原題:Son frere

もう一度、僕は生きる。

第53回ベルリン国際映画祭銀熊賞受賞

2003年/フランス/90分/35mm 配給:クレストインターナショナル、ムヴィオラ 協力:アニエスベー

2005年2月12日(土)ユーロスペースにてロードショー

公開初日 2005/02/12

配給会社名 0096

解説


 オペラ〈二ーベルングの指環〉〈ヴォツェック〉映画『王妃マルゴ』『愛する者よ、列車に乗れ』の鬼才芸術家パトリス・シェローが魂のすべてを注ぎ込んだ「死と再生」の物語。

もう一度、僕は生きる。
兄トマは血小板が破壊されるという不治の病に冒されている。
弟リユックは、その兄を看護し、見守る。
ニ人は、いつの頃からか、背を向けあい、反目しあい、別々の人生を歩んできた。
しかし今、近く訪れるであろう兄の死を前に、ニ人の関係は緩やかに変化していくのだった。果たして、最後の時は、いつどんなふうにニ人に訪れるのだろう。
その時、兄トマは?そして弟リュックは?
『ソン・フレールー兄との約束ー』は、『王妃マルゴ』でカンヌ映画祭審査員賞、前作『インティマシー親密』でベルリン映画祭最高賞の金熊賞を受賞したパトリス・シェローが、「死」とそれを通しての「再生」を深く見据えた、すでに名作と呼ばれるほどの珠玉の作品である。ベルリン映画祭では、前作に勝るとも劣らない感動を呼び、見事に銀熊賞(監督賞)を獲得している。
 人間にとって「死」とは何か?すべての芸術家の命題ともいえるこのテーマに向かい合い、シェローは、その残酷さを回避することなしに、同時に逝くものと残されるものに訪れる癒しと安らぎを鮮やかに描き出す死の悲しみが癒され、そこに安らぎが訪れるなら、それは残されたものが再び生きることを約束した時ではないだろうか。本作の静かなラストシーンは、深い感動となって見るものをゆっくりと満たしていく。

12キロもの減量で難役に挑んだ愛弟子トデスキー二。肉体そのものが芸術となる舞台出身のシェローでしか描き得ない映像。

 兄トマには、ヴァンサン・ペレーズらとともにシェロー組の中核といっていいブリュノ・トデスキー二。弟リュックにはフランソワ・デュペロン監督の作品で知られるエリック・カラヴァカ。海辺で兄弟と語る老人役で登場するフランスの名優モーリス・ガレルや、病院でリュックが出会う少年に扮するロバンソン・ステヴナンも、強い印象を残しているわずか20歳の頃から天オと謳われ、30歳そこそこでオペラ〈ニーベルングの指環〉の演出で世界を騒然とさせた舞台人シェローの肉体へのこだわりは、主演のトデスキー二の12キロの減量となってあらわれている。痩せこけた頬、生気を失った肌にくっきりと浮き出す背骨トデスキー二は減量のために、日常の動作さえ緩慢になり、身動きひとつが困難だったという。前作『インティマシー/親密」で、女性の肌に残ったシーツの跡さえも映し撮ったシェローは、本作で「死」が肉体におよぼすものを、抽象ではなく肉体そのもので具象的に映し出す。かつてシェローは蝋私は今や、映画が私にもたらしてくれるもの、映画でしか見出し得ないものが何かが分かっている」と言ったが、本作での描写は、彼でしか描き得ない究極の映像表現といえるだろう。

自身のパーソナルな記憶をも重ねた、「私の心の全てを注ぎ込んだ映画」。

 シェローは、ある手紙の中で『ソン・フレールー兄との約東」を、「私が優しく愛している映画」「私の心の全てを注ぎ込んだ映画」と呼んだそこには、かつて自身が、愛する人を次々と亡くし、その深い悲しみから再生した記憶を、この映画に重ね合わせているからに違いない撮影期間は、わずか30日。スタッフは、『愛する者よ、列車に乗れ』などを手がけた撮影のエリック・ゴーティエをはじめ、10人にも満たないごく少数の気心の知れた仲間だけ。本作はシェローがもっとも親密な環境の中で生みだした作品といえる。
 なお、製作にはフランスのテレビ局アルテと、ファッション・デザイナーのアニエスベーの映画製作ブロダクション、ラブ・ストリームスが参加している。

ストーリー


ブルターニュの海辺で穏やかに海を眺める二人の兄弟。不治の病に冒された兄トマ。看護し、見守る弟リュック。長く疎遠だった二人を結びつけたのは、近く訪れるであろう兄の死だった。その肉体が朽ち果てる時を前に、これまで理解し得なかった二人の関係は緩やかに変化し、ある安らぎへと到達していく。

夏の終わり、ブルターニュの海辺
近くに住むらしい老人とともに、穏やかに海を眺めるトマとリュック。兄弟は、幼い頃のヨット遊びやフェリーでの旅の思い出を話す。

冬のパリ、2月
トマは、血小板が破壊されてゆく難病が再発したことを知る。病の再発に不安なトマは、もう長く会っていなかった弟リュックの家を訪ね、自分の病状を打ち明け、病院に付き添ってくれるよう頼むリュックは、ずっと背を向けあってきた兄が、今になって助けを求めてきた真意を測りかねたまま、兄の頼みを受け入れる。
怪我の傷も生々しい患者。病に力尽きたようにベッドに横たわる患者。病院の雰囲気は、リュックの気持ちを不安にさせた。ベッドに寝かされたトマの姿は、まるですべて諦めたかのように、か弱く見える。故郷のナントから両親が見舞いに来るが、トマは心を開かない。

ブルターニュ、7月
すでに死の足音を感じているトマ。力なく歩くトマを、リュックは気遣う。やがてトマは、リュックが同性愛者であることについて訊ねる。リュックの同性愛のことは、これまで一度も話したことがなかったというトマ。リュックは、話したことがある、という。ニ人のズレは、大きな溝を思い出させ、二人は思わず激しい言葉を投げあう。

パリ3月
リュックは、同居している恋人ヴァンサンに、兄の病気について話す。トマと同じ病気の友人がいたヴァンサンは心配し、リュックとトマの兄弟の関係にも関心を示すが、リュックはその心遣いに何故かぎくしゃくした感情を覚えた。
 トマの病気とリュックの看護は、ニ人の互いの恋人との関係にも変化をもたらした。トマの恋人クレールは、トマの病気が自分に強いる役回りに傷つき悩み、リュックにつらい胸中を訴えた。一方リユックは、ヴァンサンとの親密な関係に距離をおこうと思いはじめる。
 治療は苦しかった。副作用の強いコーチゾンという薬を投与するのだ。トマは病気と闘う気力を今や失っていた。

ブルターニュ、8月
 老人と、トマとリユック。海のそばで眠りたい、と、置うトマ。「ものには終わりがある」と老人は、言った。トマは「人は生きるか死ぬかだ」と返した。

パリ
 病院で、リユックはマニュエルという青年と出会うまだ19歳大きな手術跡の傷を見せ、「また手術だ。もう切り刻まれたくない」と慟哭する。リュックは、黙って彼の震える手を握りしめた。
 病院での治療を拒んだトマは、リュックの看護で、自宅で療養することになった。ある日、見舞いに来たクレールは、もうニ度とここには来ない、とリュックに打ち明ける。動揺を抑えきれないクレールに、リュックは思わず口づけた。
 トマの血小板の減少を、脾臓が原因と考える医師は手術をすすめ、トマは脾臓の手術をすることになった。その前日。千術に備えて、看護士がトマの体の毛をバリカンで剃る。胸、腹、腋、脚……。トマの体はされるがままになっている。
 その夜、リュックはトマの枕元で、少年の頃の思い出を話す。トマが15歳、リュックが11歳。巣からいっせいに飛び出した蜂の群れに追いかけられた時。「兄貴は俺を抱えて走り出し、家まで飛んで帰った」。頼もしかった兄。優しかった兄。だが、絆はこじれてしまった。話し終え、リュックがトマに目をやると、兄は眠っているようだった。 

トマの手術。リュックは、自分がベッドに横たわる夢を見た。

ブルターニュ
 海辺からの道をトマが一人で歩いている時、突然、激しい出血がおこった。血まみれで倒れたトマは、通りかかった少女とその母親に助けを求め、何とか事なきをえた。家に戻り、心配げな母とリュックの前で、「とても不思議だった。その女はすぐに行動しなかった。叫び声もあげなかった。俺が血まみれなのに」。トマは、眩くようにそう言った。
散歩に出たリュックとトマは、海辺に腰を降ろす。兄は、静かに言った。「ずっとお前を愛していたよ」。弟も静かに答える。「僕もだよ」。

パリ
手術後のトマ。原因は脾臓ではなかった。病状は思わしくない。ついにトマはいっさいの治療を拒否し、リュックに付き添われて病院を後にする。

スタッフ

監督:パトリス・シュロー
脚色:パトリス・シェロー
   アンヌ=ルイーズ・トリヴィディック
原作:フィリップ・ベッソン
撮影:エリック・ゴーティエ
音響:ギョーム・シアマ
編集:フランソワ・ジェディジエ
衣装:カロリーヌ・ド・ヴィヴェーズ
製作:アソル・フィルム
共同制作:アルテ・フランス/ラブ・ストリームス

挿入歌:マリアンヌ・フェイスフル

キャスト

トマ:ブリュノ・トデスキーニ
リュック:エリック・カラヴァカ
クレール:モーリス・ガレル
主治医:カトリーヌ・フェラン
ヴァンサン:シルヴァン・ジャック
母:アントワネット・モヤ
マニュエル:ロバンソン・ステヴナン
父:フレッド・ユリス
老人:モーリス・ガレル

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