原題:Breaking Silence/漂亮媽媽

母から生まれた子供たち。 みんな、あなたが大好きです。

2001年2月28日フランス初公開

1999年/中国/カラー/90分/ビスタサイズ/ドルビーSR 配給:ムービーテレビジョン、JCP

2002年12月21日よりDVD発売開始 2002年6月8日よりシャンテシネほか全国ロードショー公開

公開初日 2002/06/08

配給会社名 0102/0288

公開日メモ 時は移り変わっても普遍的に紡がれ、語り継がれていくそれぞれの、家族の物語。暗く悲しい事件が多い、家族関係の希薄さが問われる時代だからこそ、『きれいなおかあさん』は観る人の心に、忘れかけていた大切な家族の絆を思い出させてくれる。

解説



時は移り変わっても普遍的に紡がれ、語り継がれていくそれぞれの、家族の物語。暗く悲しい事件が多い、家族関係の希薄さが問われる時代だからこそ、『きれいなおかあさん』は観る人の心に、忘れかけていた大切な家族の絆を思い出させてくれる。すべての子供たちは母から生まれ、家族の愛情に育まれ、やがて自立するいつの日かのために、知恵と勇気を学んでいく。ときには誰よりも厳しく、またあるときは誰よりも甘えさせてくれる母。たとえ状況や境遇は違おうと、もしくはその表現方法に差はあろうとも、いっても無償の愛で見守っていてくれる母。本作は、聴覚に障害のある息子と共に生きる、母と息子の、厳しくもぬくもりのある親子関係を綴る作品だ。
物語の舞台となるのは中国の大都市、北京。リーインは、もはや中国の一般的な家庭がそうであるように、一人っ子の母親。そして掛け替えのないひとり息子の名はジョン・ダー。小学校に上がることを楽しみにしている人懐っこい性格の男の子。夫は不在。ジョン・ダーの聴覚に障害があることを理由に、その重圧に耐えられず去っていった。折りしも世の中は改革開放政策のひずみで何をするにもお金に振り回される次第。リーインは「息子は補聴器を付けている以外、他の子と変わらない」と、気丈にもジョン・ダーを小学校の入学試験に合格させようと大奮闘。けれど運命は健気に生きる母と息子の味方にたやすくはなってくれようとはせず、次から次へと立ちはだかる難題に、母と息子は力を合わせて生き抜いていこうと誓う。困難を乗り越える度に強さを増していくリーイン。息子のために、自分のために、生きていくために、リーインは息子と二人で生き抜く覚悟を決める。
それは同時に母と息子の、生き延びるための、勇気をもって試練を乗り越える、心を鍛え、親子の絆を深める旅の始まりてもあった母の手ひとつで、信念をもって息子を立派に育て上げることに最大なる母性本能を傾ける母親リーインを演じるのは、今や国際派女優となったコン・リー。大学二年のときにチャン・イーモウ(張芸謀)監督に見出され『紅いコーリャン』(’87)て衝撃的なデビューを飾って以降、『菊豆』『紅夢』『さらば、わが愛/覇王別姫』『始皇帝暗殺』など、壮大なる舞台背景の中で翻弄されるヒロインを数多く演じてきた。しかし今回はあえて生活感あふれる一般的な母親像に挑戦。
逆境の中でも決して悲劇のヒロインに甘んずることなく、息子を一人前に育て上げるという信念に基づいた力強い演技が評価され、第24回モントリオール国際映画祭で最優秀女優賞に、第10回中国百花賞では最優秀主演女優賞に輝いた。“外見的にこく普通のお母さん”を演じるのがいちばん難しいと語るコン・リーは、監督と長時間にわたるミーティングをした末、障害のある子供の家庭やリストラされた家庭に取材を決行。新聞配達員の女性たちと一緒に街中を自転車で走り回る熱の入れようだったという。それほどまでにリーイン役に惚れ込んだ理由を、「化粧もせず服装も地味な彼女が美しいのは、外見ではなく母親の子供に対する愛情の深さにあるから。本作品に込められた母親の“偉大さ”と“内なる美しさ”は、皆さんに必ず分かっていただけると思います。子供にとって母親はいつも世界て一番美しく、輝く存在なのです」と語り、リーインを演じる際には撮影のほとんどをノーメイクで出演した。
静かだけれと凛とした佇まいを見事に演出したのは監督のスン・ジョウ(孫周)。’77年に映画会社に入社して以来、キャメラマンとして多くのテレビや映画作品に参加、数々の栄誉ある賞に輝いている。
その後『コーヒーに砂糖を』(’86)で監督デビュー。『心の香り』(’91)では金鶏賞最優秀監督賞、撮影賞、録音賞を受賞し、各国の映画祭でも絶賛された。本作について「成功した人の話ではなく、普通の生活を撮りたいと思っていた。障害を持つ子供のために自分のすべてを差し出す、リーインのように自己犠牲の精神が本作品のテーマのひとつ。そしてフェミニズムについても考えたかった。いまの社会は女性の負担が非常に大きいと感じるからです。男性よりも多くのものを背負っているにも関わらず、得るものが少ないのです。だから女性が困難をどのように乗り越えていくのかを見てもらうことができればと思い、この映画を作りました」と語っている。
スン・ジョウ監督とコン・リーの出会いは撮影現場。実は監督業以外に俳優としても活躍するスン・ジョウがチェン・カイコー(陳凱歌)監督の誘いを受けて『始皇帝暗殺』に出演していたときのこと。コン・リーに新作の構想を打ち明け、彼女もいままでに演じたことのない“普通のお母さん”役に興味を持ったことが始まりだった。その後、脚本を完成させたスン・ジョウが正式にコン・リーに依頼。「彼女は中国女性の特色である内に秘めたパワーを持っていると同時に、西洋人俳優の資質も兼ね備えている。そして例え悲劇的人物を演じていても、彼女自身には悲劇に反抗する気質がある。国際的スターとしても彼女にかなう中国女優は他にはまずいないよ」と絶賛。次回作もコン・リーに出演依頼をしているという。
 そして懸命に働く母リーインの姿を幼い瞳で真っ直ぐに見つめるジョンダーを演じるのはガオ・シン。彼は幼いころの医療ミスが原因で耳が不自由になってしまった、本当の聾者。本作が映画初出演にも関わらず、カメラの前であがることなく堂々と、大女優コン・リーと肩を並べても劣らぬ演技で観客の心を掴む。コン・リーもガオ・シンのことを「私自身、彼を耳の聞こえない子供として扱ったことはなく、立派で、可愛い、優秀な自分の子供として接していました。そして誰よりも自然で素晴らしい演技を見せてくれました」と語っている。
決して派手てはないけれど、確実にして優秀なスタッフとキャストによって綴られるリーインとジョン・ター、母と息子の物語。
あなたはお母さんとの心の繋がり、感じていますか?

ストーリー



北京に暮らすリーイン(コン・リー)には一人息子がいる。息子の名前はジョン・ダー(ガオ・シン)。人懐こい彼は小学校に上がるのが待ち遠しくてしょうがない。そんな母と息子の姿は、一見すれは仲が良いだけの、幸せな親子に写るのだが、実はジョン・ダーは聴覚に障害を持っている。補聴器を付けなければ音はほとんど聞こえない。その事実と重圧に耐えられず、夫は二人を捨てて去っていった。けれとリーインは決して夫を恨んだりはしていない。
女手ひとつで障害のある息子を育てるのはたしかに大変だが、誰のせいにすることもなく、息子を自分の手で育てようと決心している。それでも頼りにしていた夫からの養育費も最近では滞り、リーインには生活のしわ寄せが重くのしかかる日々が続いている。
 ジョン・ダーの小学校入学試験の朝。いつもの通り着替えながら口の体操をし、呼吸練習も30回ほどしてから学校に向かうジョン・ダーとリーイン。一所懸命に試験を受ける息子の姿を、ドア越しで祈るように見つめる母であったが、その頑張りも虚しく、緊張してしまったジョン・ダーは空回りするばかり。試験終了後に校長に呼び止められるリーインだったが、ジョン・ダーは聾唖学校に入学させたほうが無難だろうと言われてしまう。「息子は補聴器を付けている以外、他の子とは何も変わらない」。そう信じる気丈なリーインにとって、息子が補聴器を付けることは、目が悪ければ眼鏡をかけるのと同じ意味以上のことはなかった。たしかに自分は無学ではあるが、息子に一文字ずつ読み方を教え始めて三年、リーインの自尊心は傷付くばかり。それに追い討ちをかけるように小学校の入学試験は、発音が不明瞭だという理由で結果は不合格に終わった。
 なぜ息子だけが……。冷たく吹き荒れる世間の風と家計の重圧に押しつぶされそうになるリーイン。けれと息子との時間をもっと作らなくては、このままでは息子はダメになってしまう。そんな胸の内も知らす、父との久しぶりの再会を喜ぶ、ジョン・ダー。父にはすでに新しい妻がいるが、ジョン・ダーにとってはタクシーの運転手として働く父の姿が写るだけ。丘の上で母の作ったお弁当を食べる父と息子。別れた父が息子に教えられるのは「苛められたら苛め返せ」という言葉と、ケンカの仕方だけだった。
 そんな父と息子が再会している間にさえ、リーインは働いていた。
工場長はひたむきに働くリーインに工場管理のために班長になることを勧めるが、少しでも息子と過ごす時間を長くしょうと彼女は昇進の誘いを断り、職を変える決心をする。学校に入学させてもらえないのなら息子に言葉を教えるのは自分だと、世界にはどれほどの素晴らしい音と、音によって伝えられる言葉と、言葉で紡がれる会話によって可能性が広がるのかを教えることが自分の役目だと信じ、息子を自分の手で立派に育て上げるために努カを惜しまないことを心に誓う。
 そんな矢先、補聴器のことをからかわれたジョン・ダーが子供たちとケンカをし、大事な補聴器はバラバラに壊れてしまった。「どうして分からないの?これはあなたの耳なのよ!」。父に教わったケンカは、母の心の傷を深くえぐった。5000元もする補聴器はいまのリーインの収入だけては気の遠くなる額。唇を噛み締める思いで前夫に資金繰りの相談をするが、「俺は父親だが銀行じゃない」と冷たい返事。ケンカを教えたのはあなたなのに……。
 常に息子のために時間を費やせるよう、親友ダー・ホーの勧めで許可証もないまま露天て本屋を始めるリーイン。真面目な彼女には客との駆け引きさえ居心地が悪いばかり。それても初めて本が売れて喜んでいたのも束の間、警察の取締りに遭い、逃げろと叫ぶ親友の叫びも留守番をしていたジョン・ダーの耳には届かず、リーインは警察に捕まってしまう。狼狽したリーインは思わずダー・ホーを責めるが、彼女からは逆に「生きるのは簡単じゃない。きれい事では済まない」と言われてしまう。たしかにこの国も大きく変わろうとしている。自分も変わらねば。息子が言葉を学ぶように、自分も生きることを学ばねば。困難を乗り越える度に強さを増していくリーイン。息子のために、自分のために、生きていくために、リーインは息子と二人で生き抜く覚悟を決める。それは同時に母と息子が、生き延びるために、勇気をもって試練を乗り越える、心を鍛え、親子の絆を深める旅の始まりでもあった。
 覚悟を決めたリーインは、常に息子の成長に時間を費やせるよう子連れて働ける新聞配達を始める。1時間5元の家政婦の仕事にもありついた。必死に働く母の後ろ姿を、幼い瞳で見つめるジョン・ダー。新聞を運ぶ自転車の荷台に息子を乗せ、リーインは走る。「これは“花”」「あれは“赤い”“花”」……北京の町にあるもののすべてが発音の教材だ。ペタルを踏みながら言葉の正しい発音を教え続けるリーイン。母の教えを体いっぱいに浴びて吸収していくジョン・ダー。たとえ裕福ではなくても、息子との深い絆があれば生きていけると、確信を強めるリーインだった。
 ところが試練は次から次へと二人の前に立ちはだかる。前夫が事故に遭い、実にあっけなく命を落としてしまったのだ。息子に父の死を教えようとするが、幼いジョン・ダーは死を理解できない。
無邪気な反応の傍で行き場のない孤独と不安に涙が流れる。しかも家政婦の仕事に向かった先では、雇う前からその気でリーインを見ていた店主に襲われ、大金を前に必死で抵抗するリーインだったが……。
 リーインがジョン・ダーのためにと、必死の思いで買った高価な補聴器。それを付けることを頑なに拒むジョン・ダー。実は母が葛藤する傍で、ジョン・ダーも成長と共に自我が芽生え始めていたのだ。
 夜の街に飛び出していくリーイン。人込みの中を母の後を追うジョン・ダー。いつだって必死に生きてきた母と息子の、目と目が合ったそのとき、心を閉ざしかけていた息子はついに胸の内に秘めていた想いを母に向けて叫ぶ。聞きたくても聞けなかった、言いたくても言えなかった想いを、勇気を振り絞って叫ぶのたった−−−。

スタッフ

製作総指揮:スン・ジョウ、スン・ミエン
プロデューサー:コウ・ヨン、チャオ・シンセン
顧問:ワン・シュエンロン
制作:ユー・ジーユエン、タイ・ズーホイ、リュウ・イー
監督:スン・ジョウ
脚本:リュウ・ホン、スン・ジョウ、シャオ・シャオリー
脚本企画:ワン・ピン
撮影指導:リュ・ユエ
美術指導:ゼン・ロンジャ
音楽:チャオ・チーピン
録音:チャオ・ジュン
編集:ウー・ムーチン、ジャイ・ルー
副監督:チャン・イエンジャー、チャン・シージュエ
副撮影:ジョン・イー、リー・ダーメイ
制作主任:フー・ジアチアン、ファン・ジーダン
スクリプト:ティエン・メイ
スチールフォト:チャオ・シンチョン
メイク:ジー・ウェイホア
セット:ワン・チャンジュー、スンリエンユー、
    シャン・ウェン、リュウ・グアンプー
美術助手:スン・リー
撮影助手:シュー・フーセン、チェン・ジエー
照明:ヤオ・ジエンユン
小道具:ユー・ジンシオン、スン・シューシン
AD:ヤン・チエンピン、ワン・ハイシアオ、チャン・ハオ
音楽録音:チャオ・ジョンディー
演奏:中国交響楽団
録音技師:ジョオ・ウェンジョン
録音助手:シア・チン、ルー・ユー

キャスト

スン・リーイン:コン・リー
ジョン・ダー:ガオ・シン
ファン・ズピン:シー・ジンミン
ジョン・ペイドン:グアン・ユエ
ダー・ホー:ユエ・シウチン
ジア:リー・チャンルー
ジアオ校長:リュ・リーピン
新聞販売店店長:レイ・チュエション
ルオおばさん:リン・チン
イエンズ:ジョウ・ユーフォン

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