原題:Delbaran

もう大丈夫ひとりじゃないから 銃声轟くアフガニスタンから逃れてきた少年 ささやかなカフェを営む年老いた夫婦 砂漠の町デルバランで愛を求める人々はめぐりあう

第2回東京フィルメックス TOKYO FILMeX 2001 コンペティション参加作品::http://www.filmex.net/index.htm 2001年ロカルノ映画祭審査員特別賞、国際シネクラブ連盟賞、ヤング審査員賞受賞 2001年ナント三大陸映画祭グランプリ

イラン=日本/2001年/96分/カラー 製作:ティー・マーク、フィルム・エ・アヴァル 提供:オフィス北野、バンダイビジュアル/配給:ビターズ・エンド

2003年01月25日よりDVD発売開始 2002年3月30日よりシネ・ラ・セットにてロードショー公開

公開初日 2001/11/18

公開終了日 2001/11/26

配給会社名 0071

公開日メモ イラン映画界においてキアロスタミに続く才能として大きな注目を集めているアボルファズル・ジャリリ監督の最新作である。

解説


砂漠の真ん中にある小さな町デルバラン…一
その昔、愛する人のため家を捨ててきた恋人たちは、この町へとやってきて身を隠した。
そんな恋人たちが会う場所として、デルバランのカフェはこの土地に建てられた。
しかし今では、このカフェを訪れるのは、密輸商人、違法労働者、麻薬密売人たちである。
このカフェヘ、キャインという名の少年がやってくる。

『少年と砂漠のカフェ』のワールド・プレミア上映となった、2001年ロカルノ国際映画祭。
終映後、満席の場内からは拍手喝采が湧き起こり、フランスの有力紙ル・モンドは
「監督のアボルファズル・ジャリリは、その途方もない才能の荒々しくかつ叙情的な一吹きによって、
ロカルノ国際映画祭のコンペティションに生気を与えた」と絶賛の評を掲載した。そして『少年と砂漠のカフェ』は、
準グランプリにあたる審査員特別賞だけでなく、国際シネクラブ連盟賞、ヤング審査員賞の三冠を受賞するという快挙を成し遂げた。
その後も各国の映画祭で絶賛され、東京フィルメックスでは審査員特別賞、ナント三大陸映画祭では見事グランプリの栄誉に輝いた。

アフガニスタンとの国境に近いイランの小さな町デルバラン。14歳の少年キャインは、戦火の故郷を後に、国境を越えてやってきた。ささやかなカフェを営む年老いた夫婦のもとに流れついたキャインは、息子のように扱ってくれる彼らに応えるため、草むしりや水汲み、買い出しや給仕の仕事と、一生懸命働く。そんな暮らしの中で、キャインは今まで味わったことのなかった愛情を感じるのであった。しかしある日、警官がカフェにあらわれキャインを不法入国者として逮捕してしまう。

『少年と砂漠のカフェ』は、家族から離れて見知らぬ土地で働かなければならない、アフガン難民の少年キャインの日常を綴ってゆく。普通の子供には辛い仕事も、祖国での測りしれない苦難を経験しているキャインにとっては、何の苦労もない。文句ひとつ言うことなく黙々と働く。子供でありながらも、生き抜いてゆく術を自然と身につけ、大人と対等にやりあう。決して寂しさや哀しみを表に見せることなく、生きることに懸命なキャイン。そんな彼の健気にもたくましい姿は、観るものすべての心を震わせることだろう。

頼れる人もなくひとりで生きてきたキャインは、カフェでの生活の中で、初めて人の優しさにふれる。そして、かたくなに閉ざしていた心を少しずつ開いてゆく。老夫婦との間に生まれる親子のような絆や、カフェに出入りする人々との交流。お互いがお互いを必要としていたかのように、彼らは家族的な関係を築いてゆく。いつしか、キャインにとってカフェは心のよりどころとなってゆく。

奇蹟の映像作家、
アボルファズル・ジャリリの集大成

監督は、ドキュ・ドラマと称される独特な映像表現によって、国際的に高い評価を受けている映画作家アボルファズル・ジャリリ。社会矛盾をリアルに描き出すそのテーマ性ゆえ、本国イランでは大半の作品が上映禁止となっている。過酷な状況下に生きる子供たちを、常に作品の中心に据えてきた彼が、本作『少年と砂漠のカフェ』の主人公に選んだのは、アフガン難民の少年である。ジャリリは、少年の日常のエピソードをひとつひとつ積み重ね、物語を紡いでゆきながら、その背景にある、今なお政治的混乱に揺さぶられるアフガニスタンの悲劇的な状況をも浮かび上がらせる。

本作でジャリリは、少年だけでなく、彼を受け止める大人たちにも焦点をあてる。キャインを逮捕する警官、そんな彼を助けるため警察に乗り込んで行くハレーおばあさん、一緒に働くハン老人やカフェに出入りする人々。大人たちは、積極的に少年の人生に関わってゆく。過去の作品において、前向きに生きる子供たちに比べ、大人たちは希薄で無力な存在であった。
子供と同じ目線で、子供を救うために映画を撮り続けてきたジャリリの興味は、大人の世界まで広がってきたと言えよう。このことは、これからのジャリリの新しい展開を予感させる。

運命の出会い——真実の物語の誕生

ジャリリは、ロケハンのため車で砂漠を走っていたところ、ひとりの羊飼いの少年に目を奪われる。彼こそが、本作の主人公キャインである。キャインがアフガン人であることがわかると、主人公の設定をアフガン難民の少年に変更し、物語を膨らませていった。この運命的な出会いから本作『少年と砂漠のカフェ』は誕生した。2001年9月11日、ニューヨークを襲った同時多発テロとそれに引き続くアフガニスタンヘの米軍の爆撃。この事件が起きる少し前、キャインは故郷に残っている家族に会いに行くため、アフガニスタンヘと戻っていった。しかしその後の彼の消息はつかめていない。映画を通して、キャインに自立することを教えたジャリリは、必ずもう一度彼に会えると信じている。

イランヘのアフガン難民の数は、150万人とも200万人とも言われている。アフガニスタンだけでなく、世界中の戦争や紛争がなくならない限り、キャインと同じような状況の子供たちが、いなくなることはないだろう。「国や民族によって人々を分けることは意味がない。世界中の人間がひとつの民族として共生すれば、戦争や紛争はなくなる」と考えるジャリリは、本作『少年と砂漠のカフェ』を世界中の戦災孤児に捧げている。

ストーリー



アフガニスタンとの国境に近いイランの小さな町、デルバラン。砂漠の中を通るデルバラン道に面し、ハンとハレーの老夫婦が経営するカフェがぽつんと立っている。

14歳の少年キャインは、戦火のアフガニスタンを後に、国境を越えイランヘと逃れてくる。トラックに拾われたキャインは、このカフェヘと連れてこられ、住み込みで働くことになる。

キャインはいろいろな仕事を任される。隣町へのガソリンや食料の買い出し、草むしりや水汲み、給仕の仕事と一生懸命働く。

——アフガン人か?出身は?
——ヘラート
——どこだって?
——ヘラートだよ

トラックの運転手たちでにぎわっているカフェ。そこへ国境警備の警官マハダヴィがやってくる。マハダヴイは、違法で入国したアフガン人がいないかどうかを見回っているのである。キャインは見つからないように、急いで身を隠す。

ある日、町の医師の車が故障してしまい動けなくなる。小学校教師の妻を車に残し、医師はカフェに助けを求めにくる。キヤインは車を修理する技師を呼ぶため砂漠を走る。車を修理している間、医師は、爆撃音のため、調子が悪くなったキャインの耳を診察する。

——君の家族はどこにいる?アフガニスタン?戻りたいか?
——戻りたくない、戦争しているから
——君のお母さんは?
——飛行機が爆弾を落として母さんを殺した、姉さんはアフガニスタンにまだいるんだ。
——会いにいきたいか?
——会いたくても無理だ、行きたくない
——君の父さんは?
——父さんはタリバンと戦っているんだ

ハンはマハダヴィにはアフガン人の存在を否定しているが、実際には時折アフガン人労働者を工事現場に斡旋して稼ぎの足しにしている。ある日、新しい道路工事のために、たくさんのアフガン人労働者がカフェにやってくる。キャインは食事の世話と忙しく働く。次の朝、労働者たちはトラックに乗って工事現場へと向かう。

キャインは町の小学校に、以前カフェにきた女性教師を訪ねる。教師は子供たちに詩の朗読を教えている。授業が終わると、キャインは教師の夫が開業している医院に行く。そこでは体調の悪いハレーが診察を受けている。片足を失っているハレーは全身が痛いと医師に訴える。カフェに戻ったキャインとハレーは処方してもらった薬を飲む。

隣町からの買い出しの帰り、キャインは道端に落ちている教科書を拾う。そして、その近くにトラックが横転しているのを見つける。ハンを呼びに行き、怪我をした運転手を助け出す。夜、キャインは拾った教科書を読む。そこには小学校で聞いたのと同じ詩が書かれている。

車を運転していたマハダヴイが何者かに襲われる。タイヤを全部盗まれ、後ろ手に手錠をかけられたマハダヴィはカフェへ助けを求めにやってくる。キャインは針金を使って手錠を外し、車を修理するのを手伝う。そのことがきっかけで、キャインがアフガン人であることが、マハダヴィにばれてしまう。マハダヴィはキャインを警察に連行する。

——アフガン人か?
——そうだよ
——どうやって来た?
——ただ来ただけ
——ちゃんと答えろ!

ハレーはキャインを連れ戻すため、ひとりでマハダヴイのもとへ乗り込んで行く。

——あの子はイラノ人と同じよ、何が問題なの?
——奴は違法にイランに入ってきた
——あんたに権利があるの?
——俺たちは法を守ってる、法の番人だ
——私の子を返せ!

ハレーのおかげで、キャインは釈放される。こつこつ貯めた金をアフガニスタンにいる姉に渡すため、キャインは国境まで行き、羊飼いの青年に託す。しかし、青年は撃たれてしまう。

アフガン人の青年とイラン人の女性との結婚式。みんなで祝っている最中に、マハダヴィがやってきて、新郎と新婦を逮捕してしまう。警察の取り調べで、キャインは青年の通訳をする。

——いつイランにきた?
——2年前に許可をとって入国した
——なぜイラン人と結婚する?
——愛しているから
——ペルシャ語が話せないのにどうする?
——彼女を愛しているから

新郎と新婦は釈放される。今度はマハダヴィも加わり、みんなでふたりを祝福し、躍り騒ぐ。

道路工事が終了し、アフガン人労働者たちがカフェに戻ってくる。ひとりずつ金を受け取り、国境を越えアフガニスタンヘと戻って行く。

ある日、キャインは見慣れない道路標識を目にする。新しい道路が完成し、カフェに向かうデルバラン道が通行止めにされているのだ。このままでは店が立ち行かなくなってしまうことをおそれたハンは、隣町へ釘を買いに行く。釘をまいて車をパンクさせれば困った運転手がカフェにやってくると考えたのである。しかし、カフェに戻った途端、ハンは急死してしまう。

運び出されるハンの遺体を入れた棺。キャインは思い立って、新しい道路へ走って行く。そして、力いっぱい釘をまく。

ひとり旅立つキャイン。

スタッフ

監督・脚本:アボルファズル・ジャリリ
撮影:モハマド・アハマディ
編集:アボルファズル・ジャリリ
録音:ハッサン・ザルファム
ミキシング:マハムード・ムサヴィ=ネジャド
プロデューサー:アボルファズル・ジャリリ、市山尚三
エグゼクティブ・プロデューサー:森昌行
製作:バンダイビジュアル、フィルム・エ・アヴァル、オフィス北野
企画・制作:ティー・マーク

キャスト

キャイン・アリザデ
ラ八マトラー・エブラヒミ
ホセイン・ハシェミアン
アハマッド・マ八ダヴィ

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