熊野から
熊野はいくところじゃない。呼ばれるところなんだ—。 2014年、熊野は世界遺産登録10周年を迎える。
2014年/日本/カラー/90分/ 配給:「熊野から」製作委員会
2014年9月6日〜 和歌山 ジストシネマ南紀先行公開 9/20〜 大阪 シネ・ヌーヴォ 2014年10月11日(土)シアター・イメージフォーラムにて公開!
(C)2014「熊野から」製作委員会
公開初日 2014/09/06
配給会社名 1556
解説
観光映画でも文化映画でもなく、熊野を映画にする。
それが田中千世子の願望だった。
それは今まで田中が作った能の映画『藤田六郎兵衛 笛の世界』『能楽師』『能楽師 伝承』で能が主人公であったこととよく似ている。
果たして田中の願望を熊野は受け入れただろうか?
たとえわずかであったとしても—。
撮影は『海と自転車と天橋立』で風景のポエジーを映像化した鈴木一博と、なるしまフレンド・レーシングチームの記録『ツール・ド・熊野』の2011年と2012年を撮影した山本大輔。音楽は『能楽師』の梅林茂、笛の演奏は西俊行宮司である。
2013年、早春の東京を発ち、俳優の海部剛史(かいべつよし)は熊野に向かう。海部の行程は新宮市の神倉(かみくら)神社に始まり、そこから熊野川沿いに本宮大社を経由して十津川村へ。ここは日本で一番大きな村だ。翌朝、玉置(たまき)神社を訪れ、村に戻って資料館で郷土史家から話を聞く。そのあと、果無(はてなし)集落の入り口まで登る。
旅の3日目に海部は、神倉神社で知り合った西宮司に誘われて神内(こうのうち)神社に集まり、お祓いを受けた後、唐瀧不動明王(からたきふどうみょうおう)様に詣で、大山の修験者道場に向かう。
これはシナリオに書かれたものではなく、半分以上が現地で生まれたリアルな行程である。
この早春の旅を第一楽章にして、第二楽章の四月の旅が計画される。本宮大社で行われる例大祭。この時、海部はエジプト学者と知り合う。二人は現地で偶然知り合ったのだが、西宮司を介して熊野がそんな風に設定してくれたのかもしれない。そして第三楽章—六月の旅。那智の滝、那智大社、青岸渡寺に詣でる海部は、神仏習合思想の熊野のまっただ中で自分の記憶と向き合うのだった。
海部の親友、岡田には『浪漫者たち』の伊勢谷能宣(いせやひさのぶ)、海部に編集長の意向を伝える雑誌社の女性には劇団テアトル・エコー所属の雨蘭咲木子(うらんさきこ)、古道で海部の道連れになる青年に映画と舞台で活躍中の伊藤公一が扮している。
ストーリー
「熊野は行くところじゃない。呼ばれるところなんだ」
俳優で旅行エッセイストの海部剛史は、雑誌社の依頼で熊野に向かう。
親友の岡田に「俳優、それとも物書き? どっちなの?」と、聞かれると「どっちもやってるけど」と答える海部だが、訪れるたびに熊野に惹かれる自分の心が不思議だった。三月末の新宮は、ちょうど桜の盛りで、神倉神社の急な石段を上っていくと、笛を吹く男に呼び止められる。彼は海に近い阿須賀(あすか)神社の西宮司だという。
二日目の朝は予定通り熊野の奥宮とも呼ばれる玉置神社を詣でる。午後は十津川村の歴史について郷土史家の松實氏から話を聞く。古来大和朝廷とゆかりのある十津川村は、幕末の尊王攘夷運動のなかで、決起軍の招集を受けるが、村にニュースは逸早く伝わる。それというのも十津川の人間は驚くほど速く走るからだ。
翌日、西宮司に誘われ、三重県側の神内神社に集合して6人ほどで車に分乗、山の中の唐瀧不動明王に詣でる。その後、大山の山修山学林で立石和尚に会う。西宮司は阿須賀神社とは別に実家の近くに自分の神社をひらくために不動明王様を勧請する計画を立てているようだ。立石和尚はその計画に協力するらしい。いろんな人が熊野にはいる。もっと熊野を知りたい、と海部は思う。
四月の本宮大社は、二歳の子供たちが父親の背に乗って湯登(ゆのぼ)り神事をつとめるが、ぐずる子、泣き出す子もいて微笑ましい。大社の本祭で玉ぐしを捧げる人々の中に西宮司の姿もあった。海部は西宮司の友人のエジプト学者と知り合い、絵を描く女子とも知りあった。彼女は野宿しながら旅を続けていた。それにしても懐かしき哉、子供時代。
東京に戻るが、まだ熊野の旅は終わらない—。
新宮の駅の近くにある白い碑のことも気になる。碑には「志を継ぐ」と書いてある。大逆事件の犠牲者を顕彰する碑だった。明治の大逆事件で新宮から六人の犠牲者が出た。そのひとり、ドクトル大石誠之助について岡田は彼がいかにヒューマンな人間であったかを語る。岡田はいつもこんな風に海部を導き、見守ってくれる。旅のエッセイで大逆事件の犠牲者のことを取り上げるのは、雑誌社の意向に沿うだろうか、と海部は思う。ところが三度目の旅の前に編集者に会うと、社長からの要望で大逆事件のことはぜひ取り上げてほしいとのこと。大石誠之助全集を渡される。
六月の那智の滝。一昨年の台風の後の大雨の被害の跡がここにも見られる。大石の本を読み、もの思いにふける海部と対照的にはつらつとした女子たちが海辺でカポエィラの練習をしている。海部が補陀洛山寺(ふだらくさんじ)で補陀落渡海のことを思い、そばの神社と児童公園を通ると、黄色いボールが転がってくる。見渡すが、子供の姿はない。
熊野古道で海部は不思議な青年に出会い、彼と能の「松虫」の話をする。そして記憶について考える。青春の記憶、そして熊野の記憶。
スタッフ
製作・脚本・監督:田中千世子
撮影:鈴木一博、山本大輔
録音:中山隆匡、成ヶ澤玲
編集:小林由加子
カラリスト:関谷和久
本編集:松本翔太
音楽:梅林茂
スチル:遠崎智宏
題字:上條町子
配給:「熊野から」製作委員会
キャスト
海部剛史
伊勢谷能宣
伊藤公一
雨蘭咲木子
LINK
□公式サイト□この作品のインタビューを見る
□この作品に関する情報をもっと探す