れしたリーには「ウインドトーカーズ」のマク・ラファロ。どんな愛の言葉よりも雄弁な優しい眼差しが心に残る。アンが、娘たちの新しいママになってほしいと密かに願う、もう一人のアンには、「トーク・トゥ・ハー」のレオノール・ワトリング。機転の利いた会話で笑いを誘うアンの仕事仲間のローリーには「パルプ・フィクション」のアマンダ・プラマー。
また、忘れ難いのはアンに癌の告知をするトンプソン医師だ。患者の目を見て余命を宣告できないという気弱な彼が、アンを治療することで自分自身も変わり、他人とまっすぐに向き合おうとする。「めぐり逢う大地」のジュリアン・リチングズが味わい深く演じている。その他、アンの母親には伝説のボーカリスト、ブロンディのデボラ・ハリー、父親には「ショコラ」の個性派俳優アルフレッド・モリーナが扮し、脇を固めている。
監督は、「あなたに言えなかったこと」のイザベル・コヘット。台詞に頼らず、何気ない表情や風景を捉えて人間の心理、人生の機微を表現、“心をすりむいた時にそっと見直したい一本”を作り上げた。

ストーリー



相変わらずの夜だった。アン(サラ・ポーリー)はダイエットのことばかり考えている仕事仲間のローリー(アマンダ・プラマー)と時折ふざけながら、大学の清掃作業の仕事をこなし、ホテルの厨房で働く母(デボラ・ハリー)を拾って車で帰る。眠ったかと思うとすぐに朝が来て、二人の娘ペニーとパッツィーの朝食の支度だ。失業中の夫ドン(スコット・スピードマン)が二人を学校に送って行った後、アンに異変が起こる。突然の腹痛に倒れ、病院に運ばれたのだ。
トンプソン医師(ジュリアン・リチングズ)がアンに検査結果を話す。がらんとしたロビーの椅子に並んで座って。歳は23、水瓶座よ。アンは医師の質問に答えるが、彼はなかなか本題を切り出さない。アンの目を見ずに彼が口にしたのは「死の告知」だった。若さのせいで癌の進行が早く、「余命は2〜3ヶ月」だと。言葉も出ない。タバコがほしい。代わりに医師が白衣のポケットからキャンディーを出してくれる。初めての味。「おいしい」おいしくて、涙が出る。
アンは母とドンに貧血だと説明する。ドンは1年がかりのプール工事の仕事が決まって喜んでいる。1年……。
夜更けのコーヒーショップで独りノートを開くアン。彼女は23年間の人生を初めて振り返る—17歳でファースト・キスの相手ドンと子供ができて結婚、19歳で次女を出産、母の家の裏庭でトレーラー暮らし、父(アルフレッド・モリーナ)はもう10年も刑務所にいる—ほんの数秒で終わってしまった。気を取り直して死ぬまでにしたいことのリストを作る。ちょうど10項目になった。さっそくウェイトレスに「思っていることを話す」を実行。向こうの席の男が一人、そんなアンを見つめている。
朝、心を込めて「娘たちに毎日愛してると言う」を実行したアンは、「爪とヘアスタイルを変える」ため、美容院へ。しかし美容師(マリア・デ・メディロス)から強引に彼女と同じ髪型、ブレードを勧められて退散、夜にはクラブヘ。「好きなだけお酒とタバコを楽しむ」ため、そして「夫以外の男の人とつきあってみる」「誰かが私と恋におちるよう誘惑する」ため。でも結局、偶然会った美容師と少し話してコインランドリーへ。
椅子に座ってボーっとしているアンに、男がコーヒーを買ってこようかと声をかける。コーヒーショップにいた男だ。アンは彼が戻る前に椅子で熟睡してしまう。朝方目を覚ますと、リー(マーク・ラファロ)と名乗る彼は洗濯物を畳んで、上着をかけてくれていた。家に帰り洗濯物の袋を開けると、本が一冊入っている。表紙をめくると、電話番号が。
アンは停めた車の中でテープ・レコーダーを取り出す。「娘たちが18歳になるまで毎年贈る誕生日のメッセージを録音する」のだ。ペニーが生まれた時のこと、パッツィーの1歳の誕生日、言葉にして初めて知る。どんなに幸せだったか。悩みはパパとおばあちゃんに相談して。新しいママも愛して。次々と録音してペニーの17歳まできた時、アンは絶句する。「もう子供じゃないのね」
アンは録音したテープをダンボールの箱に詰めて、トンプソン医師を訪ねる。医師は椅子を引きずってくると、今度はアンと向き合って座る。アンはテープを贈る役目を彼に任命する。ドンだと失くしたり一度に渡したりするから。彼は病院で死にたくないと治療を拒むアンに、鎮痛剤の投与だけはすることを条件にその役を引き受ける。
リー。測量技師で世界中を回ってきたという彼の部屋は空っぽだった。恋人が家具と一緒に出て行ったのだ。恋の傷がまだ痛む彼は、新じい恋に踏み出すことをためらう。「キスしてくれないと叫ぶわ」突然、本当に叫び出すアンの唇をリーはあわててキスでふさぐ。
ドン。ローリーを呼んだ夕食の席で、アンとの出会いを語る。ニルヴァーナのラストコンサートで感激のあまり泣きじゃくっていたアンの涙を、脱いだTシャツで拭いてあげた。ずっと変わらない奇跡のように優しいドン。
もう一人のアン(レオノール・ワトリング)。隣の家に越してきた看護婦のアン。「娘たちの気に入る新しいママを見つける」チャンスだ。ところが、彼女は子供はいらないと言う。小児科にいた時、自分の腕の中で死んでいった赤ちゃんのことが忘れられない、と。アンは彼女の純粋さに感動し、密かに彼女を新しいママに任命する。「家族でビーチへ行く」のは彼女に任せよう—。
パパ。長い長い道を運転して、やっと「刑務所にいるパパに会いに行く」。頬の感触と好きな曲だけしか覚えていないパパに会いに。
そしてアンは、ママに、ドンに、リーに、最後のメッセージを録音する……。

スタッフ

監督・脚本:イザベル・コヘット
原案:“Pretending the Bed is a Raft”(Nanci Kincaid 著)
エグゼクティブ・プロデューサー:ペドロ・アルモドバル
                アウグスティン・アルモドバル
                オグデン・ガヴァンスキ
プロデューサー:エステル・ガルシア
        ゴードン・マクレナン
U.S.キャスティング:ハイディ・レヴィット
          モニカ・ミッケルセン
撮影:ジャン・クロード・ラリュー
編集:リサ・ジェーン・ロビンソン
音楽:アルフォンソ・デ・ヴィラロンガ
美術:キャロル・ラヴァレー
衣裳デザイン:カティア・スタノ

キャスト

アン:サラ・ポーリー
リー:マーク・ラファロ
ドン:スコット・スピードマン
隣のアン:レオノール・ワトリング
アンの母:デボラ・ハリー
ローリー:アマンダ・プラマー
美容師:マリア・デ・メディロス
アンの父:アルフレッド・モリーナ
トンプソン医師:ジュリアン・リチングズ
ペニー:ジェシカ・アムリー
パッツィー:ケーニャ・ジョー・ケネディ

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