原題:The Last King of Scotland

第79回 米アカデミー賞 主演男優賞受賞

2006年/アメリカ・イギリス/カラー/123分/ 配給:20世紀FOX

2007年10月05日よりDVDリリース 2007年4月28日(土)、シアターN渋谷他全国ロードショー 2007年3月10日(土)、有楽町スバル座他全国ロードショー

(C)2006 TWENTIETH CENTURY FOX

公開初日 2007/04/28

配給会社名 0057

解説


 1971年のウガンダ。国民は、ひとりの指導者の登場に熱狂した。その名は、イディ・アミン。ヘビー級のボクシング・チャンピオンとして名声を築きあげたのち、軍人として数々の手柄をあげた国民的なヒーロー。類い希なカリスマ性と強いリーダーシップ、そして溌剌としたキャラクターで民衆を魅了した彼は、独立まもないウガンダの未来を託すのに最もふさわしい人物として、国外からも幅広く支持され、期待を集めた人物だった。しかし、クーデターによって最高権力を手に入れたときから、アミンの魂の腐敗は進行。妄想にとりつかれた独裁者へ、さらには非情な殺人者へと、次第に狂気をエスカレートさせていく。そんな実在の独裁者のおぞましくも魅力に満ちた人物像を、側近として仕えたスコットランドの青年医師の視点から、ドラマティックなサスペンスとして描きだした話題作が、『ラストキング・オブ・スコットランド』だ。
 イディ・アミン役は、フォレスト・ウィテカー。クリント・イーストウッド監督の『バード』(89)でも実在の人物を演じ、カンヌ国際映画祭の主演男優賞に輝いた彼だが、本作では、独裁者の光の部分と影の部分を見事に捉えた渾身の熱演を披露。ナショナル・ボード・オブ・レヴューを皮切りに、ゴールデン・グローブ賞○Rなど2006年度のほぼすべての映画賞で、主演男優賞を総なめにしている。
 ジャイルズ・フォーデンの処女小説を元にしたドラマは、スコットランドの医学校を卒業したばかりの青年ニコラスが、人助けの理想に燃え、クーデター直後のウガンダにやって来るところから始まる。偶然にもアミンの怪我の手当をしたことが縁で、大統領の主治医に任命されるニコラス。さらに相談役に取り立てられた彼は、アミンのフランクな人柄に惹かれ、彼と共に新しいウガンダを建設する仕事に満足を覚える。だが、ニコラスの知らないところで、抵抗勢力の反撃に怯えるアミンは、大規模な粛正を進めていた。そのことにようやく気づいて帰国を申し出るニコラスだったが、もはや彼は後戻りできないほど深みにはまりこんでいた。パスポートをとりあげられたあげく、英国の外交官からも見放されたニコラスが、自由になれる唯一の手段はアミンを暗殺することだけ。意を決した彼は、空港へ向かうアミンに一服の頭痛薬を手渡すのだが……。
 若者らしい理想主義と好奇心にかられてアミンという灼熱の太陽に近づき、大火傷を負ってしまうニコラス。アミンと交流のあった数人の欧米人をモデルに作り上げられた彼が、無意識のうちに犯していた罪の重さを知り、贖罪の道を見つけ出していくストーリーは、完全なフィクション。これに、アミンをはじめとする実在の人物や、エア・フランス機のハイジャック事件などの歴史的な出来事が、絶妙にからみあって紡がれていくドラマは、あの名作『ジャッカルの日』を彷彿させる緊迫感に満ちている。とりわけ、エンテベ空港を舞台にしたクライマックスは、一瞬たりとも目が離せない。アミンに対する裏切りが発覚し、空港内の売店で拷問にかけられるニコラス。彼の運命とハイジャック事件の顛末が1本の線で結ばれていくラスト5分は、サスペンス本来の息詰まる興奮を十二分に味わわせてくれる。
 「俳優としての僕のチャレンジは、ステレオタイプ化されたイメージではなく、本当にリアルなキャラクターを演じることだった」と、アミンの役作りについて語るフォレスト・ウィテカー。庶民的で茶目っ気のあるリーダー、家族思いの父親、疑心暗鬼にかられた孤独な独裁者、気まぐれなパラノイア。魅惑的であると同時にぞっとするほど恐ろしいアミンの多面的なキャラクターを、本作のウィテカーは肉感的に表現。凄まじい迫力で、観る者すべてを圧倒する。
 そんなウィテカーとガチンコのぶつかりあいを繰り広げるニコラス役のジェームズ・マカヴォイは、『ナルニア国物語/第1章:ライオンと魔女』でフォーンのタムナスさんに扮し、人気者になった注目のスコットランド俳優。アミンの正体に気づいた瞬間、幸福の絶頂から恐怖のどん底へ突き落とされるニコラスの驚愕と焦燥を、リアリティ満点に演じる彼の名演は、観客の共感を惹きつけずにはおかないだろう。
 98年度のウィットブレッド処女作賞をはじめ、数々の賞を受賞したジャイルズ・フォーデンの原作から、娯楽性と社会性を兼ね備えた脚本を生み出したのは、スティーヴン・フリアーズ監督の『クィーン』でも脚光を浴びているピーター・モーガンと、『Queen Victoria 至上の恋』でイヴニング・スタンダード英映画賞の脚本賞を受賞したジェレミー・ブロックのコンビ。監督には、『ブラック・セプテンバー/五輪テロの真実』でアカデミー賞長編ドキュメンタリー部門を受賞し、『運命を分けたザイル』で英アカデミー賞の最優秀英国映画賞を受賞したケヴィン・マクドナルドがあたり、ドキュメンタリー出身らしい切れ味の鋭い演出を見せる。今回、『28日後…』、『セレブレーション』などのアンソニー・ドッド・マントルを撮影監督に起用し、映像に臨場感を求めたマクドナルドは、前人未踏のウガンダ・ロケを敢行。ムラゴ病院、国会議事堂、エンテベ空港など、アミン政権時代の記憶が生々しく息づいている場所を撮影場所に選び、悪夢の歴史をダイナミックに再現している。

ストーリー




 スコットランドの医学校を卒業したニコラス・ギャリガン(ジェームズ・マカヴォイ)は、自分の技術を本当に困っている人々のために役立てたいという志を胸に、ウガンダのムガンボ村にある診療所で働く道を選んだ。時は、1971年。軍事クーデターによってオボテ政権が倒れ、イギリスの支援を受けたイディ・アミン(フォレスト・ウィテカー)が、新しくウガンダの大統領の座についた直後のことだ。
 元ヘビー級ボクシングのチャンピオンであり、軍隊のヒーローでもあるアミンは、国民の支持と期待を一身に集める希望の星だった。そんな彼が、診療所の近くで演説すると聞き、興味を抱いて出かけて行くニコラス。「私の政権は言葉だけでなく行動する。力をあわせてこの国をもっと良くしよう」と熱弁をふるうアミンのカリスマ性に、ニコラスは、集まった多くの民衆と同様に強く惹きつけられるのを感じる。
 そんなニコラスとアミンの運命がひとつに交わる出来事が、演説会の直後に起こった。帰りの車で農耕用の牛と接触し、捻挫を負ったアミンの手当を、たまたまニコラスが担当することになったのだ。捻挫の治療を終えたあと、苦しんでうめき声をあげている牛を素早く射殺したニコラスの大胆さに、感銘を受けるアミン。さらに、かねてからスコットランドに傾倒していた彼は、ニコラスがスコットランド人だと知ると、うれしそうにTシャツの交換を申し出た。そのアミンの気さくさに、ニコラスはますます好印象を抱いた。
 後日、大臣のワッサワ(ステファン・ルワンギェジ)の迎えで首都カンパラを訪れたニコラスは、アミンから直々に「主治医になってくれ」と頼まれる。「ムガンボの診療所と契約がある」と言って、いったんはその申し出をことわったニコラスだが、先輩医師の妻サラ(ジリアン・アンダーソン)と危うい関係になりかけていたことも手伝って、思案のすえに大統領と彼の家族の主治医になることを引き受けた。
 こうして始まったカンパラでの生活。たちまちアミンに気に入られたニコラスは、アミンの代理で重要な会議に出席するなど、主治医以上の仕事を任されるようになる。また、医者としては、アミンの第2夫人ケイ(ケリー・ワシントン)の息子の命を救い、アミンから感謝の印としてベンツのスポーツカーを贈られた。そうした贅沢三昧の生活に後ろめたさを感じることもあるニコラスだったが、「人々の役に立つ」という当初の目的を、アミンをサポートする形で果たしていると、彼は自分に言い聞かせていた。
 そんなある日、アミンがオボテ派の襲撃にあい、あやうく命を落としかける事件が起こる。スケジュールが外部に漏れている可能性が高いことから、「身近に裏切り者がいる」と激怒するアミン。疑心暗鬼にかられた彼は、粛正の動きを加速させる一方で、信頼を寄せるニコラスへの依存度を強めていく。そんなアミンの期待に応えようと、ニコラスは、ワッサワの不審な動きをアミンに報告し、調査したほうがいいと忠告する。
 その一言がワッサワに対する死刑宣告になってしまったことを、ニコラスは、イギリス人の高等弁務官ストーン(サイモン・マクバーニー)から知らされることになった。ワッサワの行動が、実は製薬会社との商談にすぎなかったと知って、深い自責と後悔にかられるニコラス。同時に、疑惑だけで人を消していくアミンの残虐なやり方に気づいたニコラスは、主治医の職を辞して故郷に帰りたいとアミンに申し出た。だが、時すでに遅し。「新生ウガンダの建国に手を貸すと宣誓した」と言ってニコラスの辞任を拒絶したアミンは、ワッサワの件を盾に取り、「君が彼を殺した」と、逆にニコラスに脅しをかける。
 いま初めてアミンの本当の姿に気づき、呆然とするニコラス。その恐怖を、彼は、自分と同じ籠の鳥の運命に泣くケイに打ち明け、激情に流されるままベッドを共にした。それでますます危うい立場に立たされたニコラスに、ケイは、「状況は最悪よ。ここから逃げて」と、警告を発する。
 しかし、アミンの部下にイギリスのパスポートを没収されたニコラスには、もはや国外に脱出する術がなかった。切羽詰まった彼は、ストーンに助けを求めるが、かつてストーンの頼みをニコラスが無視したことを理由に協力を断られてしまう。「脱出の切符は自分で稼げ」——ストーンのそのひとことは、自由になるためにはアミンを暗殺するしかないことを、ニコラスに告げていた。
 いよいよ独裁者の正体を露わにし始めたアミンは、全アジア人の追放政策を発表。これに対し、ニコラスは、「アジア人がウガンダの経済を支えている」と反論するが、アミンはまったく聞く耳を持たない。しかし、欧米の新聞に非難の記事が掲載されるや、アミンの態度は一変。今度は「私の政策を止めなかった」と言って、ニコラスを責め立てる。その気まぐれな態度に怯えながらも、ニコラスは、外国人記者向けの会見を開くべきだとアミンに提案。自分の存在価値を示し、粛正の標的にされるのを免れる。
 そんな中で起こった新たな悲劇。ニコラスの子供を妊娠したケイが、秘密裏に堕胎しようとして失敗。不貞が発覚したことから、残酷な処刑の犠牲者になってしまったのだ。ケイの不倫相手がニコラスであると知れるのは、もはや時間の問題だった。覚悟を決め、アミンに毒入りの頭痛薬を渡すニコラス。そのとき、パレスチナ人テロリストにハイジャックされたエア・フランスの飛行機が、ウガンダのエンテベ空港に着陸したとの知らせが届く。アミンに同行を命じられたニコラスは、同じ車で空港へと向かうのだが……。

スタッフ

監督:ケヴィン・マクドナルド
製作:リサ・ブライアー、アンドレア・カルダーウッド
   クリスティン・ルパート、チャールズ・スティール
製作総指揮:アンドリュー・マクドナルド
   アロン・ライヒ、テッサ・ロス
原作:ジャイルズ・フォーデン『スコットランドの黒い王様』(新潮社刊)
脚本:ジェレミー・ブロック、ピーター・モーガン
撮影:アンソニー・ドッド・マントル
プロダクションデザイン:マイケル・カーリン
衣装デザイン:マイケル・オコナー
編集:ジャスティン・ライト
音楽:アレックス・ヘッフェス

キャスト

フォレスト・ウィテカー
ジェームズ・マカヴォイ
ケリー・ワシントン
ジリアン・アンダーソン
サイモン・マクバーニー

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