原題:ALEXANDRA

2007カンヌ映画祭コンペティション部門
トロント映画祭
ニューヨーク映画祭正式出品
アメリカ映画協会Time for peace賞最優秀ヨーロッパ作品賞・最優秀主演ヨーロッパ女優賞受賞

2007年/ロシア=フランス/カラー/92分/
配給:パンドラ、太秦

2009年12月20日(土)より、渋谷ユーロスペース他全国順次ロードショー

(C) Proline-film (C) Mikhail Lemkhin

公開初日 2008/12/20

配給会社名 0063/0864

解説


チェチェンの最前線でオールロケ
「チェチェンへ アレクサンドラの旅」は戦争と人間について描いた作品である。天皇ヒロヒトを描き大ヒットした「太陽」のソクーロフ監督が、現在、報道統制下にあるチェチェン共和国の首都グロズヌイにある、実際のロシア軍駐屯地とその周辺で、25日間をかけてオールロケした本作に、戦闘シーンは全く出てこない。だが戦争の本質と、人生にとり最も大切な家族や友人、見知らぬ人と人との触れ合いを、情感を込めて描き出した。

孫へのまなざし 平和への祈り
チェチェン共和国のロシア軍駐屯地。部隊の一将校であるデニス・カザコフのもとに、祖母アレクサンドラ・ニコラエヴナが会いに行く(ロシアでは戦地の家族が兵士を訪ねるのは珍しくないが、戦争が長引くに従い訪れる家族も減っている)。蒸し暑さが滲み出すような赤茶けた画面からは、長年の戦争に倦んだ土地の荒涼とした空気が漂う。7年ぶりに会う愛しい孫が、銃で人を撃つしかできないことをアレクサンドラは嘆く。彼女は兵士と同じテントに泊まりながら、ゆったりと、兵士や現地の人々と親しくなり、僅かの滞在で新たな世界を知る。駐屯地は騒々しく、男だけの世界でぬくもりや安らぎはない。日々の生活は味気なく、兵士たちの表情はまだ少年のようだ。

戦争の前線に女性がいるという現象
武器を始めロシア軍の装備は使い古されていてお粗末であり、兵士は勲章を付けたままの軍服などを現地の市場に売りに出す。軍規は乱れているようだ。前線では、毎日、毎時間、生は脅かされ死が迫っている。職業軍人であるデニスは「自分たちは現地の人々から嫌われているばかりでなく、恐れられてもいない。それなのにどうして軍隊を駐留させるのか」と呟く。だが、本作のセリフがすべてこのように直接的であるとは限らない。現在進行中の事態へのロシア映画人としての対応方法を推し量ることができる。またチェチェン人とロシア人の相互の感情も映し出される。高齢女性をたった一人で戦地に投げ出すソクーロフの試みは、前代未聞だ。
アレクサンドラを演じたガリーナ・ヴィシネフスカヤは世界的ソプラノ歌手であり、亡きチェリスト、ロストロポーヴィチ夫人としても知られている。撮影当時80歳。強くて、孫には口やかましいが、気配りが利き、おおらかですべてを受け入れる大地のような女性アレクサンドラを演じ、見る者に強い感動を残す。
なお、主演のアレクサンドラとチェチェン人女性マリカ以外は、出演者はほぼ全員が素人である。中でもデニスの上司である大佐には実際のロシア軍将校が起用された。

映画に存在する使命があるとしたら、このような映画にこそ相応しい
ソクーロフ監督は長編16作目のために自分で脚本を書き、ガリーナ・ヴィシネフスカヤを主役に撮るという長年の夢を実現させた。監督のさまざまな時期につながる糸が本作では絡み合っている。<権力者の三部作>(「モレク神」「牡牛座 レーニンの肖像」「太陽」)と同様、歴史を語りながら強烈で非凡な人物を描き、今回は更に現地での撮影である。また、「マザー、サン」「ファザー、サン」など家族や人間関係をテーマとした作品で試みたように、異なる二人の人間を結び合わせている。家族、友達、そして疎遠な人たちなど、似ているところもあれば違う部分もある二人が、何百キロも離れながらひとつの力に引き寄せられるのだ。
現実の政治状況を、その現場を舞台に、しかも大多数をその現場で暮らす人々を起用して、あたかもドキュメンタリーのように描きながら、告発ではなく、人間とは何かという芸術の普遍的テーマにまで言及した本作は、まさにソクーロフ監督の集大成的作品である。映画に使命があるとしたら、このような映画にこそ相応しい。
「チェチェンへ アレクサンドラの旅」はロシア連邦文化映画局・フランス国立映画センターの後援も受けて完成された。2007年カンヌ国際映画祭コンペティション部門に正式出品されパルムドール大賞の有力候補となり、ロシア国内、アメリカやヨーロッパで公開され高い評価を受けている。

ストーリー



舞台はチェチェン共和国グロズヌイにある実際のロシア軍駐屯地である。荒涼とした大地にテント宿舎が立ち並び、立ちこめる熱気と埃と臭気の中を兵士が行き交う。
ここに、ひとりのロシア人女性が訪れる。2年前に夫を亡くし、国境に近いスタヴロポリで一人暮らしをする80歳のアレクサンドラだ。将校(大尉)として勤務する孫のデニス(27歳)に会いに来たのである。粗末なテントの一室が、アレクサンドラの“ホテル”となった。7年ぶりに再会したデニスは、将校だというのに、汚れた軍服を身に纏い、シャワーもろくに浴びていない様子だ。
駐屯地には、少し前まで息子の安否を心配する母親たちが多く訪れていた。しかし、今は滅多に来ない。デニスの上司の部隊長は、お孫さんは職業軍人で、それで稼いでいるのだから心配することなどないという。しかし、アレクサンドラは除隊したデニスが“殺す”以外に何ができるのか疑問だ。
「破壊ばかりで、建設はいつ学ぶの?」
と思わず訊いてしまう。
じっとしていられないアレクサンドラは、駐屯地の外の市場へも出かけ、ロシア語の上手なチェチェン人女性マリカと出会う。彼女は、暑さと疲れで具合を悪くしたアレクサンドラを自宅に連れて行く。戦火で大半が壊れかけのアパートだった。
「男同士は敵同士になるかもしれない、でも私たちは初めから姉妹よ」
とマリカはいう。帰りは、隣人の息子・イリヤスが送ってくれることになった。彼も兵士と同じように若かった。長すぎる戦争にくたびれた彼は、彼女に「解放してほしい」と訴えた。アレクサンドラは、「どんなに辛いことも終わる時が必ず来る」、必要なのは「理性」だと諭した。
戻った駐屯地のホテルで、アレクサンドラはデニスに言った。
「あんた達は嫌われている」
「その通りだ。恐れられてもいない。それなのになぜ軍隊を置くのか」とデニスは呟く。
死に直面している軍人には軍人特有の豪奢さが必要なのだと。そして真剣な面持ちでこう言った。
「自分の周りにいるのは、名前や行き先を書いた認識票を首にぶら下げた男たちだ」
アレクサンドラは、「人生の終わりが近づいてもまだ生き続けたい」「独りはだめなの」と泣き出した。デニスはアレクサンドラを抱きしめる。
翌朝、アレクサンドラは急な任務が発令されたデニスに揺り起こされた。軍服にしっかり身を包んだデニスは将校に見える。デニスはアレクサンドラに被っていた帽子を贈り、急いで発ってしまう。残されたアレクサンドラは、帽子を握りしめ立ち尽くす。
アレクサンドラは、マリカに別れを告げるために市場へと向かう。急な別れに驚きつつも、マリカたちは駅まで見送りに来てくれた。車輪がレールの上で回り出す。なぜか、マリカは進行方向とは逆を見つめているのだった。

スタッフ

脚本・監督:アレクサンドル・ソクーロフ
撮影監督:アレクサンドル・ブーロフ
音楽:アンドレイ・シグレ
演奏:マリーンスキー歌劇場管弦楽団
音楽監督:ワレリー・ゲルギエフ
指揮:パヴェル・スメルコーフ
製作美術:ドミトリー・マーリチ・コニコーフ
衣装デザイナー:リディア・クリュコワ
メイクアップ・アーティスト:ジャンナ・ロディオーノワ
録音プロデューサー:ウラジーミル・ペルソフ
編集:セルゲイ・イワノフ
カメラマン:アレクサンドル・マズール
製作総指揮:ドミトリー・ゲルバチェフスキー
共同製作者:ロラン・ダニエール
製作:アンドレイ・シグレ

キャスト

ガリーナ・ビシネフスカヤ
ワシーリー・シェフツォフ
ライーサ・ギチャエワ
エフゲーニー・トゥカチュク

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