原題:BODER LINE

第12回PFFスカラシップ作品 2002年バンクーバー国際映画祭コンペティション部門スペシャルメンション授与 2002年釜山国際映画祭コンペティション部門正式出品 2002年ベルリン国際映画祭ヤングフォーラム部門正式出品 2003年香港国際映画祭正式出品

2002年/日本/118分/35mm/カラー/ビスタサイズ 配給:ぴあ

2003年6月28日より、ユーロスペースにてロードショー

公開初日 2002/07/04

公開終了日 2002/07/04

配給会社名 0148

公開日メモ 前作「青〜chong〜」で「PFFアワード2000」グランプリを受賞した李 相日(リ・サンイル)が真っ向から挑む、親子の絆!

解説


この作品は、2000年のPFFアワードでグランプリを含む4賞を受賞した李相日(リ・サンイル)がスカラシップ権を得て監督したもので、李にとって初めての長編となる。彼の初監督作品はPFF受賞作「青〜chong〜」であり、これはグランプリの他に観客賞など、この年のPFFの賞をほぼ独占した。その結果が物語る通り「青〜chong〜」の完成度は高く、この4〜5年、PFF応募作に急増している“映像センスで見せる”“撮影現場のグルーヴ感をとらえる”作品ではなく、完成度の高い脚本とよく練られた映像プランを感じさせるものだった。示竣に富んだせりふと、言葉にされない思いを伝えるたっぷりした間(ま)と抜けた画(え)、暗喩的に散りばめられた色、カットインとカットアウトを効果的に採り入れた編集。それは学校の卒業制作というレベルをはるかに超えていた。同時に、李自身の境遇でもある在日朝鮮人の青春を、ユーモラスに、少しだけシリアスに描き、エンターテインメント性を持たせた青春映画の傑作と言えるものである。

つまり李は、最初から卓越した手腕と自らのアイデンティティを見せたわけだが、この「BORDER LINE」では、早くも新たな地平を切り拓いた。前作が高校という「限定された空間」の、恋と友情という「絞り込んだ話」だったのに対し、この作品は、東から北へと「移動する」ロードムービーであり、性別も職業も年齢も「違う5人の話」なのである。時に深く、時に浅く、それまでまったく知らなかった他人とかかわることで自分の罪を知り、罰を受け、かすかだが確かな希望を感じるまでの道のりが、この「BORDER LINE」なのだ。
物語の中心となる5人は、それぞれに理由があって社会の枠からこぼれてしまっている。その事情はどれも生ぬるいものではない。父親殺害、アルコール依存症、リストラなど、表面だけすくい取れば新聞の三面記事を派手派手しく飾るものばかりだ。しかし李は、逆にキャッチーになりかねない、彼らが背負ってしまった十字架をあえて背後に押しやり、そうせざるを得なかった、また、そうなってしまったあとの彼らの心のひだにライトをあてる。李の個性である示竣に富んだせりふ、たっぷりした間(ま)と抜けた画(え)は、さらにこまやかに痛みや諦め、やりきれなさや虚しさなど、登場人物の複雑な心象風景を誠実に拾っていく。

「最悪だよ」や「またいつか会おうな」など何度も繰り返されるせりふがどれほど効果的に、それを口にする人物のキャラクターと運命を伝えることだろう。鮮やかだったカットインとカットアウトにはニュアンスが加わり、せりふだけ前のシーンから続けて映像だけ変える手法で、一層奥行きある心象風景を生み出しているのだ。

そしてこの作品の最も大切なテーマのひとつである、人から人へ伝わっていく想いはひときわ見事に、映像の中に織り込まれている。家族を捨てたやくざ・宮路が、弟分の娘からもらったカイト、それが、家を壊してきた高校生・周史の手を経て、家族を失った宮路の娘へと渡される。逃げるための手段だった周史の自転車は、ばか正直でやさしいタクシードライバー・黒崎に修理され、宮路と周史の距離を縮めるきっかけとなり、周史を生まれ変わらせ、会うことのなかった肉親に再会させる道具となる。風に乗るカイトと道を走る自転車が、糸と針のように、離れていたものを結びつけるのだ。

映画を撮ることは、物事を一方向からでなく、いくつものポイントから考え、解体し、自分の考えで組み立て直すことだと言い換えることができる。そのためには全体像を把握し、明確な設計図を引く冷静さと想像力が必要だが、李はこの点ですでにある域に達している。押さえても若さが画面からにじむ作品の多いPFFスカラシップ作品の中にあって、いや、映画界全体の中で考えてみても、頼もしい新人が現われたと言っていいだろう。

ストーリー



松田周史(沢木哲)は京浜地区に住む工業高校3年生。現在にも将来にも意味を見出せず、「10年後の自分へ」というレポートを提出させようとする学校への違和感も大きくなるばかりだった。その苛立ちから、周史は校舎の屋上に干してある作業着に火をつける。

宮路大輔(光石研)は出世しそこねたヤクザ。腕が立ち度胸があるにも関わらず、組織の中でうまく立ち回ることができず、43歳という年齢で組の集金係に甘んじている。ある日、弟分の北島(森下能幸)とスロット店からショバ代を回収するが、北島にその金を持ち逃げされてしまう。

「最悪だよ」が口癖の黒崎大吾(村上淳)は、アルコール依存症のタクシー運転手。気は優しいが、ここ一番で我慢が足りない性格もあって、これまで数々の失敗を繰り返し、今は叔父の世話で何とか働いている。それでも懲りずにビールを飲みながら車を走らせていると、飛び出してきた自転車に衝突してしまう。その自転車を運転していたのが周史だった。主婦の相川美佐(麻生祐未)は、念願だった一戸建てのマイホームを手に入れ、新しい暮らしに張り切っている。しかし息子が学校でいじめられていることにも気付かず、パート先のコンビニでは要領が悪く、彼女自身のイメージと現実の人生にギャップは大きい。
自宅が北海道だと言い張る周史を送るため、黒崎は仕事を放り出してタクシーを北に走らせることに。しかしほどなくラジオのニュースから、周史が父親を殺害したあと自転車で走り去ったまま行方不明になっている高校生であることを知る。周史は、黒崎をナイフで脅しながら旅を続けるが、ファミレスの駐車場で、車の中に置き去りにされた赤ん坊を助けようとして騒ぎを起こし、その間に黒崎に逃げられてしまう。そんな周史の横顔を、ファミレスから見つめる女子高生がいた。偶然、修学旅行に来ていた上原はるか(前田綾花)は、自分が憤りを感じながら何も言えなかった無責任な若い母親に行動で反抗を示す周史に、魅きつけられる。

自転車ひとつの身になった周史は、寒さや空腹から絶望を感じて自殺を図ろうとする。それを助けたのが宮路だった。余計なことは聞かずに自分を受け入れてくれた宮路に周史は心を開く。のどかな冬休みのような周史と宮路の日々は、しかし組の追っ手によってピリオドが打たれる。宮路は自らの手で始末した北島が最後まで気にかけていた娘の手術代として組の許可なくショバ代を回収し、北島の実家に届けていたのだ。それは、宮路の組からの脱退と、命が狙われることを意味していた。死を覚悟した宮路は周史に、函館にいる自分の娘を渡してほしいと、北島の娘からもらったカイトを託す。「またいっか会おうな」と言って。周史は、カイトを縛りつけた自転車に乗り、函館を目指す。

子供がいじめられていると気付いたものの、逆にいじめっ子の母親に言い負かされてしまう相川に、さらに大きな悲劇が起こる。リストラされた夫が、家に固執する彼女から逃れて家を出てしまったのだ。精神的にも経済的にも彼女は追い詰められていく。

職場に戻った黒埼は、周史のことが気になって仕方ない。置き去りにした罪悪感より、周史の内に感じた深い傷が放っておけなかったのだ。黒崎は、周史の荷物にあった1枚のはがきを頼りに、彼が北海道で会いたがっている人物を探しにいく決意をする。

函館でのわずかな手がかりも断たれた周史は途方に暮れて港でカイトを飛ばす。同じ頃、援助交際で警察に捕まり学校も退学になったはるかは、あてもなく街をぶらつく。港ではるかに出会った周史は、彼女が宮路の娘だと知るのだった。周史は、はるかの部屋に宮路から預かったカイトを残す。警察に父の死を知らされたはるかは、そのショックからかつて関係を持った中年男と再びホテルヘ。それを見かけた周史は、部屋へ入ろうとする男を全身で阻止する。男が殴り疲れるほど痛めつけられても抵抗しない周史。男を追い返した後、公衆電話からホテルにいるはるかに電話をした彼は、自分が宮路から言われた言葉をはるかに伝える。「10年後にまた会おうな」という言葉とともに。

周史が探していた人物を見つけた黒崎は、タクシーにその女性を乗せて海岸に急ぐ。そこには周史が待っていた。そして宮路がはるかとともにすることを夢みて果たせなかった親子のふたり乗りを、束の間、楽しむのだった。

スタッフ

監督:李 相日
脚本:李 相日、松浦 本
プロデューサー:天野真弓
ラインプロデューサー:渡辺栄二
撮影:早坂 伸 
照明:原 春男 
録音:久保田幸雄 
美術:菊地章雄 
衣装:宮本まさ江 
音楽:AYUO 
編集:青山昌文 
助監督:藤江義正
製作担当:田嶋啓次 
キャスティング:西川文郎
製作:PFFパートナーズ=ぴあ、TBS、レントラックジャパン、TOKYO FM、日活、IMAGICA
製作協力 : シグロ
特別協賛:コダック

キャスト

沢木 哲
前田綾花
麻生祐未
光石 研
村上 淳
深浦加奈子
森下能幸
田中要次
千葉哲也
杉山とく子
ほか

LINK

□公式サイト
□この作品のインタビューを見る
□この作品に関する情報をもっと探す
http://www.pia.co.jp/pff/
ご覧になるには Media Player が必要となります