原題:L’HUMANITE

衝撃的デビューを飾ったデュモン監督の2作目。カンヌ映画祭コンペ部門出品の問題作。

第51回カンヌ国際映画祭コンペ部門出品作品1999年 審査員グランプリ、最優秀主演男優賞、最優秀主演女優賞、三冠獲得 1999年フランス映画祭横浜出品作品

1998年/フランス/150分/Dolby Digital/シネマスコープ/ 配給:ビターズ・エンド

2003年11月27日よりDVD発売開始 2002年05月24日よりビデオ発売&レンタル開始 2001年5月12日よりユーロスペースにてロードショー公開

公開初日 2001/05/12

公開終了日 2001/06/22

配給会社名 0071

公開日メモ 1999 カンヌ国際映画祭、審査員グランプリ、最優秀主演男優賞、最優秀主演女優賞、三冠獲得!

解説


◆ある日起こった少女の強姦殺人事件。死体は下半身がむき出しにされ、野ざらしになっていた。捜査を担当するのは、警部補ファラオン・ド・ウィンテル。刑事らしくない、無垢でナイーブな男だ。少女の死体の無残さ。偶然にも、自分が思いを寄せている女性が、恋人とセックスをしているのを目撃してしまう、ショッキングな体験。本能同士がぶつかり合うような、激しいセックスを見つめながらも、しかし、彼はただ黙って事態を受け入れ、停む。容疑者に対する時でさえも、追求する代わりにその匂いを嗅ぐと、両手を広げて抱きしめる。ファラオンは、目をそむけたくなるような、痛みを伴うことがらのすべてを、悲しみとともにじっと受け止めていく。それは、奇妙で、もどかしく、時に滑稽ですらあるだろう。デュモンは、ファラオンが生きる世界を、音によっても際立たせる。吹き荒ぶ風、セックスで肉体と肉体が激しくぶつかる音、また、彼の息遣いや、叫び声、嘔吐する音…。そして、死を語り、セックスを誘う二つの性器。これまでの映画が避けて描かなかったもの、ほとんど触れずにいたものに、デュモンは真正面から立ち向かい、それらを克明にフィルムに刻みつける。そして、観る者に不快さを与えることを恐れず、世界の姿を挑戦的に、まったく新しい視線で描いていく。◆『ユマニテ』は、単なる”刑事もの”とは違った展開で進んでいく。事件の捜査は進展せず、映画は、ファラオンの日常と、思いを寄せる女性ドミノ、その恋人ジョゼフの関係を追いかける。ドミノとジョゼフの激しいセックスは何度も繰り返され、ファラオンは、彼らのデートにつきあって海や食事に出かけていく。彼はまた、一人で家庭菜園で花を育てたり、自転車で町から遠出をしたりして、静かに草木や大地との時間を過ごす。痛みとともに描かれる場面とは対照的に、菜園や、町外れの道を捉えていくカメラの中では、いつ果てるとも知れない時間がゆるやかに過ぎていく。そして、どこまでも張りつめた静謡さは、特異な流れを作り出し、新たに観る者を挑発し、不安にすらさせていく。しかし、映画は、この時間の体験を通して、その不安の先にあるものを捉えていく。ファラオンの圧倒的な無垢さは、すべての苦痛と悲惨さを超越するように、彼の触れるすべての人間や出来事を包み込み、次第にある救いのようなもので満たしていく。デュモンは「ファラオンは人間を照らし出す静かな光」だと言い、この映画をr愛、光に関する映画」と定義づける。ラストシーンでは、彼が犯人と向き合い、途方もない愛で、ついには犯人を赦すさまが描かれる。それは、観る者に静かに迫りながら、最後にそのタイトルが表す壮大なテーマー「人間性(ユマニテ)」とは何かを問いかけていく。◆スクリーンに映し出される風景は、広大で、目を見張るように美しい。『ジーザスの日々』に続いて、北フランスのバイユールという町が舞台となり、キャストも、北フランス出身の素人が選ばれた。元軍人というファラオン役のエマニュエル・ショツテ、野菜工場で働いていたというドミノ役のセヴリーヌ・カネルは、無論、映画初出演。しかし、ショッテの瞳の持つ独特の眼差し、カネルのどっしりした骨太な体が発散するエネルギーなど、彼ら自身でなければ表現できない存在感を見せつけ、その人物像を繊細に演じ切って、彼らはカンヌ国際映画祭主演男優賞、主演女優賞を受賞する異例の快挙を成し遂げている。デュモンの演出について、カネルは受賞後に発表した自伝「パレの階段で(AUX-ARCHESDUPALAlS)」でこう語る。「デュモンは私たちの奥底にありながら、私たちが使うことを知らなかったカを引き出そうとしたのです」。デュモンは、脚本の中に、出演者である彼らの反応を柔軟に取り込み、彼らにしか持ち得ないもの、彼らだけが出せるものを最大限に取り込んだ。そして、第2作にして、とてつもない魅力と深さをもった、驚異の衝撃作を生み出すことに成功したのである。なお、劇中に出てくるファラオンの祖父に設定されているのは、実在した同名の画家ファラオン・ド・ウィンテル(1849-1924)。バイユール出身の写実主義の画家で、映画中に出てくる肖像画は実際にその手に依るものである。ファラオン・ドゥ・ウィンテールは、他人の痛みも我がことのように感じてしまうナイーブな男。まじめで謙虚で他人の悪も自分のものとしてしまうような思いやり深い性格をしている。しかし刑箏としての日常はそんな彼を絶望させ、それは人間の原罪意識にまで発展していく。
『ジーザスの日々』で97年カンヌ映画祭カメラ・ドールを受賞。衝撃的なデビューを飾ったデュモン監督の2作目。前作同様、キャストはおもに素人を起用している。

ストーリー


フランス北部、バイユール。一人の少女が強姦殺人死体となって発見される。ファラオン警部補が事件の担当となり捜査が開始されるが、目撃者も見当たらず捜査は難航する。30代で独身のファラオンは、妻を事故で亡くし、母親と二人暮しだ。彼は同じブロックに住むドミノに惹かれていて、ドミノもまたファラオンに同情を寄せているが、ドミノには恋人ジョセフがいた。友人のほとんどいないファラオンは、彼らに誘われるまま三人で食事に出かけ、時にはドミノとジョセフが抱き合っているのを目撃してしまう。だが、彼は決して取り乱さず、趣味の自転車や、花の栽培で寡黙に自分を律していた。そんなある日、犯人が判明する…。

スタッフ

監督・脚本:ブリュノ・デュモン
製作:ジャン・フレア、ラシド・ブシャル
撮影:イヴ・カプ
録音:ピエール・メルテン
編集:ギー・ルコルヌ

キャスト

ファラオン・ドゥ・ウィンテール:エマニュエル・ショッテ
ドミノ:セヴリーヌ・カネル
ジョゼフ:フィリップ・チュイエ
エリアヌ:ジネット・アレグル

LINK

□IMDb
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http://www.winstarcinema.com/newsc/hum/html/humanite.html
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