原題:12

不朽の名作『12人の怒れる男』をロシアの巨匠ニキータ・ミハルコフが現代ロシア版にリメイク!

ヴェネチア映画祭 特別獅子賞受賞 2008年度アカデミー賞外国語映画賞ノミネート作品

2007年9月20日ロシア公開

2007年/ロシア/カラー/160分/ 配給:ヘキサゴン・ピクチャーズ、アニープラネット

2009年01月23日よりDVDリリース 2008年8月23日、シャンテシネほか全国ロードショー

公開初日 2008/08/23

配給会社名 0871

解説


 1957年に登場した『十二人の怒れる男』は社会正義を謳いあげた法廷ドラマとしてアメリカ映画史に燦然と輝いている。もともとはテレビ番組「Studio One」のドラマとして脚本レジナルド・ローズ、監督シドニー・ルメットのコンビが生み出したもの。緊迫感に溢れた展開と計算されつくした演出が、陪審員それぞれのキャラクター設定の妙とあいまって、なによりも製作された時代の風潮が色濃く反映される構造になっている。1997年にウィリアム・フリードキンが「12人の怒れる男/評決の行方」として再びテレビ映画化するなど、<法廷ドラマの原点>といわれる所以で、この1957年作品は世界中の法廷ドラマに多大の影響を与えている。

この<法廷ドラマの原点>に新たに挑んだのは、『機械じかけのピアノのための未完成の戯曲』や『黒い瞳』、『太陽に灼かれて』『シベリアの理髪師』などで知られるロシア映画界の匠、ニキータ・ミハルコフ。ローズの脚本の骨子を忠実に活かしながらも、現代ロシア社会の抱える価値観の混乱、多民族国家ならではの偏見を鋭く抉り出し、エンターテインメントのかたちのなかに、21世紀ならではのドラマに仕上げている。

チェチェン人の少年がロシア人の養父を殺害した罪で裁判にかけられる。目撃者もあり、容疑は明白。さまざまな分野から任意に選ばれた陪審員たちも審議はかんたんに終わると思われたが——。もはやオリジナル作品の時代のように、社会正義を鼓舞するほどイノセントではなくなってしまった世界を前にしながら、ミハルコフはそれでも人間に対する希望を失っていない。オリジナルでヘンリー・フォンダが演じたような確固たる信念をもった存在ではないが、それでも良心を持ち合わせた陪審員の異議から圧倒的な有罪支持派の11人が論議を尽くし、次第にそれぞれの生活、偏見、予見が浮き彫りになっていく。表面的な自由主義体制になったあげく、経済至上の風潮が跋扈するあまりモラルを失ってしまったロシアの人々の混乱、失意が、緊迫のドラマに貫かれている。
冒頭、被告がつかの間まどろんだ夢がモノクロームの映像に美しく紡ぎだされる。かつて平和に母と暮らしていたチェチェンの日々、牧歌的な風景。それが戦火によって、家族をはじめすべてが失われてしまった。少年の現在との落差をミハルコフは流れるように描写していく。脚本を書いたのはミハルコフ自身と『父、帰る』のヴラディミル・モイセイェンコとアレクサンドル・ノヴォトツキイ=ヴラソフのコンビ。12人の陪審員たちを状況に適応した成功者、怒りをためる男、古くからのロシア的なモラルを懐かしむ者、あるいはチェチェンからの出身者、ユダヤ人など、民族的にも多彩にキャラクタライズし、ロシアの抱える問題点をさらけだす手法。コンパクトにまとめあげたオリジナルとは一線を画し、あくまでもミハルコフの語り口。陪審員たちの議論の最中に、フラッシュのように織り込まれる戦場シーンに彼の想いがてんめんとこめられている。さらに最後にはオリジナルとは異なる幕引きが用意されていることにも驚かされる。現代ではこのような結末がもっともふさわしいといえるだろう。まさしく希望を失わない、感動の結末である。

ミハルコフを支えるスタッフも、日本に公開作品はないがロシア映画界で着実な活動を続ける撮影のヴラディスラフ・オペリヤンツ、『惑星ソラリス』や『機械じかけのピアノのための未完成の戯曲』や『ウルガ』など、数々の名作に参加した音楽のエドゥアルド・アルテミエフなどをはじめ、まさに一級の映画人が選りすぐられている。出演も個性豊かな男優たちが揃った。ミハルコフ自身も陪審員2番役で登場するなか、『フリークスも人間も』のセルゲイ・マコヴェツキイ、アンジェイ・ワイダの「Katyn」にも出演しているセルゲイ・ガルマッシュ、『ラフマニノフ ある愛の調べ』のアレクセイ・ペトレンコ、『タクシー・ブルース』のセルゲイ・ガザロフ、DJ、歌手としても知られるアレクセイ・ゴルブノフ、『映写技師は見ていた』のセルゲイ・アルツィバシェフ、『大統領のカウントダウン』のヴィクトル・ヴェルジビツキイなどなど、それぞれが演技力のあるところを披露してくれる。
 
緊迫感のなかに、ロシアの、いや、日本も含めて経済至上主義にモラルが翻弄される国すべての現在が映し出される。最後の感動も含めて、ミハルコフが希望の復権を語りかける渾身のドラマ。

来年、裁判員制度を導入する日本にとっては、格好の様々な問題提起をする1本。
第80回アカデミー賞外国語映画賞にノミネートされた、掛け値なしの傑作である。

ストーリー



ロシアのとある裁判所で、センセーショナルな殺人事件に結論を下す瞬間が近づいていた。被告人はチェチェンの少年、ロシア軍将校だった養父を殺害した罪で第一級殺人の罪に問われていた。検察は最高刑を求刑。有罪となれば一生、刑務所に拘束される運命だ。3日間にわたる審議も終了し、市民から選ばれた12人の陪審員による評決を待つばかりとなった。
 
彼らは改装中の陪審員室代わりに指定された学校の体育館に通されて、全員一致の評決が出るまでの間、携帯電話を没収されて幽閉される。バスケットボールのゴールや格子の嵌められたピアノといった備品に囲まれた陪審員たち。冷静にことを進めようとする男に促されて、12人の男たちは評決を下すためにテーブルを囲んだ。審議中に聞いた隣人たちによる証言、現場に残された証拠品、さらには午後の予定が差し迫っている男たちの思惑もあって、当初は短時間の話し合いで有罪の結論が出ると思われた。

乱暴なチェチェンの少年が世話になったロシア人の養父を惨殺した——そのような図式で簡単に断罪しようとする空気があり、挙手による投票で、ほぼ有罪の結論に至ると思いきや、陪審員1番がおずおずと有罪に同意できないと言い出した。
 
陪審員1番は自信なさげに結論を出すには早すぎるのではないかと疑問を呈し、手を挙げて終わりでいいのかと、男たちに問いただした。話し合うために、再度投票を行おうと提案。その結果、無実を主張するのが自分ひとりであったなら有罪に同意をすると言いだした。無記名での投票の結果、無実票が2票に増える。新たに無実票を投じたのは、穏やかな表情を浮かべる陪審員4番だった。ユダヤ人特有の美徳と思慮深さで考え直したと前置きし、裁判中の弁護士に疑問が湧いたと語る。被告についた弁護士にやる気がなかったと主張した。この“転向”をきっかけに、陪審員たちは事件を吟味するなかで、次々と自分の過去や経験を語りだし、裁判にのめりこんでいく……。

スタッフ

監督:ニキータ・ミハルコフ
脚本:ニキータ・ミハルコフ、ウラジーミル・モイセエンコ・アレクサンドル・ノヴォトツキー

キャスト

セルゲイ・マコベツキー
アレクセイ・ペトレイコ
ヴィクトル・ヴェルズビツキー

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