世界初!ろう者と聴者が共につくる劇映画

1999年/日本 配給:こぶしプロダクション

2002年03月22日よりDVD発売開始 2002年3月22日よりビデオリリース 1999年12月18日より銀座シネパトスおよびBOX東中野にて再上映 1999年12月11日よりBOX東中野にて公開 1999年11月6日より銀座シネパトスにて公開

公開初日 1999/11/06

配給会社名 0138

公開日メモ 本映画「アイ・ラヴ・ユー」では、こうした素晴らしい手話の数々を、ろう者の俳優ならではのすぐれた表現力で存分にお見せしたいと思います。

解説

◇こころのバリアフリーを願って

 障害者は特別な人間ではありません。もの珍しい存在でも、可哀相な存在でもありません。たまたま、耳がきこえない、目が見えない、歩けない、それだけのことです。人間の価値とはなんの関係もないのです。

 1980年の国際障害者年を迎えて以降、障害者の「自立」と「社会進出」の機運が高まり、障害者は「一方的に保護される存在」ではなく、「社会の一員として、主体的に生きていく存在」という考え方が徐々に広まってきました。しかし、残念ながら現実の社会では、未だに障害者に対する差別や偏見がなくなっていません。
 ろう者の場合にも、手話で会話をしていると、もの珍しげに見られたり、憐憫の眼差しを浴びたり、耳がきこえないということが特別視された時代がありました。勿論、現在では手話サークルや手話通訳者が全国に広がり、手話に理解を示す一般の人びとが増えています。が、それでろう者への理解が深まったと思うのは早計です。

 ろう者と聴者が、本当に理解しあうためには、もっともっと両者の交流を盛んにし、お互いのこころがふれあう関係になったとき、はじめて、こころのバリアフリーが可能になるのだと思います。
 ろう者の真実の姿を「知らない」ことから生じるバリアが、より深く「知る」ことによってフリーになる。このことこそ、本映画「アイ・ラヴ・ユー」を創る最大の願いなのです。

◇ろう者の言葉「手話」の認知度を高める

 言う迄もなく、手話はろう者の大切な言葉です。それは聴者の聞いて話す「音声言語」に対して、見て表わす「視覚言語」とも言われ、「見る言葉」で「聞く言葉」ではありません。
聴者は、実際のものを見て、耳で聞き、喋り、覚えて言葉にしますが、ろう者は、実際に目で確め、覚えて手話の言葉にするのです。
 手話は、聴者の言葉を代弁するためのものではなく、視覚言語として独立した存在なのです。

 さて、一口に手話と言っても様々な伝達手段があります。口話と読話、筆談、空書、身振りや表情などを使って表わす手話は、手だけで話す言葉ではないのです。例えば、満員電車の中で、両手が使えない状況の時は、顔と口話で話します。眉や目、口、顔全体の表情や首の上下などで十分に会話が成立するのです。
このように、ろう者にとって手話は、「音声言語」に勝るとも劣らない誇れる言語なのです。そして、手話がもっと広く、学校や職場や街角で使われることを望んでいます。社会の中で、手話で語る仲間がふえれば、ろう者の世界も広がっていくのです。

 本映画「アイ・ラヴ・ユー」では、こうした素晴らしい手話の数々を、ろう者の俳優ならではのすぐれた表現力で存分にお見せしたいと思います。
 また、劇中劇の場面では、日常会話の手話を芸術的に昇華させた手話表現に挑戦してみたいとも思っています。
 そして本映画が、手話に対する正しい知識と、その認知度を高めることに貢献できることを心より願っています。

ストーリー

 ここは静岡市の郊外———。
 ろう者の水越朝子(29)は、消防士の夫・隆一(32)と、おませな小学1年生の娘・愛と3人で、平凡ながら幸せな生活を送っていた。
隆一も愛も手話は完璧で、特に愛は、耳のきこえない母のために少しでも手助けしようと、1年生とは思えないくらいしっかりした子どもに育っていた。

 そんなある日、思いがけないことが起こった。愛が、学校でいじめられているというのである。
 どうやらいじめっ子は、朝子と愛が手話で話しているのを見たらしく、「お前のかあちゃん、変な奴!」と、愛をからかっていたのである。
 朝子は、愛の授業参観に出掛けて行き、自分をネタにいじめられている愛を見てショックを受ける。手話のことをなんとか判って貰おうと、喋れば喋るほど、教室内は「へーん!」「可哀相!」の雰囲気一色になる。焦る朝子に追い打ちをかけたのは「ママ、どうして学校に来たの!」という愛の一言だった。「愛も私を恥ずかしいと思っているの?」朝子は愕然とした。
 朝子から話を聞いた隆一は、「ママや手話を恥ずかしがっちゃいけない」と愛に話す。
愛の担任も子どもたちに「耳のきこえない人には、思いやりを持ちましょう」と言ってはくれるのだが……。朝子が愛に伝えたいものは、「思いやり」や「可哀相」という感情ではなかった。耳のきこえない母親を持っても幸せだった。手話ができて楽しいという感情こそ、愛に感じて欲しかったのだ。

 朝子は、遂にろう者劇団に入ることを決意する。以前から、ろう学校時代の演劇部で一緒にやっていた勝子(29)に誘われていたのだ。手話の表現力を生かせば、自分たちにしかできない面白い芝居ができる。朝子は、そのことを愛に実証してみせたかったのである。

 だが、勝子のろう劇団は人材不足で開店休業の状態だった。現在のメンバーは、頑なにろう者仲間にしか心を開かない中年女性・小百合(45)と勝子の二人だけ。小百合の息子の崇がいるが、名前だけの幽霊団員だ。朝子は、勝子や小百合にハッパをかけて、新しいメンバーを募集することにする。

 やがて、若い女性がやってきた。健聴者一家で、一人だけろうに生まれた夏実(21)だった。親の方針で普通校に通っていた夏実は手話もあまり使えず、孤独を感じていたのである。
 次にやってきたのは、聴者の中年男・森田(45)だった。東京でプロの役者をやっていたというのが自慢で、確かにパントマイムをやらせると抜群にうまい。しかし、森田のために手話通訳者を雇う余裕などある筈がない。朝子は残念に思いながらも入団を断るのだった。

 数日後、再び森田がやってきた。今度は専属の手話通訳者を伴って。
 それを見た朝子が唖然としたのも道理で、森田が連れてきた手話通訳者とは、なんと、愛だったのである。森田のマイムをすっかり気に入った愛は、一緒に劇団に入りたいと言う。朝子は反対するが、隆一は愛の熱意を受け入れる。

 ところが、森田が入ったことで、今度は聴者への偏見を持つ小百合が、面白くないと言い出した。小百合と森田はことある毎に対立する。その度に、通訳の愛は孤軍奮闘し、時には意訳したり、時には嘘の通訳をして、喧嘩にならないように気を遣わなくてはならないのだった。

スタッフ

プロデューサー:佐々木裕二、川崎多津也
原作・脚本:岡崎由紀子「アイ・ラヴ・ユー」ひくまの出版刊
監督:大澤 豊、米内山明宏
撮影監督:岡崎宏三
音楽:佐藤慶子
美術:丸山裕司
照明:山本眞生
録音:本田 孜
編集:諏訪三千男
スクリプター:天池芳美
助監督:濱田兼吾
製作担当:佐々木雅人
手話コーディネーター:妹尾映美子
字幕制作:飯村俊子
音楽監修:稲垣潤一
宣伝プロデューサー:瀧上幸次郎/高村真理子

キャスト

水越朝子:忍足亜希子
水越隆一:田中 実
水越 愛:岡崎 愛
森田雄功:不破万作
佐々木勝子:高野幸子
桜庭小百合:関 千里
今野夏美:植村梨奈
桜庭 崇:砂田アトム
花岡美由紀:八木小織
永井雅彦:守谷勇紀
宮本リサ:オリベイラ・サユリ
山田里佳子:高橋千晶
深沢さおり:石川桂子
岡田健太:関塚一馬
真理子:金原佐希子
尚美:佐口美那
服部啄也:本宮泰風
田島清春:宍戸 開(友情出演)
村上 昇:久保 明
村上悦子:高田敏江
村上今日子:西村知美(友情出演)
今野 宏:新 克利
今野智子:根岸季衣
森田恵子:あき竹城
森田の長女:菅明日香
森田の次女:鈴木稀美子
森田の三女:宮司夏帆
山田課長:真実一路
鶴見英子:五十嵐めぐみ
宍戸礼子:妹尾映美子
三浦比佐子:雪絵ゆき
牛山光枝:坂上せつ子
浮浪者の男:吉田祐健
高柳浩太郎:多々良純
高柳家の嫁:浜菜美也子
チンピラA:中野 圭
チンピラB:マサト
米内山明宏:米内山明宏
小池紀子:小池紀子
小川 良:佐久間哲
雑貨屋の主人:忍竜
黒柳徹子:黒柳徹子(特別出演)

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