原題:Morvern Callar

クリスマスの朝、彼が自殺した 私のためのミュージック・テープと書き上げたばかりの小説を残して

2002年第55回カンヌ国際映画祭・監督週間正式出品 2002年エジンバラ映画祭オープニング上映作品 2002年テルライド映画祭上映作品 2002年トロント国際映画祭上映作品 2002年サンセバスチャン映画祭国際批評家連盟新人監督賞受賞(リン・ラムジー)

2002年11月1日イギリス初公開

2002年/イギリス/カラー/97分/ビスタサイズ/SRD/字幕:石田泰子/ 提供:アーチストフィルム、東芝デジタルフロンティア/ 配給:アーチストフィルム、東北新社

2003年11月06日よりDVD発売開始 2003年10月24日よりビデオ発売&レンタル開始 2003年3月8日より、シネマライズにてロードショー公開

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公開初日 2003/03/08

配給会社名 0023

解説


初監督作『ボクと空と麦畑』で数々の賞を受賞し最も期待される監督のひとりとなったリン・ラムジーの長編第2作『モーヴァン』は、ロンドン、スコットランド西海岸の街オーバンそして南スペインのアルメニア地方のロケを経て、2001年3月から約8週間に渡り撮影された。
アラン・ウォーナー原作の同名小説を、共同脚本のリアナ・ドニーニとともに、ラムジー自らが脚色。説明を排したストイックな映像と絶妙に配置された音楽がシンクロし、ヒロインの心を語る、驚くほどに新鮮な新世代音楽映画がここに誕生した。2002年カンヌ映画祭監督週間では10分以上のスタンディング・オベ−ションを受け、ジュネス賞とDecerne par la CICAE賞をダブル受賞。その後も各国映画祭で絶賛を受け、British Independent Film Award7部門、European Film Award2部門にノミネートされるなど、2002年度最高のイギリス映画として、今最も話題の作品である。
荒涼としたスコットランドの港町のス−パ−マ−ケットで働く21歳の女性モ−ヴァンを演じるのは、『ギター弾きの恋』でオスカー候補になり、スティーヴン・スピルバーグ監督の『マイノリティ・リポ−ト』でトム・クル−ズの相手役に抜擢されたサマンサ・モートン。モーヴァンの心の声が聞こえるまで何度も原作を読んだというモ−トンは本作により、British Independent Film Awardの主演女優賞を受賞したほか、数多くの映画賞で受賞またはノミネートされている。
点滅するクリスマスツリ−のかすかな音と弱々しい光の中で、視線の定まらない無表情な顔のアップが映し出されては消える。繊細かつ大胆なオープニングが、観客の興味を鷲掴みにする。床に半裸で横たわる男はクリスマスに自殺した恋人であり、主人公の若い女の名はモ−ヴァンであることが次第にわかっていく。
コンピューターには彼の遺書と、彼の処女作であり遺作となるはずの小説の原稿、そしてツリーのそばには、彼女へのクリスマスプレゼント──「君のための音楽」とラベルが貼られたミュージックテープとウォークマンが残されている。コンピューターに保存された小説の著者名を自分の名前に打ち変え、出版社に送ったことから、モーヴァンの平凡な人生は大きく変わっていく。
カミュの『異邦人』の主人公が諦念の実存主義者であったのに比べ、現代の異邦人であるモ−ヴァンは、鋭い直感で人生をよりよく生きていくために行動する。モ−ヴァンは自らのおかれている状況の中で、無益な思索やくだくだしい思い煩いにとらわれることなく、何をしたいのか、快、不快で行動を決め、結果的に悲劇をもうまく利用し、人生を大きく変えていく。頑なに心を閉ざしたまま、けれども疎外感に押しつぶされることもなく、自己欺瞞に満ちたレイヴの狂騒からきっぱりと決別する彼女の潔さは、すがすがしい。
モーヴァンは、少し変わったモラル観と世界に対する独自の視点、そして自身の直感を疑うことなく行動する強さを持った、まさに現代的なヒロインである。監督ラムジーは、モーヴァンについて「ハードな状況の中でも自分が手に入れられるものは手に入れる現実的な強さと、傷つきやすい繊細さを併せ持つ魅力的な女の子。彼女の存在によって、この映画が真に現代的なものになった」と語る。
本作において、音楽は映画の一部として欠くことのできない要素であり、自殺した恋人が彼女のために残したミュ−ジック・テ−プとして物語の中で特別な役目を持つ。モ−ヴァンが衝撃的な方法により恋人との別れの儀式を行うときに勇気を与え、自立への後押しをするのは、常にモーヴァンのヘッドホンから流れるミュ−ジック・テ−プなのだ。このテープに収められた楽曲は、内省的な物語の展開において、死んだ恋人とモーヴァンの親密な関係を説明するいわばヴォイスオーバーの役目を果たし、彼女の新たな人生の旅立ちにおける感情の動きを伝える。
そして、音楽によって描かれるモーヴァンの心の物語は、映像によって描かれる彼女の周りの現実と時に交差し、時に強いコントラストを成す──外部の現実はシュールさを帯び、彼女の心に映る風景だけがリアリティを持つようになるのだ。モ−ヴァンと一緒にヘッドホンの音の波に身をまかせ、自分と空間の境界線が溶かされていくような意識の浮遊感を体験するとき、彼女の哀しみ、愛情、優しさが心の奥深く伝わり、この現代的なヒロインに深い共感を覚えるのだ。
スタッフは、前作に引き続き、撮影監督にアルウィン・カックラー、美術にジェーン・モートン、編集にルチア・ズケッティが終結した。ラムジーは、『ボクと空と麦畑』のほか、その他監督した短編の全てで、彼らと組んで仕事をしている。カックラ−もまた、本作により各映画賞撮影賞にノミネ−トされている。

ストーリー

クリスマスの朝、恋人が自殺した。手首を切りキッチンの床に半裸で横たわる彼の遺体のそばで、私は長い時間うずくまっていた。コンピューターには彼の遺書と書き上がったばかりの小説が残されていた。「ごめん 自殺は理屈じゃない」「勇気を持て」という文字。冷たくなった彼の身体に触れる。

駅の公衆電話。彼の死を伝えようと思うけど、言うべき言葉がみつからない。駅のベンチに座っているうちに、電話が鳴った。受話器を取るが、それは私あての電話ではない。電話の相手は、私を誰かと勘違いしている。「私はモーヴァン。モーヴァン・カラー。」見知らぬ相手から、「メリー・クリスマス」と言われ、思い出した。そうだ、今日はクリスマス。こんな日に悲しい知らせはよそう。

部屋に戻って、残されたクリスマスプレゼントを開けてみる。革ジャンと、ウォークマン、それから、彼が私のために作ったミュージック・テープ──ラベルには彼の文字で「君のための音楽」と書かれている。
親友のラナと落ち合ってパーティに出かける。いつものように、Eとダンス、セックスとバカ騒ぎ。うなる音楽の中で、私は叫んでいた。「一人でポツンと座ってる時ふっと分かるの“愛してる”って」だけど、朝になると、醒めた意識の中にごまかせない現実が帰ってくる。彼はもういないのだ。ラナのおばあちゃんの家に寄って一緒にあったかいお風呂に入りながら、彼の死をラナに打ち明けようと思った。「彼はもう戻らない」って言ったら、ラナは「いつもの気まぐれ、すぐ戻ってくる」と思い込んでる。どう話していいのかわからなくて、結局誤解を解けなかった。

彼の遺書をもう一度読みかえしてみる。「僕の小説を出版社に送ってくれ。君のために書いた」私は、私のための小説の表紙の著者名を、彼の名前から自分の名前に書き換えた。プリントアウトすると、リストにあった出版社へと原稿を送った。

ヘッドホンをして、彼の作ったテープを聴いてみる。彼が選んだ音楽に、魂がふるえる。一晩中、音楽を聴きながら過ごした。翌朝、ヘッドホンをしたまま仕事に行く。いつものスーパーマーケットの風景も、音楽の中では、まるでおかしなユメみたいに見える。彼の貯金を調べたら、結構な額があった。このお金でどこかへ行けば、このつまらない日常から逃げ出せる、そんな気がして、ラナをバカンスに誘った。

いまだ床に転がったままの彼の死体。いつまでも置いておくわけにはいかない。彼の身体を切り刻む──ヘッドホンをして、サングラスをかければ、それはユメになる。ヴェルヴェット・アンダーグラウンドのモーリーンが歌う。“あたしはあなたにずっとくっついてるの/だって、あたしは糊でできてるの/あなたがすることなら/何でもするの・・・あなたが木からぶらさがってたら/それはあたしだと思うわ”リュックに彼の死体を詰めて小高い丘の上まで運び、土の中へ埋める。美しい自然の中、それは彼と私のとても美しい別れの儀式に思えた。
ラナが、彼のいなくなった部屋に引っ越してきた。彼女から告白される。彼はラナと浮気していたのだ。ラナは、自分の裏切りを気にしている。彼はもう死んでしまったのに。そんな時、出版社から手紙が届いた。「小説を読みました。ぜひお目に掛かりたい」と書かれている。

ラナとの旅行に出発する空港で出版社に電話を入れてみると、行き先を尋ねられた。飛行機は、スペインへと私たちを運ぶ。燦々とした太陽、吹き抜ける風。だけど、ツアーの行き先に待っていたのは、いつもと変わらないバカ騒ぎだけだった。クラブの喧噪は、心の中の空虚さを忘れさせてはくれない。ひとり彷徨っていると、母親の急死の報せにショックを受けている男の子に出会う。そして、彼と私は、激しいセックスに身を任せた。
翌朝、私は決意した。ここを抜けだそうと。ラナをベッドから引っぱり出して、タクシーに乗り込む。行き先は、どこでもいい。どこか美しい場所へ──。タクシーは、田舎町の祭りの中へと入っていく。牛を追う祭りに興奮する人々の渦。それは本当に生命感あふれる美しい光景だった。

ラナとふたり、田舎の山道を当てもなく歩く。「前の場所の何が悪いの?」怒り出すラナ。彼女は元の場所に戻ればいい。私は、ラナと別れ、ひとりでこの旅を続けることにする。

数日が過ぎ、もう一度ロンドンの出版社に連絡をしてみる。彼らはわざわざスペインまで私に会いに来るというので、新しいドレスに着替えた。一緒にシャンパンを飲みながら、小説の出版契約の話。細かいことはよくわからないけど、彼らは何と10万ポンドも払ってくれると言う。想像もつかない大金。気を落ち着けるため、トイレに行った。

旅行を終え、いつもの街に戻る。約束通り、フラットのポストには10万ポンドの小切手が届いている。これで私はどこへだって行ける。私はこの街を去ることに決めた。トランクに彼のCDだけを詰め込んで、家を出た。ラナに会いにいつものバーに寄る。色あせた、いつもの風景。ラナも一緒に行かないかと誘ってみたけど、「どこへ行ったって同じ 夢見るのはやめて」と言われた。でも、私はそれでもここから出ていくのだ──。

駅のホーム、電車を待つ。ヘッドホンをした私には、彼の音楽だけが聞こえていた。

スタッフ

製作:ロビン・スロボ/チャールズ・パティンソン/ジョージ・フェイバー
監督・脚本:リン・ラムジー
脚本:リアナ・ドニーニ
撮影:アルウィン・カックラー
美術:ジェーン・モートン
音楽:アンドリュー・キャノン/マギー・ベイジン
衣装:サラ・ブレンキンソップ
原作:「モーヴァン」アラン・ウォーナー(アーティスト・ハウス刊)

キャスト

サマンサ・モートン
キャスリーン・マクダーモット
レイフ・パトリック・バーチェル
ダン・ケイダン
キャロリン・コールダー
スティーヴン・カードウェル
ブライアン・ディック
エル・カレーテ

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