原題:L'affaire Farewell

2009年/フランス映画/113分/アメリカンヴィスタ/ドルビー SRD 字幕翻訳=丸山垂穂 配給:ロングライド

2010年7月31日(土)、シネマライズにてロードショー

(C)2009 NORD-OUEST FILMS

公開初日 2010/07/31

配給会社名 0389

解説


国際社会のパワー・バランスを塗りかえたソ連崩壊。
そのきっかけとなった20世紀最大級のスパイ行為
〈フェアウェル事件〉。
歴史に埋もれた驚愕の実話がついに映画化!

20世紀最大のスパイ事件のひとつと言われるその驚くべき出来事は、1980年代初頭ブレジネフ政権下のソ連で起こった。KGBのグリゴリエフ大佐(実名:ウラジミール・ヴェトロフ)が、自らが所属するKGBの諜報活動に関する極秘情報を、当時、東西冷戦時代の敵陣営であるフランスに受け渡したのだ。しかもこの超大物スパイが提供した莫大な資料には、ソ連が長年調べ上げたアメリカの軍事機密や西側諸国に潜むソ連側スパイのリストなどが含まれ、まさに世界のパワー・バランスを一変させかねないほどの破壊力を秘めたトップ・シークレットだった。グリゴリエフのコードネーム〈フェアウェル(いざ、さらば)〉を冠して〈フェアウェル事件〉と呼ばれるこの史上空前のスパイ事件は、実際に当時のソ連を震撼させ、アフガニスタン侵攻の失敗とともに、のちの共産主義体制崩壊の大きなきっかけになったとされる。
 なぜ〈フェアウェル〉ことグリゴリエフは、祖国を裏切るという死と背中合わせのリスクを冒したのか。〈フェアウェル〉からの情報は、どのようにしてフランス側へと渡り、超大国アメリカを動かしていったのか。
そして〈フェアウェル〉は、いかなる壮絶な運命をたどっていったのか…。近年のフランス映画としては異例の国際的スケールを誇る大作『フェアウェル/さらば、哀しみのスパイ』は、巨大なミステリーが渦巻く歴史の知られざる真実へと観る者を誘っていく。

祖国と息子のために死のリスクを冒した実在の男
〈フェアウェル〉の孤高の魂を体現する
エミール・クストリッツァ、渾身の名演技

 〈フェアウェル〉は「世界を変えてみせる。祖国のために、そして次世代を生きる息子のために・・・」という途方もない信念を貫き通し、本当にそれを成し遂げてしまった実在のスパイである。共産主義の理想と廃れゆく現実の大きなギャップに失望した〈フェアウェル〉は、祖国の新しい未来と息子たちの生きる希望をたぐり寄せるため、自らの意思で国家の反逆者になっていった。本格的なスパイ・スリラーとしての緊迫感みなぎるこの映画は、ジェームズ・ボンド的なスパイのイメージを覆し、〈フェアウェル〉の極めて多面的で人間味あふれる実像に迫っていく。祖国と家族の未来を思い、西側への亡命の道を選ばず、金銭的な見返りすら求めなかった男の数奇な生き様。非情なるスパイの世界に身を置きながらも、ふとした瞬間に優しさ、切なさ、脆さを滲ませる〈フェアウェル〉の孤高の魂に触れたとき、観客の誰もが心揺さぶられずにはいられないだろう。
 しかしグリゴリエフのキャスティングが初めからスムーズにいったわけではない。当初、ロシア人俳優であり監督であるニキータ・ミハルコフが配役されていたがスケジュールの都合で降板、プロデューサーとして参加が決まった。その後、あるロシア人俳優がキャスティングされたが、当時の在仏ロシア大使、後に文化大臣となる人物からのある電話により、なぜかその俳優も降板したのだ。「ロシアからしたらヴェトロフはヒーローではなく、祖国の裏切り者なのだ」という通告を受け、その圧力に恐れを抱いたミハルコフもプロデューサーを降板することになる。ロシアでの公式な撮影への道筋が断たれた瞬間だった。
 そのようなトラブルののち、本作の忘れえぬ主人公〈フェアウェル〉を演じることになったのは、『パパは、出張中!』『アンダーグラウンド』で二度のカンヌ国際映画祭パルム・ドールに輝き、ヨーロッパ屈指の映画監督たる地位を揺るぎないものにしたエミール・クストリッツァ。
俳優、ミュージシャンとしても精力的に活動する彼にとって、これが初の“主演”映画となる。フランス語とロシア語のセリフをこなし、〈フェアウェル〉の人物像に類い希なカリスマ性と人間の業を吹き込んだ演技力と存在感は、ただ圧巻と唸るほかはない。ラスト近くの息子への熱き想いは、父親という存在の哀しさと崇高さを重厚に滲ませる映画史に残る名シーンとなった。
 一方、〈フェアウェル〉の秘密の共有者であるフランス人、ピエールに扮するのはギヨーム・カネ。監督としても権威あるセザール賞の受賞歴を持つ実力派俳優が、ソ連在住のフランス民間企業のエンジニアというごく普通の市民でありながら、危うくも刺激的なスパイ活動にのめり込んでいく男の複雑な心理を繊細に演じきった。国家の理想を超えて〈フェアウェル〉とピエールとの間に芽生える奇妙な絆、そして両者それぞれの家族との愛と葛藤のエピソードが、深遠なヒューマン・ドラマとしても傑出した本作の魅力をいっそう際立たせている。

珠玉の感動実話『戦場のアリア』で名高い
クリスチャン・カリオン監督のもとに
国際的なスタッフ&キャストが集結

 この野心的なプロジェクトを実現させたのは、2005年の『戦場のアリア』で絶賛されたプロデューサー、クリストフ・ロシニョンとクリスチャン・カリオン監督の名コンビである。とりわけ『戦場のアリア』に続く実話ものへの挑戦となったカリオン監督は、入念なリサーチと独自のヴィジョンに基づき、ソ連、フランス、アメリカの三ヵ国を結ぶ壮大なストーリーを堂々たる語り口で演出。『ノー・マンズ・ランド』『戦場のアリア』のウォルター・ヴァン・デン・エンデ(撮影)、『レスラー』『月に囚われた男』のクリント・マンセル(音楽)といった一流スタッフを率いて、重厚かつ詩的な情緒が息づく映像世界を紡ぎ上げた。クイーンの大ヒット曲「ウィ・ウィル・ロック・ユー」、ジョン・フォード監督の傑作西部劇『リバティ・バランスを射った男』、アルフレッド・ド・ヴィニーの詩「狼の死」などの引用や、かつて映画撮影が許可されたことのないパリのエリゼ宮殿を始めとする多彩なロケーション、そしてソニーのウォークマンなどの小道具も冷戦下の時代性や登場人物を効果的に肉づけしている。
 エミール・クストリッツァ、ギヨーム・カネの脇を固めるインターナショナルなキャストの顔ぶれも見逃せない。『ヒトラー 〜最期の12日間〜』のアレクサンドラ・マリア・ララ、『太陽に灼かれて』のインゲボルガ・ダプコウナイテ、『スパイダーマン』のウィレム・デフォーがCIA長官を演じ、さらに『ルパン』のフィリップ・マニャンがフランソワ・ミッテラン、『ヘンリー&ジューン/私が愛した男と女』のフレッド・ウォードがロナルド・レーガンという当時の仏米の大統領を演じている。

ストーリー

 1981年4月、モスクワ。東西冷戦終結、そしてソ連崩壊という、世界の基軸が180度転換してしまう日から、およそ8年前——。

 KGBの幹部、セルゲイ・グリゴリエフ大佐(エミール・クストリッツァ)は、傍から見たら順風満帆な生活を送っていた。情報処理の責任者として国の中枢にいるという自負と充実、それに見合った収入とその生活ぶり、美しい妻(インゲボルガ・ダプコウナイテ)と反抗期を迎えてはいるが優秀な息子の存在。国家のエリートとして充分に満足できる生活のはずであったが、それゆえ愛してやまない国の行く末に不安を感じていた。例えば人類で初めて宇宙に行ったロシアは、いまは行き詰っている。それは彼の立場であるからこそ嗅ぎ取れる異臭のようなものとなって自身を苛んでいくのだった。“世界を変える—”。
ソ連という東側の情報の中枢にいれば、たったひとりでもそれは不可能ではないように思われた。いや実現しなければ、ソ連の未来も、そして愛する息子イゴールの未来も枯れて、干上がった河のようになるのは明らかだった…。

 そんなある日、グリゴリエフはフランスの家電メーカー技師、ピエール・フロマン(ギヨーム・カネ)との接触に成功する。フランスの国家保安局DSTから、彼の上司ジャックを経由しての接触だった。プロとの接触ではないことに失望したグリゴリエフだったが、彼に対し奇妙な親近感を覚え、重要な情報を手渡す。そこにはスペースシャトルの設計図やフランスの原子力潜水艦の航路図などがあった。一介の技術者であったピエールは、その情報の壮大さに目を見張り興奮する。しかしその無防備さから書類を妻のジェシカ(アレクサンドラ・マリア・ララ)にも見せてしまい、彼女から非難される。すぐにそれを処分すべきだ、と。幼い子供を抱える母としてのごく自然の反応に、ピエールは曖昧な返事をするしかなかった。それほどにその情報は平凡な日常を送るピエールには魅力的に映ったのだった。

 その頃アメリカは、フランスが左翼勢力であるミッテランが政権を獲得したことに苛立ちを覚えていた。81年カナダでのオタワ・サミットでレーガンはミッテランに共産主義者の大臣起用に憂慮を示し、組閣の見直しを求める。それに対しミッテランが差し出したのがグリゴリエフの情報だった。NASAやCIA、ホワイトハウスで働く15名のアメリカ人スパイの情報が記された情報…。書類の表紙には“フェアウェル(いざ、さらば)”というコードネームが記されていた。

スタッフ

監督・脚本:クリスチャン・カリオン
プロデューサー:クリストフ・ロシニョン、ベルトラン・フェーヴル、フィリップ・ボファール
原案脚本:エリック・レイノー
原作:「ボンジュール・フェアウェル」セルゲイ・コスティン
音楽:クリント・マンセル
プロダクション・マネージャー:ステファン・リガ
撮影:ウォルター・ヴァン・デン・エンデ
編集:アンドレア・セドラツコヴァ
美術:ジャン=ミシェル・シモネー
サウンド・エンジニア:ピエール・メルテン
音響デザイン:トマ・デジョンケール
録音:フローレン・ラヴァレー
キャスティング:スージー・フィギス
キャスティング(仏):ジジ・アコカ
衣装:コリンヌ・ジョリー
メイクアップ:マビ・アンザローヌ

キャスト

グリゴリエフ大佐:エミール・クストリッツァ
ピエール・フロマン:ギヨーム・カネ
ジェシカ:アレクサンドラ・マリア・ララ
ナターシャ:インゲボルガ・ダプコウナイテ
シューホフ:アレクセイ・ゴルブノフ
アリーナ:ディナ・コルズン
ミッテラン大統領:フィリップ・マニャン
ヴァリエ:ニエル・アレストリュプ
レーガン大統領:フレッド・ウォード
ハットン:デヴィッド・ソウル
フィニーCIA長官:ウィレム・デフォー
イゴール:エフゲニー・カルラノフ
アナトリー:ヴァレンチン・ヴァレツキー

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