原題:BARBARA

2012年/ドイツ/カラー/105分/ 配給:アルバトロス・フィルム

2013年1月19日(土)よりBunkamuraル・シネマ、川崎チネチッタ他にて、全国順次公開

公開初日 2013/01/19

配給会社名 0012

解説


2012 年ベルリン国際映画祭銀熊賞(監督賞)受賞
2013 年アカデミー賞外国語映画賞ドイツ代表決定

人は、歴史の闇に隠された真実を目の当たりにしたとき、その想像もつかない壮絶な事実に愕然とし、そして、そんな悲劇にさえ屈することなく運命を生き抜いた人々の逞しさに感動で胸震わせることがある。
ベルリンの壁が崩壊するまで、東ドイツでいったい何が起きていたのか?秘密警察《シュタージ》の厳しい監視システムの下、一党独裁による恐怖政治の真実を知る人は、今なお決して多くはない。
東西ドイツが統一されて、今年で 23 年。うつろう時の流れは、これまで明らかにならなかった事実を風化させることなく、いっそう私たちの胸に衝撃的に響く。
職務に忠実なシュタージの諜報員のまなざしを通して、愚劣な恐怖政治の醜悪さを暴き、2007 年のアカデミー賞外国語映画賞に輝いた『善き人のためのソナタ』から 6 年、『東ベルリンから来た女』は、猜疑心渦巻く時代、厳しい監視の眼を盗んで西ドイツへの逃亡を画策するヒロインの葛藤の末の運命の決断を、まるでサスペンス映画さながらの緊張感を漲らせながら描ききった渾身の愛のドラマである。

東と西。嘘と真実。自由と使命。
その狭間で揺れる,愛。
彼女は、東ベルリンからやって来た。

ブロンドの髪で艶ややかに彩られたその美貌は、微笑みひとつこぼすことなく、毅然と背筋を伸ばし、
ただひたすら前を見据えるその眼差しは、一切の弱音を撥ねつけるように、近づきがたい威厳を放つ。
彼女の名はバルバラ。西ドイツ移住の申請を政府に却下されて、バルト海沿岸の小さな町の病院に左遷された女医である。
誰もがスパイかもと疑念を投げかけられても仕方のない時代、新しく彼女の上司となったアンドレから寄せられるさりげない優しささえも、シュタージへの“密告”の手段ではないかと猜疑心が拭い切れないバルバラにとって、西ベルリンに暮らす恋人ヨルクでさえも、果たしていつまで彼女の味方であり続けるのか?
そんな心の拠り所を失くしたバルバラにとって唯一の生き甲斐が、医師としての信念だ。不安に陥る患者を励まし、刻一刻と病状の変化を見守る。患者に注ぐ無償の献身こそが、過度な緊張を強いられて、今にも崩れ落ちそうな彼女の心の支えとなっているのだ。
恋人ヨルクとのデンマークへの逃亡は、そんな彼女にとって暗黒の日々との訣別となるはずだった。しかし、東ドイツを離れて、自分はいったい何をするというのか。医師としての誇りは?そんなバルバラの揺れる心に、医師としても男性としても誠実なアンドレは、次第に大きな存在となってゆく。
果たして、バルバラの選んだ究極の決断とは……?

ドイツから新たなる傑作が誕生した。
『善き人のためのソナタ』では描かれなかった、もうひとつの真実。
観る者に一切の状況説明を与えることなく、バルバラの日常生活を繊細に、静謐に掬い取ることで、監視体制下の東ドイツに生きることの身体的かつ心理的な抑圧を、一級のサスペンス映画を彷彿させる緊迫感で映し撮った監督は、新鋭クリスティアン・ペッツォルト。
「脱出すれば永遠に東ドイツには戻れない。二度と故郷に戻れず、自分の過去も消えてしまうのでは」という、ある旧東ドイツ出身の女優の恐怖に満ちた追想に深い感銘を受けたという監督は、「抑圧された東ドイツを強調するのではなく、無垢で純粋な愛を有する生身の人間を描いた」と語るように、政治的な圧力に縛り付けられたヒロインの魂を、豊穣な自然あふれる田舎町のひと夏のきらめく陽光の中で、清冽に解き放つ。
また登場人物の内面を台詞よりもディテールを積み重ねて雄弁に解き明かしたその映画的スタイルは、2012 年のベルリン国際映画祭で銀熊(監督)賞を受賞するなど高く評価され、「知性と感性に満ちた繊細な傑作」(ユマニテ)、「『善き人のためのソナタ』との完璧な対を成す作品」(ル・フィガロ)とヨーロッパ中のマスコミから絶賛を浴びた。また、今年度のアカデミー賞外国語映画賞のドイツ代表作品にも選出されたことで、今後本格化する賞レースを席巻することは間違いない。
ヒロイン、バルバラを演じるのは、ペッツォルト監督とは本作で 5 度目のコラボレーションとなるニーナ・ホス。07 年の“Yella”でベルリン国際映画祭銀熊賞(女優賞)を受賞するなど、ペッツォルト監督とは深い信頼の絆で結ばれた彼女は、バルバラの心に一度は殺したはずの情熱の炎が次第にふつふつと甦る様をスリリングに銀幕に焼き付け、観る者を魅了してやまない。
共演は、疑心暗鬼なバルバラの心を不器用だが誠実な優しさで次第に解きほぐしてゆくアンドレに、旧東ドイツで幼少期を過ごした実体験を持つロナルト・ツェアフェルト。まるでバルバラの影のように、彼女の私生活に付きまとうシュタージの諜報員シュッツに、『白いリボン』『戦火の馬』など国際的に活躍するライナー・ボックが重厚な存在感を示す。
幸福に生きるには困難な世情を静かに耐え抜いたバルバラが、毅然とした決断の果てに掴んだものは、何ものにも奪い取られることのない人間の誇りだ。その輝きは、先行きの見えない不安な現代を生きる私たちの心にも深く刻まれて、決して消えることはないだろう。

ストーリー




旧東ドイツのさびれた町に暮らしていた若い女性イェラは、元夫から逃れるためにもハノーバーに移り、職を探す。ビジネスマンのフィリップと出遭った彼女は彼の助手としてめざましい働きを見せるが、元夫の執拗なストーカー行為に苦しめられる。そして様々な超常現象に遭遇して困惑する。かぎりなくリアルな映像世界で展開される緊迫感あふれるドラマ。

スタッフ

監督:クリスティアン・ペツォールト
製作:フロリアン・コールナー・フォン・グストルフ、ミヒャエル・ヴェバー
脚本:クリスティアン・ペツォールト
撮影:ハンス・フロム
編集:ベッティナ・ボーラー
音楽:シュテファン・ヴィル

キャスト

ニーナ・ホス
ロナルト・ツェアフェルト
ライナー・ボック
ヤスナ・フリッツィ・バウアー
マルク・ヴァシュケ

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