原題:JOUR DE FETE

1949年度ヴェネチア映画祭最優秀脚本賞 1949年度フランス映画大賞

1995年(モノクロ版は1949年)/カラー/80min/日本語字幕:寺尾次郎 配給:ザジフィルムズ

ぼくたちの伯父さん ジャック・タチ フィルム・フェスティバル 2003年8月9日よりヴァージンシネマズ六本木にてロードショー

公開初日 2003/08/09

配給会社名 0089

解説


ぼくたちの伯父さん
ジャック・タチ フィルム・フェスティバル

没後20周年を迎えた2002年、カンヌ国際映画祭やフランス映画祭横浜でオマージュを捧げられた、監督/脚本家/俳優のジャック・タチ。パントマイム芸人出身のタチは、ヨレヨレの帽子に丈の短いコート、パイプをくわえて前のめりに歩く“ぼくの伯父さん”のユロ氏という映画史に残るキャラクターを生み出した。ユロ氏独特のナンセンス・ギャグと酒脱な作風は一世を風扉し、世界中で愛され続けている。
アメリカ・モダニズムの影響を受けたタチのセンスはクールで新しく、その世界観は今も映画のみならず最先端の建築/インテリア、美術、音楽、サブカルチャーに大きな形響を与えている。
存在感が希苅で正体不明の不思議なユロ氏のキャラクター。超モダンなハイテク住宅やユーモラスな魚の噴水。ガラス張りの空間や窓などで作り上げた偏し絵のギャグ。ラウンジブームを先取りしたノスタルジックで軽快な音楽、映像と音のずれによって生み出されるオフビート感。これらは一度目にしたり、耳にしたりしたら決して忘れられないものだ。ピエール・エテックスによるシンブルでキュートなポスターデザインも、タチのハイセンスなイメージを確立するのに大きな役割を果たした。日常に潜む人間の可笑しさを描き、きらりと光るおしゃれ感を漂わせて、現代人の触覚をも震えさせる要素を満載する万華鏡ワールド、それがジャック・タチの世界だ。
タチはヌーヴェルヴァーグの映画作家たちにも愛された。フランソワ・トリュフォーは批評家時代、有名な論文「フランス映画のある種の傾向」の中で、タチの『ぼくの伯父さんの休暇』を“作家の映画”としてロベール・ブレッソンの『田舎司祭の日記』と並び絶賛した。1967年、『プレイタイム』が批評家たちに酷評されたとき、憤慨したトリュフォーはタチ宛に熱い支持表明の書簡を送った。さらにトリュフォーは、70年の監督作『家庭』の中で、ユロ氏を登場させた。またタチと同じくアメリカ・モダニズムに影響を受けたゴダールは、自作『右側に気をつけろ』で、タチの『左側に気をつけろ』にオマージュを捧げている。なお、タルコフスキーの遺作『サクリファイス』の冒頭、子供が郵便配達の自転車を木に結び付け、郵便配達が転びそうになるシーンは、タチが生んだ人気キャラクター、郵便配達フランソワを意識したものだ。日本でも、『男はつらいよ』の車寅次郎のキャラクターはユロ氏に多大な影響を受けており、『ぼくの伯父さん』と副題がついたエピソードもある。
日常を淡々と描きながらも現代文明を鋭く批評し、時代を先取りしたタチの世界は、カンヌでの回顧上映をきっかけに再評価された。散逸していた幻の超大作『プレイタイム』のプリントは、ファッションデザイナーのアニエス・べーの協力の下、デジタル修復と音声トラックが録音し直されて一般公開された。
パリ、シャイヨー宮にあるシネマテークでの上映に際しては、ソワレにてタチの親戚で人気演出家のジェローム・デシャン一座によるパフォーマンスと舞踏会が行われ、連日満員札止めの大盛況となった。タチの映画のサウンドトラックや音源をサンプリングしたDJ、Mr.Untelによるりミックス盤は人気を呼び、この音楽に合わせて踊るというイベントも、公開期間中に開催されて若い人々の間でもタチ人気が沸騰した。
さらに、作品に表れるユニークな建築デザインにスポットを当てた展覧会の開催、研究本の出版など関連したイベントは数知れず。フランス映画祭横浜2002でもタチヘのオマージュとして『ぼくの伯父さん』の上映が行われ、ジェローム・デシャンとパートナーのマーシャ・マケイエフが来日したことも記憶に新しい。タチブームに沸いたパリの熱気をそのままに2003年初夏、“ぼくたちの伯父さん”ユロ氏のぴょこぴょこ歩く姿が、ニュープリントで蘇る。

ストーリー


村にはまた祭りの季節が巡り、興行師のトレーラーが荷台に回転木馬を満載して、広場にやってくる。祭りの準備に村は大わらわ。のっぽでお人好しの郵便配達フランソワも、仕事もそこそこに手伝いに奔走する。祭りの日、テント映画館で「アメリカ式郵便配達」の映画を観て、皆にも囃し立てられ一念奮起、翌日から「アメリカ式」なるスピード郵便配達を実行し始める。やがて彼はトンチンカンな方向に逸脱、ついには自転車ごと川に突っ込んでしまう。濡れ鼠になったフランソワはのんびり配達のよさをしみじみ悟る。
『郵便配達の学校』で、評判を呼んだ人気者の郵便配達フランソワを主人公にして、ついに実現したタチ念願の長編監督第一作。製作は『左側に気をつけろ』以来のフレッド・オラン「キャディ・フィルム」。フランス映画史に忽然と現れた本格的ドタバタ喜劇に、一躍タチの名は世界に轟くことになる。撮影は、47年フランス中部のアンドル県サント=セヴェール村で五月半ばから九月まで続けられ、残りはパリ近郊のスタジオなどで撮影された.一部のプロ俳優を除くと、多くは実際にその村に住んでいる人々に出演してもらっている。その意味ではまったく同時代のイタリアのネオリアリズモと並行する試みといえよう。無声喜劇を思わせはするが、タチの資質は身体的運動をロング・ショットで捉える視覚性と音の組み合わせの面白さに存するのであり、実際見えない蜂に襲われるギャグなど秀逸である。同時に冒頭とラストの木馬を追いかける少年を捉えた後退移動に漂う抒情性もタチ特有のものであろう。タチ自身自己の原点を確かめるかのように少なくとも毎年一回はこの村で上映会を開いていたようだが、87年には『のんき大将』撮影40周年のお祝いも行われ、オリジナル版が満員の観客の前で上映されたという。郵便局では郵便配達フランソワの消印や絵はがき、封筒などが作られるほどのお祭りであった。

撮影期間:1947年5月13日〜47年11月15日
エスクァイアマガジンジャパン刊 『E/Mブックス4:ジャック・タチ』より

スタッフ

製作:フレッド・オラン(キャディ・フィルム)
監督:ジャック・タチ
脚本:ジャック・タチ、アンリ・マルケ
脚本協力:ルネ・ウェーレール
撮影:ジャック・メルカントン
編集:マルセル・モロー、ソフィー・タチシェフ(カラー版)
音楽:ジャン・イアトーヴ

キャスト

郵便配達フランソワ:ジャック・タチ
旅役者ロジェ:ギィ・ドゥコンブル
旅役者マルセル:ボール・フランクール
ロジェの妻:サンタ・レッリ
ジャネット:メーヌ・ヴァレー
理髪師:ロジェ・ラファル
おしゃべり婆さん:デルカッサン
サントセヴェールの住民

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