東京国際映画祭「ある視点」部門

2006年/日本/カラー/??分/ 配給:シナジー

2010年04月08日よりDVDリリース 2006年9月30日、シネスイッチ銀座にて公開

公開初日 2006/09/30

配給会社名 0341

解説


人生で、めぐりあったたったひとりの伴侶。かけがえのない妻、あるいは夫。
あなたは、夫より妻より、先に逝きたい、と考えるでしょうか。
それとも、1分でも後に逝きたいと考えるでしょうか…。

多少の波風はあっても、それほどに悪くもなく、かといって派手な人生でもなく、日常を過ごしてきたごく普通の夫婦。
穏やかな晩年を共に仲良くゆっくりと過ごすはずだったのに。
ある日突然、妻が、認知症になってしまう。少しずつ、信じられない状態になってしまう妻。夫は、ただ、献身的に妻と共に生きることしかできない。めぐり逢い、伴侶と決め、ふたりだけの言葉をもつまでになったはずの妻が、少しずつだがゆっくりと確実にこわれていく。夫はそれをただ見守ることしかできない。やがて夫は、ガンに襲われる。夫婦はついに決意を固め、特養ホームと、病院に入り、別々の暮らしを始めるが、やがてその日がやってくる…。

読売文学賞、芸術選奨文部大臣賞を受賞している詩人・小説家の耕 治人の著作「天井から降る哀しい音」「どんなご縁で」「そうかもしれない」。<命終三部作>と呼ばれるこの作品を、10年越しの企画としてあたためてきた保坂延彦監督が、脚本を執筆し、映画化した。主演に、老いとこわれゆく妻という役柄に果敢に挑戦した、昭和の歌姫、雪村いづみ、そして、映画初主演となる上方落語界の重鎮、桂 春團治。共演に、阿藤 快、下條アトム、夏木陽介、烏丸せつこ。いずれ劣らぬ演技派俳優陣が、淡々とした日常を描きながら、重厚にひろがるドラマのテーマと心にしみわたる感動を支えている。

ストーリー

寡作の文筆家・高山 治(桂 春團治)と、その妻ヨシ子(雪村いづみ)。とてもベストセラー作家とはいえないが、夫の書く私小説を支えてくれている読者がいることをヨシ子は知っていた。質素だが、草花を愛で、風の匂いで季節を数える平穏な暮らし。子供はいないが、ヨシ子の姉の子、武(阿藤 快)が、たまに顔を出しては、あれこれと世間話をして、早々に退散していく。その日は、突然、おとずれた。いつものように、縁側でヨシ子が、夫の髪を切っている。やがて、妻は仕事を終えて言った。
「お茶をいれましょうね」。夫は、縁側に並ぶ湯呑みを見つめて首をかしげた…。

散歩の途中、ヨシ子が、買い物の品物を忘れたという。急いで店に向かう高山。だが、今日は誰もその品物を買ってはいないと言われる。いつも通る橋、いつも寄り道する公園の池。かがみ込んでヨシ子が純真にミズスマシを見つめている。高山はただ、妻と一緒に水面を見つめるしかなかった。
久しぶりに訪ねて来た高山の担当編集者・時岡(下條アトム)の前でも、ヨシ子の会話は、どこかぎこちない。ゆっくりだが、病は確実に進行していた。日常生活でも目が離せなくなってきて、言動もおかしくなっている。自宅介護の限界がひっそりとそこまで近づいてきていたのだ。

慣れない介護に追われながら、深夜、執筆を続ける高山を、激痛が襲う。ガンの発症だった。医師(夏木陽介)は手術をすすめ、とうとう高山は、決心した。妻は特別養護老人ホームに、夫は病院に…。武の運転する車で病院に向かう途中、高山は妻との約束を思い出す。“あの約束を果たさなければ…!”
別々の生活が始まった。術後まもない高山の病院で、武と時岡が出会った。武は、つまりながら時岡に言った。「僕はあのふたりがうらやましい。あのふたり、ちっとも弱音を吐かないんだ…」「ふたりだけの言葉をもっている…」。時岡も言葉をつまらせた。

そして、ヨシ子が久しぶりに高山を病院にたずねる日がやってきた。おしゃれをして、ケアワーカーの志田(烏丸せつこ)に連れられて病室にやってきたヨシ子。ふたりだけの言葉と、ぼんやりとする記憶をたぐるように、妻が口にした言葉…。

やがて、別れの日がやってくる。誰もがヨシ子にそのことを告げる事ができない。だが、ヨシ子は微笑みを浮かべて皆に手をさしのべるのだった。
すべてをわかっているかのように…。

スタッフ

監督:保坂延彦
原作:耕治人

キャスト

雪村いづみ
桂春團治
耕治人

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