黒木和雄監督特集 劇場用映画初監督作品「とべない沈黙」から最新作「父と暮せば」メイキング映像まで、 全劇場用作品を「父と暮せば」公開を記念して特別に一挙公開。

2000年/日本映画/35mm/カラー/112min/ヴィスタ 企画協力:映画同人社/制作:松下エージェンシー 製作:アートポート、衛星劇場 配給:アートポート/配給協力:シネカノン

2004年8月14日(土)〜21日(土)までテアトル池袋にてデイロードショー!! 2000年11月04日より渋谷シネ・アミューズほか、全国順次ロードショー! 2001年4月6日ビデオ発売

(C)2000 アートポート/衛星劇場

公開初日 2004/08/14

公開終了日 2004/08/21

配給会社名 0014

解説


10年の沈黙を破り黒木和雄完全復活
若手監督が台頭する日本映画界に映画の真髄を極めた名匠が挑む復活,そして再生の物語。

 『とべない沈黙』(66)、『竜馬暗殺』(74)、『祭りの準備』(75)、『TOMORROW/明日』(88)等の数々の名作で知られる黒木和雄監督が劇場に帰ってくる。常に時代と切り結んできた確かな目。そして、原田芳雄、勝新太郎、桃井かおり、松田優作ら名優たちとの仕事で知られる俳優人との真剣勝負。『浪人街』(90)の後、10年の沈黙を経て描き出したのは監督自身の「現在」を重ねたひとりの男の復活と再生。置き忘れたものと明日への貪欲な欲望が交錯する東京・リバーサイドを舞台に、そこにひっそりと、そして確かに息づいている「生」と静かに揺らめいている「情念」を映しだしていく。

男はスリ。一匹狼、生涯現役。男を慕う女と若者たち。
行着く先は男の指だけが知っている。

 通勤ラッシュで混み合う車内。かって名うてのスリとして鳴らした海藤は、ここが狩り場のハコ師。極度の緊張を強いられる毎日を酒に頼って生きてきた。酒を断つことができない震える指先に技の冴えはもう無い。腕に覚えがあるものとして死んだも同然の海藤が息を吹き返す日はやってくるのだろうか…
 幼い頃、親に捨てられ海藤に育てられたレイ、レイの鮮やかな技に魅入られ海藤に弟子入りする一樹、そして自らもアルコール依存の過去を持ち一向に酒を止められない海藤に苛立ちながらも惹かれていく鈴子。誰とも馴れ合わず指先一つで生きることを捨てきれない海藤と彼らはその指先で絡まり合いながら、都会の片隅で生きている…。

時代を狙う俳優人が集結
原田芳雄、真野きりな、柏原収史、風吹ジュン
指が奏でる四重奏(カルテット)

 元田愛社会の明暗を映し出し、人物の陰影を豊かに演じる力量を持つ役者たち。黒木監督のもと集まった彼らは、個々に持ち味を発揮し、新しい魅力としての役者の逞しさを遺憾なくアピールする。主人公のスリ、海藤を演じるのは黒木監督とは『竜馬暗殺』以来30年近い友情で結ばれた原田芳雄。圧倒的な存在感と確かな演技力で日本映画を支える彼が孤独な初老の男を演じ新境地を開拓している。キーパーソンとなる里村レイ役に『BULLET BALLET』や『8 1/2の女たち』で海外でも注目を浴びる真野きりな、レイに心惹かれる若者・一樹には新鋭、柏原収史を抜擢。ふたりは現代の若者の肖像をリアルにエネルギッシュに演じ切り、ベテランが醸す情念の世界に鮮烈な彩りを加えた。海藤に反目しながらも次第に惹かれていく女・鈴子に『原子力戦争—LOST LOVE—』(74)『無能の人』(91)の風吹ジュン、元世界ジュニアバンダム級チャンピオンで「アンタッチャブル」と謳われカリスマ的人気を誇る川島敦志も出演を快諾。彼にとっては本作品が映画初出演となった。海藤を追いつつも奇妙な友情で結ばれる刑事に石橋蓮司、さあらに平田満、香川照之など、演技力確かで、個性豊かな顔ぶれが脇をかためている。

ストーリー



 通勤客で混み合う車内、名うてのハコ師と謳われたスリの海藤(原田芳雄)は、痴漢の懐に目を注いでいた。痴漢されている女は海藤の同居人レイ(真野きりな)。海藤はレイを囮にして、カモを狙っていた。その時「やれよ、見逃してやるから」初老の刑事矢尾板(石橋蓮司)が蔑みの声でささやいた。震える指先を新聞で覆い隠す海藤に「稼がなきゃ困るんだろう」刑事の言葉が鋭く突き刺さる。いつの頃からだろう、スリの名人海藤を猟犬のように、執念深く追いつづけてきた刑事の矢尾板…しかし、かっての宿敵海藤はアル中のスリに成り果てていた。

 海藤は、大都会東京の下町リバーサイドの空きビルにひっそりと住んでいる。海藤が拾って育てた若い娘レイは、野犬を処理する施設で働きながら、海藤のスリを手助けしている。一緒に育てられたレイの兄アキラ(川島敦志)は海藤に反発して家を飛び出し、いまでは外国人を手下にした集団スリのボスになっていた。海藤はレイに勧められた断酒会にも気が進まず、愛人の芳江(伊佐山ひろ子)と逢引を繰り返す。断酒会を主催する鈴子(風吹ジュン)は、一向に顔を出さない海藤を気にかけていた。

 ある日、レイがズるところを目撃した若者、一樹(柏原収史)は、レイに魅了されスリになろうと決意する。芳江の息子であった一樹は、海藤に弟子入りを許される。海藤は一樹を使うことで酒を断ち、スリとしての再生に賭ける。一樹のトレーニングの日々が始まった。レイと一樹は、海藤と暮らすうちに、いつしか深く愛し合うようになる。

 断酒会で鈴子を支えてきた鴨井(香川照之)が、失恋から酒を飲み、暴れた。鈴子は虚無感に襲われ、断酒会を辞めようとする。そんな鈴子に追い打ちをかけるように、レイは海藤がスリであることを心ならずも話してしまう。

 酒を断ち、トレーニングを続けた海藤は、車中の矢尾板から警察手帳を見事スってしまう。驚きながらも喜びを隠せない矢尾板。一方、海藤に恨みを持つアキラは、弟子となった一樹を拉致し、海藤に金を要求する。レイは一樹の子を身篭っていた。手下を引き連れやってきたアキラはレイと一樹の前で非情にも海藤の右指を踏みつぶす。

 数日後、傷心の鈴子は、酒瓶を手に海藤を訪ねる。指をつぶされ絶望的な海藤に、酔った鈴子が心情を告白する。初めて二人の心と心が通い合った。ベッドで眠る鈴子をよそに、海藤は部屋を出る。ビルの空き部屋では具象とも抽象ともつかぬシュールな絵の個展が開かれていた。男の後姿に真っ直ぐな道が伸びている絵に魅入られた海藤は駅へと向かう。ホームで電車を待っているサラリーマンから、海藤はつぶされた指で財布をスる。激痛に顔を歪める海藤。反対側のホームではその全てを矢尾板が見ていた。海藤はゆっくりとホームの端に向かって歩き出す。

 空きビルの屋上ではひとり残された鈴子が佇んでいた。

スタッフ

製作:松下順一、石川富康
企画:加藤東司、深田誠剛
プロデューサー:米山紳、松岡周作
脚本:真辺克彦、堤泰之、黒木和雄
撮影:川上皓市
照明:磯崎英範
録音:久保田幸雄
美術:木村威夫
音楽:松村貞三
挿入曲:『Weathers』(「低温火傷」より)haiビクターエンターテインメント
題字:赤松構造
助監督:大崎章
アシスタント・プロデューサー:日向寺太郎
監督:黒木和雄

キャスト

海藤正彦:原田芳雄
松浦鈴子:風吹ジュン
里村レイ:真野きりな
布部一樹:柏原収史
渡辺:平田満
鴨井:香川照之
里村アキラ:川島敦志
新井:岸本祐二
歌手:hai
スられる女:真理明美
マジシャン:北見マキ
立花:すまけい
布部芳江:伊佐山ひろ子
矢尾板徹:石橋蓮司
©2000 アートポート/衛星劇場

LINK

□この作品のインタビューを見る
□この作品に関する情報をもっと探す