原題:Le Papillon

2002年/フランス/カラー/ビスタサイズ/ドルビーSR/85分/ 配給:東京テアトル

2004年11月25日よりビデオレンタル開始 2004年11月25日よりDVD発売開始 2004年5月15日より、銀座テアトルシネマにてロードショー

公開初日 2004/05/15

配給会社名 0049

解説


 8歳の女の子エルザは母親と二人暮らしだが、何かと忙しい母親にかまってもらえず、いつもひとりぼっち。エルザと同じアパートに住む老人ジュリアンは、そんな彼女を気にかけていた。彼は元時計職人で、息子を亡くしてからは趣味の蝶の蒐集に没頭する気ままな一人暮らしだった。そんな二人が、ヨーロッパで優も美しいと言われる幻の蝶“イザペル”を探すため、フランス南部の山へと向かう。利発で勝気だが、どこか淋しげなエルザと、一見頑固だが根はやさしく、胸にある痛みを秘めているジュリアンは、時に反発しあいながらも、少しずつ心を通わせてゆく。鹿や牛との出会い、交換して食べたお弁当、好奇心いっばいのエルザの様々な質間に絶妙なユーモアで答えるジュリアン。蝶を待ちながらジュリアンが影絵芝居で語ってくれた心に残る“作り話”それは大人が子供の面倒を見るという関係ではなく、人と人との真剣であるからこそ楽しい心の交流だった。そして、二人は遂にイザベルが飛んでくるという場所にたどり着き、じっと息を殺して待ち続けるだが……。
 ジュリアンが何年もイザベルを探し求めていたのは、亡くなった息子とのある約束を果たすためだった。一方、帰りの遅い母親には黙って、半ば強引にジュリアンの旅について来たエルザは、無意識のうちに自分の不在で母の愛を確かめようとしていたのかもしれない、切ない思い出と淋しさにさよならするため、二人は懸命に山道を歩く。まるで各々のしあわせを探し求めるかのように。
深呼吸すれば心も体も洗い清められるような青々と茂る樹木、都会の喧騒に慣れた耳に優しく囁きかける鳥や虫の声、ささくれた心をなだめる風の音。フランス南部のヴェルコールの美しい自然を舞台に、たった8歳の少女も何十年も生きてきた老人も、同じように日々の生活の中で抱えてしまう心のすり傷を、ゆっくりと丁寧に治して、観る者すべてをしあわせにしてくれる感動作が誕生した。

 元気に毎日を過こしていても、わけもなく淋しくなることがある。そんな時、いつでも繰り返して観直したくなるような、やさしくあたたかいこの作品の監督・脚本を手がけたのは、フィリップ・ミュイル。本国フランスでは、寡作ながら良質な作品を撮り続けていることで高く評価されている。
 ジュリアンを演じるのは、フランス映画界の重鎮、ミシェル・セロー。クロード・ソーテ監督などフランス映画の巨匠に愛され、批評家からも高く評価されているセザール賞の常連俳優である。その出演作は100本を超えるが、近年もマチェー・カソヴィッツ監督の『アサシンズ』、失われゆく自然とそれを愛する人々を描きフランスで大ヒットとなった『クリクリのいた夏』など、問題作から感動作、コメディまで幅広い役どころを見事に演じ分けている。本作では、8歳の女の子に最初は手を焼きながらも、だんだん彼女との友憎を深めていくおじいさんを演じている。たとえ相手が子供でも真摯に向き合おうとする彼の姿は、子育てての難しさが取りざたされる現代において、親子関係の新たなヒントを与えてくれる。しかし、なんと言ってもこの映画の最大の魅力は、200人以上の才一ディションから選ぱれたエルザ役の少女クレール・ブアニッシュである。「千と千尋の神陽し」「サイン」(フランス公開版)などの吹替の経験はあるが、演技は初めてという彼女の、母親からの連絡をじっと待ち続けるけなげな姿、母親に約束を破られたときの切ない表情、ジュリアンに対して対等に振舞おうとする、おませだけれど核心を突いた言動、そして何より初めて触れた自然の美しさに驚き喜ぶ愛らしい笑顔が忘れ難い。それは大人が勝手に作リ上げた理想の天使ではなく、生き生きと血の通った等身大の子供の笑顔である。
 年齢も生きてきた環境も全く共通点のない二人の人間の間にも、友惰と信頼は育まれる、という希望を私たちに与えてくれる、しあわせな共演がここに実現した。

ストーリー


パリに暮らす8歳の少女、エルザ(クレール・ブアニッシュ)には、ささやかだけれど切実なひとつの願いがあった。放課後に大好きなママ(ナドゥ・ディウ)と二人きりで映画を観に行き、夕食にはハンバーガーを食べるのだ。しかし、看護助手をしながら、一人でエルザを育てているまだ25歳の母親は、仕事に友達付き合いにと自分自身の生活に忙しく、今日もエルザは願い叶わず、何時間も待ちぼうけをくわされていた。エルザと同じアパートに住む老人ジュリアン(ミシェル・セロー)は、そんな彼女を見かねて、自分の部屋へと招き入れる。腕のいい時計職人だったジュリアンも今では現役を引退し、趣味の蝶の蒐集に熱中する気ままな一人暮らしをおくっていた。
 ジュリアンにも、ささやかだけれど切実なたったひとつの願いがあった。それはヨーロッパで最も美しいと言われる幻の蝶“イザベル”を手に入れること。もう何年もイザベルを探し求めていたが、まるでこの世からかき消えたかのように、どうしてもめぐり逢うことができないでいた。
 ある日、フランス南部のヴェルコールの山にイザベルが現れると聞いたジュリアンは、管理人のマルグリット(エレーヌ・イリ)に猫の世話を頼むと、さっそく車で出発した。期待に胸を膨らせたジュリアンは、まもなくとんでもない同行者がいることに気づく。なんとエルザがこっそりと車に隠れていたのだ。エルザの母親は友達の家に出かけていて、夜も遅いというのに連絡が取れない。翌朝、ジュリアンはエルザを警察に連れて行こうとするが、田舎の自然に触れたことのないエルザの、山や鳥、牛や蝶を見てみたかったと言う一言にほだされる。こうして、少し不思議な組み合わせの二人の旅が姶まった。
 山のふもとに到着すると、そこからは徒歩で山道を登る。標高1800メートル、目的地まで3日はかかる。ジュリアンは携帯電話から、さすがに心配しているであろうエルザの母に連絡しておこうとするが、なぜかつながらない。実は田親に怒られることを恐れたエルザが、電話が使えなくなるようにこっそりと細工をしたのだ。一方、外泊して翌朝帰宅したエルザの母は、娘の姿がないことに動転、すぐに警察に連絡したため、街は“エルザ誘拐事件”で揺れていた。
 リュックを背負って並んで歩く姿は、どこから見ても“やさしいおじいさんと孫”だが.「文句は言わない、さっさと歩く、静かにしろ」と相手が8歳の女の子でも容赦ないジュリアンに、勝ち気なエルザも負けてはいない。「子供の扱いに慣れていない、名前が年寄りくさい」とこちらも攻撃の手をゆるめない。それでいて歩きながら、「なぜ愛はもろいの?」「なぜお金持ちと貧乏人がいるの?」と、ある種人間の真理をついた質問を矢継ぎ早に投げかけるエルザと、ユーモアを交えて当意即妙に答えるジュリアンの間には、少しずつ友情と共感が育まれていた。
 初めて見る自然の姿に嬉々とするエルザが特に感動したのは、草を食む鹿の姿だった。ところが、エルザの目の前で鹿は密猟者に殺されてしまう。悲しむエルザを安易に慰めず、ジュリアンは限りある命について淡々と語るのだった。そんなジュリアンヘの信頼を深めたエルザは、とっておきのお話を披露する。子供の時(今でも子供だけれどもっと小さい時)に見たカナリアの夢の話だ。エルザはカナリアを籠から出して窓辺に置いた。ところが、カナリアは飛び立たないでエルザの側にいた。心からうれしそうにエルザは囁く。「なぜか分かる?私のことが好きだから離れたくなかったのよ」
 とうとう二人は目的地にたどり着くが、イザベルはそう簡単には現れない。土砂降りの雨にあった二人は、一晩野宿をやめて、山で酪農を営む家族の家に泊めてもらう。その家では、主人(ジャック・ブアニッシュ)の43歳の誕生目を祝っていた。夕食の後、ジュリアンは止まった柱時計を修理しながら、彼にイザベルを探している本当の理由を語り始める。それは生きていれば今日、彼と同じ43歳の誕生日を迎えるはずだった息子との約束を果たすためだった。
翌日、ジュリアンとエルザは再びイザベルが現れるのをじっと待っていた。そして遂に、ランプで照らしたシ−ツに、大きな蝶の影が映し出されるのだが……。

スタッフ

監督・脚本・原作:フィリップ・ミュイル
撮影:ニコラ・エルドゥ
音響:イヴ・オスミュ
美術:ニコス・メレトプロス
衣装:シルヴィ・ドゥ・スゴンザク
編集:ミレイユ・ルロワ
音響編集:ニコラ・ナジュラン、ダニエル・ソブリノ
製作総指揮:フランソワーズ・ガルフレ
製作:パトリック・ゴドー

キャスト

ジュリアン:ミシェル・セロー
エルザ:クレール・ブアニッシュ
イザベル(エルザの母親):ナドゥ・ディウ
カフェの店員:フランソワーズ・ミショー
管理人:エレーヌ・イリ

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