「みんな、ホントウの自分でおやんなさい」

第32回ぴあフィルムフェスティバル招待作品

2010年/日本・カナダ/カラー/35ミリ/アメリカンビスタ/ドルビーデジタル/109分 配給:ショウゲート/スールキートス

2010年8月28日(土)、新宿ピカデリー、銀座テアトルシネマ、渋谷シネクイントほか全国ロードショー

©2010“トイレット”フィルムパートナーズ

公開初日 2010/08/28

配給会社名 0008/1051

解説


強く思ったことでしか、人生は動かせない。
『かもめ食堂』『めがね』の荻上直子監督待望の最新作。
『かもめ食堂』(06)と『めがね』(07)を大ヒットさせた荻上直子監督。構想から実に5年、前作から3年ぶりの待望の最新作が誕生しました。監督によるオリジナルストーリーとなる本作は、“家族”という小宇宙で起きる衝突と、それを乗り越えて愛情という絆で結ばれる、家族の成長物語です。荻上監督ならではのユーモアを随所に散りばめた、透明感あふれる感動作が出来上がりました。
トイレットは、誰もが日に何度か行く大切な場所ですが、所によって形態も違えば紙で拭くか水を使うかなど様式も多種多彩、それぞれの文化の象徴とも言えます。日本からやって来た“ばーちゃん”と若者たちが、さまざまな違いを越えて繋がりあっていく中で、重要な役割を担うのも、トイレットです。大胆不敵なタイトルですが、ご覧になれば、なるほどとうなづける端的な題名であることがおわかりいただけることでしょう。
突然、ばーちゃんとの奇妙な生活がはじまった。
バラバラで生きてきた3兄弟と日本人の“ばーちゃん”が織り成す、家族の物語。
「人生は退屈の繰り返しに耐え忍ぶことだと思う」−ロボット型プラモデルオタクの青年レイは、誰とも深く関わらないことを信条に生きてきた。ところが母の葬儀の直後、ひとり暮らしのアパートから、やむなく実家に舞い戻るはめに。そこには、4年間も引きこもりの生活を続ける、ピアノが弾けなくなったピアニストの兄モーリーと、ちょっと勝気な大学生の妹リサ、そして……“ばーちゃん”が暮らしていた。ばーちゃんは、ママが亡くなる直前に日本から呼びよせた母親、つまり3兄弟の祖母だ。英語がまったく喋れないばーちゃんは自室にこもりきりで、トイレから出てくるたびに深いため息をつく。そのため息を気にかけつつ、モーリーとリサから職場に頻繁にかかってくる電話で、レイの淡々とした日常が破られてしまう。だが、バラバラに生きてきた兄弟は、ばーちゃんの無言の支えによって外の世界に一歩踏み出し、4人はお互いの個性を受け入れながら家族としての絆を強めていくことになる…。
荻上監督が全幅の信頼をおくキャスト、スタッフが集結。
唯一の日本人キャストには監督のミューズ 、もたいまさこ。
ひっつめ髪で動作もゆっくり、いつも不機嫌そうな顔をした“ばーちゃん”を演じるのは、荻上監督のこれまでの全4作品に出演してきたミューズ、もたいまさこ。唯一の日本人キャストでセリフがほとんどない中、孫たちの願いを心で感じとる賢者にしてパンク・スピリッツも併せ持つ老女を、悠然と演じている。
そして『かもめ食堂』『めがね』で組んだスタイリストの堀越絹衣とフードスタイリストの飯島奈美も、監督の強い要望を受けて参加。若いカナダ人俳優たちからも「ホリコシさんは単に抜群の衣裳を選ぶだけじゃなく、つねに細部まで気にかけてくれるし、ナミさんが作る餃子は世界一!」と絶賛された。
兄弟役には、オーディションで選ばれた3人の若手俳優を起用。それぞれ個性豊かなキャラクターを息もぴったりに生き生きと演じる。なお、リサ役のタチアナ・マズラニーは、2010年のサンダンス映画祭「ワールド・シネマ・ドラマ」部門で、主演作『Grown Up Movie Star』の演技により、審査員特別賞(ブレイクスルー・パフォーマンス賞)を受賞している。やはり現地で選んだ撮影監督をはじめとするスタッフも、1972年生まれの荻上監督よりもほぼ全員が年下の若々しいチームになった。
また、ピアニストのモーリーが弾くクラシック曲は、「あまり有名ではない名曲」という監督の要望を元に、リストの「ため息」と「波を渡るパオラの聖フランシス」、ベートーヴェンの「ピアノ・ソナタ21番」が選ばれた。
こうして、南カリフォルニア大学での6年間の留学を終えた2000年に荻上監督が「いつか北米で映画を撮りたい」と心に誓ってから10年、シナリオの構想を得てから5年を経て、2009年の初秋にカナダのトロントで撮影を行い、ついに快心の作品が誕生した。

ストーリー








北米東部—とある街。
「今日、ママが死んだ──ママが遺したもの、それは、ひきこもりの兄モーリーと、人を小馬鹿にした目で見る妹リサ、たいして大きくもない家、猫のセンセー。そして……」
とある企業の実験室に勤務する僕、レイは、「人生は退屈の繰り返し、何も求めず、何も期待しない」をモットーに、誰とも深く関わらずに過ごしてきた。唯一の趣味は、ロボット型プラモデルでひとり遊びをすることだ。
葬儀から数日後、リサから呼び出されてママの家に行くと、モーリーとリサが口論の真っ最中。「この家を売って、モーリーは精神科に入院して、あたしはセンセーと大学の寮に暮らして、ばーちゃんを施設に預ける。それが一番の解決策だと思うの」というリサに、モーリーが激しく抵抗していた。“ばーちゃん”。ママが遺したもうひとつのものは、死ぬ直前にママが日本から呼び寄せたママのママ、つまり僕たちの祖母だった。
彼らと暮らすつもりはなかったのに、ひとり暮らしのアパートが火事に遭い、僕はママの家に舞い戻ることになった。ばーちゃんは、毎朝トイレに長いことこもって、出てくると深いため息をひとつついて、また自室に戻る。言葉も通じないし、僕らと似たところはひとつもない。本当に僕らと血が繋がっているのだろうか。DNA鑑定をしてみたほうがいいのかもしれない。
ある日、昔ママが使っていた古い足踏みミシンを見つけたモーリーは、「どうしても縫いたいものがあって、布を買いに行きたいんだ」と、ばーちゃんに必死に訴える。心の病のモーリーは4年間外に出られずにいた。ばーちゃんは無言で札束をモーリーに差し出す。一方、ばーちゃんがエアギターのコンテスト番組に見入っているのを知ったリサは、自分もコンテストに出ようと決意。そのための資金を、モーリーのときと同じく、ばーちゃんが気前よく無言で出してくれる。
いろいろなことが目まぐるしく起きた。予測不可能なことをやらかしてくれる3人に、僕の平穏な日常は破られ、ついキレてしまったこともあった。でも、そんなとき、ばーちゃんが僕のために餃子を焼いてくれたりして、少しずつ僕の中で何かが変化していった。同僚のアグニと親しく言葉を交わすようになったのも変化のひとつだ。
モーリーが出場するピアノ・コンテストの日がやって来た。少し前に入院したばーちゃんを車椅子に乗せて、リサと一緒に客席で見守る。お手製の花柄のスカートをはいたモーリーがステージに登場すると、客席にざわめきが起きる。4年前にコンテストの演奏途中で緊張のあまり吐いたことがトラウマになっていたモーリーだが、今また緊張のあまりパニック寸前の様子。そのとき、ばーちゃんが立ち上がり、モーリーに大声で呼びかける。モーリーの見事な演奏が始まった。
ママの墓の前に僕らは喪服姿で並ぶ。今日、ばーちゃんが死んだ。
数日後、業者が来てトイレをウォシュレットに取り換える。ばーちゃんのために僕が頼んでおいたものだ。僕はばーちゃんの遺灰の入った小瓶を持ってトイレに入る。便座に座って、ボタンを押す。「あん!」思わず声が出てしまうほど、気持ちいい。まさしくグレート・ジャパニーズ・テクノロジーだ。そして、ばーちゃんを思い、こらえきれずに泣いてしまう。鼻水を拭こうとトイレットペーパーに手を伸ばしたら、ああ、その瞬間……!!

スタッフ

脚本・監督:荻上直子
エグゼクティブプロデューサー:尾越浩文
プロデューサー:小室秀一 木幡久美 ショーン・バックリー
アソシエイトプロデューサー:小榑洋史 ジョエル・バーチ
撮影:マイケル・レブロン
美術:ダイアナ・アバタンジェロ
編集:ジェームス・ブロックランド
音楽:ブードゥー・ハイウェイ
衣装:堀越絹衣
フードスタイリスト:飯島奈美
制作プロダクション:パラダイス・カフェ、バックプロダクションズ

製作:“トイレット”フィルムパートナーズ
(ポニーキャニオン、スールキートス、パラダイス・カフェ、ショウゲート、博報堂DYメディアパートナーズ、パルコ、光文社、衛星劇場、Yahoo! JAPAN)

キャスト

アレックス・ハウス
タチアナ・マズラニー
デイヴィッド・レンドル、
サチ・パーカー
もたいまさこ

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