原題:Mrs.

2006年チョンジュ国際映画祭招待作品

2005年/日本/カラー/95分/DV/ 配給:アルゴピクチャーズ

2006年11月23日よりDVDリリース 2006年10月7日、ユーロスペースにてレイトロードショー

公開初日 2006/10/07

配給会社名 0090

解説


のどかな別荘地で、ある日突然、一人の子供が消えた。母親の裕子は手がかりを求めて必死に捜すが、息子のミノルの行方は杳として知れない。事故か誘拐か、それとも——。
やがて浮かび上がってくる悲劇の真相とは……。

自らの欲望に忠実に、したたかに生き抜く女。愛に囚われたまま、止まった時間に宙吊りにされた女。愛と憎悪で結びついた二人の女=母の相克を描く、新しい「家族の神話」。子供たちの生命が脅かされる不穏な時代の空気に共振した野心作の誕生である。

圧倒的なリアリズムと造形力で女たちの生きざまを描ききった監督は、『HYSTERIC』『DOG STAR』『肌の隙間』の瀬々敬久。過去も現在もバラバラに語られ、いつしか時制は溶け合い、やがて現在のみを生きる女たちの「貌」が見えてくる造形力。事実のみを断片的に並べたなかから次第に真相に到る、圧倒的なリアリズム。犯罪のなかから、人間の哀しい営みと真実が見えてくる。

二人のヒロインに『嫌われ松子の一生』で存在感たっぷりの好演を披露した黒沢あすかと、『油断大敵』『青い車』などで堅実な演技力に定評のある山下葉子。
共演は『LIMIT OF LOVE海猿』『陽気なギャングが地球を回す』の光石研、『花と蛇』の未向の個性派に加え、下元史朗、外波山文明、長門勇らベテランたちが脇を固めるほか、サッカージャーナリストとして活躍する武田修宏が本格的な映画初出演を果たしている。
撮影に『乱歩地獄』『LOFT』の芦澤明子、音楽に『花と蛇2 パリ/静子』『仮面ライダー THE FIRST』の安川午朗と実力派のスタッフが揃い、作品の強度と完成度に大きく寄与している。

ストーリー

深夜、タクシーの中で眠り込んだ山本アキ(黒沢あすか)が目覚めると、手錠をかけられ自由を奪われていた。事態を飲み込めない彼女に振り向いた運転手は黒木裕子(山下葉子)だった。罵声を浴びせるアキを尻目に、裕子は無言でいずこかへと車を走らせる——。

——二年前の夏。裕子は実業家の夫・秀雄(武田修宏)と息子ミノルに囲まれて、平穏な日々を送っていた。家族と一緒に過ごすために別荘地を訪れた彼女はそこでアキと出会った。アキは夫と別れて一人娘の結花と共に実家のガソリンスタンドに戻っていたが、田舎暮らしの退屈な日々に酒浸りの生活を送っていた。スタンドの裏手でアキに出くわした裕子は、いきなり彼女からキスをされる。とまどいながらも彼女は熱い抱擁を交わす。その後、アキの誘惑を受け入れた裕子は、彼女と肉体関係を結んでしまう。

やがてミノルが忽然と姿を消した。裕子は必死に行方を捜すが、手がかりは全くなかった。その直後から彼女の携帯に無言電話が頻繁にかかってくるようになり、裕子は必死に呼びかける。何かにとりつかれたような彼女に対し、いつしか諦め始めた夫との間に気持ちのズレが生じ、次第に溝は深まってゆく。

その直後、アキは娘を年老いた父親・辰男(長門勇)の元に置き去りにしたまま家を出た。スナックで働いたときに知り合った夫(光石研)と始めた新たな生活も、彼女の気持ちを満たしてはくれない。アキは薬を混ぜた酒を夫に飲ませて昏睡状態にさせると、部屋に灯油を撒き始めた。そこへ突然裕子がやって来て、アキの父親が死んだことを伝えた。アキを忘れられない裕子は彼女を求めるがアキは拒絶する。独りで去った裕子の携帯へまたも無言電話がかかる。電話の主はアキだった。アキは嗚咽しながら部屋に灯油を撒き続けた。

子供の死体が発見されたとの報に裕子は駆けつけるが、ミノルではなかった。彼女は雨の中、放心状態で泣き濡れていたキリコ(未向)を拾い、ビジネスホテルで介抱してやった。キリコは夫の暴力が原因で子供が死に、その死体を夫と共に捨てたと言う。あの子供の死体はキリコの子だった。そして彼女はその夫を殺したと告白した。アキを求めながらも彼女が応えてくれず、満たされない裕子はキリコの体を抱くが、「あたしは誰かの代わりでしょ。あんたは自分のことしか考えていない」と叱責される。

一方、アキの夫が焼死した事件で、彼女には保険金殺人の疑惑がかかっていた。焼け落ちた家の跡からは子供の白骨死体も発見され、二年前のミノルの失踪との関連が浮上したが、マスコミに取り囲まれたアキは何も知らないと突っぱねる。裕子はアキに付きまとい、ミノルをどうやって殺したのかと問い続けるが、アキはあくまで、私は知らないと繰り返す。

アキを乗せた車が別荘地の湖の畔に着いた。裕子はアキを引きずり降ろし、逃げ惑うアキにナイフを突き立てた。虫の息のアキは「私が殺した」と口にする。二年前のあの日、アキはミノルが結花を裸にしているところを目撃した。それは幼い二人が、アキと裕子が裸で抱き合っているのを真似た遊びだった。逆上したアキが殴りつけると、ミノルは息絶えた。裕子はアキをメッタ刺しにする。
やがて、裕子の携帯電話が鳴る。その音を聞き、裕子は堪えきれず横たわり、涙を流す。かつて家族と共に鳥の写生をした思い出の湖のほとりで、アキの死体と体を並べて。

スタッフ

企画:利倉 亮
プロデューサー:江尻 健治 山地 昇
撮影:芦沢 明子
録音:山口 勉
美術:西村 徹
編集:桐畑 寛
制作:白石 香織
助監督:松岡邦彦
キャスティング:関根 浩一
音楽:安川 午朗
脚本・監督:瀬々 敬久

キャスト

黒沢あすか
山下葉子
美向
下元史朗
外波山文明
武田修宏
光石研
長門勇

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