ただ、どうしようもなく、好き。

2004年/日本/90分/カラー/ヴィスタ・サイズ/ドルビーサラウンド/ 配給:ジェネオン エンタテインメント+スローラーナー

2008年02月27日よりDVDリリース 2005年06月24日よりビデオリリース 2004年11月20日、渋谷シネ・アミューズにてロードショー!!全国順次公開

公開初日 2004/11/20

配給会社名 0062/0048

解説



大切な人の死を目の前に、ただ立ち尽くしているリチオとこのみ。海が見えたら、また歩き出せばいいんだ、繋いだ手を離さずに。2000年代を生きる僕らのラブストーリー決定版!

子供の頃の事故で今も生きることのリアリティを得られずにただ日々をやり遇ごす、中古レコード店の店員リチオ。リチオの心の闇に気付きながらもその先に踏み込めないままでいる、リチオの恋人アケミ。やりたいことを見つけられずに何となく毎日を過ごしている、アケミの妹このみ。——誰も、誰かを傷つけたかったわけじゃない。
リチオとこのみが持ってしまった秘密。そして、突然起こったアケミの事故死。
苦しくて、痛くて、泣くことができたなら、本当はもっとずっと楽なのに。

いつもと同じ毎日、なんでもない会話、見慣れた風景、本当はとても大切なものなのに、失ってから気が付いたもの。それとも、気が付かないフリをしていただけなのかもしれない。
既に失ってしまったものや今失われつつあるものを目の前に、“いま”を生きる彼や彼女、その絶望の先に見えたほのかな希望としての、不器用な恋と優しさを、心地よく続く音楽のように、柔らかく、繊細に描きだした、2000年代を生きる僕たちの物語、誕生!

原作は、よしもとよしともの同名コミック「青い車」(イーストブレス刊)。同コミックは、1996年の発売から8年経った現在も、その鮮やかさをまったく失うことなく、“いま”を生きる私たちのバイブルとして若者を中心に圧倒的な人気を誇っている。24ページの中に描かれるのは、昔の事故で顔が変形し、ラッキーにも生きている自分への苛立ちと、突然の恋人の死と、それでもなおニヤニヤと笑いながら生きてゆくしかないリチオの、宙ぶらりんな“絶望”である。にも関わらず、そこには生ぬるい感傷は描かれない。ただ乾いた空気が広がっているたけだ。この先も否応なく続いてゆく毎日を、生きてゆかねばならない彼らの絶望。そして、もはや絶望の先にしか見えない、ほんのわずかな希望。それらすべてを淡々と描き、ともすればふざけているようにさえ見えるその世界観は、いまこの瞬間にも私たちの心をとらえてやまない、まさに現代コミックの金字塔と言えるであろう。

監督は、『タイムレスメロディ』(主演:青柳拓次、市川実日子)で、現代に生きる著者が抱える葛藤を曖味かつ繊細な距離感で措き、釜山国際映画祭で日本映画として初のグランプリを獲得した、奥原浩志。その後の『波』(主演:乾朔太郎、小林麻子 音楽:サンガツ)においては、細やかな気持ちの揺れを鮮やかに描き、ロッテルダム国際映画祭最優秀アジア映画賞“NETPACAWARD”を受賞した。静かな画の中に潜む「やりきれなさ」で、同時代を生きる多くの若者の心をつかんで来た奥原監督。約3年ぶりとなる本作『青い車』が、待望の新作となった。
そして、奥原監督と共に今回脚本を担当したのが、山下敦弘監督『どんてん生活』『リアリズムの宿』においても脚本を手掛けきた向井康介。24ページの原作の持つ繊細な空気をしっかりと捉えながらも、原作にはない温かみと可笑しみを残す脚本作りで、奥原作品に新しい風を送り込んでいる。
本編の中にあらわれる中央線、井之頭線沿線のどこかの街の風景、その向こうに見え隠れする、ゆるゆるとした孤独と迷い。原作の乾いた空気を十分に持ちながらも、現代における必然性を持ったラブストーリーとして結実した、映画としての『青い車』。奥原監督ならではのクールでフラットな距離感によってのみ成しえた、傑作と言えるだろう。

キリキリと痛むような葛藤を胸の奥に抱えながら、曖昧な笑いで毎日をやり過ごそうとするリチオ役には、ワンダフルライフ(98年/監督:是枝裕和)ディスタンス(01年/監督:是枝裕和)、ピンポン(02年/監督:曽利文彦)等に出演し、透明感と存在感で映画界でも異彩を放ち、ファッション界にも強い影響力を持つ俳優ARATA。クールな表情の下に深い葛藤を隠すリチオを、彼ならではの感性で繊細に表現している。アケミの妹であり、ふとしたことからリチオと関係を持ってしまうこのみ役には、『EUREKA』(00年/監督:青山真治)の出演にて2000年カンヌ国際映画祭で国際批評家連盟賞、エキュメニック賞を受賞し注目を集め、その後、CMや雑誌で活躍しつつも、映画女優として若き才能を如何なく発揮している宮崎あおい。リチオヘの思いと揺れ、少女の持つ強さと危うさ、そしてある種のしたたかさを、ふるえるような鋭敏な感性で見事に演じ切っている。そして、原作では記憶の中の人物としてのみ描かれている、リチオの恋人アケミ役には、数々の話題作に出演し今や映画女優として不動の地位を確立している麻生久美子。閉ざされたリチオの心に触れようと悩みながらも、優しさと明るさですべてを包み込むようなアケミを、原作にはない柔らかな存在で好演している。また、リチオの働く中古レコード店の店長マチダ役に、大ヒット映画『アイデン&ティティ』』(03年)の監督としての記憶も新しい名優・田ロトモロヲ、アケミの同僚ミキモト役に水橋研二(『月光の囁き』(99年/監督:塩田明彦、『ロックンロールミシン』02年/監督:行定勲、最新作『茶の味』03年/監督:石井克人)、このみの友人マチコ役に太田千晶、このみと同じ予備校に通う森本役に佐藤智幸等、その実力によって常に日本映画界をリードする俳優陣が強力に脇を固めている。

音楽を担当したのは,本作で映画音楽初桃戦となる、曽我部恵一。その切なくも甘い詩情あふれる歌詞と優しいメロディーで多くのファンの胸をときめかせている氏は、ボーカルをつとめていたサニーデイ・サービス解散後、独自のレーべル“ROSE RECORDS”を立ち上げ、現在も精力的にソロ活動を続けている。本作『青い車』では、ダブルオー・テレサと共にライブシーンヘの出演も果たし、サウンドトラックでは、作品の持つ切なさと優しさをより一層ひきたてる素晴らしい音作りてそのセンスを光らせている。更に、ポスター撮影を写真家の大森克己が担当。内省的でありながらも広がりを見せる写真で、作品の繊細な空気をクリアに切り取っている。

ストーリー



リチオは、子供の時の大事故で片目に大きな傷を負った。その頃から、死に損なったような今の自分を、子供の自分がどこからか見ているような気がしている。
片目の傷を隠すためにいつでもサングラスをしているリチオ。バツイチの店長マチダがやっている中古レコード店に勤めながら、時々クラブでDJをしている。自分でもよく分からない苛立ち、ただ何となくやり過ごす日々。恋人は、不動産会社に勤めるアケミ。順調とも言えるし、倦怠ともいえる関係。アケミには高校生の妹このみがいる。自分のやりたいことが分からないまま、大学受験を控えてなんたか釈然としない毎日を送っていた。
ある日このみは、姉の恋人であるリチオに街でばったり会う。名前も覚えてくれていないリチオにこのみは言った。「あの、ごはん食べました?」カフェで食事をした二人は、リチオの部屋に行く。
サングラスをとったリチオの顔が見たいと言うこのみ。リチオは自嘲気味に笑うと、ふいにこのみにキスをした。ゆっくりと外されるサングラス、現れた片目の傷。このみは,リチオの顔を見つめ、言った。「かけてないほうがいい」。
アケミは,リチオの手首にある無教の傷に気付きながらも、いつも聞けずにいた。「ずっと幸せだったらいいな」ぼんやりとアケミがつぶやく。「そうな」……。
そして、アケミにもこのみにも言えない苛立ちを抱えたまま、毎夜不穏な夢に悩まされていたリチオは、もう会うのをやめようとこのみに告げた。
そんな時、出張で熱海に向かっていたアケミが、交通事故で死ぬ。リチオは、夜ひとりで青い車を走らせスピードを上げる。そしてカーブに差し掛かると目を閉じ、急ブレーキを踏んだ。よみがえるアケミの笑顔。ふと見ると,助手席に子供の自分が座っていた。リチオはもうひとりの自分に言う。「……教えてやるよ、あれからどんなことがあったか」
ある日、両手いっぱいの花束を抱えたこのみがリチオの前に現れた。その花束を海に投げるのだと言う。
高遠道路を走る青い車。やがてひろがる輝く海。このみの目からこぼれ落ちる涙。
このみはリチオに告げた。アケミが事故を起こす前日、自分たちのことを姉にすべて話したと。
「だからって自分のせいだなんて思ってない。でも、苦しいよ。チクチクするんだ」
抗うこのみを、無理矢理リチオは抱き寄せる。「心配すんな。俺がなんとかする」
海岸道路を走る青い車。運転するリチオ。助手席にこのみ。後部座席に置かれた大きな花束。キラキラと光る水平線……。青い車はどこまでも走り続ける——。

スタッフ

監督:奥原浩志
原作:よしもとよしとも「青い車」イーストプレス/CUE COMICS
共同脚本:向井康介
音楽:曽我部恵一

キャスト

リチオ:ARATA
佐伯このみ:宮崎あおい
佐伯明美:麻生久美子
マチダ:田口トモロヲ
ミキモト:水橋研二
マチコ:太田千晶
森本:佐藤智幸

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