原題:adiantum blue

あなたがくれた、いちばん美しい時間 残りわずかな恋人のいのち。 ふたりはニースの柔らかな光のなかで過ごそうと決めた。

東京国際映画祭2006・ある視点部門出品作品

2006/日本/カラー/1時間50分/7巻/2995m/ビスタサイズ/ドルビーSRD 配給:角川ヘラルド映画

2007年05月25日よりDVDリリース 2006年11月18日より恵比寿ガーデンシネマ他にて公開予定

公開初日 2006/11/18

配給会社名 0058

解説


“アジアンタム”とはシダ科の観葉植物。涼しげにハート型の葉を揺らすその姿は若い女性に人気だが、枯れはじめると手の施しようがない、そんな繊細さを持つ。その状態は“アジアンタムブルー”と呼ばれるが、ごくまれにその“憂鬱”を抜けだし、再び青々とした葉を茂らせることがあるという。
この映画も同じように、悲劇的な状況を抜け出し、ひたむきに愛を奉仕しあう“大人の恋愛物語”だ。

主演は阿部寛(「TRICK」シリーズ 「結婚できない男」『バルトの楽園』)。幅の広い役柄をこなし、安定した演技力に定評のある彼だが、本格的ラブストーリーにおいても、深く繊細な演技で新たな魅力を見せている。ヒロインは、映画初出演となる松下奈緒 (TVドラマ「タイヨウのうた」「恋に落ちたら〜僕の成功の秘密」「人間の証明」)。ピアニストとしての才能を持つ彼女は、劇中曲を演奏してもいる。
撮影ではニースロケを敢行。ジャン・コクトーゆかりのサンピエール礼拝堂や、ニースの美しい海岸線が一望できる古城跡モルト・アルバンなど美しい風景をバックに撮影が行われ、日仏混成のスタッフが撮影にあたった。

雑誌編集者の山崎隆二(阿部寛)が仕事で出逢った新進カメラマン続木葉子(松下奈緒)。彼女の被写体はもっぱら水たまり。その写真の透明感と葉子自身の不思議な存在感に、我知らず癒されていく隆二だった。
やがてふたりは再会し、愛し合うように・・・。幸せな日々が永遠に続くと思われたある春の日、葉子の体に異変が起きる。彼女の体を病魔が蝕んでいたのだ。
宣告された余命はたった1ヶ月。隆二はすべてを捨てて、葉子が憧れていた地、フランス・ニースへとふたりで旅立つ決意を固める。

ストーリー




渇いた心に優しさを注いでくれた最愛の人。
ふたりの日々はいつまでも続くはずだった—。
人男性向け雑誌「月刊エレクト」の編集者の山崎隆二は、新進カメラマン・続木葉子と出会う。サラリーマンから絶大な人気を得るSM女王ユーカのヨーロッパ撮影企画を、エロ写真の専門でない葉子に、というユーカからの紹介があったからだ。しかし、エロ雑誌に芸術は必要ないと考える編集長・沢井速雄の判断で、葉子は落選する。しかし隆二は、別の撮影で予定のカメラマンが急遽不在となったため、葉子に撮影を依頼することになる。撮影後の通り雨でできた水溜りで、葉子は隆二を被写体に写真をとる。
「ほんとの世の中よりも、水に映った世界のほうがきれいでしょう?」
その写真の透明感と葉子自身の不思議な存在感に、我知らず癒されていく隆二だった。

夜のバー。隆二は、友人・川上音彦と会う。音彦から、妻・由希子が不倫をしていると相談をもちかけられる。
実は、由希子の不倫相手は隆二なのだ。「どっか行っちゃおうか? 棄てて惜しいものなんかある?」
友人の妻と密会する自分に絶望しながらも、由希子のその言葉に、不倫を繰り返してしまう隆二だった。

ニース。ユーカのSM紀行に同行する隆二は、これといった感動もなく、ただ海を見ている。
「私、あの子(葉子)と仕事したかったっていうより、この海見せてやりたかったな。」
ユーカは、両親の離婚のため悲しい境遇に立つ葉子に同情する。
「あいつ、土踏まずみたいだったな。裸足で歩いても、そこだけは汚れない、みたいな。」

隆二は、同僚の五十嵐、早苗と居酒屋で酒を飲んでいる。友人の妻との不倫のことや、自分の仕事に疑問を持ち自暴自棄となる隆二に五十嵐が怒鳴る。「お前はなあ、全然なりきれてねえよ。所詮、俺たちも風俗じゃねえか。腹くくれ、馬鹿!」

葉子の働くコンビニにふと立ち寄った隆二。ふたりは久しぶりに再会する。葉子のその瑞々しさに惹かれ、隆二は葉子と同棲を始める。アジアンタムを両脇にかかえ、隆二の家にやってくる葉子。ふたりの生活は幸せに続くかと思われたが、由希子との不倫のことや、自分の心の内を隠そうとする隆二に、葉子は失望しアパートを出る。

「あの子を手放すの? あんたは馬鹿よ」
ユーカのその言葉に、やがて隆二は、由希子との不倫を清算し葉子のもとを訪ねる。ふたりは再び同棲を始める。クリスマスにはボルシチを食べ、互いに鳥類図鑑と植物図鑑を贈りあった。

「私、水溜り以外のものも撮ってみようかな。」
互いに愛を奉仕しあい、ふたりは変わり始めていた。そんな幸せな生活が永く続くかと思われた…。

季節が変わり、桜の季節。カメラバッグと三脚を担いだ葉子は、撮影場所を探しながら歩いている。土砂降りの雨のなか、雨宿りした屋根の下で、元気に息づく数羽のひな鳥に目が留まる。初めて水溜りを通さずに被写体にカメラを向けたその瞬間、腹部に激痛が走り、葉子は水溜りに倒れこむ。急遽搬送された松本市の病院で、隆二は医者から葉子に胃の末期癌の可能性があると指摘される。
その後隆二は、葉子にプロポーズする。「指輪が引っ越すだけだ。大したことじゃない。」

東京に戻り、葉子は精密検査を受ける。病気を受け入れながらも、病室から屋上に逃げ出す葉子。彼女は、1ヶ月という残りわずかな自分の命を、静かに、そして幸せに生きてゆきたいのだ。そんな葉子に隆二が告げる。
「どこか行ってしまおうか。…脱出するんだよ。」

隆二の献身的な優しさに触れ、葉子は涙を流す。
「隆ちゃん、ニース行ったんだよね。水溜りみたいに可愛い海…。」

隆二は、編集長・沢井に退職を申し出る。
「酷いことを言うようだが、自分のことも考えないと駄目だ。お前はその後も生きなきゃならんのだぞ。」
「彼女の残り少ない体力を消耗させたらどうなる?言葉も通じない異国で、日本以上の医療が受けられるか?」
どうして戦おうとしないんだ、と宥めようとする沢井の言葉に、隆二は。
「…戦ってますよ。これでも戦ってるつもりなんです。」

育てていたアジアンタムを植物店に預け、ユーカに空港で別れを告げ、ふたりはニースへ旅立つ。
海に面した庭。白い椅子。オレンジの木にハンモック。穏やかなニースの風景にふたりは癒される。マルシェで買い物をし、ジャン・コクトーゆかりのサン・ピエール礼拝堂を訪れる。
「この壁画を描いたコクトーね。二十歳の恋人を亡くしたんだって。ラディゲって知ってる?…詩人でも芸術家でもなくて、何もしなかった人間のことなんか、みんな忘れちゃうよね。」
「俺が葉子を忘れると思うか?」

笑顔を見せながらも、時には不安で涙を流す葉子を優しく見つめる隆二。わずかな時間でもふたりは幸せを追求し、ニースの美しい景色のなかで穏やかに生活してゆこうとする…。

スタッフ

監督: 藤田明二
原作: 大崎善生
脚本: 神山由美子

製作:角川ヘラルド映画、日本映画ファンド、テレビ朝日、ソニー・ミュージックエンタテインメント
原作:大崎善生(角川文庫刊)
サントラ:EPICレコードジャパン
配給:角川ヘラルド映画

キャスト

阿部寛
松下奈緒
小島聖
佐々木蔵之介
村田雄浩
小日向文世
高島礼子

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