原題:SLING BLADE

■1997年アカデミー賞最優秀脚色賞

1996年アメリカ/ザ・シューティング・ギャラリー作品/カラー/ヴィスタサイズ 日本版字幕:戸田奈津子/配給:アスミック

2002年04月26日よりDVD発売&レンタル開始 1998年7月24日より、ビデオレンタル開始!! 1997年12月20日より、恵比寿ガーデンシネマ他にてロードショー!!

公開初日 1997/12/20

配給会社名 0007

公開日メモ 主演男優賞と脚色賞にノミネートされ、見事脚色賞を射止めた本作は、もともと監督も主演俳優も有名でなく、まったくノー・マークのこの映画は、限定公開されて口コミで大ヒットし、アカデミー受賞でさらに観客を増やし超ロングラン・ヒットとなった。

解説


 1997年のアカデミー賞は今までになくインディペンデント映画が脚光を浴びた年だった。9部門受賞の『イングリッシュ・ペイシェント』、主演男優賞を獲得した『シャイン』、主演女優賞とオリジナル脚本賞に輝きコーエン監督夫妻にオスカー像をもたらした『ファーゴ』。そしてもう1本忘れてはならないのが『スリング・ブレイド』である。主演男優賞と脚色賞にノミネートされ、見事脚色賞を射止めた。もともと監督も主演俳優も有名でなく、まったくノー・マークのこの映画は、限定公開されて口コミで大ヒットし、アカデミー受賞でさらに観客を増やし超ロングラン・ヒットとなった。全米の映画ファンに支持され、アカデミー賞を獲得したこの映画の魅力とは一体何だろう。

 『スリング・ブレイド』の魅力は、一見相容れない二つの要素が見事に溶け合い、観るものに余韻の深い不思議な観賞後感を抱かせることだろう。その一つ目はある種の感動の要素。カールと人々の触れ合い、特にフランク少年との交情が観るものの胸に暖かい気持ちを引き起こす。この要素が映画の空気、トーンを形成していく。もう一点は映画のドラマティックな訴求力=ストーリー・テリングを支える要素。かつて母親とその不倫相手を殺害して施設に収容され、25年ぶりに出所したカールがどういう風に社会で暮らすのか。そして、再び殺人を犯してしまうのだろうか?という一種のサスペンスの要素。感動パートが心地よい雰囲気を維持していつまででも映画を見つめていたい気持ちにさせ、サスペンス・パートがドキドキさせながら最後まで一気に持っていく。

 しかし、より深い感動はカールの変化に伴う心の中の動きに現れる。最初の殺人を犯したカールは、それが悪いことであるという認識を持っていない。しかし、病院で聖書を学び、両親の教えが自分たちに都合のいいように歪めたものであることを知る。カールは初めて自分が悪いことをしたのだと考える。退院して様々な人々と触れ合い、フランク少年と心の底から通じ合い、さらに人間的な感情を深めていくカール。その過程の中で2度目の誕生をしたともいえるカールがクライマックスで下す決断は、だから非常に重い。彼の心の変化がラスト・シークエンスで表現される。観客それぞれが様々な思いを馳せ、時間が経っても消えずに残るだろう。それが『スリング・ブレイド』の魅力である。

 本作の監督はビリー・ボブ・ソーントン。今までミュージシャン、脚本家、俳優として活躍してきたマルチ・アーティストである。本作では監督のみならず、主演、脚色もこなしている。映画が始ると、いきなりソーントン演じるカールによる事件の説明が長廻しの独白で語られていく。一見、工夫が無いようなシークエンスだが、ここで観客は映画の背景、ドラマの訴求力のポイント、映画の空気を否が応でも掴まされてしまう。この力強い導入部から衝撃的なクライマックスまで、物語を綴っていく見事なストーリー・テリングを書き、演出し、主演する凄さ。見事にアカデミー賞主演男優賞ノミネート、アカデミー賞脚色賞受賞という快挙を成し遂げたのも納得出来る才能である。

 共演陣もソーントンが思い描くイメージ・キャストを自らが出演交渉し、ベスト・メンバーを揃えた。フランク少年にはポスト・リバー・フェニックスと注目を集める『アメリカン・ゴシック』の名子役ルーカス・ブラック。敵役ドイルにカントリー・シンガーとして有名なドワイト・ヨーカム。施設に収容されている同僚患者に『ア・フュー・グッドメン』などの名脇役のJ・T・ウォルシュ。カールの父親にアカデミー賞スターの名優ロバート・デュヴォール。各々が静けさの中に力強さを感じさせる名演を披露している。

 制作はアメリカ東海岸に本拠地を置くインディペンデント・フィルムのプロダクション、ザ・シューティング・ギャラリーで、優秀なスタッフを集めてソーントンの才能を1本の映画に結実させるべく見事に支えきっている。音楽監督には、ミュージシャンでもあるソーントン監督らしい目配りで、U2などのアルバムで知られる音楽プロデューサー、ダニエル・ラノワを起用している。映画全編にわたって、アメリカ南部のアーカンソー州独特の雰囲気を見事に表現して、味わい深いサントラとして仕上がっている。

ストーリー



カール・チルダースはアメリカ南部に位置するアーカンソー州の田舎町に生まれた。知恵遅れの彼の存在を狂信的な両親は“神の罰”と考えていた。カールは父親が建てた小屋に、地面に掘った寝床で暮らしていた。両親のいる母屋にはめったに呼ばれなかった。ある日、聖書を読みに来るはずの母親の声が母屋から洩れてきた。そこで彼は母親の情事を目撃する。それを悪いことであると考えたカールはスリング・ブレイドと呼ばれる鉈なたで母親と情事の相手とを殺害してしまう。

 精神病院に収容された彼は、聖書を読むことを覚え、両親の教えが間違っていたことを知る。人を殺すことが悪いということも学んだ。そして25年が経って、退院の日がやって来た。「あなたはまた人を殺す?」取材にきた大学新聞の記者の質問にカールは答えた。「殺さなきゃならないやつはもういない」。

 突然施設から出されて、社会復帰することになった彼は行く当てもなく故郷の町をさまよっていた。そんな時に4つの大きな洗濯袋を持て余している少年、フランク・ウィトリーと出会う。カールは家まで洗濯袋を運ぶのを手伝ってやるのだった。

 結局、行きどころの無いカールは施設に戻り、親切な所長が見かねて就職先を世話してくれることになった。カールは修理屋に住み込みで働けることになり、すぐに社長や同僚に気に入られる。落ち着いたカールはフランクを訪ね、今までのいきさつを問わず語りに話す。フランクはカールに親しみを抱き、母親のリンダにカールがガレージで暮らせるように頼む。家庭に恵まれなかったカールと父親を亡くし寂しい思いをしていたフランクは、一緒にいることに安らぎを見い出していく。

 修理工として認められ、町の人々とも交流し、カールにとって穏やかな生活が始まった。しかし、ウィトリー家にも大きな問題があった。乱暴で偏見に満ちたドイル・ハーグレイヴズの存在である。彼はリンダのボーイフレンドで、ウィトリー家に出入りしているのだが、横暴な態度が日増しにエスカレートしていた。リンダが勤めるスーパーの店長で親友のヴォーン・カニンガムはウィトリー親子を心底心配していた。同性愛者のヴォーンはドイルに嘲られながらも親子を護るためにカールに助けを求める。ある晩、ホーム・パーティで暴れたドイルはリンダから家を追い出される。しかし、ほどなく反省の色を見せて戻って来ると、今後は家に居着き、家長として母子を養うと言い出した。

 ドイルが悪しき存在であることはカールの目にも明らかだった。フランクを護り通さなければならない。自らの過去と向き合うために、カールは年老いた父親を訪ねる。しかし、偏狭な父親は息子の存在すら否定するのだった。カールはリンダに頼んで洗礼式を受けるが、家に戻った彼にドイルは家を出ていけと言う。カールは荷物をまとめて、フランクの秘密の場所である池に向かう。ドイルへの憎しみを口にするフランクを、カールは「子供はそんなことをいっちゃだめだ。楽しいことだけ考えろ」と優しくさとすのだった。そして、フランクに唯一の荷物である本の束をプレゼントした。その本の間には“君は幸せになれる”と書いた栞しおりがはさんであった。

スタッフ

監督・脚本: ビリー・ボブ・ソーントン
撮影: バリー・マーコウィツ
プロダクション・デザイン: クラーク・ハンター
編集: ヒューズ・ウィンボーン
音楽: ダニエル・ラノワ
衣装: ダグラス・ホール
キャスティング: セイラ・タケット
録音: ジェフ・カシュナー
音楽監修 バリー・コール
製作総指揮: ラリー・メイストリッチ
製作: ブランドン・ロッサー
デイヴィッド・L・ブッシェル

キャスト

カール・チルダース: ビリー・ボブ・ソーントン
ドイル・ハーグレイヴズ: ドワイト・ヨーカム
チャールズ・ブッシュマン: J・T・ウォルシュ
ヴォーン・カニンガム: ジョン・リッター
フランク・ウィトリー: ルーカス・ブラック
リンダ・ウィトリー: ナタリー・キャナディ
ジェリー・ウールリッジ: ジェイムズ・ハンプトン
カールの父 ロバート・デュヴォール

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