原題:L' Anglaise et le duc

2001年9月7日フランス初公開

2000年/フランス/カラー/129分/ドルビーSRD,SR/ヴィスタサイズ/ 配給:プレノンアッシュ

2003年07月25日よりDVDリリース 2002年12月21日より今秋よりシャンテシネにてロードショー公開

公開初日 2002/12/21

配給会社名 0065

公開日メモ ゴダール、リヴェット、シャブロル、トリュフォーらヌーヴェルバーグの旗手たちに<兄貴分>と慕われたエリック・ロメール。今年82歳を迎えたロメールが挑んだのは・・・、最新技術CGと絵画の融合だった!

解説


81歳エリック・ロメールの映画革命

映画の未来を切り拓く、飽くなき好奇心

スクリーンに映し出された絵画の中で、広場の群衆が動き出す瞬間、思わず誰もが息を呑む。私たちはオープニングから映画史上初めての体験をすることになる。現代フランスの空気を瑞々しく切り取ってきたロメールが、今回描いたのはフランス革命の動乱に揺れるパリ。油絵に実写の人物をCGで重ね合わせるという技法は、フィルムに生命を吹き込もうという執拗なまでのこだわりと、常識を覆す型破りな発想からあみだされた、まさにエリック・ロメールの映画史に残る新発明。それは200年前の人々が見たパリの街並を巧みに再現するばかりでなく、そこに牛きる人々の感情までも繊細に、大胆に映し出す。

日常と非日常が織り成す、極上のサスペンス
原作は、かつてパリ社交界の華と調われた英国女性、グレース・エリオットが書したフランス革命期の回想録。王制支持を貫きながらも九死に一生を得た真実を、客観的視点と感性豊かな描写で物語る。
映画は、彼女とともに歩むように展開していく。孤独や不安を煽る闇に浮かぶ月明かり。新たな人生の始まりを告げる運命の号砲。穏やかな日常の暮らしの中に、革命という非日常が嵐のように蛮入し、生命さえ危険に晒される毎日。その中でグレースは、決して大勢におもねることなく、自らの信じるところに従い、凛として生きる。
誰も知らなかったフランス革命。グレースの記憶と私たちが知っている歴史の記憶とが、やがてシンクロし始める。そしていつの間にか、この動乱の18世紀末のパリに足を踏み入れて、グレースとともに革命の鼓動を体験するのだ。

恋愛を超えた大人の愛情関係を描く

かつて恋人同士だったグレースとオルレアン公爵の間には、恋愛関係が終わったあとも、以前にも増して相手を大切に思い合う、深くおだやかな愛情関係が育まれていた。しかし恐怖と殺戮の革命に真っ向から反対するグレースは、急進的に革命派に傾いてゆくオルレアン公爵の行動を容認できず、しばしば対立する。ところが、信条的には正反対の立場にありながら、相手の身に危険が降りかかると、我が身を顧みず相手のことをまず案じる。ロメールは、この二人の特別な愛情関係を、繊細に、注意深く描き出す。まさに「男女の機微を描かせたら右に出る者はいない」ロメール映画の真骨頂は、ここでも精彩を放っている。

ストーリー


革命の嵐吹き荒れるパリ。英国人でありながら、国王ルイ16世を敬愛するグレース・エリオットと革命派に傾いたオルレアン公爵。信条の異なる二人の関係は情愛に包まれつつも、波乱に富んでいた。ルイ16世処刑裁判を迎え、王の死に票を投じないよう説得するグレースと公爵の間に決定的な瞬間が訪れる。

『グレースと公爵』で描かれる、革命史上最も重要な5つの出来事

1)1790年7月14日−−バスチィーユ襲撃一周年記念の連盟祭
絶対王政の象徴であったバスチィーユを陥落、旧体制を崩壊させ、市民権力を成立させた一周年記念の日。イギリス使節の任務を終えパリに戻ってきたオルレアン公爵は、犬猿の仲である従弟ルイ16世の横で式典に参加した後、グレースと再会する。
当時流行したダンス曲「うまくいく」は、国王が憲法に従うことを祝って歌われたもので、国政から排除しようという考えは少数派だった。

2)1792年8月10日−−ルイ16世の王権停止
国王の逃亡未遂と進まぬ改革に仰れを切らした民衆は、王権の停止を求めて再び蜂起する。夜明けとともに、パリの民衆と地方からやってきた連盟兵は、国王一家の居住地となっていたテュイルリー宮殿に向かう。警備していたはずの国民衛兵が寝返り、民衆側に付いたので、スイス兵のみが民衆、連盟三兵、国民衛兵を相手に戦うことになった。議会に逃げてきた国王はスイス兵に停戦を命じたが、連盟兵は宮殿を占拠し、8月13日、国王一家はタンプル塔に投獄された。
こうして王権は停止する。犠牲者は攻守合わせて1000人を超えたという。グレースは暴動の続く、荒れ果てたパリの街を縫って、lOキロ以上離れたムドン別邸に、足に傷を負いながらもやっとのことで辿り着く。

3)1792年9月3日−−9月の大虐殺
プロシア軍の迫る国境へ大勢の連盟兵が出発した隙に、獄中の反革命分子が蜂起する、という噂が広まる。民衆は、恐怖心から「敵は牢獄にあり」とパリの監獄を襲い、反革命の疑いのある囚人を虐殺した。6日まで続いた虐殺での死者は、1100人から1400人と言われる。この悪名高き大虐殺の中を、グレースは逃亡者を助けるためパリに戻ってくる。出くわしたサンキュロットの群集は、見せしめにランバル公爵夫人の頭部をタンプル塔に幽閉されているマリー・アントワネット王妃のもとへ届ける途中だった。グレースは逃亡者がオルレアン公爵の政敵シャンスネ侯爵と承知の上で、パリの自宅にかくまう。グレースがパリに戻ったと知って駆けつけたオルレアン公爵は、嫌悪感を抱きながらもグレースの身を案じて、侯爵をイギリスへ逃がす手助けをする。8月28日に反革命容疑者に対する監視活動、家宅捜索が強化されたばかりの出来事だった。

4)1793年1月21日−−ルイ16世の処刑
革命の前進を望まないブルジョワジーを代一表するジロンド派と、民衆を代表して国王は一般市民と同じように刑法の適用を受けるべきだと主張するジャコバン派の論戦が続く中、1793年1月14日、票決が行われた。
処刑賛成者の内、26名は執行猶予について検討すべきだ、という条件をつけた。
この26名を反対票とすると、361票対360票となる。処刑投票が1票差だったと言われるのはこのことを指す。18日、執行猶予についての投票が行われ、380対310(棄権及び欠席票あり)で、処刑が確定する。グレースはオルレアン公爵を説得し、賛成票を投じないとの約束を取り付ける。しかし投票当日、公爵は傍聴席から驚きの声が上がるほど堂々と、死刑賛成に一票を入れたという。グレースは、怒りと絶望のあまり公爵との思い出の品々を処分させ、遠くムドンの丘から国王の死を悼んだ。

5)1793年4月1日−−デュムーリェの裏切り
国王の処刑後、ロベスピエールを中心としたジャコバン派が台頭する。その影響下で設置された監視委員会でグレースは審判を受け、皮肉にもロベスピエールの一言によって釈放される。ここでのオルレアン公爵との偶然の再会は、結果的に永遠の別れとなる。国王処刑に抵抗したデュムーリエ将軍は革命裁判にかけられるのを恐れ、シャルトル公爵(オルレアン公爵の長子)らと共に、革命政府打倒を策すが失敗。オルレアン公爵一家は追放、公爵自身も4月7日に逮捕、ブルボン一族とともにマルセイユのサン・ジャン城に幽閉された。結局、公爵は11月6日の夕刻、革命広場で断頭台の露と消える。恐怖政治の下、処刑者の人数が急激に増える中、グレースも再び身柄を拘束される。1793年3月から1794年7月までのパリでの処刑者は、ばらつきがあるが2639名。1794年6月までの1年4ヶ月の間に1251名。残りはたった2ヶ月間で処刑されたという。王妃やロラン夫人、ビロン公もこの間に亡くなった。同じ運命をたどっても不思議ではなかったグレースが、ロベスピエールの失脚によって処刑を免れたのはどれほど幸運だったことだろう。

スタッフ

監督:エリック・ロメール
製作:フランソワーズ・エチュガレー
製作総指揮:フランソワ・イヴェルネル、ロメイン・ル・グラン、レオナルド・グロウィンスキー
共同製作:ピエール・リシェント、ピエール・コットレル
絵画:ジャン=パティスト・マロ
撮影監督:ディアーヌ・バラティエ
第一撮影助手:フロラン・バザン
録音:パスカル・リビエ
編集:マリー・ステファン
歴史考証:エルヴェ・グランサール
美術:アントワーヌ・フォンテーヌ
セット:ジェローム・プヴァレ
小道具:リュシアン・エイマール
衣裳制作:ピエール=ジャン・ラロック
衣装:ナタリー・シェネイ
ヘアセット:アニー・マランダン
メーキャップ:ジャック“パイエット”メイトル
製作指揮:アントワーヌ・ボー
制作進行:ジュリアン・サブルダン
製作記録:テルフィーヌ・ブロワイエ
助監督総括:アントワーヌ・ムソール

キャスト

グレース・エリオット:ルーシー・ラッセル
オルレアン公爵:ジャン=クロード・ドレフユス
テユムーリエ将軍:フランソワ・マルトゥレ
シャンスネ侯爵:レオナール・コビアン
ナノン:キャロリーヌ・モラン
ビロン公爵:アラン・リボル
メレール夫人:エレナ・デュビエル
ミロメニル区巡視隊長:ローラン・ル・ドワイエン
ミロメニル区長:ジョルジュ・ブノワ
ミロメニル区補佐:セルジュ・ウォルフスペルジェ
門番のジュスタン:ダニエル・タラール
料理女のピュルケリ:シャルロット・ヴェリー
ムドンの別荘の女中ファンシェット:ロゼット
マダム・ロラン:マリー・リヴィエール
シャボ:ミシェル・ドゥミエール
ヴェルニオ:セルジュ・レンコ
ガデー:クリスチャン・アメリ
オスラン:エリック・ヴィヤール
ロベスピエール:フランソワ=マリー・バニエ
ムドン市役所貝:アンリ・アンベール
ヴォジラールの役人1:シャルル・ボルグ
ヴォジラールの役人2:クロード・コーネル
ヴォジラールの役人3:ジャン=ポール・ルーヴレ
カルム修道院前の野次馬1:アクセル・コロンベル
カルム修道院前の野次馬2:ジェラール・マルタン
サン=マルタン通りの男1:ジェラール・バウム
ランクリー通りの門番:ミシェル・デュピュイ
ヴェルサイユ区巡視隊隊員:ジョエル・テンプラー
警備隊の兵1:ブリュノ・フレンデール
警備隊の兵2:ティエリー・ボワ
警備隊の酔っ払い:ウィリアム・ダルラン
グラモン公爵夫人:アンヌ=マリー・ジャブロー
シャトレ公爵夫人:イザベル・オーロワ
街頭の歌い手:ジャン=ルイ・ヴァレロ
兵士:パスカル・リビエ

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