原題:Vsetko co mam rad

第65回アカデミー賞外国語部門スロヴァキア代表 1992年ベストフィルム・オブ・ザ・イヤー最優秀スロヴァキア作品 スロヴァキア映画批評家賞、監督賞受賞

1992年/スロバキア/92分/ 配給:シネカノン

2004年04月23日よりDVDリリース 2003年11月15日より銀座シネ・ラ・セットにてほか全国順次ロードショー

公開初日 2003/11/15

配給会社名 0034

解説


ようこそ、不思議の世界へ!

ヨーロッパが誇るマルティン・シュリーク。日本ではまだその名はあまり知られていないが、スロヴァキアののどかな田園風景を描き、吸い込まれるようなその美しい映像と、エキセントリックな登場人物、思いがけない魔法のような遊びの要素と、民間伝承のような趣きに彩られた世界を作る巨匠である。
 30才のヤクプは仕事も上手く行かず、共に暮らす父親にも理解されない。そんな八方ふさがりの人生に変化を求めて田舎にある祖父の廃虚同然の屋敷を訪れ、不思議な少女に出会い、さまざまな来訪者にまきこまれていくうち、すべてが<なるように>再生されていく「ガーデン」。
 バツイチで失業中のトマス。彼の人生の一大転機ともいうべき時期を彼を取り巻く日常の切なくも優しいたくさんの言葉とモノの断片で紡ぎあわせ、スロヴァキアのベストフィルム・オブ・ザ・イヤーに輝いた「私の好きなモノすべて」。
一風変わった少女テレスカが一枚の古い絵図を頼りに長いあいだ音沙汰のなかった母親を捜す旅に出る。幻想的な森を舞台にしたスロヴァキア版「不思議の国のアリス」ともいうべき「不思議の世界絵図」。
 これらの作品に共通して描かれた、人間の悲喜劇、人間の不思議さ不気味さ。そして、まだあどけなさが残る少女の無意識に香るエロス、牧歌的風景でありながらどこか妖艶にもみえる自然の奇跡ともいうべき姿をこの映像の魔術師と異名をとるマルティン・シュリークはいとも易々と掬い上げていく。そして私たちを幸せで満たしてくれる。
これはとてつもなく豪奢な大人のおとぎ話である。

私の好きなモノすべて
人生の一大転換期に差しかかった男の物語。38才になるトマスはバツイチで失業中。彼は好きなもののライフストーリーを収集していたが完成する気力がない。そんな彼をイギリス人の恋人は新しい世界へといざなうが・・

ストーリー

<夜明け>
夜明けの湖。水平線から太陽が昇り始める。トマスは水辺に車を停め、夜明けの水泳を楽しんでいる。
<断食>
トマスは自分の英語の教師で恋人でもあるイギリス人女性アンの部屋を訪れる。彼女はイギリスに渡航するための申請書をトマスに手渡しながら、一緒に来ないかと誘うが、トマスはキッチンでつまみ食いをしていて返事をしない。彼女に「食べるのはやめてよ」と叱られると、トマスはその言葉で断食を決意する。
<屋外でのペンキ塗り>
道路に型を置いて白いペンキを塗っている男たち。トマスはそこへ車で通りかかる。彼らは横断歩道を塗っていた。
<息子>
トマスは学校に息子アンドレイを迎えに行く。チェロを学んでいる息子にトマスが弾いてみろと言うと、彼は試験の課題曲を逆から演奏して聴かせた。大雨のなか学校からの道を息子とアンを乗せて車で走っていると、アンドレイが車に酔ったというので途中で車を停める。公衆トイレからやっと出てきて「手遅れだった」と言いながら汚れたシャツを洗うアンドレイにトマスは「気にするな。パパだって吐きたい時がある」と言葉をかけた。
<気球のある風景>
山にドライブに来たトマスとアンの車が洗車機から出ると、そこには美しい景色が広がり、気球が飛んでいた。
<マッチの女>
ある日トマスが家に帰ると部屋の荷物がすっかり無くなっていた。驚くトマスを迎えたのはマッチをもてあそびながら彼の帰宅を待っていた別れた妻マグダで、彼女が引越し屋を雇って荷物を運び出したらしい。全財産をやったのに何故こんな事をするのかと問うトマスを、彼女は逆にアンとの交際は無責任だと責める。トマスとは正反対のタイプのヴァシェクという男と再婚するのだと告げるマグダにトマスは自分のどこが嫌だったかと訊ねるが、彼女は食あたりで気分が悪いと言って答えない。そしてトマスはそんな彼女の腹を優しくさすってやるのだった。
<ヘーゲルによる世界(作家との会話)>
トマスとアンはとある作家のもとへ赴き、彼の持論“男女の関係、小説におけるアンチテーゼ”の話を聞く。
<父>
母からの連絡で父が病院で検査を受けるために上京していることを知ったトマスがその滞在先のホテルの部屋を訪ねる。父は部屋に若い外国人女性を連れ込んでいて、買ったばかりの掃除機を嬉しそうに見せるが、トマスが病状を訪ねると表情を曇らせる。バスターミナルまで車で送ると、仕事もなく、女房と別れて息子もほったらかしにしているトマスの家に泊まりたくなかったのだと言い残して帰っていく。
<寝ること>
断食を続けるトマスは空腹を前にして断食の良さを述べた本を読み、ベッドに横になる。
<ジョイスの言葉>
トマスはアンとアンドレイを連れて湖にやって来る。アンは湖で泳ぎ、トマスは息子とボートに乗り、話しかけるが、二人になると息子は反抗してばかりする。とうとうトマスは息子の態度に匙を投げ、湖に飛び込む。岸に上がると二人の様子を見ていたアンは父との最後の思い出と母の変貌、そしてそのために今でも母とは上手く行っていないことをトマスに話して聞かせる。思い直したトマスは家に帰ると再びアンドレイのダンスレッスンのために買ったスーツを試着させ、ダンスを教えようとするがやはり彼は言うことを聞かない。見かねたアンはアンドレイの部屋へ入っていき、後からトマスがこっそりのぞき見ると、二人はベッドの上で楽しそうに踊っていた。
<古い世界の肖像>
駅のコンコースでひどい身なりの老女が大声で不平を叫び続けている。通行人たちはみな彼女を避けて通っていく。そこへ通りかかったトマスが老女に人生で一番大切なことは何かと訊ねると、彼女はトマスとは関わり合いになりたくないという態度をあらわにしてその場を去っていく。
<カトリック教>
アンが開いたホームパーティーに元妻マグダが姿を現す。トマスの前でアンに手を挙げ、その場に居合わせた人々は騒然となる。彼女はどこかからトマスとアンが一緒に国を出て行くと聞きつけ、それを阻止しようとやって来たのだ。泣き崩れたマグダはカトリック教徒なのに恥ずかしくないのかなどとトマスを責める。
<ヨーロッパの中心への旅>
アンドレイとアンを連れて両親の家に行く途中、息子がまた車に酔ってしまったので川岸で車を停めるとアンはイギリス行きの話をふたたび持ちかけてくる。トマスがまたも返事を曖昧にして川で顔を洗っているアンドレイの様子を見に行くと、その短い間にアンは車から姿を消していた。心配したトマスが山中を探すと、彼女が誰かとお互いの言葉が通じぬままに会話している声が聞こえてきた。トマスが彼らのいる庭にたどり着くと、その家の主人らしき男性はトマスに向かって「ここがヨーロッパの中心だよ」と教えてくれる。
<結婚記念日>
両親の結婚記念日を祝うために彼らの家へ到着する。トマスは父の体を案じて情緒不安定になっている母を気遣い、庭に出る。食事の時間になって母がウサギのスープを出してくれるが、トマスは断食中、アンは菜食主義、アンドレイはスープ嫌いでみな手をつけず、母も食べずに席を立ってしまう。父はトマスにあんな女を連れてきたせいだと責め、母に謝るようにと言う。夜になり貯蔵庫で人の気配がしたので覗いてみると、父がいた。干し肉を食べながら母が何にも興味を示さず、目の前で消えてなくなりそうだと心配し、またトマスにアンとイギリスに行くのかと寂しそうに訊ねる父。彼は断食中のトマスをも心配して残った干し肉をすすめ、舌にのせるだけでいいからと言われたトマスはそれを口に入れる。
<家族の写真を撮ること>
翌朝両親とトマス、アンドレイ、アンの5人は記念に家族写真を撮ろうとする。父がカメラのセルフタイマーをセットして戻ってくるがなかなかシャッターがおりず、みな笑顔を作ってじっと待ち続ける。
<奇妙な優しさ>
トマスが帰宅すると家のドアがこじ開けられている。中に入るとまた別れた妻マグダが待っていて、荷物を返しに来たと言う。いつもとは違う彼女の態度を疑ったトマスが今度は何が欲しいのかと訊ねると、彼女は再婚して新しい家に住むために金が必要なのだと答える。彼が断ると、彼女は助けてくれないのかとなじりはじめ、終いには息子の養育権の話を持ち出す。トマスが逆にアンドレイを放り出すのかと彼女を責めると彼女はそうではないと答え、具合が悪いと言って横になる。どうやらヴァシェクの子を妊娠しているらしい。
<ソロー カント ゲーテ その他(作家との会話)>
トマスとアンはまた作家の話を聞きに来ている。彼はソローやカント、ゲーテのエピソードを持ち出して、旅は無意味で不快なものだと述べる。新しい体験を求めて旅をする者はたいてい失望するし、旅をすれば自分の体験や知識が深まるわけではないのだと。
<将軍>
明日はアンがイギリスへ向けて旅立つ日だ。しかしトマスは彼女のもとを訪れず、アンテナの位置をかえながら写りの悪い深夜映画をひとりで見ていた。
<断食をやめること>
トマスは船で旅立つアンを見送りに港までやって来ていた。最後に二人は一緒にカフェでお茶を飲むが、別れを前に強がるトマスのせいで会話はかみ合わない。アンは店を出る際にサンドイッチを2つ買い、他の客が見ている前で嫌がるトマスの口に無理矢理詰め込む。「痩せ我慢はやめて。見ていられないわ」と。ついにトマスも観念して断食をやめることにし、二人はやっと打ち解けあって別れる。
<あなたは何が欲しい?>
アンが去り、寂しさで何もする気がしないトマスは部屋でひとり、がらくたを玩ぶ。
<僕に音楽を演奏して>
トマスはアンドレイを車で迎えに行く。今日のアンドレイはスーツを着ている。音楽院の試験だったのだ。結果はどうだったかと問うトマスにアンドレイは一次試験で落ちたと答える。どこが悪かったのか、これからどうするのかと質問責めにされてうんざりしているアンドレイをトマスは湖のお気に入りの場所に連れて行く。車のトランクを開けて楽器を取り出すと弾いてくれと鼻歌を歌うが、アンドレイが弾いたのは全く違うメロディで、トマスはレコードの特徴などを一生懸命説明する。しかしどうやら無理らしいとわかり、トマスが諦めて水際に歩いていくと背後からアンドレイが弾くビートルズの曲が聞こえてくる。二人は夕暮れまでそうやって過ごした。

スタッフ

監督:マルティン・シュリーク
脚本: オンドゥレイ・スライ&マルティン・シュリーク
音楽:ウラジミール・ゴダール

キャスト

ユライ・ヌゥオタ
ジナ・ベルマン

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