山形国際ドキュメンタリー映画祭2011 アジア千波万波部門 特別賞 フランス シネマ・ドゥ・レエル2012 新人コンペティション部門出品 なら国際映画祭2012新人コンペティション部門出品

2011年/日本/カラー/107分/ 配給:スリーピン

2013年7月20日より新宿K's cinemaにて公開決定!!

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公開初日 2013/07/20

配給会社名 0242

解説


ソレイユと共に暮らす老人と犬の物語

多摩川の河口、捨てられた船で暮らす一人の老人
犬を傍らに、時折カメラに向かって話しかける
いつしかカメラは、彼の「物語」を紡ぎ始める−——

東京・多摩川の東京湾に流れ出る河口、モーターボートの修理をしながら、捨てられた船で暮らす一人の老人がいた。いつも犬を傍らに、川岸で近所に住む人達と語らっていた。老人はその犬をソレイユと呼んでいた。ソレイユとはフランス語で太陽。ソレイユを家族のように慈しむ老人の姿を映し出すカメラ。その老人は時折カメラに向かって話しかけるようになっていく。そして東京の片隅に暮らす老人と犬たちを見つめるまなざしは、いつしか、忘れられた東京という街の記憶とも重なっていくのだった。

忘れられた東京の片隅で暮らす—−−
この街を彷徨う誰にも、それぞれの物語がある

2012年に劇場公開され注目された『ニッポンの、みせものやさん』の奥谷洋一郎監督が新たに紡ぐ、ドキュメンタリー・トウキョウ。山形国際ドキュメンタリー映画祭2011のアジア千波万波部門に出品され特別賞を受賞したものに、整音と新たな音響効果をほどこし、さらに完成度を高めた。ドキュメンタリー映画作家、故佐藤真が遺した企画ドキュメンタリー「トウキョウ」の一編として構想された本作。東京という大都会の傍らで、消えゆく人々と風景を静謐に描き出す。

ストーリー





監督のことば

船に住む彼と東京を彷徨う私、水辺と陸上の間で

監督 奥谷洋一郎

私は野良犬を探していた。東京をモチーフにした映画を撮るために。

小学生だった頃、窓からぼんやり外を眺めているとふいに野良犬が校庭に迷い込み、教室にいた私たちは大騒ぎになった。いま私が東京で野良犬を見かけることはほとんどない。東京湾に浮かぶ羽田空港の滑走路に野良犬が迷い込んだと聞きつけ、私は湾に流れ出る多摩川の河口の街へ向かった。そこで出会った人たち。漁師は、もうとっくにこの海の漁業権は放棄してしまったと言った。産業廃棄物処理場を営む在日朝鮮人は、ゴミは宝の山だと言った。空き缶を集めるため自転車で走り回っていた肌の浅黒い男は、いまは1キロあたり105円が相場だと言った。彼らが騒ぎになった犬たちの飼い主を教えてくれた。飼い主の男は犬と一緒に廃船に住み、船の修理をして暮らしていた。彼は修理代の代わりに漁師からもらった、売り物にならない魚をさばいてその日の食事にした。捨てる者と拾う者。私たちはみな都市に住みつく犬。雑種で野良。そしてこの東京に生きている。

かつて多くの廃船を囲ってその中に住んでいたという男は、東京都による不法係留船の行政代執行で元々いた海辺から追い立てられて現在の川に辿り着いたのだと言う。昔は船の修理会社を営んでいて人夫を雇っていたとも言う。彼が昔話をしてその物語が膨らんでいく度に、私は現実とのずれを感じてしまう。彼が目にしてきたはずの風景はいまそこにない。私はただ彼の話に耳をかたむけ、川縁に流れる時間を彼と共に過ごしていた。

何人かの男たちがやってきて、彼に船を預けて去っていった。自分は船の修理屋なのだと彼は言い、取り替えの効かなくなった部品を削ったりはめ直したりして古い船の修理をしていた。ほとんどの持ち主たちは船を取りに来ることがなかった。持ち主たちはわずかばかりの手間賃で彼に船を押しつけているのかもしれないと私は思った。彼もそれがわかった上でそのような生活に甘んじているのかもしれないとさえ思った。川岸には持ち主のわからなくなった船や不法投棄された船がいくつも並んでいた。素人にも新しいと分かるような馬力のある船は、人を乗せて川から海へと出て行った。

ある時彼は、船だけでなく犬が問題なんだと言った。彼のいる水辺から係留場を渡って陸に上がるとそこは整備された公園になっていて、飼い犬を連れた人たちの社交場になっていた。彼は、周りの住民から犬の鳴き声がうるさいとか犬の糞が汚いとかいつも自分のせいにされるんだと嘆いた。川岸の係留場に隔てられた水辺と陸上。公園に集う人たちや近所のマンションの住人からいつも見張られているような気がすると彼が思うのも、水辺にいれば無理はない。そこは一層低い場所だった。時には陸上から水辺へ罵声が浴びせられることや石が投げ込まれることもあった。

水辺の暮らしが彼にとって居心地の悪いものだったわけではない。そこにはビルが建ち並び道路が張り巡らされた陸上にはない自由さがあった。彼がいて犬たちがいて、時には渡り鳥や亀に出くわすこともあった。すべての動物たちが、都市の隙間でそれぞれの存在を保つべく生き永らえていた。そこに野良の生活があった。東京に自分の居場所を見出せない私は、彼と彼の生活にある種の自然を感じるとともに居心地のよさも感じていた。とは言え、水辺での生活はそう簡単なものではない。一日のうちで干潮時と満潮時の水位の差は激しく、台風が来れば水面は急上昇した。台風が去った後、水面は流されてきた木片や魚の死骸、プラスチックやビニールのゴミで覆いつくされた。私には彼の生きている場所が都市のゴミ溜めのようにも見えた。私はこの場所で彼らの映画を撮ろうと、カメラを回し始めた。

スタッフ

監督・撮影・録音・編集:奥谷洋一郎
整音:黄永昌
制作協力:映画美学校ドキュメンタリー・コース研究科 
     江波戸遊土 遠藤協 風姫 筒井武文 
     畠山容平 Love Art Puff 

取材協力:徳山四郎

宣伝協力:石井トミイ 久保田桂子 佐藤杏奈 シネトニウム 
     松久朋加 百石企画 吉田孝行 吉本伸彦 渡辺賢一 

キャスト

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