男はなぜ、最愛の妻を殺したのか− 男はなぜ、あと1年だけ、生きる決心をしたのか−?

2004年1月10日公開

2003年/日本/カラー/122分 配給:東映

2004年07月09日よりビデオレンタル開始 2004年07月09日よりDVDレンタル開始 2004年1月10日(土)、全国東映系ロードショー

公開初日 2004/01/10

配給会社名 0004

解説


愛する妻を手にかけた、元捜査一課の敏腕警部。彼が自首するまでの「空白の2日間」の謎を追う—!
事件のこしらえは、ハードで、いかにも謎に包まれている。『半落ち』という耳慣れない警察用語も、まるでフィルム・ノワールを思わせる。が、この作品は、警察というフィールドで展開されるまぎれもないヒューマン・ドラマである。親子、夫婦の情愛。職場不倫、出世競争。そして誰にもいつか巡りくる“老い”の受け入れ…。
年齢を重ねるにつれ、人はさまざまな理不尽を呑み込んで生きていかねばならないのだとしたら。その現実に対峙し、何を、どう選ぶのか?状況に流されず、自らの生き方を選び取っていくのは容易ではない。アルツハイマーの病状が進む妻に懇願され、嘱託殺人という重罪を犯した主人公・梶聡一郎。その心の襞を探っていく物語は、いつしか彼を取り巻く人々の心のうちまでも照らし出していく。
『このミステリーがすごい!2003年版』(宝島社)『傑作ミステリーベスト10』(週刊文春)で、いずれも1位に選ばれた原作の底力が、これ以上ない配役を得て、いよいよスクリーンに登場する。
アルツハイマー病に冒され、13歳で逝った息子を忘れてしまうほどに記憶も思い出も失い、壊れていく妻・啓子。「せめて息子のことを覚えてるうち…母親のまま死にたい」と泣きじゃくる妻を扼殺した梶—。事件前まで警察学校で教鞭をとっていた被疑者・梶の取り調べに当たる捜査一課刑事・志木は言う。「……あなたを尊敬している若い巡査がいます。彼が言うには、あなたは列車事故の現場に出る教え子に『自分の親兄弟と思って遺体を取り扱うように』と訓示したそうですね」。それほど篤実な、思いやり深い人間が、なぜ!?だからこそ、この優しい夫と病苦を抱える妻の“絆”の先に何が起こっていたのかを……確かめたいと思うのだった。
「……君は誰のために生きている?会社か?恋人のためか?」
「自分のためです!」
「……自分の、ためか。そうだよな……俺も、自分のために<グリーニッカー橋……渡れ!>……だ」
検事・佐瀬と地方支局の新聞記者・洋子がやり合う。
20代の洋子は、疑うことなく、自分のために懸命に生きている。たとえ屈辱感にまみれても、泥沼の恋に足をすくわれても。そんな彼女を誰が否定できるだろう。左遷された地方検察庁で、自身のキャリアと家庭生活に屈託を抱え生きる40代の佐瀬もまた。
だが、梶の謎を追ううち、2人は「自分のために生きる」、その当たり前に見えた生き方をやけに切なく感じてしまう。『半落ち』に仕込まれた“合わせ鏡”の見事さは、登場人物たちはもとより観る者をも巻き込んで、自分の<今>のありようを見つめさせるのだ。
人は何を支えに、何を励みに、生きるのか。
人が、人として、輝いて生きるための“よすが”とは—。
沈黙する梶に、志木が投げかけた「言わないのは、あなたが嘘をつけない人だからだ」という言葉。そこに示し出された〈嘘〉は、私たちの魂を根底から揺さぶる!
『陰の季節』で松本清張賞、『動機』で日本推理作家協会賞を受賞した作家・横山秀夫による初の長編小説『半落ち』は、30万部を越すベストセラー記録を樹立。本作はその横山秀夫ワールドの最高峰、初の完全映画化である。
配役は、梶聡一郎に寺尾聰、その妻に原田美枝子、志木刑事に柴田恭兵。検事に伊原剛志、記者に鶴田真由、新米判事に吉岡秀隆、弁護士に國村隼、ほか、高島礼子、石橋蓮司、井川比佐志、樹木希林、奈良岡朋子らのラインナップ。
監督は、デビュー作『陽はまた昇る』で高い評価を得た佐々部清。撮影は、『たそがれ清兵衛』『学校』で各種映画賞に輝いた長沼六男。人の心の内奥にある<ミステリー>を炙り出し、スクリーンに陰影深く焼きつける。

ストーリー



「私、梶聡一郎は、3日前、妻の啓子を、自宅で首を絞めて、殺しました」
梶聡一郎が最寄の警察署に出頭してきた時、捜査一課強行犯指導官、志木和正は、連続少女暴行犯人の自宅を朝駆けで急襲する最中だった。梶の取調べを命じられて、何ヶ月も追ってきたヤマから最後の最後で引き剥がされ、警察署へUターンする志木の胸中に去来する複雑な思い。
半年前、アルツハイマー病を発症した啓子の看病の為、自ら刑事を辞して警察学校で後進の指導にあたり、広く敬愛を集めてきた梶が、なぜ殺人を犯したのか。取調室で向き合う梶の視線の奥が、あまりに澄んでいることに驚く志木。
志木の取調べに対して、啓子の扼殺後自首してくるまでの2日間のことについて、固く口を閉ざす梶に、志木のみならず、駆け付けた県警幹部すべてが困惑する。現役警部の殺人という一事件が、県警そのものの権威と、そこに属する何千という警察官の信用を地に墜とそうとしているのだ。取り調べにあたる志木に、誘導尋問で「空白の2日間」を捏造した事実で穴埋めするように、命じる県警幹部たち。そしてその命令に背き、取調官を解任された志木は、独自に、梶がひたすらに隠そうとしている<真実>を探り出そうとする。7年前に一人息子の俊哉を急性骨髄性白血病で14歳の誕生日を待たずに亡くし、寄う添うように生きてきた夫婦に、一体何があったのか。そして梶の事件がやむなく表沙汰になる。さらに「空白の2日間」についての県警の発表にウソがあることが、梶が東京行の新幹線ホームにいたことを目撃した男のマスコミヘのタレ込みで明らかになり、県警の周囲は騒然さを増す。
事件の推移と共に、担当検事(佐瀬)、弁護士(植村)、スクープを狙う新聞記者(中尾)、裁く判事(藤林)が、各々の人生を背負い、思惑を抱え、事件の真相を暴く為に、梶の人生、梶という人間そのものに近付いていく。
個人として捜査を続ける志木。県警と地検の“取り引き”でやむなく手を引く佐瀬。これを機に名を上げようと、意気込んで梶との接見に臨む植村。梶の「空白の2日間」の行動の一端を掴む中尾。公判で、啓子と同じ病を持つ父のことが脳裏を掠める藤林。そして、亡くなった俊哉の担当医、高木の「俊哉君の発病から間もなく、ご夫妻でドナー登録されたんです」という言葉。裁判の証言台で、「私は…啓子を殺してやることもできなかったんです…」と泣き崩れる、姉・康子が保管している啓子の日記に貼られた、「命をありがとう」と題された投書記事。弁護を引き受けた植村に梶が問い掛ける、「あなたには、守りたい人がいませんか」という言葉……
“来るべき日”を待ちわびる梶の、拘置所での、贖罪と希望への祈りを捧げる日々。どんな犠牲を払い、誹りを受けようとも、あと1年だけ生きようとしている梶の人生の<真実>とは!?

スタッフ

原作:横山秀夫 (講談社刊)
監督:佐々部 清
脚本:田部俊行、佐々部 清
撮影:長沼六男

キャスト

梶聡一郎:寺尾 聰
志木和正:柴田恭兵
梶 啓子:原田美枝子
藤林圭吾:吉岡秀隆
中尾洋子:鶴田真由
佐瀬銛男:伊原剛志
植村 学:國村 隼
植村亜紀子:高島礼子
高木医師:奈良岡朋子 
島村康子:樹木希林
石橋蓮司
井川比佐志

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