原題:LES VACANCES DE MONSIEUR HULOT

1953年度ルイ・デリュック賞 1953年度カンヌ映画祭国際批評家賞 1954年度ニューヨーク映画批評球協会年間ベストテン選出 1956年度米アカデミー賞最優秀ストーリー賞および最優秀脚本費にノミネート

1953年/フランス/モノクロ/83分 配給:ザジフィルムズ→日本コロムビア

2014年4月19日公開 2005年12月02日よりデジタル・ニューマスター版DVDリリース ぼくたちの伯父さん ジャック・タチ フィルム・フェスティバル 2003年7月26日よりヴァージンシネマズ六本木にてロードショー

公開初日 2003/07/26

配給会社名 0089

解説


没後20周年を迎えた2002年、カンヌ国際映画祭やフランス映画祭横浜でオマージュを捧げられた、監督/脚本家/俳優のジャック・タチ。パントマイム芸人出身のタチは、ヨレヨレの帽子に丈の短いコート、パイプをくわえて前のめりに歩く“ぼくの伯父さん”のユロ氏という映画史に残るキャラクターを生み出した。ユロ氏独特のナンセンス・ギャグと酒脱な作風は一世を風扉し、世界中で愛され続けている。
アメリカ・モダニズムの影響を受けたタチのセンスはクールで新しく、その世界観は今も映画のみならず最先端の建築/インテリア、美術、音楽、サブカルチャーに大きな形響を与えている。
存在感が希苅で正体不明の不思議なユロ氏のキャラクター。超モダンなハイテク住宅やユーモラスな魚の噴水。ガラス張りの空間や窓などで作り上げた偏し絵のギャグ。ラウンジブームを先取りしたノスタルジックで軽快な音楽、映像と音のずれによって生み出されるオフビート感。これらは一度目にしたり、耳にしたりしたら決して忘れられないものだ。ピエール・エテックスによるシンブルでキュートなポスターデザインも、タチのハイセンスなイメージを確立するのに大きな役割を果たした。日常に潜む人間の可笑しさを描き、きらりと光るおしゃれ感を漂わせて、現代人の触覚をも震えさせる要素を満載する万華鏡ワールド、それがジャック・タチの世界だ。
タチはヌーヴェルヴァーグの映画作家たちにも愛された。フランソワ・トリュフォーは批評家時代、有名な論文「フランス映画のある種の傾向」の中で、タチの『ぼくの伯父さんの休暇』を“作家の映画”としてロベール・ブレッソンの『田舎司祭の日記』と並び絶賛した。1967年、『プレイタイム』が批評家たちに酷評されたとき、憤慨したトリュフォーはタチ宛に熱い支持表明の書簡を送った。さらにトリュフォーは、70年の監督作『家庭』の中で、ユロ氏を登場させた。またタチと同じくアメリカ・モダニズムに影響を受けたゴダールは、自作『右側に気をつけろ』で、タチの『左側に気をつけろ』にオマージュを捧げている。なお、タルコフスキーの遺作『サクリファイス』の冒頭、子供が郵便配達の自転車を木に結び付け、郵便配達が転びそうになるシーンは、タチが生んだ人気キャラクター、郵便配達フランソワを意識したものだ。日本でも、『男はつらいよ』の車寅次郎のキャラクターはユロ氏に多大な影響を受けており、『ぼくの伯父さん』と副題がついたエピソードもある。
日常を淡々と描きながらも現代文明を鋭く批評し、時代を先取りしたタチの世界は、カンヌでの回顧上映をきっかけに再評価された。散逸していた幻の超大作『プレイタイム』のプリントは、ファッションデザイナーのアニエス・べーの協力の下、デジタル修復と音声トラックが録音し直されて一般公開された。
パリ、シャイヨー宮にあるシネマテークでの上映に際しては、ソワレにてタチの親戚で人気演出家のジェローム・デシャン一座によるパフォーマンスと舞踏会が行われ、連日満員札止めの大盛況となった。タチの映画のサウンドトラックや音源をサンプリングしたDJ、Mr.Untelによるりミックス盤は人気を呼び、この音楽に合わせて踊るというイベントも、公開期間中に開催されて若い人々の間でもタチ人気が沸騰した。
さらに、作品に表れるユニークな建築デザインにスポットを当てた展覧会の開催、研究本の出版など関連したイベントは数知れず。フランス映画祭横浜2002でもタチヘのオマージュとして『ぼくの伯父さん』の上映が行われ、ジェローム・デシャンとパートナーのマーシャ・マケイエフが来日したことも記憶に新しい。タチブームに沸いたパリの熱気をそのままに2003年初夏、“ぼくたちの伯父さん”ユロ氏のぴょこぴょこ歩く姿が、ニュープリントで蘇る。

ストーリー


浜辺のホテルでは、今年も避暑客がしばしの逗留を楽しんでいる。ポンコツ車でやってきたユロ氏は、老夫婦、ピジネスマンー家、老軍人、左翼青年、英国の老婦人などのたむろする小さなホテルにささやかな風とともに登場する。同じ日に伯母の別荘に来た若い娘のマルチーヌに心惹かれたユロ氏はあれこれと誘いかけもするのだが、とくに親しくなることもない。七日間、この奇妙な人物、ユロ氏はさまざまな出来事を引き起こし、観察し、逃げ回るだけだ。やがて休暇の終わる日、他の避暑客に遅れてユロ氏のポンコツ車も人気のない浜辺を後にする。
前作で人気キャラクターとなった郵便配達のフランソワを生み出したタチは、求めに応じて「郵便配達アメリカへ行く」といった続編を撮ることを拒み、まったく新しいキャラクター、ユロ氏を創造する。この羽のないチロル帽にパイプをくわえ、足を棒のようにして前のめりになって浮き足立って歩き、モゴモゴとしか話さない奇妙に受動的で希薄な人物は、以後タチの映画には不可欠の神話的存在となるだろう。ユロ氏の逆説は、その不思議な魅力にもかかわらず、むしろ彼の周りにいる人々の日常の中にあるおかしさを顕在化することにある。普通の喜劇映画のような起承転結を持たず、一定のリズムで七日間の出来事が溶明/溶暗によって区切られる本作の物語構造は、小津安二郎の映画にも通じる現代性をもっている。なおタチは前作で果たせなかったカラー撮影を実現したかったようだが、プロデューサーがつかず断念し、モノクロで撮ることになる。また本作は、スタッフに画家のジャック・ラグランジュを迎えた最初の作品でもある。ラグランジュはシナリオや視覚的側面を大きく支え、以後タチの親友として全作品に協力することになる。フランスをはじめ各国で高い評価を得、タチの名を不動のものとした。原題は『ユロ氏の休暇』だが、日本公開は製作から10年後の63年で、前作の評判を受けて邦題は、『ぼくの伯父さんの休暇』となって今日に至る。

撮影期間:1952年7月〜10月
エスクァイアマガジンジャパン刊 『E/Mブックス4:ジャック・タチ』より

スタッフ

製作:フレッド・オラン(キャディ・フィルム)
監督:ジャック・タチ
脚本:ジャック・タチ、アンリ・マルケ
脚本協力:ピエール・オーべール、ジャック・ラグランジュ
撮影:ジャック・メルカントン、ジャン・ムーセル
音楽:アラン・ロマン
録音:ジャック・キャレール
編集:ジャック・グラッシ、ジヌー・ブルトネーシュ、シュザンヌ・バロン
音響:ロジェ・コッソン
美術顧問:アンリ・マルケ

キャスト

ユロ氏:ジャック・タチ
マルチーヌ:ナタリー・パスコー
フレッド:ルイ・ぺロー
マルチーヌの叔母:ミシェル・ローラ
司令官:アンドレ・デュボワ
司令官の妻:スージー・ウィリー
イギリス人女性:ヴァランティーヌ・キャマックス

LINK

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