夫は妻を、永遠に抱きたいと思った。 妻は夫に、一度だけ抱かれたいと思った。

第26回湯布院映画祭特別試写作品

2002年/日本/96分/カラー/ビスタビジョン/DTS/ 配給:オフィス・シロウズ、メディアボックス

2003年01月22日よりDVD発売開始 2002年7月6日より新宿武蔵野館にてロードショー公開

完成披露試写会レポート::http://www.cinematopics.com/cinema/topics/topics.php?number=474 初日舞台挨拶レポート::http://www.cinematopics.com/cinema/c_report/index3.php?number=226

(C)2001「笑う蛙」パートナーズ

公開初日 2002/07/06

配給会社名 0220/0099

公開日メモ 平山秀幸監督が新境地に挑戦する魅了な夫婦関係を描く。

解説



文芸+エロティシズムの新たな融合

【倦怠期】=結婚生活に飽きていやになる時期

およそすべての結婚生活を送る者に必ず訪れる倦怠期。ある者はそれを乗り越え、ある者はその壁を越えられずにそれまでの生活を精算します。
ここに一組の男女がいます。夫は人もうらやむ一流銀行の支店長、妻はちょっとした素封家の娘でした。しかし、倦怠期の最中、夫は不倫、使い込み、横領というコースで転落を辿り、世間から身を隠さなくてはならない存在になってしまいました。
いくつかの偶然と、2人の思惑が重なって、夫は妻が一人で暮らす家の納戸の住人となります。妻は離婚届けを書いてもらうことを条件に夫を匿うことにしました。そして、夫にとっては納戸にあいた節穴が世間との唯一の接点となったのです。
その節穴の先の世界に妻の現在の恋人が現れます。妻とその愛人の情事。妻の慌惚とした表情、必死にこらえながらも漏れ出すあえぎ、そして徐々に朱が射し潤いを帯びてゆく肌……夫は、かつて感じたことのない欲情と嫉妬をおぼえます。
夫に覗かれることの差恥心、恋人に対する罪悪感を持ちながら、自らの欲望に抗い切れない妻は、同様に未体験の興奮を感じている自分に気付きます。その興奮は、いつしか夫の存在さえどうでも良いものにしてしまう程のものでした。
《官能》という一方で、エロスには《生》という意味も有ります。妻にかってないエロティシズムを感じた夫は、暗い穴倉にいる生活から、本当の《生》を生きてゆこうと決意します。夫の存在によって究極のエロティシズムを体感した妻は、宙ぶらりんの状況から脱して新たな《生》を目指します。果たして2人の《生》が交わることはあるのでしょうか…。

直木賞作家・藤田宜永の傑作を映画化

『笑う蛙』は、『愛の領分』で第125回の直木賞を受賞した藤田宜永氏の傑作長編『虜』を原作にした、同氏にとって初めての自作の映画化となります。
小池真理子氏との2ショットで臨んだ受賞会見は、史上初の“直木賞カップル”として大きな話題を呼びました。話題面のみでなく、確かな筆力とバラエティに富んだ人物造形でストーリーテラーとして現代を代表する作家の一人が藤田氏なのです。
『文章につやが増してきた。久々に正統な恋愛小説家が現れた』というのは、同賞の選考委員でもある渡辺淳一氏の藤田氏に対するコメントです。ミステリー、サスペンス全盛の現代の文壇において、『鋼鉄の騎士』をはじめとする数々の傑作冒険小説から、恋愛小説家へと鮮やかな転身を果たした藤田氏の活動は、今後ますます目が離せないものとなるでしょう。
今回の原作『虜』について言えば、男女の心情を描いた物語であると同時に上質のサスペンスでもあります。これは、特異な般定であったり、主人公がいつ見つかるかという緊張感に溢れているということのみがその所以ではないでしょう。すなわち、恋愛小説としての完成度が高ければ高いほど、登場人物のテンションは上がっていき、それゆえに“心のサスペンス”とも言うべきものを感じ取ることが出来るからではないでしょうか。あまたのジャンルを横断することの出来る藤田氏だからこそ実現可能なボーダーレスな小説世界なのです。

現代の《夫》と《妻》の関係とは?

「家」や「土地」、そして「因習」から開放されて久しい現代では、日本固有の夫婦や家族のあり方はさまざまに変容しています。顕著な例としては離婚率の急増があり、俗に言う“仮面夫婦”まで含めると、その実態はもはや欧米並と言えるのではないでしょうか。
こうした夫と妻の在り方に材を採った映画が近年目だっています。洋画では『アイズ・ワイド・シャット』や『アメリカン・ビューテイ』、邦画では『ナビィの恋』や『はつ恋』がその代表例です。こうした映画は既婚者のみならず、その予備軍も巻き込み、いずれも好成績を収めました。
「夫婦喧嘩は犬も喰わない」という諺がありますが、こと映画に関しては、夫と妻の間に横たわる問題は彼岸の出来事として客観的に楽しめると同時に、自らの身にふりかかってくる可能性のある問題として切実なテーマともなりえるのです。本作『笑う蛙』は、中年の男女の「エゴ」と「心情のズレの哀しさ」を描きつつ、摩詞不思議な男女関係の深淵を見せてゆきます。

充実のスタッフ・キャスト

監督には『愛を乞うひと』『ザ・中学教師』『学校の怪談』シリーズの平山秀幸。デビュー作の『マリアの胃袋』や『ザ・中学教師』、中篇の『よい子と遊ぼう』のシニカルな視点と『学校の怪談』シリーズのコメディ・センス、さらに数々の映画賞に輝いた『愛を乞うひと』や昨年の『ターン』で実証した他の追随を許さない演出カでこの困難な題材に挑みます。
一幕ものの舞台劇ともなるこの原作の脚本化に挑んだのは『シャブ極道』『恋極道』『少女』の成島出。『ザ・中学教師』では助監督として平山監督作品にも参加しています。完成度の高い原作に大胆なアダプテーションを加えたこの作品でその実力が発揮されます。
技術陣は『愛を乞うひと』で数々の映画賞に輝いた現代日本映画界を代表する“平山組常連”のスタッフが勢揃いしました。撮影の柴崎幸三は、得意とするアクティヴなキャメラワークを封印し、落ち着いたフィックス主体の画面作りで登場人物たちの心情を切り取ることに挑みました。密室劇ともいえる今回の作品、光源の特定すらできない設定が多い中で、照明の上田なりゆきは限界を超えた微妙なグラデーションのライティングを施しました。映画のもう一つの顔である倉沢家のセットは美術の中澤克巳の手によるもの。住みやすさと洗練、そして生活感を微妙に漂わす室内のシーンは全てがセット撮影されています。さらに録音の宮本久幸は、世間の目から逃れる主人公たちの心情を効果音で描き分けることに挑戦すると同時に、密室劇でありながら空間の広がりを音で表現しています。編集の川島章正に課せられたのはワンシュチュエーションのこの物語でいかに飽きさせないカッティングをしてゆくかということ。基本的であるだけに、力量が試されるこの命題に挑みます。
もう一つの『笑う蛙』の話題は映画音楽が無いことです。登場人物も限られているこの作品、普通なら音楽のカを借りてアクセントをつけるべきところ、全く逆のアプローチをするという冒険に挑みます。
さらにエンディングテーマには泉谷しげるの名曲『春夏秋冬』が、挿入歌には三味線のニューウェーブ、吉田兄弟の『津軽じょんから節掛け合い弾き』がそれぞれ起用されています。
主人公の逸平には長塚京三。『絵の中のぼくの村』『瀬戸内ムーンライト・セレナーデ』『東京夜曲』をはじめ、数々の映画やTVで活躍中の実力派です。俳優界きっての“理想の男性上司”像と言われ、2001年の産業能率大学の調査でも、北野武、所ジョージ、長嶋茂雄、石原慎太郎に続き、総合で5位にランクされました。従来のイメージと正反対の役柄である今回の作品は、『ザ・中学教師』以来10年ぶりの平山監督との顔合わせとなります。
その妻の涼子には大塚寧々。独得の個性でTVやCMをはじめとして様々なメディアで活躍中の存在です。映画でも『スワロウテイル』『天国から来た男たち』など幅広いジャンルの作品で活躍中ですが、今回は純日本的な静謐な佇まいの内に秘めた、真に女性的な情念を見せてゆきます。
涼子の母・早苗には大ヴェテランの雪村いづみがあたり、その現在の恋人である相沢はミッキー・カーチスが演じます。長いキャリアの中で培われたその実力と、年月を経てなお涼やかさを増す雪村のキャラクター、俳優・ミュージシャン・落語家と様々な顔を持つミッキー・カーチスの他の追随を許さぬ個性は、日本映画の伝統の一翼を担ってきた歴史と実力を感じさせます。
そして涼子の現在の恋人・吉住には國村隼。『ブラックレイン』『萌の朱雀』『愛を乞うひと』とバラエティに富む出演歴を誇るいま最も充実している男優の一人です。アクの強いキャラクターを演じることの多い國村ですが、今回は唯一の心からの善人を演じます。さらに、南果歩、きたろう、三田村周三、金久美子らひとクセもふたクセもあるキャストが揃いました。静かで、それでいてサスペンスフルな演技の応酬も注目されます。

ストーリー



倉沢逸平は、かつてエリート銀行員だった。しかし、郊外の支店の支店長となったころから人生のレールが狂いはじめる。行きつけのバーのママに入れあげたのが躓きのはじまり、後ろ暗い融資の穴を埋めようとした先物取引で傷を広げ、ついにはマチ金に手を出し抱えた負債は8500万円。そして、顧客の預金を横領した逸平は立派な犯罪者となり、失踪。
あとに残されたのは妻の涼子。両家の子女で逸平とは見合い結婚。夫婦仲が上手くいってなかったわけではないのだが、さりとて良好ともいえない。夫の不祥事もどこか他人事の彼女にとって大事なのは、もっぱら世間体。逸平の失腺の後は、家を処分し、実家の別荘に移り住む。

さて、50歳を目前にし、逃亡に疲れた逸平、隠れ家にと思い出したのがほとんど使ってなかったこの別荘。そして、夫婦のハチあわせ。自首を勧める涼子と、逃亡を続けたい逸平の話は平行線かとおもわれたが、ここで涼子から意外な提案。一週間匿うので、出てゆくときに離婚届けの判を押せという。涼子には現在吉住という恋人がいて、再婚を望まれているのだ。選択の余地のない逸平は、かくしてこの別荘の納戸の住人となる。そして壁の隙間から目にするのは、涼子と吉住の情事。妻に対してとうに情は失っていると思っていたが、覗き見ているという状況も手伝って、逸平は激しい興奮を覚える。目の前の涼子の姿態は、かってないほど官能的であった。僅かの距離であるだけに、絶対に手の出せない自分に逸平は激しく煩悶する。涼子も逸平の目を意識しながら振舞っている自分が演技をしているのか、ありのままの自分なのか判らなくなってゆく。妻という意識はとうに捨て去っていたはずなのに、夫の存在を体のどこかが勝手に感じて、それゆえにかってない陶酔に溺れてゆく…。

スタッフ

企画:佐々木史朗、渡辺敦
製作:岡本東郎、石川富康、升水惟雄、飯田隆、鎌谷照夫、多井久晃
プロデューサー:福島聡司、久保田傑
原作:藤田宜永『虜』(新潮文庫刊)
脚本:成島出
撮影:柴崎幸三
照明:上田なりゆき
美術:中澤克巳
録音:宮本久幸
編集:川島章正
エンディングテーマ:『春夏秋冬』(作詞・作曲・唄 泉谷しデる:フォーライフレコード)
挿入曲:『津軽じょんから節掛け合い弾き』(演奏 吉田兄弟:ビクターエンタテインメント)
文芸協力:サワズ株式会社
監督:平山秀幸

キャスト

倉沢逸平:長塚京三
倉沢涼子:大塚寧々
相沢紀一郎:ミッキー・カーチス
吉住暁男:國村隼
稲松健太朗:きたろう
宇崎刑事:三田村周三
稲松咲子:金久美子
本吉貴子:南果歩
稲松早苗:雪村いづみ

LINK

□公式サイト
□この作品のインタビューを見る
□この作品に関する情報をもっと探す