原題:BARAN/RAIN

君のために 無償の愛を描いたマジディ監督の新境地

2001年/イラン映画/カラー/モノラル/ビスタサイズ/96分/5巻,2621m/ 字幕翻訳:小田代和子/ショーレ・ゴルパリアン 提供:日本ヘラルド映画、朝日新聞、樂舎、アミューズソフト販売 配給:日本ヘラルド映画

2003年10月24日よりDVDレンタル開始 2003年11月07日よりDVD発売開始 2003年10月24日ビデオレンタル開始 2003年4月26日よりシネマライズにてロードショー

公開初日 2003/04/26

配給会社名 0058

公開日メモ 数々の国際映画賞に輝くイランの名匠マジッド・マジディが生きるために必死で働く少年の物語を通してアフガン難民の問題に取り組んだ意欲作

解説


無償の愛を描いたマジディ監督の新境地

『運動靴と赤い金魚』(97)、『太陽は、ぼくの瞳』(99)で国際的に高い評価を得たイランのマジッド・マジディ監督の待望の新作がやってきた。前二作に続いて3度目のモントリオール映画祭グランプリ受賞という快挙を達成した本作は、限りなき無慣の愛の物語である。
主人公は建築現場で働く17歳のイラン人の若者。彼は新たに雇われたアフガンから来た少年の重大な秘密——実は、長い髪の美しい少女だった!——を知ったその瞬間から、彼女の秘密を守るためにどんな犠牲をもいとわない守護天使となることを誓う。それは、触れることはおろか、じかに声をかけることさえない、ただそばにいたいだけなのである。その想いの純粋さ、強さ、そしてそこから発する彼の目の覚めるような自己犠牲による愛情表現は、観る者に忘れかけていた清冽な感動を与えずにはおかない。まさに、心の目で見る作品である。
ヒロインの名前“バラン”とはペルシャ語で“雨”のこと。春の訪れのしるしである恵みの雨が、国境の向こうへ去っていったバランの残した靴跡の中に静かに降り注ぐラストシーンは、まるで永遠の別れの哀しみを未来へのあたたかな希望で洗い流してくれるような、胸にしみいる名場面となっている。
私たちの目に触れるイラン映画はこれまでは、子供を描いた作品が多く、マジディ監督の前二作も例外ではなかった。だが本作ではそれらよりも年齢層の高い、主人公が登場し、愛が重要なテーマになっている。マジディ監督の新境地として、またイラン映画の新しい挑戦としても注目される。
台詞に頼らない、美しく力強く詩情あふれる映像表現はマジディ監督ならではのもの。建築現場という一見単調な世界が、スチームや炎といった人工物と、雪や風といった自然の効果によって、驚くほどカラフルかつ雄弁な映像に変貌していくあたりは、マジディ・マジックの真骨頂といえよう。そのなかにあって最も魅力的な磁力を発しているのは、ほとんどが演技経験のない俳優たちの生き生きとした表情である。
ヒロインのラーマト/バラン役を演じたザーラ・バーラミは難民キャンプで見出され、本作が映画初出演となった。短気で口のへらないトラブルメイカーの少年から、バランに絶対的な愛を捧げる男性へと成長を遂げるラティフを演じるのは、『父』(95)に次いでこれが二本目のマジディ監督作となるホセイン・アベディニ。アフガン移民に温情的な親方メマールには『運動靴と赤い金魚』で父親役に起用されてデビューした元軍人のモハマド・アミル・ナジが扮している。
マジディ監督の長編映画は『父』以降の全作品がイラン国内のファジール映画祭最優秀作品賞を受賞しているが、2001年2月、本作は4度目の同賞受賞に輝いた。同年9月にはモントリオール映画祭で、グランプリ及びキリスト教会審査員賞特別賞を受賞。あの“9・11”事件が起きたのはそれから八日後のことだった。“9・11”後の12月にアメリカで公開された本作は、ナショナル・ボード・オヴ・レヴュー賞・表現の自由賞を受賞するなど、数多くの批評家から最大級の賛辞を浴びている。

ストーリー


ただひたすら見守り、そばにいたいだけ。

冬のテヘラン。ラティフ(ホセイン・アベディニ)は建築現場で買出しやお茶くみの仕事をしている17歳のイラン人の少年。ここではイラン人だけでなくアフガン人も働いている。ある日ラティフが買出しから戻ると、転落事故を起こして足を折ったアフガン難民労働者のナジャフ(ゴラム・アリ・バクシ)が病院に運ばれようとしている。親方のメマール(モハマド・アミル・ナジ)は、「自殺か?」と軽口をたたくラティフをしかりつけると、病院でここの住所を、言わないよう、付き添いの男に念を押す。アフガン難民を無許可で雇うのは違法だからだ。
メマールは台所が火の車で労働者たちへの支払いが滞りがちなせいか、いつもイライラしているが、困っている者に頼まれると断れないたちである。アフガン難民に対しても、「安月給でイラン人よりよく働く」と同情的だ。
翌日、ナジャフの友人ソルタン(アッバス・ラヒミ)が14歳ぐらいの少年を連れてくる。働けないナジャフが、代わりに息子のラーマト(ザーラ・バーラミ)を寄越したのだ。ラーマトは見るからにひ弱そうだし、満足に口もきけない様子である。
口が悪くて喧嘩っ早いラティフが、お茶の味に文句を言われて、いつものように操め事を起こしているところに調査官がやってくる。メマールはあわててアフガン人たちに隠れるよう指示すると、調査官を丁重に迎え、アフガン人はひとりもいないと言う。そこヘラティフがお茶を運んでくる。「俺様がアフガン人だ」とジョークをとばす彼に、メマールは一瞬ひやりとする。
ラーマトは慣れない力仕事を何とかこなし、初日を終える。家路につく彼の上を白いハトが舞う。
次の日、石灰袋と格闘するラーマトを見かねたラティフがコツを教えてやる。だがラーマトは袋の中身をひとりの労働者の頭上に落とすという大失態を演じてしまう。ラティフが真っ白になった男をバカにして、またひと騒動。メマールにどやされて機嫌をそこね、ハトに石を投げつけるラティフ。メマールはラーマトの仕事とラティフの仕事を交換することにする。
楽な仕事を新参者に奪われたラティフは、怒りがおさまらない。しかもラーマトが用意するお茶や食事は、ラティフの時とは大違いで、みんなに大評判。ラティフがいやがらせに食器を壊しても、たちまち新しい道具を用意し、そのうえ台所の模様替えまでやってのけるのだ。ラティフはますます面白くない。
彼の人生を変えたのは、一陣の風だった。風に乗って炊事場から聞こえてきたのは女の歌声。のれんをかきわけ、そっとのぞけば、そこには隠していた髪をおろした少女の姿があった。ラーマトは女の子だったのだ。その瞬間、彼は今まで覚えのない不思議な感情に捉われていた。
翌日から彼の態度は一変した。髪を整え、ラーマトの出勤を心待ちにするラティフ。誰かが彼女に文句を言う声が聞こえれば、飛んでいって弁護する。休憩時間には屋上でハトに餌をやりながら微笑む彼女を遠くから見つめ、ただそれだけでなぜかあたたかな気持ちに包まれるのだった。
ある日、再び調査官がやって来る。ラーマトが彼らに追われているのに気づいたラティフは、体を張って彼女をかばい、警察に連行されてしまう。メマールに引き取られて建築現場に戻った時、ラーマトの姿はもうなかった。残っていたのは屋上に落ちていた彼女の髪どめひとつ。メマールはアフガン人労働者を全員解雇せざるを得なかったのである。
ラティフは故郷の妹が病気なので休みがほしいとメマールに願い出て了承を得ると、国境近くのアフガン難民集落を訪ねていった。そこでは、まるで彼の今の心境を察したような人生訓をつぶやく靴直しの男や、ミルク祭に集う女たちに出会う。だがラーマトの姿は見つからない。
翌日、あきらめて帰路についた彼は偶然ソルタンと出会い、ラーマトの新しい仕事場を教えてもらう。そこでラティフが目にしたのは、冷たい急流で、大人の女たちにまじって石を運ぶ辛い仕事を黙々とこなしている彼女の姿だった。
建築現場に戻った彼は、姉が死にそうだとメマールに泣きつき、滞っている給料の支払いを求める。涙ながらの必死の頼みに、メマールも承知しないわけにはいかない。ラティフは自分の一年分の給料を手にすると、それをソルタンに預け、ナジャフに渡してほしいと頼む。ふたりは明日、もう一度会う約束をする。
翌日、待ち合わせ場所に現れたのはナジャフだった。聞けば、金は、自分より困っているソルタンが帰国に用立てられるよう、そっくり渡してしまったという。愕然となるラティフ。だが彼はまだあきらめたわけではなかった。
次の日、なけなしのへそくりをはたいて松葉杖を買った彼は、再びナジャフの家を訪ねる。ナジャフは祖国に残してきた兄が殺されたことを知らされて動揺しているところだった。それを立ち聞きしたうティフは、松葉杖を戸口に置くと、黙って引き返す。
翌朝、ナジャフがメマールを訪ねてきて、金を用立ててほしいと懇願しているのをラティフは耳にする。彼はとうとう大切なIDカードを金に換えることにする。ナジャフを訪ねると、娘のバランが戸を開けた。ラーマトの本当の姿だった。メマールから預かってきたと嘘をつき、ナジャフに金を渡すラティフ。だが、これでバランと一緒にアフガンに帰ることができるというナジャフの言葉に、彼は打ちのめされる。バランを辛い仕事から解放してやりたくて作ったお金のせいで、もう二度と彼女に会えなくなるとは!
それでも翌日、彼は見送りに行かずにはいられなかった。荷物を運ぼうとして、かごの野菜を地面にこぼしてしまうバラン。そこへ駆け寄るラティフ。野菜を拾いながら、ふと彼女と目が合う。バランが自分に微笑みかけていた。だがそれも一瞬。微笑みはブルカに覆い隠され、バランは国境の向こう側へ去っていく。ひとり残されたラティフを、雨が優しくぬらし始める。春は近い。

スタッフ

監督・脚本:マジッド・マジディ
監修:フアード・ナッハス
製作:マジッド・マジディ、フアード・ナッハス
撮影:モハマド・ダウディ、
プロダクション・マネージャー:セイエド・サエド・セイェドザデ
編集:ハッサン・ハッサンデュースト
整音:モハマド・レザ・デルパク
音楽:アーマド・ペジュマン
録音:ヤドッラ・ナジャフィ
美術:べーザド・カッザジ
メイクアップ:セイエド・モーセン・ムサウィ
助監督:シルース・ハッサンプール、ハッサン・ナジャフィ、ベーザド・ラファイ
衣装:べーザド・カッザジ、マレク・ジャハン・カザイ
写真:ハフェズ・アーマディ

キャスト

ラティフ:ホセイン・アベディニ
メマール:モハマド・アミル・ナジ
ラーマト&バラン:ザーラ・バーラミ
ソルタン:ホセイン・ラヒミ
ナジャフ:ゴラムアリ・パクシ

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