2004年/日本/ 配給:「草の乱」製作委員会

2007年12月14日よりDVDリリース 2004年9月4日、有楽町スバル座ほか全国にてロードショー公開

公開初日 2004/09/04

配給会社名 0491

解説


1884年11月1日、秩父郡吉田村椋神社に刀、槍、猟銃で武装した人々3千余が集まった。“天朝さまに敵対するから加勢しろ”—明治政府に対する真っ向からの挑戦であった。困民党を名乗る人々によるこの蜂起は9日後に軍隊と警察により壊滅させられた。
“自由自治元年”の幟(のぼり)にこめられた願いはかなわず明治政府は12名の死刑、3干余名の科刑、科罰を持ってこれに報いた。世に言う“秩父事件”である。

 当時、明治政府は中央集権、軍備増強を急ぎ、デフレ、増税策を推進した。世界的な不況による生糸価格の暴落と相ま一)て養蚕農民たちは困窮していた。そこに付け込み極端な高利をむさぼる高利貸によって多くの農民が身代限り(現代で言う破産)となり田畑を取り上げられた。農民たちは各地で闘いを起こした。中でもこの秩父の闘いは自曲民権運動と結び合い、政府打倒を視野に入れた点において江戸時代に繰り広げられた一揆と明らかに一線を画していた。「圧制を変じて良政に改め、自由の世界として人民を安楽ならしむべし」(田中千弥「秩父暴動雑録」より)。彼らは、家族たちのために、苛政に痛みつけられる仲間たちのために、巨大な権力に対し自らの命をかけて立ち上がった。
あまりにも悲惨な敗北にもかかわらず、秩父事件は今も光を放つ。勝ち負けを超えて人は闘わねばならぬ時がある。家族のために、仲間たちのために、そして自分たちの未来のために。凄いやつら—そのことを信じ立ち上がった無数の無名の男たち女たちの壮大な闘いがいまよみがえる。デフレ、不況、海外派兵—あまりにも重なり合う現代の日本に闘いのバトンをわたすために—。
 監督は、前作『郡上一揆』で江戸時代の農民の一揆を通してその誇り高い気概を謳いあげた神山征二郎。映画『草の乱』は、70年代初期神山監督が秩父事件に出会って以来いつかはと暖めてきた企画である。そしてついに映画化実現の時を迎え、長年の監督人生をこの一作にかける。独立プロとしては破格の4億5千万円という製作費は秩父を中核とし埼玉県、関東、日本中に広がる数百万円から数千円にいたる市民出資がほとんどをまかなった。“許せない、我慢ならないという今の世の中に対する人々の怒りと苛立ちの反映”と指摘されるこの現象こそすでに“現代の草の乱”とも言われている。

秩父事件を織り成す群像の中で映画の中心に据えたのは井上伝蔵。地域の人々の人望を集め事件の際には困民軍会計長として重きを成し、鎮圧後は北海道に潜伏、33年後、事件を明らかにしたこの人物に緒形直人。困民軍総理として民衆を率いた土地の侠客で代言人(現代の弁護士のようなもの)田代栄助に林隆二。同じく愚直なまでの一途さで闘いに挑んだ副総理加藤織平を杉本哲太が演じている。男たちが前面に出るドラマの中で、井上伝蔵の妻こまを演ずる藤谷美紀、北海道潜伏生活の後、臨終を看取る妻商浜ミキ役の田中好子をはじめ、男たちを支える女たちの存在も見逃せない。また、かつてない多くの出演者たちをベテラン新人の名だたる俳優が顔を並べ個性ある光を放つ。
もう一方の主人公(?)は、およそ8千人に及ぶというエキストラの存在である。交通費は自分もち、出るのはお弁当だけという苛酷な条件にも関わらず、北は秋田から南は大牟田まで、数十人から千名におよぶ群集シーンの撮影に市民たちはボランティアで応じた。「エキストラの迫力に圧倒された」という出演者の声にあるとおり、彼らは困民軍になりきって川を渡り、大地を駆けていった。CG全盛の中で生の人間の圧倒的迫力がここに再現された。また吉田町による井上伝蔵邸の復元、有志団体によるロケセット建設など製作費を超える多くの支援にも支えられた。

ストーリー



1918年(大正7年)、北海道野付牛町。病床に臥すひとりの老人が、妻と長男を呼び寄せ、紙に筆を走らせる。「井上伝蔵、わしの本当の名だ」。死刑判決を受け、逮捕を逃れ北海道へ。以来33年、伊藤房次郎として生きてきた。唐突な告白に息をのむ2人を前に、隠してきた半生を静かに語り始める…。

1883年(明治16年)秋、秩父郡下吉田村。山間にあるこの一帯の人々は、蚕を飼い生糸を売って暮らしを立てていた。しかし松方デフレによる生糸価格の暴落、軍備拡張の増税、さらに世界的な不況で生糸輸出の激減が追い討ちをかける。人々は借金に頼らざるを得ない暮らしを余儀なくされ、高利の取り立てに身代限りとなる農家が続出する。
生糸商家「丸井」を営む井上伝蔵は、そんな人々の窮状に心を痛める。高岸善吉、落合寅市、坂本宗作の3人もまた困窮にあえぎ、不当な高利貸しの取り締まりを役所に請願するも全く取り合ってはもらえない。
そんな折、自曲民権運動が秩父でも盛り上がりをみせ、「自由党」の演説大会が開かれる。困窮、不平等の元凶は政府にあるという発言に拍手喝采、賛同する人々が次々と入党する。善吉らは、高利貸し取り締まり、借金年賦返済の請願運動を始め、伝蔵もこれに賛同。山中各地で集会を開き賛同者を募り、さらに加藤織平を副総理、大宮郷の顔役で代言人の田代栄助を総理として迎え人れ「困民党」を組織。警察署、高利貸しへ請願・交渉をねばり強く行なうが、ことごとくはねつけられる。さらに高利貸しと裁判所の贈収賄の事実も明るみとなる。丸井の土蔵に集った困民党幹部たちは、もはや願いを叶えるには政府を打倒するしかないと、命を懸けた武装蜂起を決意する。
 1884年(明治17年)ll月1日、秩父郡ド吉田村の椋神社。陽が落ちてかがり火が焚かれた境内に、竹槍・刀・鉄砲などで武装した民衆3千余が結集。境内に上がった田代栄助が困民党の役割を読み上げ出陣を命じる。
関の声が上がり半鐘が鳴り、竹ボラが吹かれる中、ついに武装蜂起が開始された。

スタッフ

監督:神山征二郎
脚本:加藤伸代
製作総指揮:砂村惇
製作:木原正敏
   川嶋博
   舟橋一良
音楽:Deep Forest
プロデューサー:永井正夫
撮影:伊藤嘉宏
美術:春木章
照明:小林芳雄
編集:西東清明
音楽プロデューサー:石川光
チーフ助監督:南柱根
俳優担当:寺野伊佐雄
撮影補:林雅彦
音響効果:伊藤進一
装飾:神田明良
衣装:川崎健二
製作担当:森賢正
  

キャスト

緒形直人
田中実
杉本哲太
藤谷美紀
安藤一夫
神山兼三
比留間由哲
藤田哲也
北村有起哉
永岡佑
並樹史朗
岡野進一郎
石田信之
益岡徹
高橋元太郎
堀内正美
斎藤とも子
渡辺哲
樋浦勉
歌川椎子
尾美としのり
綿引勝彦
河原崎健三
佐々木愛
原田大二郎
山本圭
猪野学
四方堂亘
藤巻裕己
池上リョヲマ
大塚和彦
丹治大吾
内田紳一郎
北斗潤
八下田智生
斎藤康弘
谷口公一
田中優樹
前田淳
永野典勝

田中好子

ボランティアエキストラ出演者

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