原題:Gomshodei dal Araq (Marooned in Iraq)

東京国際映画祭2002コンペティション部門出品作品::http://www.tiff-jp.net/ 2002年カンヌ国際映画祭フランソワ・シャレ賞 2002年サンパウロ国際映画祭最優秀作品賞 2002年シカゴ国際映画祭金の額縁賞

2002年/100分/イラン/クルド語/日本語字幕:石田泰子/字幕監修:ショーレ・ゴルパリアン 協力:国際交流基金 配給:オフィスサンマルサン 

2004年02月21日よりDVDリリース 2004年2月21日より岩波ホールにてロードショー 2002年10月30日オーチャードホール、11月1日シネ・フロントにて上映

公開初日 2004/02/21

配給会社名 0243

解説



「戦争で歌は忘れられてしまったわ」
「まさか、人々はみんな歌ってる。歌は永遠だ。人々から歌を取り上げることは出来ない」

デビュー作「酔っぱらった馬の時間」が高く評価された、イランのクルド人監督バフマン・ゴバディの第2作「わが故郷の歌」。前作同様、イラン・イラク国境のクルディスタンを舞台とし、クルド人という国なき民族の知られざる状況にカメラを向ける。2002年のカンヌ国際映画祭「ある視点」で上映され、フランソワ・シャレ賞とシカゴ国際映画祭金の額縁賞などを受賞している。

かつての妻を救うため、イランから戦乱のイラク領クルディスタンに向かうクルド人の老歌手と2人の息子。個性豊かなこの3人のミュージシャンの運命的な旅が描かれる。国境に至るまでのイラン国内では、にぎやかに珍道中を繰り広げた彼らは、イラク側に入るや否や、クルド人のおかれた厳しい現実を目の当たりにする。国境を境に、雪に覆われた厳寒の地での悲劇の旅へと変貌する鮮やかな演出に、見る者は否応なしにクルド人の苦難をともに体験する。そして終幕に彼らがそれぞれ違った形で手にした「希望」。ここにゴバディ監督の平和への思いがあふれている。その「希望」とは、子どもたちであり、若い男女に生まれた愛である。

「わが故郷の歌」は、戦争の非道に対する告発であるとともに、心躍る民族音楽に彩られたクルドの同胞に捧げる生命の賛歌だ。難民キャンプを始め、行く先々で披露される主人公3人の演奏は、同胞を癒し鼓舞する。縦笛や太鼓、弦楽器など民族音楽を自在にあやつり歌う彼らの姿、そして横一列になって踊るクルドのダンスは、クルド人のアイデンティティを誇らしげに示す。そして点描されるクルディスタンの峻険な山々は美しく、神々しい。

クルド音楽に呼応するかのように、イラク軍のジェット機の爆音もまた前編にわたって鳴り響く。主人公の老歌手ミルザは言う。「この轟音。これも歌だ。イラク軍のね」。暴力の歌を空からまき散らす者たち(それはイラク軍だけではないだろう)に、愛の歌で対抗する。歌や踊り、そして映画の力を信じるゴバディは、クルド民族のみならず人間そのものの尊厳を歌い上げる。

イラクへの旅を続けるミルザたち親子は、まるでパンドラの箱をあけたかのように、数々の悲劇に直面する。イラク軍の爆撃、たくさんの破壊された村、雪の山岳地帯で遭遇する夥しいクルド人難民、化学兵器に冒された人々。果たしてかつての妻ハナレに出会うことはできるのか……。物語の背景はイラン・イラク戦争(1980−1988)の終結後。このときイラク軍は戦争中イラン軍に協力したクルド人ゲリラの掃討を名目に、クルドの村村を一斉に攻撃した。ある統計によればこの前後にイラク軍の化学兵器と爆撃、強制収容所などで虐殺されたクルド人は最大限で20万人に及ぶという(イラク国内で起きたこの行為は、イラク政府に隠蔽された。また、アメリカを始め西側諸国はこの時代のイラクに多大な援助をしていた)。そして戦争を通じて、イラク国内で強制移住させられた人々は150万人、イランへ流入した難民は25万人、トルコへは6万人と推定されている。

絶妙なコントラストをなす主演の3人は、すべて本職のクルド音楽のミュージシャンである。また戦争孤児たちに、飛行機に関するユニークかつ感動的な授業を行う教師は、サミラ・マフマルバフ監督の「ブラックボード−背負う人−」に教師役でゴバディとともに主演したサイード・モハマディ。なお、終幕に登場するミルザのかつての妻ハナレを演じたイラン・ゴバディはゴバディ監督の母親である。

ストーリー



イラク国境にほど近いイランのクルド人の村から、3人の男たちが旅に出る。父のミルザとふたりの息子たちである。彼らはいずれも名の通ったクルド民族音楽のミュージシャンで、特に父ミルザは往年の名歌手として広く知られていた。

ミルザの最後の妻・ハナレは、女性が歌うことを禁じたイランを捨て、同じグループのサイードとイラクへ駆け落ちしていた。母親の異なるふたりの息子は、家族に汚名を着せた彼女を憎んでいたが、ミルザは心の中で彼女を許していた。同じ歌手として歌を禁じられた者の気持ちが痛いほど分かるのだ。そのハナレから助けを求める知らせが届いた。ミルザは息子のアウダとバラートを引き連れて、イラク国境に向かう。

イラン側の難民キャンプでは、サイードの母アミンがハナレからの手紙を持っているはずだった。しかし手紙はなく、一行は次に、アミンの身内で導師のガデルが手紙を持っているという言葉をたよりに、ゴリジェに向かう。

ゴリジェはイラク軍の爆撃によって廃墟となっていた。住民が避難した町に向かう途中、思わぬことから導師のガデルに出会った3人は、結婚をめぐる騒動に巻き込まれる。3人は無理やり演奏させられるはめになり、人々は大喜びで歌い踊る。バラートは、そこで美しい声の娘に出会った。その声に恋したバラートが結婚を申し込むが、娘は去っていく。ガデルも手紙を持っていないことが分かり、大混乱の中、3人は逃げ出した。

夜の道を急ぐ3人は、警官を装った盗賊に襲われ、オートバイ、上着、楽器そしてバラートの金歯まで奪われる。翌朝、堪忍袋の緒が切れたアウダは、父ミルザに従ったバラートをののしる。折りよく通りかかったトラックに助けられ、3人は国境を目指した。

イラクに入ると一面の雪景色だった。歩いて国境を越えたミルザたちは急ごしらえのバザールにたどり着き、茶屋で一息つく。茶屋の亭主は2,3カ月前にロマンの町でハナレを見かけたという。一行は雪の中を歩き出す。その時イラク軍のジェット機がバザールを爆撃し、三人は慌てて山へ分け入った。

山の上では一人の男が子どもたちに飛行機についての授業をしていた。この教師はふたりの女性教師とともに戦災孤児たちのキャンプを運営しているという。ミルザたちもキャンプで一晩泊めてもらうことになり、アウダは子どもたちを集めて演奏を始める。その中に歌のうまい男の子がふたりいた。アウダは7人の妻と11人の娘を得ながらも、息子ができないことを悩んでいた。女性教師ロジャネは事務所に申し込めば、孤児たちとの養子縁組ができると教える。

翌朝、ふたりも息子ができたと喜ぶアウダを残し、ミルザとバラートはロマンへと出発する。途中一行は、イラクの大量殺戮による“集団墓地”が見つかったところを通った。遺体の前では女たちが泣き叫んでいた。バラートは、その中にあの美声の娘を見つける。彼女は兄の遺体を捜しに来ていた。若いバラートがイラクで軍警察に捕まるのを避けるため、ミルザはバラートに娘を助けてやれと命じる。

ロマンは廃墟だった。男たちは殺され、女たちは山向こうの難民キャンプに移ったという。ひとりたどり着いたミルザを待っていたのは悲しい知らせだった。だが、女たちはハナレの「希望」もミルザに託してくれた。

スタッフ

監督・脚本・製作:バフマン・ゴバディ
撮影:サイード・ニクザート、シャーリアール・アサディ
音楽:アルサラン・カムカル
編集:ハヘデー・サフィアリ

キャスト

ミルザ:シャハブ・エブラヒミ
アウダ:アッラモラド・ラシュティアン
バラート:ファエグ・モハマディ
教師:サイード・モハマディ
ハナレ:イラン・ゴバディ

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