原題:RATCATCHER

悲しいときはここに来て 麦畑の向こうを眺めてごらん。 きっと、違う明日に会えるから。

2000年英国アカデミー賞(BAFTA)最優秀新人賞 1999年シカゴ国際映画祭最優秀監督賞 1999年カンヌ映画祭ある視点部門出品

1999年11月12日イギリス初公開

1999年/イギリス/カラー/1時間33分/ドルビー/日本語字幕:小飯塚真知子/ 後援:ブリティッシュ・カウンセル/ 配給:オンリーハーツ+日本トラスティック

2003年10月24日よりDVD発売開始 2001年9月21日ビデオ発売&レンタル開 2001年3月31日よりシアターイメージフォーラムで公開

公開初日 2001/03/31

公開終了日 2001/05/11

配給会社名 0016/0110

公開日メモ 悲しいときはここに来て 麦畑の向こうを眺めてごらん。 きっと、違う明日に会えるから。

解説


感受性あふれるナイーブな少年の心を詩情豊かにつづり、誰の心にもある子供時代の思い出をよみがえらせるせつなく美しい作品、と英国マスコミの絶賛を受ける監督リン・ラムジーの記念すべきデビュー作が登場した。
『ボクと空と麦畑』はどこにでもいそうな少年の多感で傷つきやすい内面を丹念に追いながら、同時に出口のない工業街で暮らす人々の姿も描かれる。『ケス』などで知られる英国の巨匠ケン・ローチの世界に通じる庶民の生活をモチーフにしつつも、若い女性監督ならではの繊細な感性で、写真や絵画を思わせる独特のビジュアル・センスを見せ、新しいタイプの映像詩人として、大きな注目を集めるリン・ラムジー。英国から久しぶりに登場したアート派の新人として、マスコミに大絶賛され、「タイム・アウト」誌に〈近年、最良の英国映画の1本〉と讃えられた。また2000年英国アカデミー賞最優秀新人賞をはじめとする各新人賞を多数受賞。これは、96年と97年に発表した短編映画で、2度に渡ってカンヌ映画祭短編映画部門審査員賞を獲得した才能が、さらに実を結んだ結果といえる。
スコットランドは英国の一部であると一般的に認識されているが、その起源はイングランドよりも古い。先住民族のケルト人の文化が今も息づき、使用されている英語も私たちが聞きなれているものには無い強い託りがある。イングランドとは異なる王国として歩み、現在でも教育制度、法制度の独自性を保ってはいるが、現実には、イングランドから経済的な差別を受け、決して対等な関係ではない。グラスゴーは人口80万・英国第3の都市である。18世紀から19世紀にかけては工業都市として発展したが、時代とともに衰退し、1970年代には、錆付いたクレーンとからっぽの倉庫が、落ちぶれた街の象徴になっていた。そんな欝積した空気がこの作品からも感じとることができる。
そんなスコットランドの人々の70年代にスポットを当て、フランク&ナンシー・シナトラやトム・ジョーンズのノスタルジックなナンバーなどもドラマのアクセントとして登場する。「兄の子供時代の体験にインスパイアされた。彼の話を聞いたり、写真を見たりしてイメージをふ<らませたわ」と語る監督。次回作は、今最も注目される英国新鋭作家アラン・ウォーナーの処女作にしてサマセット・モーム賞受賞作品である「Morvern Callar」を映画化予定。この新作も大きな話題になりそうだ。 主役のジェイムズ役のウィリアム・イーディー、リアン・マレンといった子役たちはみんな素人の俳優。監督の期待にこたえ、見事な演技を見せる。父を演じるトミー・フラナガンはロバート・カライル率いる劇団レイン・ドッグで活躍し『グラディエーター』や『フェイス/オフ』などのハリウッド作品にも出演。母親役のマンディー・マシューズも同じ劇団のメンバー。また妹のアンを演じる9歳のリン・ラムジー・ジュニアは監督の実の姪である。 音楽を担当したのは、『エマ』で米アカデミー賞音楽賞を受賞、最近では『サイダーハウス・ルール』を手がけたレイチェル・ポートマン。温かく叙情的なケルトの旋律が、少年期のやるせなさをいっそう切なく彩っている。製作担当のギャヴィン・エマソンはプラダの広告キャンペーンや英国の人気ロック・グループ、レディオヘッドのドキュメンタリーを手がけながら、ラムジーの短編も製作。 撮影のアルウィン・カックラー、美術のジェーン・モートンもラムジーの短編でチームを組んでいる。

ストーリー


70年代・スコットランドの工業都市・グラスゴー。街は今日もどんより暗く、処理場のストライキで回収されないゴミから悪臭が漂っている。ゴミの上には灰色のネズミたち。家の前を静かに流れる1本の水路…そんな街で暮らす12歳の少年、ジェイムズ(ウィリアム・イーディー)は繊細な感受性を持て余し、周囲から孤立し始めていた。心の支えば、1つのひそやかな夢———”郊外のきれいな家に引っ越すこと”。それが”ここ”から逃げ出せる唯一の方法だと感じていた。
ある日、いつものように近所の少年ライアンと水路で遊ぶジェイムズ。しかし、遊んでいる途中にライアンは溺死してしまう。12歳のジェイムズにはあまりにも大きい衝撃。目撃者はいなかったが、ジェイムズの中には誰にも言えない罪悪感が芽生える。
ジェイムズの父(トミー・フラナガン)は家族のことを思いつつも、酒におぼれ、時には女遊びをすることもある。そんな父を母(マンディー・マシューズ)は優しく見守る。そして、しっかり者の姉やおしゃまな妹。好きなはずの家族たちにも、どこか距離を感じるジェイムズ。死んだライアンの家族にもらった遺品の靴も、ジェイムズの心に暗い影を落としていた。
秘密を抱え傷ついたジェイムズの心を癒したのは、2つ年上の14歳の少女、マーガレット・アン(リアン・マレン)だった。水路の近くで彼女と出会い、ふたりは少しずつ心を通わせ始める。不良グルーブのリーダー・マット・モンローのいいなりになっているマーガレットもまた、言いようのない孤独を持て余していたのだった。また、おしゃべりで動物好きのケニーとも友情を深め、ジェイムズは少しずつ心が穏やかになっていくのを感じていく。
ある日、姉の後を追いかけてバスに乗ったジェイムズ。到着したところは、果てしなく青空と麦畑が広がる郊外。小さな冒険にジェイムズの心は弾んだ。建設中の真新しい家に入り、大きな窓から身をのりだし麦畑のにおいを全身で感じとるジェイムズ。灰色の水路の街とは全く違う、そのすがすがしい景色は、ジェイムズに束の間の希望と解放感をあたえた。
街に戻れば、また同じ息詰まるような日々。そんな中、おどけ者のケニーが、誕生日にもらった白いネズミをジェイムズに見せる。スノーボールと名づけられたそのネズミに風船をつけて飛ばすケニー。彼はネズミが月まで飛べると信じていた。そしてこの街にいるより、ネズミが自由になれると。
そんなケニーが、ライアンと同じ運命に遭遇する。水路で溺死しそうになった彼を、下着姿で昼寝していたジェイムズの父が助け出す。水路に落ちた少年を救い出した勇敢な行為が認められ、彼は街の人々の前で金のメダルをもらうことになる。初めて父のことを誇らしく思うジェイムズ。
しかし、授与式の後、ひとりで酒を飲みに行った父はチンピラとのケンカに巻きこまれ、騒ぎを起こす。面目を失い、酔って帰った彼は、母に暴力をふるう。傷ついたジェイムズは、マーガレットの家に行き、彼女に抱かれながらベッドで眠る。
しかし、再び、激しい衝撃がジェイムズを襲う。マーガレットがマット・モンローグルーブにもて遊ばれているのを、目撃したのだ。行き場のない感情を抱えてジェイムズは走り出した。
全てから解放されるために、そして誰も彼を傷つけられないところへ…。

スタッフ

脚本・監督:リン・ラムジー
製作:ギャヴィン・エマソン
製作総指揮:アンドレア・カルダーウッド、バーバラ・マキサック、サラ・ラドクリフ
プロデューサー補:ベルトラン・フェーヴル
撮影:アルウィン・カックラー
音楽:レイチェル・ポートマン
美術:ジェーン・モートン
編集:ルチア・ズケッティ
衣装:ジル・ホーン
ヘアメイク:アナスタシア・シャーリー
キャスティング:ジリアン・ベリー

キャスト

パパ:トミー・フラナガン
ママ:マンディー・マシューズ
ジェイムス:ウィリアム・イーディー
アン・マリー:リン・ラムジー・ジュニア
マーガレット・アン:リアン・マレン
ケニー・ファウラー:ジョン・ミラー
エレン:ミシェル・スチュアート
ミセス・クイン:ジャッキー・クイン
ミスター・クイン:ジェイムズ・ラムジー
ミセス・ファウラー:アン・マクリーン
マット・モンロー:クレイグ・ボーナー
ビリー:アンドリュー・マッケナ
ステフ:ミック・マハーグ
ハミー:ジェイムズ・モントゴメリー
ライアン・クイン:トマス・マクタガート
トミー:スチュアート・ゴードン
マッキー:ステファン・スローン

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