胸に宿ったのは睡蓮のつぼみ

第51回ベルリン国際映画祭コンペティション部門正式出品作品 ブカレスト国際映画祭正式招待作品 モスクワ国際映画祭正式招待作品 リオ・デ・ジャネイロ国際映画祭正式招待作品 ストックホルム国際映画祭正式招待作品

2001年/日本/カラー/128分/シネマスコープ/DTSステレオ/ 配給:サンセントシネマワークス

2002年10月25日よりビデオ発売&レンタル開始 2002年10月25日よりDVD発売&レンタル開始 2001年6月15日よりシアター・イメージフォーラムにてロードショー公開

初日舞台挨拶&イベントレポート::http://www.cinematopics.com/cinema/c_report/index3.php?number=169

(C)2001 JWORKS FILM INITlATIVE(Dentsu/Imagica/Sunset Cinema Works/Tokyo Theaters)

公開初日 2002/06/15

配給会社名 0095

公開日メモ プラネタリウムに勤める青年と胸に睡蓮の蕾を宿す美少女との恋愛、その2人を取り巻く友人たちとの人間関係を軸に、利重監督が『ZAZIE』の頃からのテーマとしていた“どうずればすべての人が幸せになれるんだろう”というメッセージがこめられている。

解説


監督、俳優、エッセイストとしてマルチな才能を発揮する利重剛の『BeRLiN』以来6年ぶりの新作となる『クロエ』。本作は、2001年第51回ベルリン国際映画祭の最高部門である「コンペティション部門」へ正式招待された。また本作は、これまで全てオリジナル作品を手掛けてきた利重監督が、初めて原作を題材とした作品でもある。その選んだ題材とは利重と同じく、小説家・詩人・俳優・歌手・トランペット奏者…と様々なフィールドで表現活動を繰り広げた稀代のアーティスト“ボリス・ヴィアン”が、1946年に発表した代表的小説「L’ecume des jours」(邦題『日々の泡』『うたかたの日々』)。高校生の頃から同小説に強力にインスパイアされていた利重はこの純粋な愛の物語を『クロエ』として脚本を新たに書きトろし、この21世紀に見事に再生させることに成功した。
物語は、プラネタリウムに勤める青年と胸に睡蓮の蕾を宿す美少女との恋愛、その2人を取り巻く友人たちとの人間関係を軸に、利重監督が『ZAZIE』の頃からのテーマとしていた“どうずればすべての人が幸せになれるんだろう”というメッセージがこめられている。それは恋愛を含めた人と人との関わりの中で、誰も傷つくことなく“全ての人が幸福を得られることができるのか”という人間にとって実にシンプルでありながら、末だに答えが見つかっていない普遍的なテーマである。
本作品は、電通、IMAGICA、サンセントシネマワークス、東京テアトルによる「J-Works」シリーズの第3作にあたり(1作目『EUREKA』2作目『火垂』に次ぐ)、前2作と同様、海外で高い評価を受けている。
主人公の高太郎とクロエを演じるのは、永瀬正敏とともさかりえ。ここ数年、スクリーンで目覚しい活躍をみせる永瀬と、難しい役どころを見事に演じ切り、本格派女優としての革新を見せるともさかとのコンビは、海外の映画祭でも賞賛の声が巻き起こった。また主人公高太郎の親友「英助」に塚本晋也、その恋人「日出美」に松田美由紀。映画監督としても大活躍の塚本だが、松田とともに「高太郎&クロ工」とは対照的なもう1組の恋人たち「英助&日出美」をけれんみたっぷりに魅せる。その他脇を固める俳優陣にも山口美也子、尾藤イサオ、西島秀俊といった実力派が揃い、『EUREKA』などの映画監督青山真治がカリスマアーティスト「キタノ」として怪演を見せる一方、「ちゆらさん」「アンティーク〜西洋骨董洋菓子店〜」などのTVドラマで活躍をみせている小西真奈美のスクリーンデビューも話題となっている。
スタッフには、共同脚本に『楽園』にて2000年芸術祭優秀賞を受賞した萩生田宏治、撮影に『BeRLiN』でも利重監督とコンビを組み、『四月物語』『リリィ・シュシュのすべて』などの繊細な映像と映画的なダイナミズムを併せ持つことで知られる名カメラマン篠田昇、美術に『独立少年合唱団』の花谷秀文など現在の日本映画を支える様々なメンバーが結集。スタッフ、キャストの絶妙のコラボレーションが従来の日本映画にはない独特の広く深い世界観を誕生させた。また、元「プリンセス・プリンセス」の今野登茂子が担当した美しい音楽も、映画に大きな彩りを与えている。

ストーリー



高太郎(永瀬正敏)は、プラネタリウムで解説員をしている、星に囲まれ、穏やかな時間を過ごしていたある日、運命的な恋におちた。相手は叔母の絵画展に義理で出席していた、繊細な雰囲気を持つクロエ(ともさかりえ)。まもなく、2人はお互いをこの世で一番分かりあえる相手だと感じる。高太郎の親友、英助(塚本告也)や英助の恋人の日出美(松田美由紀)、大勢の友人たちの祝福を受けながら、行きつけのパブで結婚式を挙げた。幸せの絶頂にいる高太郎は“みんなにも幸せになってもらいたい”と願い、英助に自分の貯金を借金の清算に使って欲しいと申し出る。しかし、英助は生活の立て直しを誓う一方で、崇拝するカリスマアーティスト・キタノ(青山真治)の作品に次々とお金をつぎ込んでしまう。
ある日、クロエは散歩の途中に突然意識を失い、診察の結果、右肺に“花の蕾”のようなものが発生し、それが肺を圧迫していることがわかる。結局、手術で摘出されたのは、可憐な睡蓮の蕾。クロエはその蕾に魅了され、家の窓辺に飾った。ところが、回復したようにみえた喜びもっかの間、もう片方の肺にも蕾が芽吹いていた。片方の肺が衰弱しているため、もう手術はできない。クロエは蕾を体に宿したまま自宅で闘病生活を始める。
そんな中、日出美がお見舞いにくれた花束がきっかけで、高太郎は偶然あることを発見する。他の花を近づけると睡蓮の蕾が萎縮して成長が止まるのだ。「部屋中を花で埋め尽くしたら、もしかしたら病気が治るかもしれない」と、高太郎は来る日も来る日も新鮮な花を買い続けた。しかし、高太郎は些細なことでプラネタリウムをクビになってしまった。収入がなくなった高太郎は花を買うため、次第に危険な仕事にも手を染めるようになる。悩んだ末、以前英助に渡した貯金を一時的に返して欲しいと頼む高太郎。しかし、彼は以前にも増してキタノに傾倒しており、既にお金を使い果たしていた。
花を買うお金が尽きた時、クロエの命もなくなる…クロエを苦しめているものが花なら、クロエを救うことが出来るのも花…そんなジレンマや現実から逃れるように、がむしゃらに働き続ける高太郎。皮肉なことに高太郎が働けば働くほど、2人だけの時間が失われ、「ただそばにいてもらいたい」というクロエのささやかな願いも空しく、次第に2人の気持ちに微妙なずれが生じるようになる。そんな不安な気持ちを象徴するように2人の部屋はだんだん小さくなっていく。空は見えなくなってゆき、窓から射し込む光は届かなくなり、暖かさまでもが消えてゆく。
一方英助は、キタノの作品を手元に増やしていく満足感と同時に襲ってくる自己嫌悪や挫折感に苦悩し、行方をくらませていたが、ついに借金をしていた知人に刺し殺されてしまう。「英助を苦しめているキタノさえいなくなれば…」思いつめた日出美はキタノの元へと向かう。英助が殺されたとは知らずに…。
花屋のラジオから流れてくるキタノの死を告げるニュースを聞いた高太郎は、不安でたまらなくなりクロエの元へ走り出した。「怖かったよ」と部屋に入った彼を、クロエは優しく抱きしめる。愛し愛されて生きていたいのに、うまくいかない…、まるで金属が錆びてゆくようにいつのまにか彼らを取り巻く環境は変化していた。
「睡蓮って咲く時に音がするのよ」と、無邪気に話していたクロエ。彼女の胸に、美しい「睡蓮」の花が咲こうとしていた…。

スタッフ

製作:塩原徹(電通)、長瀬文男(IMAGICA)、仙頭武則(サンセットシネマワークス)、松下晴彦(東京テアトル)
プロデューサー:仙頭武則
協力フロデューサー:八木廣、高野力、有吉司
脚本:利重剛、萩生田宏治
翻案:ボリス・ヴィアン『うたかたの日々』(ハヤカワepi文庫刊)、『日々の泡』(新潮文庫刊)
撮影:篠田昇
照明:中村裕樹
録音:鶴巻仁
美術:花谷秀之
装飾:高橋俊秋
衣装:花谷律子
メイク:小田多佳子
助監督:山本透
制作担当:氏家英樹
編集:掛須修一
整音:中村淳
音響効果:柴崎憲治
音楽:今野登茂子
監督:利重剛

キャスト

高太郎:永瀬正敏
クロエ:ともさかりえ
英助:塚本晋也
アニ:鈴木卓爾
チビ:福崎和広
医帥:西島秀俊
理子:小西真奈美
牧師:アーサー・ホーランド
清掃員の女性:岸田今日子
キタノ:青山真治
少年:大高力也
課長:山田辰夫
叔母:山口美也子∫
叔父:尾藤イサオ
日出美:松田美由紀

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