原題:Gouttes d'eau sur pierres brulantes

フランス新世代のトップランナーが捧ぐ、ファスビンダーへの熱いトリビュート

2000年ベルリン国際映画祭テディ2000賞授賞作品

2000年3月15日フランス公開

2000年/フランス映画/カラー/35mm/90分/ヴィスタサイズ/ドルビーSRD/日本語字幕:松岡葉子 配給:ユーロスペース

2003年01月24日よりDVD発売開始 2002年02月22日よりビデオ発売&レンタル開始 2001年7月21日より、ユーロスペースにて公開

公開初日 2001/07/21

配給会社名 0131

公開日メモ これまでのオゾン映画と一味違う要素を持つ意欲作となった『焼け石に水』は、結果として、彼の長篇3作中で最も高い評価と幅広い成功を得ることになった。これまで賛否両論に分かれることが多かったプレス評も今回は好意的な批評一色だった。

解説


《フランス新世代のトップランナーが捧ぐ、ファスビンダーへの熱いトリビュート》
フランソワ・オゾン。1967年パリに生まれ、新しい国立映画学校フェミスの生んだ逸材として、93年卒業直後から才気走った短中篇(『サマードレス』『海をみる』等)を連作。数多くの映画祭受賞歴やTV放映で異例の注目を集め、30才にして初長篇『ホームドラマ』を98年カンヌ国際映画祭批評家週間に出品。シットコム(連続TVドラマのシチュエーション・コメディ)形式をパロって神経症的ブルジョワ家庭の崩壊を描き、続く『クリミナル・ラヴァーズ』(99年ヴェネチア国際映画祭出品)では17才カップルの理由なき殺人と逃避行を、深い森の中でグリム童話の世界へと変容してみせた。

長篇3作目の『焼け石に水』は、36才で急逝したドイツの伝説的な映画・演劇人R・W・ファスビンダー(1946〜82)が19才で書いた未発表の戯曲が原作。敬愛するファスビンダーへのトリビュートとして、彼が生きた70年代ドイツの雰囲気をシンプルなインテリアや小道具で表現、ロケや大掛かりなセットも排し撮影所内のみで4幕の室内劇に挑んだ。

キャスティングもベテランと新人を組ませた異色の取り合せ。なかでもアメリカ・インディペンデント映画界のカリスマ女優アンナ・トムソン(『ファストフード・ファストウーマン』)が性転換した元男性を演じるのはいかにもオゾンらしい人選だ。

《ベルリン映画祭でテディ賞(最優秀ゲイ&レズビアン映画)受賞。ジョン・ウォ一夕ーズも絶賛》
これまでのオゾン映画と一味違う要素を持つ意欲作となった『焼け石に水』は、結果として、彼の長篇3作中で最も高い評価と幅広い成功を得ることになった。これまで賛否両論に分かれることが多かったプレス評も今回は好意的な批評一色だった。

コンペティションに正式出品された2000年2月の第50回ベルリン映画祭(『マグノリア』が金熊賞)では、”テディ2000″賞(劇映画部門)が『焼け石に水』に与えられた。テディ賞は、映画祭全部門を対象に「最優秀ゲイ&レズビアン映画を選び顕彰するため1987年に創設、国際審査員9名は世界のゲイ&レズビアン映画祭関係者で、過去にペドロ・アルモドバルやガス・ヴァン・サントらも受賞している。

また、オゾンが師と仰ぐ”悪趣味の達人”ジョン・ウォーターズ監督も、2000年度ベスト10映画に『焼け石に水』『クリミナル・ラヴァーズ』と2本もオゾン作品を選出(「アートフォーラム」誌2000年12月号)。『焼け石に水』については「僕の新しいお気に入りフランス作家が監督した、フェイク・ファスビンダー映画。これほど映画的に正しいネクロフィリア(死体愛)はないね」と絶賛。死後20年近くになる作家の、上演も映画化もされなかった原作をその作家のスタイルと精神で映画化した点を高く評価した。

《ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー(1946〜82)について…》
ファスビンダーは、70年代に世界の映画界を震憾させた”ニュー・ジャーマン・シネマ”の代表格としてヴェンダース、ヘルツォークと並ぶビッグネームだった。早熟なミュンヘンの不良少年は映画大学の入試に落ちて自主映画を作り始め、まもなく仲間と「アンチテアター(反演劇)」というアングラ劇団も結成。ダニエル・シュミット監督の親友で彼の『天使の影』の脚本・出演。女優・歌手のイングリット・カーフェンと一時結婚歴もあった。セルジュ・ゲンズブールのように永遠の不良少年だったファスビンダーは、ゲイを公言しユダヤ人問題や外国人排斥、過激派テロなどのタブーにも踏み込むなど異端児・反逆児として扱われながら、矢継ぎ早に映画・演劇を発表。特異なメロドラマ的美学と権力・差別を斬る冷めた政治性が共存した独自の心理劇で、若くして評価を確立。82年6月に急死し世界に衝撃を与えた(麻薬常用者で薬物過剰摂取が死因とされる)。

ストーリー

第1幕
70年代、ドイツ。20歳の青年フランツ(マリック・ジディ)は街で中年の男レオポルド(ベルナール・ジロドー)に声をかけられ、婚約者アナ(リュディヴィーヌ・サニエ)とのデートをすっぽかして、彼の家を訪ねる。初めは軽くワインを飲み交わすだけでそこを立ち去ろうとしたフランツだったが、次第にレオポルドの不思議な魅力にとらわれていく。
レオポルドはかつて愛し、7年間同棲した女性とのセックスについて話し、フランツにアナとの関係を聞く。フランツは高校の同級生だった彼女を本当に愛しているかわからないから、それについては考えないと話す。彼女とのセックスで感じたこともないと。そして彼にとって一番大切なのは”本や芸術”なのだと言う。レオポルドはその後、フランツを競馬ゲームに誘う。「ゲームをすると君がわかるから」と。そして「君の瞳が茶色で、髪が赤毛で、足が筋肉質だから誘うのだ」と続ける。
ゲームをしながらレオポルドはフランツに様々な注文をつける。「黒い服は似合わないから緑の服を着ろ」「肌がもっときれいになるからタバコはやめろ」…。そんな言い草にいらだったのか、フランツはゲームに負けると癇癪を起こした。やがて、かつていた男子寮での話しをすると、レオポルドはフランツに男子寮で男と寝た経験があるかと聞く。レオは自分がバイセクシャルであることを告白する。女性と同棲していた時期に別の男性ともつきあっていてセックスは男の方が良かったと、誘うようにフランツを見る。そしてフランツは母親の空想上の再婚相手の男が、彼のベッドに入りこんでセックスした夢を見たことを告白する。男は部屋に入ってきたときに、なぜかコートを着ていたということも。レオポルドはフランツに強引なキスをし、「ベッドで裸で待っていろ」と命令する。フランツは逆らえず、そして期待に胸が膨らむ。レオポルドはコートを着て、寝室に現れる。フランツは全裸だ。

第2幕
フランツは恋におちた少女がそうするように、レオポルドの家のバスルームでハイネの詩を口ずさむ。それから念入りに身支度をする。眉を整え、ドライヤーで髪をブローし、制汗剤を吹きつける。フランツはレオポルドの家で同棲生活をおくっていた。
しかし1週間ぶりで出張から戻ったレオポルドは、かいがいしく世話をするフランツにぞんざいな態度で当り散らす。哀しそうな表情をすると、レオポルドは彼の機嫌をとるように抱きしめ、ベッドでの自分がどんなに良いかを確認するように耳打ちする。そして「永遠に君だけだ」と殺し文句を言う。それに対しフランツは「永遠はないよ。やがて僕は捨てられる」と言うのだった。
ある晩、レオポルドは「人を殺した」とフランツに告白する。保険に全財産を投資した老人が破産して、自殺したと言うのだ。それでずっといらだっていたという。「あなたのせ
いじゃない」と慰めるフランツ。一瞬立場が逆転して、フランツは出会った日にレオポルドにそうされたように、全裸で寝室で待っていろと命令し、コートを着て寝室に入ってくる。それはロールプレイング・ゲームのようだった。

第3幕
ある日、一人の女性がレオポルドを訪ねてくる。フランツが応対に出てレオは休んでいるというと、「訪ねてきたことは秘密にしてて」と言い残して立ち去って行く。
二人の関係は、ベッド以外では険悪なものになっていた。相変わらずレオポルドはフランツにあたりちらしていた。いらだったフランツが大ボリュームでレコードをかけると、レオの怒りは心頭に達する。また別の日、ささいなことで喧嘩を始めた二人は、ついに別れを口にする。荷物をまとめて出て行こうとするフランツ。しかしやはり出て行くことはできない。袋小路に追い詰められたような表情のフランツ。さらにレオポルドは「少しでも働いてお金を入れろ」と追い打ちをかけるのだった。
ある日、アナから突然の電話があった。会いたいと言うのだ。レオポルドが出張に出かけた後、フランツはひとり家事をこなすがうつろなままだ。そこにアナが訪ねてくる。暗闇の中で膝を抱えて泣くフランツは、レオポルドとの関係に絶望感を抱いていた。アナはフランツを愛しているという。そしてフランツは、まるでレオポルドにでもなったかのように支配的にアナを抱くのだった。もちろん初めは、コートを着て。

第4幕
翌日目覚めたアナは、初めて性の充実感を感じていた。フランツにレオポルドと別れるよう促し、今日にでも家を出ようと誘う。別れなければいけないと思いつつ、なかなか決断できないフランツ。想い出のシャンソンをかけ、さらに思いにふける。
以前訪ねてきた中年の女性が再び訪れるが、アナの姿を見て、避けるように去って行く。
フランツが別れる決心をして荷物をまとめていると、予定より早くレオポルドが帰ってきた。フランツの様子を見ても相変わらず高圧的なレオポルド。下着姿のアナを品定めするかのように、視線を送る。アナに興味があるようだ。
そんな時、再び中年の女性が現れた。レオポルドが応対にでるといきなり抱きつく女性。かつて一緒に暮らしていたヴェラ(アンナ・トムソン)だ。フランツとアナにその女性を紹介するレオポルド。かつては男性だったがモロッコで性転換手術を受けたという。そしてフランツと同じでどこでも寝るのだ、と彼女を紹介する。フランツは侮辱に怒り、出て行こうとするが、アナは面白がり、もう少しいたいと言う。そして主従関係をわからせるかのように、女たちにも高圧的な態度をとるレオポルド。その関係にあっけなくはまるアナ。そしてかつてそうされていたヴェラ。従順な女たちとは対照的に、精一杯反抗的な態度をとるフランツ。そしてその濃密な空気を打ち破るように、4人はサンバを踊る。
踊り終わると、レオポルドは「全員寝室へ」と命令する。喜ぶ女たち。躊躇するフラン
ツ。「来ないのか」というレオにフランツは「僕が必要?」と聞く。レオは「君がわたしを必要なのだ」と言い放つ。
フランツはかつて恋し始めたときに詠んだハイネの詩をふたたび口ずさむ。三人がいる寝室を覗くが、踏み込めない。レオを銃殺することを夢想する。そして絶望する。
寝室では、アナとフランツばかりが盛り上がり、ヴェラは取り残されていた。二人を残し、リビングに戻るヴェラ。彼女もまた失望感にさいなまれている。リビングの床にはフランツがヴェラの毛皮のコートを羽織り、横たわっている。彼は泣いていた。
ヴェラは告白する。若かった頃のレオポルドとの出会いを。彼とのセックスにより、初めて生きている実感をつかんだことを。そしてやがて男の自分に飽きられ、女性になったものの、彼の気持ちをつなぎとめておけたのは一時にすぎなく、その後は娼婦になったことを。それでも彼を忘れることはなく、これからもそうだろう、という絶望を。フランツはそれを聞いて、自分も同じだと言う。そして「これが愛だ」と。
フランツは毒を飲んでいた。死期が迫っていた。母親に電話をし最後の別れを告げると、ヴェラが見守る中、静かに死んでいく。
慌ててレオポルドを呼ぶヴェラ。初めこそ驚くが、とたんに冷静になるレオ。アナは狂乱状態となるがレオにさとされ、寝室に戻る。
レオポルドはフランツの母親に彼が死んだことを連絡し終えると、警察はあとでいいという。そしてなにごともなかったかのように、ヴェラに服を脱いで寝室に行けと命ずる。「私が必要なの?」というヴェラにフランツは、「君がわたしを必要なのだ」と言い放つ。
ヴェラはフランツが着たままの自分のコートを取り戻そうとするが、やめる。そして窓を開け放とうとするが、窓は開かない。立ちすくむヴェラ。

スタッフ

監督・脚本:フランソワ・オゾン
原作:ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー
撮影:ジェーン・ラポイール
録音:エリック・ドゥブルドゥール
編集:ローレンス・ボーディン
美術:アルノー・ド・モレロン
衣裳:パスカリーヌ・シャヴァンヌ
音楽:「夢」フランソワーズ・アルディ
   「交響曲第4番ト長調」グスタフ・マーラー
   「アンセム祭司ザドクHYVU.258」ゲオルグ・フリードリヒ・ヘンデル
   「ぼくとサンバを踊ろう」トニー・ホリディ
プロデューサー:オリヴィエ・デルボスク、マルク・ミソニエ、
        アラン・サルド、クリスチーヌ・ゴズラン
製作会社:フィデリテ・プロダクション(フランス)、 
     レ・フィルム・アラン・サルド(フランス)
共同製作:ユーロスペース(日本)、ストゥディオ・イマージュ6(フランス)

キャスト

ベルナール・ジロドー
マリック・ジディ
リュディヴィーヌ・サニエ
アンナ・トムソン

LINK

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