原題:Inland Empire

わたしも、世界も、乱れていく。 「マルホランド・ドライブ」から5年。映画史を塗り替える3時間の陶酔。

2006年ベネチア映画祭 栄誉金獅子賞 受賞 2007年全米映画批評家協会賞 実験的作品賞 受賞

2006年/アメリカ/パートカラー/3時間00分/10巻/4927m/ビスタサイズ/ドルビーSRD 提供:角川映画、テレビ東京/協力:コムストック・オーガニゼーション 配給:角川映画

2010年08月27日よりDVDリリース 2008年02月22日よりDVDリリース 2007年7月21日より[新宿ガーデンシネマ(新館)][恵比寿ガーデンシネマ]他全国ロードショー

公開初日 2007/07/21

配給会社名 0058

解説


■リンチイヤーに、ネクストレベルの新作が公開!
あらゆる映画的拘束から解放された妖艶なラヴストーリー『マルホランド・ドライブ』(01)から5年。待望のデイヴィッド・リンチ監督の最新作『インランド・エンパイア』(06)はリンチワールドの集大成にして、前人未到の境地に達したネクストレベルの映画である。
2007年は奇しくも、長編第1作『イレイザーヘッド』(77)から30年。アメリカでは4月3日に全世界を熱狂させ、TVドラマシリーズの概念を変えた『ツイン・ピークス』(90〜91)のセカンドシーズンのDVDがついに発売。日本でも6月から9月にかけて全話(序章+本編29話)のDVDがセル/レンタルされる。また、パリのカルティエ現代美術財団では3月3日から「the air is on fire」と題された新作を含む現代美術家リンチの一大回顧展が開催(5月27日まで)。会場は大いににぎわっていると聞く。そう、今年は世界的に「リンチ・イヤー」といっても過言ではないのだ。

■リンチの「内なる帝国」で、進んで迷子になる者が続出…
ハリウッド女優ニッキー・グレース(ローラ・ダーン)は未完のポーランド映画『47』のリメイク『暗い明日の空の上で』の主演で再起を狙うも、映画の展開とリンクするように、私生活でも相手役デヴォン・バーグ(ジャスティン・セロー)と不倫をし、現実と映画の区別がつかなくなり、そして…。そう。南カリフォルニア州の地域名からタイトルをとったと言われる『インランド・エンパイア』は、ハリウッドを見下ろす山道を題名にした『マルホランド・ドライブ』と、ハリウッド・バビロンを再び描いたという意味でも対となる作品である。
とはいえ、女優ニッキーの世界、映画内映画『暗い明日の空の上で』のハリウッドサイド、ロスト・ガールの世界、映画内映画『47』のポーランドサイド、そして、謎のウサギ人間たち—五つの世界が3時間にわたって複雑に交錯!二つの世界がブルー・ボックスを支店にねじれた前作を凌ぐ、蟲惑的な難解さに満ちている。しかし、リンチは本作を「A WOMAN IN TROUBLE」としか語らず。リンチが仕掛けた罠を必至で解こうとする者あり、理解を放棄して眼と耳の快楽に身をゆだねる者あり。リンチの「内なる帝国」が病みつきとなったリピーターも多数続出。その熱狂はinlandempirecinema.comのBBSに表れている。

■ソニーのDVカムで、21世紀の映画製作スタイルを確立
主演兼コ・プロデューサーのローラ・ダーンは『ブルーベルベット』(86)、『ワイルド・アット・ハート』(90)にも増して、叫びまくる。脇はジェレミー・アイアンズ、ジャスティン・セロー、ハリー・ディーン・スタントン、ウィリアム・H・メイシー、ジュリア・オーモンド、マリー・スティンバーゲン、ダイアン・ラッド…と豪華なキャスティングで、リンチの人気がうかがえる。ナオミ・ワッツ(声だけ)&ローラ・ハリングと『マルホランド・ドライブ』組も参加。元リンチの恋人ナターシャ・キンスキーもカメオ出演。裕木奈江のホームレスの役も見逃せない。
音楽家でもあるリンチゆえ、サウンドトラックもまたクオリティが高い。ベック「ブラック・タンバリン」からあの「ロコモーション」の意表をついた使い方まで! ラストシーでは、ベン・ハーパー(ローラ・ダーンの現在の夫)がノー・クレジットでピアノ弾き役として出演している。
最後に、特筆すべきは、リンチは本作をすべてDVカムコーダーSONY PD−150(家庭用モデルの業務用後継機)を使って撮影していることだ。02年から立ち上げた自身の会員制サイトdavidlynch.comで公開した“RABBIT”(本作に一部流用)などで実行済みだったのが、『インランド・エンパイア』では、バジェットに左右されることなく、好きなものを好きな時期に好きなように取り、一本の映画にまとめる21世紀型の映画製作スタイルを確立した。結果、06年ベネチア映画祭「栄誉金獅子賞」、07年米映画批評家協会賞「実験的作品賞」を受賞している。

ストーリー


■ハリウッド女優ニッキーは新作で再起を狙うが…
ニッキー・グレース(ローラ・ダーン)は、夫で街の実力者ピオトルケ・クロール(ビーター・J・ルーカス)と豪邸に暮らしている。ある日、訪問者#1(グレイス・サブリスキー)から不気味な予言を聞き、追い返す。
キングスリー・スチュワート監督(ジェレミー・アイアンズ)は、助監督にフレディー・ハワード(ハリー・ディーン・スタントン)を雇い、ニッキーとデヴォン・バーク(ジャスティン・セロー)を主演に『暗い明日の空の上で』をクランクアップする。ところが、この映画はジプシーの民話を基にしたポーランド映画『47』のリメイクで、主演の2人が撮影中に殺されたので未完になったといういわく付の企画であった。
マリリン・レヴィンズ(ダイラン・ラッド)の「セレブ・ショー」へ、ニッキーとデヴォンが出演する。マリリンからは2人の仲を疑われて、2人は鼻白らむが、ニッキーとデヴォンは映画のストーリーとリンクするように、プライヴェートでも不倫をする。結果、ニッキーは現実と映画の区別がつかなくなっていく。

■映画『暗い明日の空の上』のスーザンの、愛とトラブル。
夫がいるスーザン・セロー(ローラ・ダーン)と、妻子がいるビリー・サイド(ジャスティン・セロー)は、陽の当たる庭やビリーの豪邸で逢引を重ねている。
ある夜、スーザンがビリーの家に行くと、黒いドレスを着た妻ドリス・サイド(ジュリア・オーモンド)と息子がいて、ドリスは不倫を開き直るスーザンをたたき出す。
警察で、白いTシャツのドリスは、ハッチソン刑事(ロバート・チャールズ・ハンター)に、「知っている男をドライバーで殺す催眠術をかけられた」と訴えている。
50年代風の小さな一軒家で、スーザンの妊娠を、ファントムというあだ名を持つ夫(ピーター・J・ルーカス)は喜ばず、生むことを許さない。
アパートメントの一室で、目や顔にアザをつくったスーザンが、メガネをかけたスーツの男Mr.K(エリック・クレイリー)に人生相談をしているようだ。夫は自分を酷く殴り、バルト地域の巡回サーカス団と一緒に東欧へ行ったという。
ハリウッド通りでは、スーザンは顔なじみの娼婦たちと会う。しかし、スーザンは白いTシャツのドリスに腹をドライバーで刺され、3人のホームレスに看取られて死ぬ。

■ニッキーが「ビリー」にかけた電話を、ウサギ人間が取る。
50年代風の部屋に3人のウサギ人間がいる。スージー(ナオミ・ワッツ)はアイロンをかけながら、ソファに座って何かを呼んでいるジェーン(ローラ・ハリング)やドアから外の世界へ行き来するジャック(スコット・コフィ)と何気ない会話をする。時々、観客とおぼしき笑い声が起こる。公開録音のテレビ番組なのかもしれない。

■ロスト・ガールは、ニッキーと出会う
ポーランドのロスト・ガール(カロリーナ・グルシカ)は、自分の部屋でテレビモニターに映る映像を泣きながら観ている。モニターにはウサギ人間たちや訪問者#1が映っている。『暗い明日の空の上で』クランクアップ後のニッキーが突然目の前に現れ、二人は抱擁するも、ニッキーはすぐに消えてしまう。
何かに気づいたロスト・ガールは部屋を飛び出し、たどり着いた部屋にいた男(ピーター・J・ルーカス)や少年と幸せそうに抱き合う。

■映画『47』でも、2人の女が愛とトラブルを抱えている。
ポーランドの豪華なアパートメントの一室で、夫(クシシュトフ・マイクシャフ)が、黒い服を着た妻(カロリーナ・グルシカ)の浮気を疑い、責めている。夫は妻を酷く殴る。別のアパートメントの部屋では、白い服を着た妻が、夫に「娘は絶対に渡さない」と訴えている。
雪の大通りをどこかへ急ぐ妻の前に、夫が現れる。夫は、「お前と一緒にいたことがある男がこの先で死んだ」と伝える。

スタッフ

監督・脚本・プロデューサー: デイヴィッド・リンチ
製作: メアリー・スウィーニー

キャスト

ローラ・ダーン
ジェレミー・アイアンズ
ジャスティン・セロー
ハリー・ディーン・スタントン
ダイアン・ラッド
ウィリアム・H・メイシー
ジュリア・オーモンド
ローラ・ハリング
ナスターシャ・キンスキー
ナオミ・ワッツ

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