原題:Metamorphosis

原作は、永遠にして最高峰の不条理文学であるカフカの「変身」。 執筆から100年近くを経た現在〈今〉、遂に完全映画化!

東京国際映画祭2002コンペティション部門出品作品::http://www.tiff-jp.net/ 出 ガッチーナ国際映画祭2002 脚色賞・主演男優賞受賞 カルロヴィ・ヴァリ国際映画祭2002 モスクワ国際映画祭2002

2002/カラー/90分/35mm/1:1.37/SRD/ロシア 後援:チェコ共和国大使館/ドイツ連邦共和国大使館/ロシア連邦大使館/東京ドイツ文化センター/日本ユーラシア協会 日本語字幕:太田直子 配給:パンドラ

2004年11月13日、ユーロスペースにてロードショー (他大阪・名古屋にて順次公開予定) 2002年10月28日シネ・フロント、10月31日オーチャードホールにて上映

(C) Meyerhold Theatre Center 2002

公開初日 2004/11/13

配給会社名 0063

解説



<ある朝、グレーゴル・ザムザが
なにか気がかりな夢から目をさますと、自分が寝床の中で
一匹の巨大な虫に変っているのを発見した>
 フランツ・カフカ「変身」(高橋義孝訳 新潮文庫版)

この、冒頭があまりにも有名な小説「変身」は、世界中の多くの言語に翻訳され数え切れないほどの人々に愛読されてきた。短編ではあるが、カフカといえば、「変身」と結び付けられるほど、彼の作品の中では最もポピュラーな小説である。小説そのものを読んではいなくても、カフカの名前と併せて冒頭の文章を知っている人は多いことだろう。

ある朝、巨大な虫に変身してしまった若い男性、グレーゴル・ザムザは、自分が<ここにいる>ことを認識してもらおうと、家族や知人たちに<発信する>のだが、周囲の人々にはまったく彼とはわからない。部屋を出ることもできず、自分がどうして虫になってしまったのかさえわからないまま、もがくうちに、食事も思うようにならず、ザムザは死んでゆく。カフカが「変身」を書いたのは1912年で、出版されたのは1915年である。カフカ自身は失敗作と思っていたとの説もあるが、90年あまりを経たいま、不条理文学、ひいては20世紀文学の金字塔という評価はすっかり定着している。そして今日、ザムザが共感される時代になった。周囲とコミュニケーションがうまくとれず、ひとり孤立する状態は、現代人共有のテーマであるからだ。

映画『変身』は、カフカの原作を、ロシア演劇界の鬼才として世界的に著名なワレーリイ・フォーキンが、諧謔にみちたエッセンスもまるごと原作に忠実に映画化した衝撃作である。

フォーキンはロシア屈指の演出家で、演劇を中心とする芸術センター、メイエルホリドセンターを設立・主宰している。映画としては本作が長編監督第一作である。そもそも『変身』は、サテュリコン劇場で演出した舞台版が、まず始めにあった。人間である俳優が人間の姿のまま変身する、この難題を解決するために取り入れられたのが、メイエルホリド(旧ソ連の演出家。ビオメハニカと呼ぶ肉体訓練による俳優養成法を提唱)に想を得たスコアブックである。台本の代わりに音楽・台詞・動きが譜面として記されたスコアが用いられたのである。パントマイムでも知られるレオニード・チムツーニクの振り付けは、虫のグロテスクな様を120%表現するのに成功した。人気の舞台は6年ほど続いたが、主役のコンスタンチン・ライキンの年齢・体力的限界などを理由に幕を閉じたちょうどその頃、「映画化しないか」と提案するスポンサーが現れ、フォーキンは新しいキャストを迎え、撮影に踏み切ったのである。振り付けは舞台版と同様レオニード・チムツーニクが担当した。

主演のグレーゴル役にはロシア演劇界のプリンス、エヴゲーニイ・ミローノフ。今人気NO.1の彼が、全く喋らずに、思いつめた表情で<虫>を演じる様は、強い印象を残す。ミローノフは、ロシア誌のインタビューで、ザムザを演じることについて、次のように答えている。

「『変身』は運命の贈り物です。喜んでこの役を引き受けました。この作品には台詞がありませんが、黙っているというのは、俳優にとって、非常に面白いことなのです。とはいえ、身体的にも精神的にも想像していたより何倍も難しい役でした。私はスポーツがあまり得意ではないのですが、今ではこの凄い運動にも慣れ、楽しくなってきました。バレエのような重労働です。姉妹がバレリーナなので、その辛さは目にしていました。でも、ここまで大変だとは!朝一番に1時間ほどウォーミングアップした後、11時間、カメラの前で這い回っていました」
(拠:<イト−ギ>誌 抄訳:上田洋子)
連日11時間、這い回ったミローノフの苦しみは、人間技とは思えない驚異的な身体表現となって実を結んだ。最も原始的で、かつ、最先端の表現ツールである身体。それを使って演出家・俳優・振付師が三位一体となり、究極のコラボレーション・アートを完成させたのである。

その他の出演者に、ブラックな笑いを醸す父親役にはイーゴリ・クワシャ、おろおろしながら息子を案じる母親役にはタチヤナ・ラヴロワ。共にロシア人民芸術家の称号を授与された一流の役者である。また音楽担当のアレクサンドル・バクシは、舞台版<変身>の音楽も担当し、室内楽から映画音楽、演劇音楽と幅広く活躍し、94年に国家音楽賞を授与された気鋭の作曲家である。なお、セット撮影はモスフィルム、屋外撮影の一部はプラハで行われ、墓地の撮影はカフカ自身が葬られているプラハのユダヤ人墓地で行われた。

『変身』は完成後、東京国際映画祭を初め、モスクワ国際映画祭、カルロヴィ・ヴァリ国際映画祭などに出品され、中でもガッチーナ国際映画祭では最優秀主演男優賞と共に、最優秀脚色賞を授与され、そのカフカ解釈を高く評価された。

ストーリー


スタッフ

監督/ワレーリイ・フォーキン
脚本/イワーン・ボボーフ
   ワレーリイ・フォーキン
原作/フランツ・カフカ
撮影/イーゴリ・クレバーノフ
音楽/アレクサンドル・バクシ
振付/レオニード・チムツーニク

キャスト

エヴゲーニイ・ミローノフ
イーゴリ・クワシャ
タチヤナ・ラヴロワ
ナターリヤ・シヴェツ
アヴァンガルド・レオンチエフ

LINK

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